GRAY, JOHN
, Lectures on the Nature and Use of Money, delivered before members of “Edinburgh Philosophical Institution” during the month of February and March 1848, Edinburgh :A and C Black; London: Longman ,Brown, Green and Longmans , 1848, pp.xiii+344+[19 ads],8vo.

 ジョン・グレイ『通貨の本質と使用にかんする講義』、初版。
 グレイは、ウィリアム・トムスンやホジスキンとともに、リカード派社会主義者に分類される。少年期の商店の徒弟奉公からたたき上げ、社会的な成功を得た。その間、当時の社会問題について、独力で思索を重ね、『人間幸福論』、『社会制度』をはじめとする著書・冊子を著した。とはいえ、没年が長らく明らかでなかった事から見て、市井の人としてよいだろう。
 処女作『人間幸福論』でこそ社会改革色が強かったが、その後の著作では次第に政治色が薄れ、貨幣論中心の理論的なものに傾斜したため、フォクスウェルをして本書には社会主義の片鱗さえ見られなくなったと云はしめるに至った(A・メンガー『労働全収権史論』英訳序文)。
 貨幣の所有者が交換に財貨を得る購買は容易なのに、財貨所有者が交換に貨幣を獲る販売は困難である状況。あるいは生産が需要の原因であるあるべき世界が、生産が需要の結果となっている現状。これらを改革するために、とるべき第一の手段は社会変革ではなく、貨幣制度改革であるとする。
 財貨が販路を見出せない一般的過剰生産状況は、貨幣不足が原因と著者は考えた。金本位制度の下では、金の生産が財貨の生産の増加に追いつけないためである。こうして仕事の欠乏および労働が正統な報酬を受けない事実から生ずる害悪を除去するためには、自由に増減できる紙幣を国立銀行が発行すべきとした。この銀行は生産に必要な労働量を表す労働貨幣を発行し、更には、社会の財産の管理を行い、諸工場の生産品目と数量を決定すべきであると論を進める。

 本書は2,000部発行、内1,200部を議会関係者、新聞社等に無償配布。本書の内容を論破した者には、賞金1,000ギニー(現在の価格で300万円程度か)を贈呈するとの紙片を表紙に貼付している。
 高橋誠一郎『古版西洋経済書解題』(慶応出版社)所載本中発行年の最も新しい本。『古版』(S18年出版)に於いて既に本書は古版とされているから、半世紀以上経た今日では堂々たる古版と称してよいだろう。
 また、『古版』では、著者所蔵本は、表紙に貼付された懸賞金の紙片が比較的よく保存されているとある。最近小生に送付されて来た古書店カタログにも本書が搭載されているが、懸賞金の紙片はなしと記載されていたから、紙片付は珍しいのかもしれない。私蔵本は懸賞金の紙片の他に、新聞社用の紙片も貼付されており、どちらも状態が良好である。本書巻末には贈呈先のリストがあり、私蔵本はCountry Paper ”Reading Mercury”宛の贈呈本である。

 米国の書店より購入。 

(参考文献)
  1. 鎌田武治 『古典経済学と初期社会主義』  未来社、1968年
  2. 高橋誠一郎 『古版西洋経済書解題』 慶応出版社、1943年




標題紙(拡大可能)


表紙の懸賞金紙片

新聞社用の紙片

(H18.7.8記.H21.6.13一部修正)




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