かまいたちの夜

メーカースパイク・チュンソフト
ハードSFC,PS,GBA,PSアーカイブス,iOS,Android
ジャンルサウンドノベル
備考iOS版はVoiceOverによるゲームプレイが可能

はじめに

雪山のペンションで起こる連続殺人事件に巻き込まれた主人公とその恋人。待ち受ける恐ろしい運命を回避し、彼らは無事の生還を果たせるのか。それこそがプレイヤーの選択にかかっている。
そんな内容の初代かまいたちの夜がスーパーファミコンで発売されたのが1994年。当時フルプライスのノベルゲームだった本作。そのボリュームをほぼ失うことなく、グラフィックを全て再撮影、BGMやSEを新録しiOSアプリとしてリメイクされました。
ここまでならよくあるスマートフォン移植物語なのですが、今回のリメイクには素晴らしき特筆事項がございました。
即ちiOSの標準音声読み上げシステムであるVoiceOverで全てプレイが可能なシステムで発売されていたのです。
全く視力を用いずに本作を楽しめるようになったこの出来事、その驚きは比類無いものでした。

サウンドノベルとは

サウンドノベルとは絵と音と文章を楽しみながら途中登場する選択肢を選び様々に分岐する物語を楽しむゲームです。
ここでサウンドノベルの歴史を少々。92年、弟切草。こちらがチュンソフトが初めて発売したサウンドノベルです。
弟切草でのゲームとしての枷となる選択肢の使われ方は、あみだくじのように複数併走する物語の間を移動する手段でした。つまりいくつかある筋書きをうまく切り替えながら目的の物語を目刺しエンディングへ至る流れなので必ず最後にはスタッフロールが流れる、バッドエンドの存在しない、いい意味でお化け屋敷な雰囲気のタイトルだったのです。
一転、次作のかまいたちの夜(94年)では、件の選択肢は本格的に「主人公の意志を反映する手段」として働き始めます。
特に最初に遊ぶことになる、殺人事件を取り扱ったミステリー編。犯人を突き止められなければ徐々にそして確実に状況が悪化していく流れなので、その悪化を阻止し打開する目的が明確となり、その構造から本作が「ゲーム」として発売された意味の大きさをあらためて感じます。
近年のアドベンチャーゲームには、選択肢の意義がルートを確定させるための手段としてのみ存在するケースが少なくないよう思われます。だので筋道が確定すればプレイヤーの介入できる余地無しといったDVDのチャプターセレクトのような選択肢は本作にあってごく僅か、エンディングを3つ以上見ると現れる根底設定から全く異なる追加シナリオ数種へ入るための分岐、それ以外はどれもこれも全く主人公の意志の反映を目的に選ぶものばかりです。
その結果、物語を2周3周すすめるうちに増えてくる分岐を選ぶ楽しみは、「前に見ていない展開を楽しむ」ことに集約され、自然プレイヤーの興味をそちらへ引きつけて止まないのです。
中でも珠玉なのがミステリー編午前4時以後、この状況が大変悪化した場面にあって、それでもなお相応の冷静さを有した登場人物達の行動から感じられるリアリティ。人間そう簡単に錯乱したり発狂したりしない、そうした何とはなくても共感できる部分を丁寧に描けばこそ、その堤防が決壊した後の状態に真実味が生まれている案配が素敵です。
どうしようもないBADエンドであってもその文章の端々に、真実へと考えを進める、プレイヤーが推理するための材料を程よく含めながら書いてあるテキストには心から頭の下がる思いがしました。
どれほど絶望的な状況でも、それを次のプレイに生かせる構造となっている、即ち「次こそは!」と思えるゲームデザインになっている。
あらためて本作がゲームソフトとして素晴らしい完成度を有し作られていたことが思われます。
いよいよ犯人がわかって、ならばそれをどう告発するのか。そこを考えることでようやくエンディングへ至る道が明らかになるのは、そのクリアについて「ここまできた」達成感を強く味わえる要素、こちらも素晴らしい点です。
このように「次はあそこであれを選び」と試行錯誤しながら未開の展開を楽しみつつ真実を摸索する。そうしながら遊ぶゲームが本作であります。

