279.恋心





「好き」という言葉を使わんようになったんは、いつからやろ?

「嫌い」という言葉を使えんようになったんは、いつからかなぁ?





「好き」なんて、いっぱい使うてる。使いすぎなくらい。

お父ちゃん大好き、お母ちゃんとオバチャン大好き、オッチャンも好きやよ。
蘭ちゃんが好き、蘭ちゃんとこのオッチャンも好き、コナンくんも好きやし、園子ちゃんも好き。
友達が好き、府警の皆が好き、学校も好き、合気道も剣道も好きやし、服もポニテも、めっちゃ好き。
いっちょまえに将来に不安もあるけど、いまの時代の大阪を生きてるのが好き。

好きなひとがいすぎて、好きなモンがありすぎて、ぜんぶ言えいわれても、それはムリ。

嫌いなモンは...あんま言いたくないけど、アレがイヤ。アレ。分かるやろ?
あの黒光りしたんにウョーンて触覚が動いてるヤツ。セカセカ進む、動きが不明な、アレ。も、飛んだりされたら気絶しそうや。
平次にメールでSOS送ったこともあるもん。
内容がまぎらわしいて怒られたけど(アレの名を字で打つんのも、それが電波になんのもイヤやってんもん)、すぐに来てくれたから感謝。

でもな、仕留めて片づけるとき。
素手で掴むんはどうかと思うで。
「オトコらしやないか」て。
その発想、ヤメて!
デリカシーなさすぎ、ホンマ頼むわ。

それってどう思うて話したら、皆、決まって、「エエやん。ついでやし、一緒に住んだら早いンちゃう?」て言われる。


恥ずかし、何を言うかな。
それは、違うやん。
皆がからかうみたいに恋人ちゃうし、当たり前やけど夫婦ちゃうしな。



やって、アタシらは、幼馴染み。
やけど、気持ちは、それ以上。

しかも、最近、知ってもてん。

そう思てるのが、アタシだけやないってコト。
平次も、長い間、そう思てくれてたってコト。


なんで気づいたかって?それは、ナイショ。
アタシの勘違いやとか、そんなんちゃうよ。
情報源は明かされへんのが、探偵の鉄則。
せやけど、証拠はガッチリ掴んでしもた。



素直に嬉しい。ありがとお。やけど、不思議。



あんなに確かめたかった平次の気持ちを知ったというのに。
浮かれるでもなく、誰にも言わず、なーんも変わらず。

アタシは、いつものアタシでいる。

苦しくて、この恋心を投げ出したい時期もあったのに、なんでやろ。
いまはまだ幼馴染みの距離感で、ワクワクドキドキしてたいなんて。



せやから、よけい、ふだん使いすぎな短い言葉であっても。
平次に向かってだけは「好き」言うんも、「嫌い」言うんも、ちょぉコワイ。

もしも。
「好き」言うて冗談に思われたり、「嫌い」言うて本気に取られたら、かなん。
まして。
「めっちゃ好き」やとか「ごっつ嫌い」なんて、うわっ、アカン、めっちゃコワイ!


------ なんてな。


こやって、ひとりで恋心と向き合ってる時間も、「アホやったなぁ、アタシ」て。いつか笑って、振り返ろ。

この恋は、等身大。
ありのまんま、焦らず、背伸びせず、一緒に成長していけばエエんちゃうかなぁと、いまは心から思える。

17年のキラキラを詰めた、まあるい、やらかい、アタシの恋心。
世界にたったふたつしかないお守りのように、ずっと、ずーっと、大切にしていくねん。

アタシのたったひとつの恋やもん。
たったひとりの幼馴染みへ、捧ぐから。
もちょっと先の未来で、照れず、飾らず、この恋心を交換しよな。

それまでは、また、しばらく。



ヨロシク、幼馴染み!





279.恋心/20070815
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