CLARK, JOHN B. , The Philosophy of Wealth. Economic Principles Newly Formulated. , Boston, Ginn & Co.,1886, pp.xviii+235,12mo.

 J.B.クラーク『富の哲学』初版。
 J.B.クラークは、ジェヴォンズ・メンガー・ワルラスからなる限界革命トリオとは、少し時期は遅れるが、別個に、限界効用理論に達し、アメリカの理論経済学者としては初めて国際的な名声を得たとされている。アモースト大学(残念ながら新島襄とはほとんど入れ違いである、新島と接触があったのは札幌農学校のクラークである)等を経て、当時のアメリカの例に倣いドイツに留学、カール・クニースの下に学んだ。
 この本は帰国してから雑誌に発表した論文をまとめたもので、まとまりに欠けるといわれているが、「キリスト教社会主義・・との近似はとくに明白である」(J.Mクラーク)特異な著書である。
 富の概念を古典派経済学の如く物質だけに限定せず用益にまで拡張し、富の起源も労働だけに限定しない。古典派に見られる「経済人」の前提と方法論的個人主義を批判し、社会を有機体的な相互依存性で捉える。時代は小規模生産者社会から大規模生産に遷り、破壊的競争の時代に入っているので、各人が社会全体のために存在し労働することから考えると道徳力の進歩が必要であるとする。
 価値論では先述のとおり、効用効用理論を展開している。しかし、限界生産力分析にまで及んでいないとして理論重視の経済学史家からは、この本が軽視される由縁となっている所である。続く分配論がこの本の中心的な課題である。労働の組織化と資本の結束が進んだ当時の状況では、分配の公正を図る組織として、政府による調停と利潤分配制度及び共同原理を挙げている。
 この本は無秩序な私的経営を批判し漸進的で建設的な変化を期待する宣言書として、同時代の若い経済学者に熱心に支持された。

 経済学史関係の年表では、なぜかこの本は1885年発行とされている場合が多い。早坂忠編『経済学史』、都留重人編『岩波小事典 経済学』等である。1894年版本も、重版の表示がなく、サイバーカタログに初版としていて、本屋にメールで確認したことがある。判りにくい表示の本ではある。インターネットで米英の大きな図書館の蔵書目録で確認したが、初版は1886年で間違いないと思う。標題紙裏のcopyrightに1885年とされているのが誤解されるのであろうか。
 そういえば、息子のJ・M・クラーク『動態過程としての競争』(“competition as dynamic process”)も1961年発行なのに、1947年とされている本が多い。こちらは、相当年離れているのに不可解である。
 現物に当たるよりも、先行年表が信じられるせいだからだろうか。

 米国の書店より購入。昨年末にクラークの” Capital and it’s Earnings”(1888)が入手できた。本年2月に『クラーク記念論文集』(“Economic Essays contributed in honor of John Bates Clark”)が$10で出ていたので買ったところ、続いて本書の1894年版が$20で見つかった。1桁安いし、初版はこの7年ほどネット上で見かけたことはないので出て来ることはないだろうと、これも発注したところ、翌日この初版が出てきた。値段は飛びっきり高かったが(小生にとってです)、縁のものでこれを逃すと当分入手できないと思い購入。

 しばらく本を買うのを控えようと思い(なかなか実行できたためしがないが)つつ、行きつけの古本屋(もちろん日本のです)へ行ったところ、長らく予告されていた田中敏弘氏の出版されたばかりのクラーク研究本を棚に発見。こうしてこの説明文を書くのに大いに助けてもらった。どうもクラークづいた2月であった。

(参考文献)
  1. J・M・クラーク、今野国雄訳「J・B・クラーク論」スピーゲル編『限界効用学派』 東洋経済新報社  1954年 所収 
  2. 田中敏弘『アメリカ新古典派経済学の成立 ―J・B・クラーク研究』  名古屋大学出版会 2006年




標題紙(拡大可能)

(H18.3.19 記)



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