DUPIT, A. JULES E. J.,
De l'influence des péages sur l'utilité des voies des communication dans Annales des Ponts et Chaussées, II -tome 13, 1849, pp.170-248

 デュピュイ「通行税が交通路の効用に及ぼす影響について」(『土木年報』1849年、Ⅱ-13巻所収)、初版。

 1844年論文のページの続きとして書いたものであり、分量が大きくなったため、二つに分けて掲載したもの。できれば、44年論文を読んでからこのページを読んでください。

(1849年論文)
 1849年の第二論文の表題は、「通行税が交通路の効用に及ぼす影響について」と題されている。その表題が示すように、1944年の論文でデュピュイが明らかにした効用の概念を使って、交通路に様々な通行税を課した場合に、効用がどう変化するのかを示した論文である。理論の応用編なのである。とはいえ、前半部分は44年論文に対してボルダスBorudaが同じ『土木年報』に発表した批判論文に答える形で、自分の効用理論を敷衍し再説している。序論および小見出し「効用は尺度を持つ数量である」、「効用の尺度について」の部分である。この部分は、44年論文と基本的に同じで目新しいものはないから省略する。
 「通行税」と小見出しを付けられた後半部分についても、44年論文で「ノート」等においてグラフで簡略化して示した部分を数値例モデルを使って敷衍したものといえる。もっとも、標題によっても、この部分が眼目であるから、以下少しその詳細をみてゆくことにする。

 橋の経営主体が民間か(地方)政府かによってパーフォーマンスが違う。民間は通行料収入極大を目指し、消費者余剰を減少させる。政府の場合は、通行料の値下げが可能である。下げても、以前の通行料収入を確保できるかも知れない(単価は減るが利用者は増えるため)。あるいは、値下げによって消費者のふところに残った金を他の税金で回収することもできる。値下げは、消費者余剰を2、3倍にし、橋をもう一つ・二つ掛けたのと同じ効果をうむという。
 「最良の料金体系とは、通行路を利用する人々に、彼らがその効用に比例した料金を支払わせることのできるものである」(デュピュイ、2001,p.106:以下訳書からの引用はページのみを表示)。この時、通行量は通行料がない時と同じ量となり、社会にとって「失われた効用」(厚生損失)は発生しない。そのうえ、無料の場合と異なり建設費も回収できる。しかし、この料金体系は不可能である。自発性に任せれば、自分の効用を偽って申告する人が出てくるからである。「しかし、料金徴収を強制的に行うにしても、料金体系は、このタイプのものに近づける努力をすべきなのである」(p.106-107)。そのためには、消費者の欲求を調査して消費曲線を推測し、すべての消費者の多様な要求に対応できる小回りの利く料金体系を定めねばならない。
 現実には、この方向で料金徴収する民間経営が増えている。普通、消費曲線は現下の販売価格、数量である1点としてしか分からない。そこから、全体の、あるいは部分的でも、消費曲線の形状を推測するのが事業者の才能である。その上で、増収を図るための事業者の諸工夫があげられている。橋を利用する人の階級によって、通勤時間に労働者向けの安価な通勤用定期券を設ける事業者等々。次に比較的詳しく具体例があげられている二つのケースを取り上げる。

 (消費者効用別に対応した区分の料金体系)
 デュピュイは、1944年論文で次のように述べた。「もし、同一のサービスに対してまったく異なった効用を認めている消費者たちを、その効用の評価に応じて、いくつかのグループに分けることができるならば、複数の料金を組みあわせることによって、通行税収入を増加させ、失われた効用を減少させることができる」(p.48)。そして、(図6)[下に(図1)として再掲]を使って簡単に説明した。ここでは、数値例を使って、以下のように詳しく示している。

            (図1)
 
 まず、前提として元になる消費曲線を推定し、効用を求める。元々は異なる3つの橋の効用を比較した時(詳細略)の、「橋C」に該当する。(表1)である。
 通行税をゼロから1フランずつ上げた場合に、通行者数がどうなるかを推計する((1)および(2))。値上げのたびに減少する人数が(3)である。(4)は(1)×(3)である。(5)は、(4)の累計であり、失われた効用を表す。(4)の総計が総効用(絶対効用)445である。(6)は各税額が徴収されたときの(広義の)消費者の効用を表す。通行税がゼロの時、絶対効用と等しい445であり、445 ―(5)=(6)である。(7)は通行税収入で、(1)×(2)である。