iOS版での変更点いろいろ

筆者が遊んだのは、初代スーパーファミコン版とプレイステーション移植版。PS版については金のしおりまで到達、ラストのドラマCD風シナリオも体験した状態です。
その知識から、まずこのiOS版にて変化した点を記します。
1.音楽がリメイクされ原曲の味を深める良アレンジの数々
2.全ての写真を再撮影。(今回の食堂ではお料理の写真があります。
3.iPhoneでは振動演出に対応
4.VoiceOverで、即ち視力を全く用いず本編を楽しめる。
特に4番。本作が20年以上過去の作品である事実を理由とした古さは全く感じられず、一切の思い出補正を廃しプレイをしてもテンポ良い文章、それでいてカメラの「チーズ」への彼独特の感想をはじめとするモノローグの面白さ、殆どの分岐が主人公の「判断」であるプレイ感の確かさから考えると、あらためてただ分岐する物語だっただけで本作が名作として知られているわけではなかったと認識できました。
そんな名作が視力を用いず遊べるようになったことでより多くの人々のプレイ可能なところとなった。20年来のファンとしてこんなにうれしいことはありません。

さて、リメイクにあたって、あるいはスマホへの移植の関係から原作より多少オミットされた演出や要素があるのも確かですので次はそちらを記します。
1.インタラクティブ性の低下
 (最もコンシューマ版と変わった点がこちらで、Aボタンで次のメッセージが表示された他機種版では、その「ボタンを押す」動作に呼応しての効果音の発生が大変効果的な演出となっていました。
(鳩時計が7時を告げた と文があればちゃんとその音が鳴るなど) しかしiOS版は、「ページをめくるタイミング」でしか画像も音も流れない仕様となっている関係でそうした細かい演出ギミックが大幅にオミットされ臨場感がどうしても減じています。
本作がはじめてかまいたちの夜に触れる、かつ小説のように楽しむケースではきっと違和感はないものと思われます)
2. 94年当時の設定を現代風に改変した部分が見受けられたことによる少々の違和。
 (主人公カップルが学生から会社員になっていた(飲酒描写への対応と思われます)、啓子ちゃんがFF11プレイヤーになっていた、写真撮影を頼まれて渡されたのがカメラでなくスマホなど、香山さんの台詞の端々他。)
3.「Oの喜劇編」でのカラオケシーンがまるまる削除
 (楽曲に合わせて歌詞を表示する難しさがあったよう思われます。が、例えばスタッフロールのUIを応用し曲のフレーズに合わせて歌詞がスクロールしてくる動作もきっと不可能ではなかったのかもと思うにつけ、もったいない、残念に感じられる点です。)
4.ゲーム内ゲームのシーンでプレイするのが「スマホ」となっていた点。
 原作ではスーパーファミコン、プレイステーションとなっていたのですが、今回はスマートフォンの登場となりました。
 言うまでもなくスマートフォンとは殆どの場合「私物」ですから、それを即座に公共物としてさわりだす描写に少しの違和感がありました。あれが例えば「タブレット」だったら幾分か描写の違和感が少なかったように思われます。
5.隠しメッセージの内容が殆ど変化無し。
 4*8やシ*ン4,5、忌**草への言及があったらとても嬉しかったです。
6.宝探し編のグッドエンドBGMが変わっていた。
 (一種シュールでもありながら印象的でもあったあの曲からあの曲へのあの流れが消えたのは、私的にとてももったいないことと感じられました)

さて、いかがでしたでしょうか。
しかしながら、これら些末事を超え厳然と存在する本作の魅力は、全く当時と比較し揺るがないのだなと改めて遊んで感じています。
それは先程の選択肢が担っているゲーム性にもよるのですが、我孫子竹丸氏の平易なのに情報量の多い文章から出てくる魅力と親しみやすさ。
こんなに読みやすく気持ちの良い小節の展開を自分で制御できる楽しさ。これをVoiceOverでより多くの方に味わっていただける状況になった。
この雑感からひとりでも多くの方に本作をプレイいただく切っ掛けとなれましたら大変嬉しく思います。
そして、プレイを終えられた暁にはぜひリアルシュプール「ペンション クヌルプ」へも泊まりに行ってみてください。お料理、本当に美味しいですよ。ミシシッピーマッドケーキもありまして本当に濃厚なチョコレートでした。

