アジア・アウトリーチ・AR237

   香港

        香港の情勢 (2)

              元アジア・アウトリーチ・インターナショナル会長
                    フランシス・K・ツイ

 前回私が語った香港の事情は、みなさんにとって全く新しいことであったかもしれません。それの一つの原因は、 西洋の主流となっている国際メディアが、反中国的な姿勢をとっていて「民主主義を普遍的なもの」とする考え方に立っているからです。 米国と中国との間にある地政学上の対立は否定できません。しかし、私自身が中国史を数年間学び、これを教えた者として、 また、アジアに20年住む前に米国に20年暮らしていた者として言わせていただければ、 米国と中国との問題は滑稽化したものであると言えるのです。

 今の米国と中国は複数の戦いの前線に立っています。経済、政治、科学技術はこれらの一端であるに過ぎません。 米国は今の立場の保持に必死になっています。米国が主導を取っている 「ファイブ・アイズ」(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)も共同して中国を封じ込めようとしています。 アメリカのバイデン大統領は、香港においてビジネスを展開しているアメリカ企業に対して、香港での事業の継続への危険性について 伝えました。皮肉にも、香港におけるアメリカ商工会はやさしくこれを否定し、香港に留まり続けることを誓ったのです。

 香港における海外系の企業の中では、アメリカ系の企業が最も大きなグループであるので、香港から出て行くことを考える人は 少ないのでしょう。事業者たちは、その行動においては最も正直な人々です。もしも香港に留まることが危険ならば、 アメリカ大統領からの助言の前に、すでに香港を去っていたでしょう。ちなみに、アメリカ商工会は香港市の中心に 事務所を購入したらしいのです。

 香港では、「自由」や「機会」といった窓にカーテンが閉じられているという報告が多数あります。 そして人々は群がって香港から逃げようとしているとも言われています。確かに、過去6か月は香港からの移住者が増えたようです。 しかしそれは10万や100万人と言った規模の話ではなく、公開されている情報によると、香港にある3百万世帯のうち、 3万~5万世帯が移住をしているか外国への移住を考えているのです。これは1997年以前の数とそれほど変わりません。 沢山の人々が住居を投げ売りしてまで香港を出て行きたいと願っているとされていることから、空室が多くあり、 住居の値段が落ちると言ったうわさまで流れていました。ところが、香港の住居の値段は今でも最高に高い状態が続いています。 市場活動は活発に行われており、新型コロナウィルス感染拡大の中にあっても、失業率は5.5%の水準まで回復しました。 観光客やビジネス渡航者も戻りつつある状況なのです。

 毎年行われている香港の書籍展示会が最近行われました。そこでは、異なった政治的視点に立った書籍が展示されていました。 事前の検閲はなく、どのような本が展示されるのかといった政府からの質問も干渉はありませんでした。実は、 香港におけるビジネスは数年前に比べて良くなっていて、それは新型コロナウィルス感染拡大以前よりも良い状況だと 言えるほどなのです。

 BBCやロイター通信やCNNの放送は、政治的な美辞麗句とジャーナリストの考えが先走っていることが見受けられます。 それらは、実際に私が住んでいる香港の実態とは違った様子を放送しています。ポストモダン、ポスト真理時代を生きる今の 私たちの世界や生活に、よくなじむような考え方に支配されているようです。

 香港の課題は山積しています。政治的な打撃に加えて、新型コロナウィルス感染拡大による打撃で壊されたものを建て 直しているからです。香港は中国とアメリカの敵対関係の間で地政学的にも中立を保たなければなりません。教会はいやしを 必要としています。香港は今、希望と平和を捜し求めているからこそ、福音を伝える良い機会でもあると考えています。 新型コロナウィルス感染拡大の中にあっても、私たちは教会として、近隣に住んでいる必要を抱えている人たちを援助しています。 例えば、マスクや食べ物や生活必需品を供給し、ホームレスにはお米を配給しています。このような活動を1年半続けて来た結果、 約150人がキリストを知るに至っています。今や新型コロナウィルス感染拡大は落ち着きつつあるので、 集まって礼拝することが再開されています。新しい教会や、信者の群れを近隣に開拓することを計画しています。 課題があろうとも、善を行うことは良いことなのです。

 国家安全保障法が香港に対して発布されたことと、新型コロナウィルス感染対策としての厳しい社会的距離を保つ 政策によって、ついに2020 年に抗議や暴力が沈下しました。パンデミックを受けて、教会も対面的に集まること をやめ、オンラインによる礼拝や交わりへと移りました。2020 年の暮れから2021 年の始めにかけて、香港人口の 少数にあたる人々が、自由な国に住み、希望ある将来を求めるために、イギリスやアメリカ、カナダやオーストラリ アへと移住しました。移住した人々の中には、クリスチャン家族や牧師や聖書学校の先生なども含まれていました。 ところが、香港においては、信教の自由にかかわる法律は変わっていません。実は、パンデミックによって、必要を 抱えている人々を援助し福音を伝える絶好の機会が与えられているのです。難しい社会状況の中にあっても、積極的 に地域社会に働き続けてきた教会は、新しい信者が群らがり、神の家族に加えられているのを見ているのです。私 が所属している教会でも、毎日のように働きかけて来た地域の中から150 世帯もがイエス・キリストを信じました。 収穫は多いが働き手が少ないとは事実です。光のあるうちに福音を伝えなければなりません。光のあるうちに、教会 は努力を倍増して救われるべきたましいに神の恵みと希望を伝え、そして神の義と神の国をこの世界にもたらせるこ とが必要なのです。

 国境がもう一度開かれるならば、私は、すぐにでも日本を訪問したいと願っています。

                       (完)
 執筆者:フランシス・K・ツイ
アジア・アウトリーチ国際部会長(2007-2011)
英国聖公会宣教協会アジア会長(2012-2018)
アジアン・アクセス国際主事(2018-)



アジア・アウトリーチ・ジャパン・・・アジア・リポート No.237

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