 税額
(1)  
 通行
人数
(2)
 通行税
により
減少し
た通行
者数
(3)
  効用  通行税
収入
(7)
 各税額
によっ
て失わ
れる効
用(4)
通行税
によっ
て失わ
た効
用(5)
 各税額
に対応
する効
用(6)
 0
 100  0  0    445  0
 1  80  20  20  20 425   80
 2  63  17  34  54  391  126
 3  50  13  39  93  352  150
 4
 41  9  36  129  316  164
 5
 33  8  40  169  276  165*
 6
 26  7  42  211  234  156
 7
 20  6  42  253  192  140
 8
 14  6  48  301  144  112
 9
 9  5  45  346  99  81
 10  6  3  30  376  69  60
 11
 3  3  33  409  36  33
 12
 0  3  36  445  0
   計  100  445
     
     (表1)    *極大収入

 理解を助けるために、消費曲線と各項目の関係を図で示しておく(原論文にはない)。(6)は、消費者余剰(緑色部分)と通行税収入(薄緑:(7))を併せたものである。すなわち、総効用から厚生損失(橙色:(5))を控除したもの。              
 
         (図2)絶対効用の内訳

 デュピュイは、上記の橋と同じ消費曲線を持つある鉄道を取りあげる。とりあえず、この鉄道の運送費用を乗客数当たり2フランだと仮定する。この段階では変動費のみを考慮している。すると、料金収入は下記(表2)のごとくになる。
 
 料金
(1)  
 乗客数
(2)
 効用
(3)
  料金収入
 粗収入
(4)
純収入
(5)
 0
 100  445  0  -200
 1  80  425 80  -80
 2  63  391 126  0
 3  50 352 150  50
 4
 41 316  164  82
 5
 33  276 165  99
 6
 26  234  156  104
 7
 20  192  140  100
 8
 14  144  112  84
 9
 9  99  81 63
 10  6  69  60  48
 11
 3  36  33  27
 12
 0  0  0  0
          (表2)

 粗収入(4)は、(1)×(2)である。純収入(5)は、[(1)―2] ×(2)である。
 最大の純収入時(料金6)の効用を234を分解すると、
   運搬費用における失われた効用 …… 52
   鉄道所有者が受け取った収入 ……… 104
   26人の乗客に残された効用 ………… 78
  ―――――――――――――――――――――
    合計 ………………………………  234
 となる。上の2段の合計が(図2)の(7)部分となる。粗収入156が、料金6のうちの運送費用2と鉄道所有者の収益4の割合で分解されているのである。3段目は消費者余剰に該当する。

 ここからが、本題である。ここで、料金6の時の乗客26人には、それ以上の効用を認めている人も含まれているから、増収を図るために、例えば料金8の上等車両を連結することができる。列車利用に、8以上の効用を認めている乗客が内12人いるとする。そうすると下表のような結果が得られる。

 料金
(1)  
 乗客数
(2)
  料金収入
 粗収入
(4)
純収入
(5)
8  14 112 84
6  12 72 48
 26 132
(表3) (注)料金6の時の粗収入が、訳書では74となっているが、72に訂正。原論文でも確認

 粗収入、純収入は(表2)と同じ算式で求められる。この二区分料金体系では、単一料金に比べて、純収入が104から132に増加する。この時の消費者余剰は、
 78(料金6の消費者余剰) ― 2(料金差額)×14(料金8の乗客数) = 50
 となる。
 消費者余剰は、78から50に効用が減ったのである。それは、鉄道会社の目ざしたところでもある。

             (図3)

 (図3)(これも原論文にはない)でいうと、緑の部分が消費者余剰50、薄緑の左の四角形が粗収入112の部分、右の四角形が粗収入72の部分である。
  二区分料金の各料金を変えたり、区分を三区分以上に増やしたりすることによって鉄道会社は(粗)料金収入を増やすことができる。「実際、無限に等級を増加させてゆけば、乗客が鉄道利用から受ける効用をすべて料金として支払わせることも明らかに可能である。しかし、そのためには、輸送に異なった効用を付与している乗客をはっきりと区別し、かれらが自発的にある料金のカテゴリーに入ることを認めさせなければならない。だが、これはきわめて困難である」(p.118)。
 上記の二区分料金(表3)では、料金8フランの車両の乗客数を14人としている。これは(表2)の消費曲線の8フランの乗客数とおなじである。しかし、実際は鉄道利用に8以上の効用を認めている乗客でも、快適さにそれほど重要性を感じない人たちは、2フラン払うより普通車両で我慢する客が出てくる。14人のうち何人かは、普通車に移動するかも知れない。
 デュピュイはいう。鉄道会社が3等車を屋根なしで、固い木の座席にしておくのは、屋根を付けクッションを敷くわずかな費用を惜しんでいるのではない。「鉄道会社が3等車をそのようにしておく目的は、2等車の料金を払うことのできる乗客を3等車にゆかせないことなのである」(p.119)。ちなみにいう、小生が幼少の頃は旧国鉄に1,2,3等の切符があったことを覚えている(もちろん3等車でも有蓋だった)。その後二等級区分となり、グリーン車ができるのは1969年のことであるらしい。利便性に差をつけて、節約のために低い等級の車両に乗らせまいとする。「会社が戦いを挑んでいるのは、貧乏人では決してない。その対象は、ケチな金持ち、すなわち、鉄道による移動に非常に大きな利益をみとめているにもかかわらず、その価値を支払おうとはしない多忙な人々なのである」(p.120)。

