THORNTON, H.
, An Enquiry into the Nature and Effects of the Paper Money of Great Britain , London, Printed for J. Hatchard, Bookseller to the Queen, 1802, 8vo., pp.xvii+320

 H. ソーントン『紙券信用論』初版。
 著者は、イギリスの銀行家。英蘭銀行の金兌換停止や地金に関する各種委員会に参加した。この本で穀物の不作による突発的・一時的金流出に対しては、英欄銀行は信用を拡張すべきとし、景気過熱による長期的な金流出に対しては信用収縮すべきと説いた。
 「『紙券信用論』は表面上は時局的な冊子にみえても、実ははるかにそれを越えたものである。・・・この時局性と仮定を取り除けばこの本は永久的価値をもつ作品として生き残る。」(ヒックス『貨幣理論』p.257) 
 現代の多くの経済学者から優れた理論家として賞賛されている。ハイエクしかり、ヒックスしかり。ヴァイナー、ロバートソン、シュンペーター、ブローグそして近くは若田部昌澄(『経済学者の闘い』)・・と名前のリストをいくらでも続けられよう。
 ここでは、最初の2人の評価を手短に引いておこう。
 「同著は、貨幣論における最も注目すべき成果の一つで、いまなお大いに注目されるべきものである。」(ハイエク全集 邦訳第一巻P.116)
 流動性選好説、賃金の硬直性等「ケインズの理論構造における重要な要素はすべてソーントンの中にその対応物をもっている。」(ヒックス上掲書p.248-249) 

 ソーントンの経歴を見て思いだすのは、第13代日銀総裁であった深井英五のことである。同様に実務家出身であり、自分の頭で物事を深く考える能力を持っていた。群を抜いた見識を持っており、官学出ではないが挙げられて総裁まで登りつめている。『通貨調整論』なる本も著している。若い頃は宗教活動に熱心だったこともソーントンに似ている。

 米国の書店より購入。書名を空押しした現代カーフ装。Ex-library、シカゴ大学旧蔵で、標題紙に大学名が目打ちしてある。




標題紙(拡大可能)

(H18.2.26記)



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