WALRAS, Léon, Éléments d'Économie politique pure ou Théorie de la Richesse sociale . Deuxième édition revue, corrigée et augmentée., Lausanne, Paris, and Leipzig, F.Rouge, Guillaumin & Cie, and Duncker & Humblot, 1889, 8vo, pp xxiv+523, with six folding plates

WALRAS, Léon,
Éléments d'Économie politique pure ou Théorie de la Richesse sociale . Quatrième édition., Lausanne & paris, F.Rouge & F.Pichon,1900, 8vo, pp xx+491, with five folding plates

 ワルラス『純粋経済学要論』第二版および第四版(生前最終版)。
 安井琢磨「ワルラス」(昭和12年執筆、著作集所収)は、河合栄次郎の助手時代当時のもの。自らの境遇と重ね合わせたのか、リリシズムあふれる名文となっている。そこでは、限界革命トリオの内、学説史はメンガーを主として叙述されワルラスは添物として言及されるに過ぎないと書かれている。現在では、ワルラスの名が他を断然圧している(古書価の違いを見よ!)。勿論、彼だけが限界効用理論のみならず、一般均衡理論を生み出したことによるが、経済学者の評価には独自のものがあったシュンペーターの過褒とも思える賞賛も随分あずかって力があったのではないか。

 さて、定めに従って、本書の内容。本書は、経済学の定義にはじまり、純粋経済学を、1.社会的富の交換の理論2.生産の理論3.資本化および信用の理論4.流通および貨幣の理論の四分野から構成する。これらそれぞれの均衡体系が総合され一般均衡体系になる。その後、理論の応用として経済進歩、公定価格、独占および租税が扱われる。
 主要部分である上記1.2.では、生産は行われず、各人が一つの商品を保有する二人間の商品交換の均衡理論(第2編)からはじめ、多人数(多財)の交換に理論を拡大し(第3編)、中心となる生産の理論(第4編)で、すでに生産された商品のみならず生産用役が結合されて生産物が形成される過程を含む均衡が扱われる。
 この第4編において、ワルラスは、有名な4組の「生産の方程式」で、経済の相互依存関係を表現した。第一は各種の生産用役の社会的供給量がすべて価格に依存することを示すn個の供給方程式、第二は各種の生産物の社会的需要量がすべて価格に依存することを示すm個の需要方程式、第三は各種の生産用役の需給の一致を示すn個の均等式、そして第四に各種生産物価格がその生産費に等しいことを示すm個の均等式である。
 こうして、合計2(m+n)個の方程式が導き出されるが、このうち1は他の式から独立でない。よって、実質は2(m+n)―1個の式となる。他方、未知数は、用役の社会的供給量・価格が各n個。生産物の社会的需要量・価格が各m個。後者の価格のうち、価値尺度財に選んだ生産物の価格は既知のため除くとの未知数合計も同じく2(m+n)―1個となる。ワルラスは、これで方程式は理論的に解けるとした。
 早くも1880年代に解の存在に対するレキシスの批判があり、経済的に意味のある解の存在を巡って以後多くの経済学者が脳漿を絞ることとなる。どこかで読んで、今探してみたものの見つけられなかった本に次のような趣旨の一節があったと覚えている。マルクス経済学は100年の間『資本論』の片言隻語を巡って訓古学的な研究をひたすら続けて来たが、近代経済学はその間、ひとえにワルラスの示した一般均衡解の存在と安定を求めるトリビアな作業に血道をあげてきたと。経済学をつづめてしまえばこんなところで、どちらも現実の経済といかほどの関係があるかとの悪口なのだろう。

 初版の第一分冊は1874年、第二分冊は1877年の出版。初版第二分冊が経済学書では稀覯本としてよく知られている。揃いで出れば、100万円は下らないだろう。私蔵本の第二版は、固定的な生産係数を仮定したいわゆる前期ワルラス本。第四版は、可変生産係数を基礎として限界生産力説が展開されている後期ワルラス本である。第四版は、「われわれが今日依拠すべき『要論』はこの決定版であり、それはワルラスの死後に出版された現行の1926年版よりもかえって価値において優るものである」とされている(安井、1970、p.24-25)。

 初版本は所蔵していない代わり―もう少しで、嘘のような値段に手に入るところだった―第四版は4冊も所持している。最初に手に入れたのはH15年にドイツの書店から、H19年にはweb上で安い本を見つけたので、もう一冊買ってしまった。その同じ日の直後に、ABEからこの本が見つかったとメールで送られて来た(wantsリストに登録していると自動的に送付されてくる)。先ほど注文した本だと思って見てみると、なんと別の書店で値段も先の本の半分、おもわずこの書店にも注文を出した。これらは米英の書店で、フランスの本屋でないから、安い値段がついたのであろう。有名な本は周知の本国より、知られることが少ない外国の本屋の方が値段が安い例はままある。
 その後、第四版をもう一冊ベルギーの書店から,H21年には第二版をスペインの書店から入手。初版はとても無理だろうから、あとは第3版も手に入れたいものだ。
 ついでながら、本当かどうか知らないが、ワルラス関係の古書は、英国のバーナード・クォリッチが在庫を抱えていて、古書価をコントロールしているという噂を聞いたことがある。H18に、この書肆からワルラス関係の本がかなり売りに出された。値段もそれまでの水準から見ればかなり安い値付けだと思う。
 原本はいわゆる「フランス装」の紙表紙で、買った人が好みで装丁する。よって、写真のようにバラバラの外観である。
 初版ではないが、限界トリオでワルラスだけが欠けたままでは面白くないのでアップしてみました。

 (参考文献)

 今回はさすがに参考文献には不自由しなかった。とうの昔にジャッフェや根岸の本をはじめワルラス関係の本は何冊か読んでいるはずなのだが、今覚えている所を本で確かめようとすると、該等箇所が見つけられなかったり、記載が記憶とズレていたり、自分の思い込みがいかにあてにならないか思い知らされました。
 改めて目を通して判りやすかったのは次の本でした。
  1. 柏崎利之輔 『ワルラス』 日本経済新聞社、1977年
  2. 久武雅夫 「一般均衡論の創始者ワルラス」:『経済学を築いた人々 増補版』青林書院新社 1966年所収
  3. 御崎加代子 『フランス経済学史』 昭和堂、2006年
  4. 安井琢磨 「ワルラス」:『安井琢磨著作集 第一巻 ワルラスをめぐって』 創文社、1970年所収


第二版写真


第二版標題紙(拡大可能)



第四版


第四版標題紙(拡大可能)

(H19.7.1記.H21.7.18第二版入手による修正)



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