MALTHUS, T.R., An Essay on the Principle of Population, or, a View of its Past and Present Effects on Human Happiness; with an Inquiry into our Prospects Respecting the Future Removal or Mitigation of the Evils which it Occasions. , A new edition, very much enlarged., London, Printed for J. Johnson, 1803, pp.viii+4+610, 4to.
MALTHUS, T.R.,
An Essay on the Principle of Population, or, a View of its Past and Present Effects on Human Happiness; with an Inquiry into our Prospects Respecting the Future Removal or Mitigation of the Evils which it Occasions. , In two volumes, The third edition, London, Printed for J. Johnson, 1806, pp.xvi+505+60;vii+559, 8vo.

 マルサス『人口論』。1803年刊第2版および1806年刊第3版(2巻本)(初版は1798年刊行)。
 マルサスの生前すでに、「『人口論』ほど、それを読んだことのないように思われる人々によって、それほど多く語られた本はなかっただろう」(『マルサス人口論綱要』冒頭の刊行の辞)と云われていた。しかも悪評をもってと付け加えてよいだろう。
 匿名で出版された初版(1798年刊)は、フランス革命後の時代思潮の中で、自然の法則の貫徹を論じて、ゴッドウィン等の空想的楽観論に対し冷や水を浴びせかけた。
 「人口は、制限されなければ、等比数列的に増大する。生活資料は、等差数列的にしか増大しない。数学をほんのすこしでもしれば、第一の力が、第二の力にくらべて巨大なことが、わかるであろう。」(永井訳.23)の箇所はよく知られている。
 人口の幾何級数的増加説は、最も世人に印象を与えたところであるし、マルサスも初版以来一貫して固執して主張してきたところでもある。しかし、マルサス説は、別に定義の明確でない「妨げ」の存在も前提にしているから、どんな現実の人口増加にも適合してしまう。低い出生率は予防的妨げによるとし、高い死亡率は積極的妨げのせいにしてしまえるからである。初版以後、妨げのない純粋の幾何級数的増加率の証明を巡って批判と反批判が続いたのである。

 初版と2版(1803年)とは、別の本とされるくらい、大きく内容が相違している。それは副題から覗われる。生前第6版(1826年)まで出版されているが、3版(1806年)以降はマイナーチェンジ。その中で改訂が大きいのは、第3版である。巻末の付録が付いたのもこの第3版が初めて。付録は、①重要な論点に対する誤解の弁明 および、②通読する余裕のない読者に本書の梗概を簡潔に知らせる内容である。
 初版の副題は、「ゴッドウィン氏およびコンドルセー氏その他諸氏の研究を評し、社会の将来の改善に対する影響を論ずる」である。

 第1章では、第一命題 食料は人間の生存に必要であること。第二命題 両性間の情念は必然であり、ほぼ現在の状態のままでありつづけるとおもわれること。――の二つの公準から、人口増加が食料生産を上回り、人間社会の改善を不可能とし、貧困と悪徳を招来する。この貧困と悪徳を含む妨げが人口増加を制限してきたとするのである。ここらあたりが、ニュートン学徒とされる著者の初版本が、先験的・神学的とされる所以であろう。 第2章から第7章までは、その主張の実証に充て、第8章以下でゴッドウィン、コンドルセーの批評をする。
 第2版(以降)の副題は、「あるいは、人類の幸福に対するその過去及び現在の影響に関する一見解、ならびにそれが引き起こす諸悪の将来における除去あるいは緩和についての我々の見通しに関する一研究」である。第2版は、初版出版後、友人二人とドイツ・ロシア等を旅行し、収集した人口資料で所説を補強している。また、道徳的抑制の必要と可能性を認めるに至った。

 またまた余談である。
 マルサスの直系の子孫は英国で絶え、甥の子孫が新天地のニュージーランドで繁栄している。「ことほどさように・・・土地と食物が豊かな新しい国では、人口が急速に増するとのマルサス説を実証している。」(プレン著p.21)。
 また、著者は人口論者マルサス(Population Malthus)から”Pop”と学生から呼ばれたそうだ(同書p.24)。この本には書いていないが、マルサスは兎唇だったから、破裂音の発音が困難だったろう。揶揄というより、随分残酷な仇名だったように私には思われる。本人も人口論のと、称されるのは内心穏やかでなかったのではないか。

 初版は稀覯本の代表。第2版も、上記の事情を反映して高値。第3版以降は比較的廉価である。私蔵の両書とも、別々のアメリカの書店から購入。第2版は、比較的廉価であったが表紙が外れていたので国内の製本業者に装丁を依頼したもの。第3版の方は、同一書店で2セット同時に売りに出されていた内の安い方を購入したもの。半標題紙はないし、革装も1巻目は、痛んでいる。比較感からか、通常より安い値付けがなされていた。

(参考文献)
  1. D・ウィンチ 久保芳和他訳 『マルサス』 日本経済評論社 1992年
  2. ジョン・プレン 橋本比登志他訳 『マルサスを語る』 ミネルヴァ書房 1994年
  3. マルサス 小林時三郎訳 『マルサス人口論綱要』 未来社 1959年
  4. ロバート・マルサス 大内兵衛他訳 『初版 人口の原理』 岩波文庫 1962年改版
  5. マルサス 長井義雄訳 『人口論』(初版) 中公文庫 1973年
  6. T・R・マルサス 大淵寛他訳 『人口の原理[第6版]』 中央大学出版部 1985年


第2版


同標題紙(拡大可能)


第3版


同標題紙(拡大可能)

(2008/12/6記。2016/7/30参考文献の表記を改め,発行年を付加。2019/7/9第2版の写真を追加、記述もそれに合わせ修正)




稀書自慢 西洋経済古書収集 copyright ⓒbookman