オリジナルの心地よさをつくる


M.F.島津山
改修工事





















  





























































  

Copyright(c)2004
K.ASADA ARCHITECT & ASSOCIATES
 
今流行のデザイナーズマンションというか、デザイナーズ戸建長屋として建売された建物です。3戸の鉄筋コンクリート造3階建て(確認申請は、地下2階、地上1階建)で構成されています。2004年の春に竣工したばかりの建物で、一応、デザイナー(?)らしき設計事務所の設計・監理で計画されていました。敷地の裏は傾斜地でレベルが高くなっており、建物は白い外観に白い内装のシンプルな建物です。山手線の五反田駅から徒歩約6分で、静かな良い環境でローケーションは抜群でしたが・・・
2004年10月に調査・検査の依頼がありました。電話である程度状況は聞いていましたが、実際に行ってみて驚きました。

1階の玄関を開けた途端、なんとも言えないにおい。1階が寝室なので、初めは化粧品の香りかと思ったのですが、いや違う。カビの臭いだったのです。ウォークインクローゼット、クローゼット内のものにカビが生えるような状態でした。
様々な調査を進めると、次のようなことが分かってきました。
1. 換気計画が全く出来ていない。
2. 土間に防湿材・断熱材がない
3. 鉄筋コンクリート造なのに、木造用アルミサッシが取付けられている。
4. 1階のテラスと居室の間にスラブの立上りがないため、床下に水が浸入してくる状況となっている。テラスの排水も悪く、10月初めの大雨のときはサッシの上ぎりぎりまで水が溜まり、あわや床上浸水状態。
5. 工事がずさんで、サッシの水切下がきっちり処理されておらず、水が入りやすくなっている。まして、木造用サッシなのでなおさら。
6. 裏の敷地は小高い丘になっており、平坦な土地の場合よりも湿気が滞留しやすいにも関わらず、換気設備が無い上に内装材がタイルとボードで、調湿機能を持った仕上げ材が一切使われていない。実際、1階は、除湿器が2台フル活用で、すぐに水が満タンになる有様。
7. 駐車場がピロティ状態になっているのに、階上の床に断熱材がない。
8. 浴室は流行りのガラス間仕切りで、排水溝がドア下部にしか無く(通常はドア下部は、サブの排水溝にすべき)、また溝が浅すぎるため、浴槽のオーバーフローしたお湯が、排水溝を越えて脱衣室に流れていく。
9. 浴槽の縁のレベルと木造用アルミサッシの下端レベルが同じなので、オーバーフローしたお湯は、アルミサッシのレールを超えて、外部へと流れていく。
10. 屋上の電気引き込みは、非常識にも屋上パラペット天端から引き込まれており、雨の日に配管から水が入り、水は配管を伝い、1階下駄箱裏が濡れている。(電気の引き込みは、見栄えを気にした設計者の指示により、パラペット天端に変更したらしい。)
11. 1階の両側が一部地面の中であるが、外防水ではなく内防水をしているため、鉄筋コンクリート躯体のクラックに対応できず、壁からの漏水がある。
12. 外部鉄部の塗装は、耐候性のあるものが使用されておらず、また鉄部の溶接も悪いので、半年で錆が出ている。
13. 屋上のハト小屋(設備配管取出口)に庇が無く、シールが切れたら直ぐに雨が入る状態。
14. 外壁のパラペットの笠木水切が十分に機能していないため、白い外壁は半年で結構汚れている。
15. TVアンテナのコンセントはあるが、途中どこかで断線しているため、電波が来ていない。
などなど・・・・細かいことを書けばキリが無い。
要は設計監理の不備、施工管理の不備(工事写真も無い状態)、チェック機能が働いていないなど、色々重なった結果が現れた建物でした。

■主な対応


現状を少しでも改善するため、住みながらの工事で出来る範囲の対応を試みました。
a. 1階の環境改善
床仕上げ材をめくってびっくり!床下に水が溜まっている。床の下地合板は半年でカビて真っ黒でした。
防湿をスラブ上で行う。床下に断熱材を入れ、居室からの湿気が床下に流入して内部結露しないように、床下地を気密にする。
サッシ下は、外部から防水を行う。
室内の隅々の換気(空気を動かす)が出来るように、外部(ドライエリア側及び玄関ドア脇)に給気口を設けた。新たに換気設備は設置できないので、浴室の換気扇の能力を最大限に上げ、クローゼット、ウォークインクローゼットなどもドアにアンダーカットやガラリを設けるなどして対応した。
b. 1階テラスの排水
今更、地中配管の径を大きくすることは不可能なので、排水桝のフタをグレーチングに交換し、水はけが少しでも良いように改善。
c. 2階浴室の排水
浴室内の床を全て剥がし、浴槽際に排水溝を設けた。水勾配は今までとは逆向きに新たに設けた排水溝へとった。ドア下の排水溝は、あくまで補助の排水溝と位置づけた。
d. 屋上の電気関係の引き込みについて
雨水の浸入の原因になっているので、引き込み穴廻りに土手を作ると共に、ステンレスカバーを二重でかぶせ、雨水が入らないようにした。
e. 外壁パラペットの笠木水切
アルミの水切金物を新たに取付けた。
f. 隣地側外壁からの雨水の浸入
今更、土中部を掘り出して外壁の外防水は出来ない。まず、漏水している場所のコンクリートをハツリ込み処理をすると共に、内防水を再度やり直す。更に、両隣地のご了解を頂き、隣家との間の盛土上部に防水層を構成し、外壁際からの雨水の浸入を防ぐと共に、土中の水圧を緩和するため、盛土の立上りに水抜き穴を設け、外壁を押す水の力を緩和した。
などです。
今回の工事で出来なかったこともあります。又、入居者から様々な追加要望ありましたが、それらはしばらく冷却期間を置いて、今後再度見直してはとアドバイス致しました。

■今回の事例で分かったこと
設計者、施工者はデザインだけでなく、温熱環境や機能面をもっと考えなければならない。納まりを含め、少々知識不足である。
事業主、設計者、施工者がそれぞれの役割を果たしておらず、チェック機能も十分機能していない。少なくとも、事業主、設計者は、販売する前及び入居者が入居する前に、十分な検査を行うべきだが、それを行っていない。
施工者が十分な現場管理、品質管理を行っていない。
住まい手は建築に関して全くの素人です。従って事業主、設計者、施工者を信頼するしかありません。今回はその信頼が全く裏切られた例です。けれども、高価な買い物をするのですから、重箱の隅を突付くようなあら捜しは決してすべきではありませんが、住まい手も購入前に、もう少し色々慎重にして欲しかったと思います。