BAGEHOT,W.,
LOMBARD STREET :A DESCRIPTION OF THE MONEY MARKET, London, Henry S. King & Co., 1873, pp viii+359, 8vo

 バジョット『ロンバート街 ―ロンドンの金融市場―』、初版。
 「通り」を「街」と訳すのは、パリだけではない。ロンドンでも、シャーロック・ホームズのベイカー街(Baker Street)首相官邸のダウニング街(Downing Street)等に同じ。「此の小論を敢えて『ロンバート街』と名付け。『金融市場』或いは其れに類する成語を用いないという訳は、具体的な事実を取り扱い、又其の意図を表示したいと思うからである。」(訳書p12)。
 岩波文庫に宇野弘蔵の訳あり。1941年初版で,年賦を見ると宇野が検挙され「仙台で別荘入り」(『宇野弘蔵著作集』別巻・月報の河盛好蔵のことば)していたころで、東北大学を休職中。岩波書店が、浪人中の氏の生活援助のため訳を依頼したとか――どこかで読んだ覚えがある。自主的な翻訳でないせいか、巻末の解説にどうも力が入っていないように思える。
 「1866年のオーバレンド・アンド・ガーニー商会の倒産が国家財政に重大な危機をもたらしたことが契機となって書かれたものであった。・・・・この書物は、バジョットが経済理論は極めて正確に把握しているとともに、叙述のすばらしい明瞭さと、取り扱われている金融市場について彼が有している知識のために、元来無味乾燥な主題であるにもかかわらず、他のいかなる書物より大きな影響を与えた、と言われている。」(岸田理『ウォルター・バジョットの研究』p.21-2)

 普段、参考にさせてもらっているweb版・広島経済大学図書館『「知の系譜」文庫目録』には経済学古典の初版本が多く載せられているが、この本は記載されているもののなぜか版が明示されていない。また、岸田本各部の扉にはバジョットの代表作表題紙写真が印刷されているのだが、この本のものは、1961年発行の新しいものである。webcatでも初版が出てこないので、かなりの稀覯本かもしれない。
 ネット上の書店では、値段の幅は大きいが、米国初版は常に出ている。これに比べ、本家の英国初版は見た覚えはない。長らく探していたのだが、灯台下暗し、都丸書店にあった。いつも目録が送付されて来た時は、丁寧に見ているつもりだが、見落としていた。「経済史」の分類で入っていたのだ。何気なくネットの目録を見ていて発見。よく売れて残っていたものだ。




標題紙(拡大可能)

(H17.6.27記)



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