(c) copy right Guitar Amplifier Manufacturing and Professional Services ギャンプス 2013
リバーブが全くならなかったり、変な音がしたりする場合、その原因はひとつではありません。
以下に列挙する原因1. から 8. までのどれかの故障です。
単独の故障もあればふたつ以上の複合の場合もあります。
真空管が壊れている場合は、単純に真空管だけが疲労して壊れている場合もあれば、
真空管を作動させる回路故障が真の原因で、そのことで真空管が壊されている場合もあります。
ギャンプスの行なうオーバーホールでは以下に述べる 1. から 7. まで全ての原因を取り除く作業を行います。
耳で聴いたリバーブの不具合の症状だけから、確実にひとつの原因に絞ることは不可能です。
しかし、意識を集中させてよく聴くと、ある程度の範囲に絞ることは可能です。
ここでのポイントはリバーブ・スプリングの揺れる音が聴こえるかどうかです。
(A) ギターの音にリバーブがかからない。しかし、キャビネット上部を軽くたたくとスプリングが揺れる残響音はする
スプリングの音が聴こえる場合はリバーブ・パンからミキサー回路は問題ないことが多いです。
問題はスプリングを振動させるドライバー回路にあります。
この場合原因のは(1)(2)(3)のどれかです。
(B) リバーブが全く鳴らない。キャビネットの上を叩いてもスプリングの音が聴こえない
この場合はリバーブ・ミキサー回路にスプリングからの信号が届いていないか、
リバーブミキサー回路そのものの問題であるかのどちらかを意味します。
原因は(3)(4)(5)(6)(7)のどれかです。
(C) リバーブに関連する真空管を換えてみる Fig.1
原因の (1)と(5)を除去する。
リバーブの機能は通常 2つの真空管で構成されています。
・リバーブドライバー(12AT7) Fig.1 の V3 のポジションの真空管です。
・リバーブミキサー ( 12AX7 )Fig.1 の V4 のポジションです。
原因を絞り込む手段としてこの真空管を換えてみると、
真空管が悪いのかそうでないのかの判定ができます。
(D) リバーブ・ケーブルを抜いて端子部分をクリーニングする
古くなったギターアンプのリバーブ端子は汚れが付いて接触不良となっていることがあります。
軽度の不具合の場合は、この部分をクリーニングするだけで、不具合が収まる場合もあります。
(C)の真空管交換や (D) のリバーブケーブルのクリーニングをしても、なおらなければ、
リバーブ不具合の原因の絞込みの結果を添えて、修理に出すことになります。
以下に、リバーブ故障の症状の事例とその修理の方法をいくつかあげておきます。
チェックしてみると、リバーブミキサー真空管やリバーブミキサー回路は正常です。(原因5,6,7)
原因3.のリバーブケーブルも異常は見当たりません。
そこで今付いているリバーブ・パンのケーブルを外し、新しいリバーブ・パンとギターアンプをつないで
試奏してみたところ、リバーブは鳴り出しました。
リバーブ・パンを外して中を見てみました。Fig.2
スプリングが2本とも根元で切れていました。
この場合はリバーブ・パンの交換でリバーブは鳴り出します。
しかし、このケースの場合、単純にリバーブ・パンのスプリングが壊れただけでしょうか。
リバーブ・パンを壊す可能性をつぶしておかないと再発してしまいます。
リバーブ・パンが壊れた場合、以下の再発防止のための作業が必要となります。
スプリングの揺れも聞こえないことから、V4 ポジションのリバーブミキサーの真空管 12AX7を見てみると、
Fig.3 のようにガラス菅が白く変色・変質していました。( 真空管ガラスの白濁化)
このように真空管が白濁して故障する場合は、真空管の自然劣化による故障よりも、他の回路の不具合により、
真空管が疲労させられて壊されたケースが多いです。
12AX7 を新品にして試奏しました。その結果、
リバーブは鳴り始めるものの、効きがいまいち弱々しいです。
またVibrato チャネルの音が間欠的に途切れたり、音量が大きくなったり小さくなったりします。
このことからもリバーブミキサーの真空管 12AX7 は劣化して壊れたのではなく、回路の不具合が原因で壊されたことを意味します。この回路の不具合が間欠的な音途切れや音量の不安定さも引き起こしています。
さらに PD ( Problem Determination )を続行していくと、
リバーブミキサー回路のカソード抵抗をバイパスしているアルミ電解コンデンサーが
過去に交換されている痕跡を発見しました。
この部分のハンダ付けがイモハンダになっている可能性があります。
このハンダ付け不良があるとリバーブミキサー真空管の動作が不安定となり、
真空管に余剰のストレスをかけます。
リバーブに関係する 3つのRCAジャックの配線のハンダを全て外し、RCA ジャックを全てクリーニングしました。
次に新しくハンダ付けすると共に、抵抗 x2, コンデンサー x2, 配線材 x1 を新しい部品にして取り付けなおしました。 Fig.3
上のFig.3 の作業を行なうと、リバーブはきれいに鳴り出しました。
Vibrato チャネルの間欠的な音量変化もなくなり、きれいなサウンドに戻りました。
リバーブミキサーの真空管や回路を検査しても正常でした。