これからはじめるかまいたちの夜

まずは一般論から。PSアーカイブス版をおすすめいたします。
PS3,PSP,PSVita,VitaTVでプレイでき、PSP,PSVita,VitaTVでは高速読込モードが使えるので特にVitaシリーズでは殆どSFCと遜色ない反応速度でプレイできます。
加えて好きなシーンへ飛べるフローチャート機能、エンディングリスト、金のしおりの追加シナリオクリア後に現れるドラマCD。
トータルでの完成度、大画面でも携帯機でもプレイできる、バイブレーション対応。そして弟切草と街の予告編収録。以上により、PSアーカイブス版をおすすめいたします。

次にゲーム機を現在未所持で手持ちの環境でどんな雰囲気のゲームなのかを体験されたい、あるいは視覚障害をお持ちで独力でプレイされたい場合はiOS版をおすすめいたします。
特に視覚障害をお持ちの場合は、以下にプレイ方法をご案内させていただきますのでぜひご参考下さい。
こうして様々なハードでプレイできるようになってきている、この流れがこれからも広がっていくことを祈念いたしております。
  それでは、本日はこのあたりにて。

視覚補助情報

iOS版についてご説明いたします。

iOS版+VoiceOverでの基本操作

1.指2本を上へフリック
=画面内文章の全文読み
2.ダブルタップ
=選択肢の決定
3.指1本をダブルタップ後長押し、SEが鳴ってから上フリック
=次の頁へ進む
 *これが無理だった場合は指3本での上フリックでページを下端までスクロールしてから奔操作を行うと突破可能
4.指1本をダブルタップ後長押し、SEが鳴ってから下フリック
=前のページへ戻る
 *これが無理だった場合は指3本での下フリックでページを上端までスクロールしてから奔操作を行うと突破可能

セーブとロード

オートセーブです。
アプリを再開すると、最近プレイしていた場合は直ぐに直前のプレイから再開されます。
タイトル画面が現れたら「つづきから」を選び最も上のセーブデータ(自動保存されているもの)を開くと再開可能。

オーディオダッキングをOnにする

VoiceOverの読み上げ時に他の音が小さくなる動作を止めることで、より原作に近い状態でプレイできます。
やりかたは次の通り。
1.設定の一般のアクセシビリティのVoiceOverから「ローター」の設定を開き、「オーディオダッキング」を選択可能にする。
2.ローター洗濯操作(指1本を画面に固定してもう1本の指で設定したい項目を切り替える)から「オーディオダッキング」を選び、選んだら指1本を上下フリック。これでOnにすると音が自動で小さくなる動作が止まります。
この状態でアプリ側のBGM,SE設定を適切にすれば、とてもいい状態で遊べるようになります。
これは善し悪しではなく好みにもよるところと思いますので、どんなものなのかな?かな?と試していただけたら嬉しいです。

本作の分岐選択の仕様について

何れかのエンディングへ到達すると、その題名が表示された後画面下部へ「最初のページへ」のボタンが表示されます。
重要なのはここで、このボタンを押してから再度最初から読み進めて別のエンディングへ到達しないと、新しいエンドを見た判定が行われません。
(つまり、本作にはシステムデータがなく、セーブデータ毎にエンディングへの到達状況を個別に記録してある仕様なのです)
基本はセーブせずにすすめ、エンディングへ到達したらその画面から最初へ戻り、再度別の物語を目指す。具体的なプレイの流れはこうした順序になります。
即ち、「ある分岐でセーブ > Aを選びあるエンドへ到達 > 先程の手動セーブを利用してその選択肢へもどりBを選択 > 別のエンディングを見る」。これを行ってもエンディングを2つ見た扱いにはならない仕組みなことに、少々の注意が必要です。
かならず最初から初めて各々のエンドへ到達する必要があり、中途の選択肢で生じる様々な変化を楽しみながら、エンディングを順に見ていく遊び方が最もスムーズなよう思われます。

次に、特定のシーンへと進めると、犯人の名前を手動で入力する場面になります。
ここもiOS標準のキーボードが現れて、VoiceOverで操作可能。また、漢字にせずひらがなのままでも受け付けてくれます(原作準拠)
以上、ご参考いただけましたら幸いです。


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