ねえ、はるか。
サヨナラがすべてのはじまりだとしたら。
別れは哀しむべきこと? 喜ぶべきこと?
別れたら。
離れたら。
二度と出会えないのかしら、それ以上の人に。それ以上のモノに。
そんなこと、別れてみなきゃわからないわね。
離れてみなきゃ、わからないわね。
けれど、もしも。失ってから、サヨナラの重さに気づいたら。
自分で、捜せばいいじゃない、もう一度。
もう二度と。
大切な誰かを失わないために。
いっそ永遠に。
自分だけの存在にするために。
ねえ、はるか。お願いね。
もしも...わたしが、いなくなっても。
そのときは見つけてね。
あなたが。
わたしを。
「サヨナラはすべてのはじまり」
「あのね、はるか…」
「ん、なに?…っとゴメン、人込みがうるさくってよく聞こえないんだ」
「ありがとう。それと………サヨナラ」
みちるの声は遠く。
爆発しそうなマフラー音に遮られ、耳に不思議な余韻を残して消えた。
携帯は、疑うことを知らず。ただ素直に言葉を伝え、ツーツーと。
早く切れと言わんばかりに、無神経で、無気力な音を鳴らし出す。
何が起きたのかは分からない、けど。
東京でのコンサートやリサイタル後に、必ず待ち合わせにしていた店に向けて、僕は、駆け出す。
何も考えられない頭では、どこへ行けばいいかなんて分からないのに、この足は止まらなくて。
幾人もの男女に、派手にぶつかり、無様に転げそうになりながら。
携帯のリダイアルボタンを何度も何度も押しては、無感動なアナウンスに先を阻まれ、苛立つ。
そんなはずはないさ。
だって、さっきまで確かに話してたじゃないか。
電波が届かないところになんて居るわけがない。
いや違う、僕を驚かそうとしてるだけかな。
やっぱりちゃんと、迎えにいくべきだったんだ。
途中、交差点もあったっけ。うんざりする、あの長い信号待ち。
早く、早く、行かないと。
みちるは寒がりだから。
身体を彩るだけの薄いドレスに、コートを羽織っただけだろう。
急ぎ出た君が待ちくたびれて、そう、風邪をひいたらいけない。
ひとりで何でも出来るのに、僕がすること、したいことは残しておいてくれる。
豊かで。
以外と、甘えたな君。
「サヨナラ?」
その言葉の意味を、僕は知らない。
なにに使う、言葉なのかも。