ところが、リバーブケーブルに触れるとリバーブの不安定さが顕著になりました。
リバーブ・ケーブルの導通チェックをしました。 Fig.4 のはじめの写真。
リバーブケーブルは信号線とシールドとの2芯線です。
内部にある信号線側は正しく導通があり、0Ωでした。
しかし、むき出しのシールド線は 345Ωの抵抗値が発生しており、劣化しています。
こちらも正常な場合は 0Ωでないといけません。
Fender のヴィンテージ・ギターアンプのリバーブケーブルはシールド線がむき出しの状態です。
年月が経過すると埃・カビなどによってこのシールド線の腐食が進み、劣化します。
以下の Fig.4 に示した手順で、カバーのクリーニングを行い、埃とカビを除去し、
リバーブ・パンの端子をクリーニングし、接触不良を取り除いたのちに、リバーブ・ケーブルの交換を行いました。
Fig.4 の作業の結果、リバーブの不安定さはなくなり、発振も起きなくなりました。
キャビネットを揺すったときのスプリングの音は聴こえます。
このことからリバーブミキサー回路は正常であることがわかります。スプリングも生きています。
そうするとリバーブ・スプリングをドライブする回路に問題があります。
リバーブドライバー真空管 12AT7 ( V3 ポジション) は正常でした。
リバーブドライバーの回路も正常でした。
リバーブケーブルも正常です。
そこで、リバーブトランスをチェックしてみました。Fig.5 の上の左の写真
リバーブトランスの配線のハンダを外し、プライマリー( 1次側 ) の抵抗値を計測すると、
OL ( Open load ) と表示されます。つまり、断線していて導通が無いことを示します。
トランスの内部で切れてしまっています。
Fig5. の上の右の写真は新品のリバーブトランスのプライマリーの抵抗値を計り、比較しているところです。
正常なトランスは約 1KΩの抵抗があります。
Fig.5 のように壊れたリバーブトランスを外し、新しいトランスと交換しました。
リバーブトランスの自然劣化により、断線したのならば、リバーブ・トランス交換だけですみます。
しかし、他の回路の不具合により、トランスに対してストレスが加わりトランスが壊された場合、
トランスに繋がっている回路の不具合が真の原因です。
その原因を取り除かないことには、またすぐにリバーブトランスが壊れてしまいます。
リバーブトランスを壊す要因となる候補は
・ リバーブ・ドライバー真空管 12AT7
・ リバーブ・ドライバー回路
・ リバーブドライバー、リバーブトランス、リバーブパン、リバーブミキサーの入力の間での発振
リバーブ・ドライバーの真空管も回路も正常であることはチェック済みです。
残りはリバーブ回路での発振です。
しかし、リバーブが鳴らない状態になりトランスが壊れる直前のギターアンプの状態は不明です。
お客様に問い合わせてもよくわからないとのことでした。
リバーブ回路特有の発振の症状が出ていたのかどうかはわかりません。
そのため、万が一のことを考え、発振対策を同時に行なうことにしました。Fig.5 の一番したの右の写真です。
リバーブ回路の発振が発生しにくい配線に変更し、リバーブトランスへストレスがかかりにくいように
予防措置を施しておきました。
Fig5. の作業の結果、リバーブは鳴り出しました。リバーブ回路で発生する発振も出ていません。
検査の結果、リバーブ・ドライバー回路と真空管、リバーブ・パン、リバーブ・ケーブルも正常でした。
リバーブミキサー真空管 12AX7 ( V4 ポジション) も正常です。
ということはリバーブミキサー回路そのものの不良です。
リバーブミキサー回路は真空管の他に抵抗 x6, コンデンサー x4 の部品で構成されています。
これらのどれかが決定的に断線やショートを起こしているのではありません。
まがりなりにも薄っすらとリバーブがかかっているからです。
これら複数の部品の劣化が足し算となって、リバーブ音を弱くしています。
この場合は、リバーブミキサー回路のオーバーホールで直ります。 Fig.6.
Fig6.の作業の結果、リバーブの効きが戻りました。
ここまで、5つの症状と原因について解説してきました。
いくつかあるリバーブの不具合の原因を絞込むための方法をご紹介いたしました。
もっと多くの事例が存在します。時間とスペースの関係で掲載しきれていません。
ひとつの症状から「はい、これはこの部品が悪い」と決め付けてかかると、間違った結果になります。
その場はひとまず正常に戻ったかに見えて実は取り除かれずに残された真の原因が、
着々と新しい部品を壊していることがあります。
聴いたり見たりできる「症状」という情報は限られています。その症状の出る原因はさまざまです。
真の原因を取り除かず、その場しのぎの対策を実施すると、近い将来に必ず不具合が発生します。
真の原因を探求するのが PD ( Problem Determination ) です。
あるときは刑事さんの物的証拠集めや聴きこみに似ていたり、
あるときはお医者さんの医療検査や問診に似ていたりします。
ギターを弾いていて、ギターアンプの不具合に出くわされた場合、短絡的に決め付けるのではなく、
多角的な広い視野をおもちになって、真の原因を見極めてください。
修理にお出しになるときには、それまでの原因追求の経過と症状について
情報をたくさんいただけると早く正確になおすことができます。