  (実際の輸送距離に比例した料金体系)
 当時のフランスでは、運河や鉄道がまだまだ未発達で、それらを利用するのには、他の交通手段を利用して直接輸送するのに比べて、かなりの距離を迂回しなければならない。これらを利用することによる利益は、それらの輸送距離に少しも比例しない。輸送距離が長くとも、それらと競合する交通手段の直行距離が短ければ、競合手段の料金を考えた料金設定が必要である。すなわち、距離が長くても安くなるケースさえ考えられる。


               (図4)

 (図4)のA点から運河や鉄道を使って、B、C、D点に運送される場合を考える。AB間の料金は、その間の輸送には問題はないかもしれないが、AC間あるいはAD間にAから直接通じる道路がある場合、鉄道、運河より経済的で迅速な輸送が可能かもしれない。この時、鉄道はAB間の料金を基準にして、その運送距離が長いので、ACおよびAD間の料金をAB間以上(普通は鉄道距離に比例して)に設定すべきではない。ACおよびAD間の料金がAB間の料金より安くすることも考えられる。例えば、車両を限定して、C、Dへ行く乗客は途中下車できぬようにして不正乗車を防ぐことが可能だろう。
 このような料金値下げで増えた乗客の追加分は、費用が全くかかっていないので、公共の富を増加させる。なぜなら、これまで、AB、BCあるいはBD間のみを利用していた乗客で生じた空席を埋めるだけだからである。あるいは、空席があるときだけ、AC、AD間に割引料金を適用するとしても良い。運送料金の設定には、その周辺地域の状況を徹底的に調査することが求められる。競合運輸機関の料金、沿線の人口とその富裕度、迂回の際の乗換待ち時間等々。
 また、鉄道の乗客は平均して定員の半分くらいしかいない。だから、費用を大きく増加させることなく、乗客数を3倍増させることが可能だともいう。いまでいうダイナミックプライシング、時間別運賃にも言及している。

 論文の最後に著者が樹立した原理を要約しているので、ここに写す。「交通路の効用、あるいは一般的にいって、なんらかの生産物の効用は、通行税あるいは価格がゼロのとき最大になる。/ 通行税がゼロでないとき、可能な効用は3つの部分に分けられる。1.価格のために消費しなくなった人々にとっての失われた効用。2.価格の支払いを受けた人が受け取った効用。3.消費者に残された効用」である。そして、その効用とは商品の購入価格ではなく、サービスを「提供された人がそのサービスに認めた重要性[の評価]」(p.132)によるものである。

  イタリアの古書店より購入。この巻には上記(図4)に該当する図が巻末の「図表」に掲載され、製本されている。紙質は変色しコンデションはよくない。R. ISTITUTO VENETO SCIENZE LETTERE ED ARTI BIBLIOTECA(ヴェネト大学、科学、人文および芸術図書館の意か)の蔵書印あり。      
          
 (参考文献)
  1. 栗田啓子 『エンジニア・エコノミスト フランス公共経済学の成立』 東京大学出版会、1992.年
  2. スティグラー、G・J 丸山徹訳 『効用理論の歴史』 日本経済新聞社、1979年
  3. デュピュイ 栗田啓子訳 『公共事業と経済学』 日本経済評論社、2001年
  4. 松浦保 『現代経済学の潮流』 日本経済新聞社、1974年 
  5. 御崎加代子 『フランス経済学史 -ケネーからワルラスへ―』 昭和堂、2006年

 
右が本論文の掲載された17巻
 
 (論文の最初のページ)


(2021/6/18記)


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