JONES, R.,
An Essay on the Distribution of Wealth, and on the Source of Taxation., London, John Murray, 1831, pp.xlix+329+(49), 8vo.

 リチャード・ジョーンズ『地代論』初版。
 正式標題『富の分配および課税の諸源泉についての一論、第一部地代』が示すように著者は「諸国民の経済学」を構想しており、本書に続いて『賃金論』を出す予定であった。
 著者は、牧師を経てロンドンのキングスカレッジ教授の後、マルサスの後任として東インド・カレッジ教授に就任。ケンブリッジで学生の頃天文学者のハーシェル等と交わった。当時天文学を数学の一部門としてより経験的方法に基づくものへと再構成しようとする運動があり、その影響を受ける。
 ジョーンズは、イギリス歴史学派に分類される。歴史学派とは、先進国(英国)キャッチアップを目指した後進国の学として、イギリス古典派の抽象性を批判したドイツのものをいうのが普通である。しかし、当時最高の発展段階にあるイギリスにも歴史学派はあった。
 植民地、特にインドを抱え込んだ大英帝国が、帝国内にヨーロッパと異なる様々な社会を含んでいたからである。植民地経営の経験は、資本主義社会以外の経済を認識させるに至った。特に著者がインド官吏の教育機関であった東インド・カレッジ教授であったことは、直接的に研究の契機となったであろう(『東洋社会と西欧思想』)。

 ジョーンズは、リカード経済学の批判者とされる。少数の前提から一般的理論を引き出す方法を批判し、全世界の過去および現在の経済的事実を観察することを重視することを主張した。
 本書で、世界各地域、各時代の地代の分類化から始めた。「経済的構造」(耕作民の経済的地位)により地代形態を二種類に分類する。みずから耕作する借地人の支払う地代「小農地代」(これは、さらに「労働地代」等三種類に細分されている)および労働者を雇用する資本家により支払われる「農業者地代」である。後者が資本家的土地所有による地代であり、前者はそれに先行する土地所有によるものである。
 これら地代の分析から、リカード理論は特殊イギリス社会のみの観察により、抽象的に演繹した理論であり、インドのような前資本主義社会には適用できぬこと、そしてリカードと同じ前提即ち資本主義社会でもリカード理論が適用出来ないことを論証しようとした。すなはち、リカード学派が自己の理論がどこにでも適用できると考えたのに対し、その前提である資本主義的土地所有形態は、土地所有が生産と社会を支配する形態でなくなり、農業が資本制的に経営される時に初めて出現することを明らかにした。さらに、イギリス統計史上の事実から、地代収入・農業人口占率・穀物地代の総生産に占める割合の推移が示すところは、リカードの差額地代説を支持しないことを述べた。
 著者自身は、地代は単一原理によって説明できず、様々な原理が様々の時代および様々の条件下に適用されると考えた。「真理のうち先ず安全に獲得されうる部分は、必ずや経験の限られた領域を基礎にして、慎重に我慢強く研究し抜かれた狭隘な原理でなければならぬ。より科学的な簡潔さを持つ、より広範な通則は、これらの中間的真理が克服されて後に始めてよく到達されるのである。」(邦訳p.60)
 また、「経済的構造」によって、その時代の生産力、生産方法のみならず、その社会・政治・文化まで規定されると考えたことは、ヒルファーディングが唯物史観の先駆者としたところである。

 日本の古書店より購入。装丁もよく永らく購入候補にあがっていたが、値段が小生には少し張るので逡巡していた本。よくぞ売れずに待っていてくれた。

(参考文献)
  1. 大野精三郎 「ジョーンズ」 (末永茂喜編 『経済学説全集 第4巻 古典学派の批判』 河出書房、1955年 所収)
  2. 高橋誠一郎 『古版西洋経済書解題』 慶応出版社、1943年
  3. 島恭彦 『東洋社会と西洋思想』 筑摩書房、1989年
  4. 邦訳(日本評論社、1942年)解題(2.に所収)、訳序他




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(H20.1.20記)



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