JENNINGS, R.
, Natural Elements of Political Economy , London, Longmans, 1855, pp276+ads, 8vo

 ジェニングス『経済学の自然的要素』。初版。
 著者(1814-1891)は、ケンブリッジのトリニティ・カレッジで法律の教育を受け、法曹界に入る。後、ウェールズのカーマーゼン州知事に就く。経歴の詳細不詳。
 
 本書は、ラードナーの本と共にジェボンズの『経済学の理論』の成立に大きな影響を与えた。ジェヴォンズはいう、「私の見るところ、効用の法則の本質と重要性とを鑑識することが最も明確であると思われる著者」であり「この書は経済学の生理学的諸法則への依存を明らかにして、もってこの学問の物的基礎を論じている。それは経済学の真正の基礎に対する偉大な洞察を現わしている」(ジェヴォンズ, 1981, p.42)と。
 参考文献が少ないので、主にロバートソンの論文により、適宜本文を参照しつつ、下に本書の内容をまとめてみた。

  これまで経済学は問題の物理的条件をのみ考慮する誤を犯してきた。経済学の多くの基本的な条件を支配する心の原理、例えば価値概念、快楽の度合、欲望、そしてこれらによる生産活動等に関する研究はなかった。経済学者は、心理学と生理学の基礎的原理の上に立った分析に基づくべきである
 経済学は人間性と交換可能な客体(object)との関係を研究する試みである。消費は客体の人間に対する意図的な効果を動機とする行動からなり、生産は人間の客体に対する意図的な効果を動機とする行動からなる。そして、消費は神経線維の(末梢神経から中枢神経にいたる)求心性神経幹を主として使用し、一方生産は(中枢神経から末梢神経に至る)遠心性神経幹を使用すると生理学の用語を使用して説明を加えている。
 さらに、消費の性質を生理学(心理学)を援用して、二種類に分別し、対応する商品も同様に分別している。第一は、五感以外の感覚である共通感覚に関係する第一次財、大まかにいって必需品であり。いま一つは、五感である特殊感覚に関係する第二次財、ほぼ贅沢品である。
 ついでは、各個人の商品の期待価値、ひいては売買取引で成立する価格決定のため、商品量の変化と感覚の変化(度合、持続時間)の関連を調べる必要がある。この関連も、ふたつに区分できる。感覚には相対的なものと絶対的なものがあるからである。量が変化する当該商品以外の別商品の存在を考慮しなければならない場合と、当該商品のみを考慮すればよい場合があるのである。商品の相対的効果は、次の命題に含まれている。第一次商品(概略必需品)は、第二次商品(同贅沢品)の「実現」のためには絶対必要であるが、第二次商品は第一次商品の「実現」のために絶対必要なものではないということである。絶対的効果については、満足の度合は商品量に比例して増加せず、逓減することをいっている(詳細後記)。これをジェニングスは、「感覚変化の法則」(law of the variation of sensation)と呼んでいる。
 消費現象の性質を明らかにするためには、いま一層の観察が必要だとする。第一次商品によってもたらされる感覚の変化と第二次商品によるそれとは、大きな違いがある。特殊感覚を通じる満足感(第二次商品による、贅沢品)は、食物・家・衣服等からの満足感(かれのいう、第一次商品、贅沢品に該当と思われる)に比して量に依存することが少ない。そもそも、前者は量的測定が難しい。さらには、一つの共通感覚は別のものとたやすく代替できないが、特殊感覚は高度の代替性がある。こうして、感覚変化の法則は「商品量の等量の変化に対して、第一次商品によって生じる満足量は第二次商品によって生じる満足量より大きい」と拡張せねばならない。
 同様の方法で、彼は作業と労苦感覚との関連を展開した。いわば、限界負効用逓増の法則というべきものである。こうして、もし労働行為が金銭的報酬の勘定の上で正の価値を、それに付随する労苦感覚が勘定上負の価値を持つとするなら、総量で満足が優勢と個人個人が考える限り、その行為が継続されるだろうという結論に、ジェニングスは到達した。ジェヴォンズが後に、それを数学的形式に直した原理である。

 終わりに、ジェニングスは、限界効用逓減の法則と、限界非効用逓増の法則とみられるものを、書いているので、それらを下に訳しておく。残念ながら、彼はそれらを数式や図表では表わさず、ただ文章で残したのみであるが。
 「第一に、すべての商品について、満足の度合は消費量と歩調を合わせて進まないことを我々の感情は示している――それは、提供される商品の各賦課量によって均等に進行するのではなく、ましてやそれから突然停止するのでもなく――次第に減衰し、最後に究極的に消滅し、それ以上の賦課は何ら満足を生まないに至る。この進行の度合において、等量商品の増分から生まれる感覚の増分は、明らかに段階ごとに逓減してゆく――個々の感覚度は先行する感覚度より少ないのである。」(本書p.98-99)
 「この2点、努力発端点と苦痛点との間では、受ける労苦感の程度は、なされた仕事量に比例して変化するのではなくて、あたかも運動体の速度に対する障害物抵抗のように、もっとより急速に増加することはまったく明らかである。…このようにして、平均量より多かれ少なかれ、生産量を同規模の数部分に分割すれば、各後続増分により生じる労苦感の量はそれに先行する増分により生じるものよりも多く、各後続する減分により生じる苦労感覚の量は、先行減分により生じるものより少ないと感じられることがわかるだろう。」(本書p.119-120)

 米国の書店より購入。図書館旧蔵本である。

(参考文献)
  1. ジェヴォンズ 小泉信三他訳 『経済学の理論 近代経済学古典選集4』 日本経済評論社、1981年
  2. Robertson, R. M. "Jevons and his Precures" Econometrica vol.19, No.3, July 1951,pp.229-249




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(H21.8. 1記)



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