[水質]

12.水質変化(2)

(CO2を添加してもペーハーが下がらない)

<COを強制添加すると>

前項でCOの強制添加は必ずしも必要ではない、と書きました。
水草にはいろいろな種類があって、非常に成長の遅い種類などは、総じてさほど大量のCOを必要としないものもあるからです。
また、水道水にもCOは幾分とけ込んでいたり、大気圧下では空気中に含まれるCOが水面からとけ込んでも来ます。
しかしその量はごくわずかです。
ですから頻繁に水換えを行ってCOを補充したり、さほどCOを必要としない種類の水草であれば、生育は可能です。
また、COをかなり必要とする水草でも、水槽水中に全くCOが含まれていないわけではないので、光があれば幾分光合成は可能でしよう。
(この場合は正常な生育や発色が可能かどうかと言うことは考えていません。)
 
そう言った意味から、必ずしも強制添加は必要であるとは限らない、と言う表現をしました。
しかし、COをたくさん欲しがる水草にとっては十分な光合成が行われないことになり、その生育や発色は良好には成りません。
 
自然の川ではその水質において多量のCOが含まれているわけではなく、水道水とさほど変わらないかも知れません。
しかしながら、自然の川では上流より絶えず水が流れCOの溶存量が減ることはなく、常に一定の割合で供給されます。
使っても使っても減らないわけですから、いつもいっぱいあるのと同じ事になります。
しかしながら水槽内という閉鎖された環境では使えば無くなってしまうのです。
 
また、水草水槽を楽しむ上で、COをさほど必要としない水草だけに限られてしまうことや、生育において何か支障があるかも知れない条件を選択すると言うことは非常にもったいないことであります。
ですから水草水槽愛好者の多くの方はCOの強制添加を行い、添加する量などを調整したりして、いろいろな水草の育成に挑戦し生育した良好な水草を、またはその生育する過程を鑑賞することによって、楽しんでいるのです。
 
このような理由によって、水草水槽を楽しむ上でCOの強制添加は不可欠である、と言うように言われるようになったようです。
COの強制添加の方法についてはここでは述べませんがいろいろな方法があります。
経済的な面とその効率から言えば、大型や小型の高圧ボンベを使った添加方法が一般的に成りつつあるようです。
 
話を元に戻して、COを強制添加しますと、前項でも述べましたように水槽内のペーハーはその電離度の違いにより、CO(炭酸ガス)によって支配されるようになります。
炭酸ガスは水槽水のペーハーによって一定の割合で炭酸となり電離しH(水素イオン)とHCO(炭酸水素イオン)になります。
化学式を用いますと

O+CO⇔HCO(炭酸)⇔H+HCO

と言うようになります。
従いまして、炭酸ガスを添加することによってその溶液のペーハーは水素イオンと炭酸水素イオンによって左右されることとなります。
前項でも記述しましたように生物濾過のバクテリアによる硝化作用によって水素イオンが生成されます。
炭酸水素イオンがある間は硝化作用によって生成された水素イオンは炭酸水素イオンを吸収し炭酸ガスに押し戻していきます。
炭酸水素イオン=アルカリ度が減少しますのでその分だけ少しですがペーハーが下がり炭酸水素イオンが死活してしまえば急激にペーハーが下がってしまうことは説明済みです。
要するに何か他の要因で炭酸水素イオンや他のアルカリ物質が存在しない限りはCOを強制添加すればペーハーは低下するのです。
また、添加する量が増えれば増えるだけ炭酸が電離して出来る水素イオンの量も増えますからペーハーも下がりやすくなると言うことになります。
しかし、添加する水槽水のペーハーと水温によって炭酸ガスの電離度が変化しますから水槽水のペーハーが高い水質ではなかなかその効果が期待できませんし、水温が高いとあまり炭酸ガスが溶け込まないと言うことは頭に入れておかなくてはいけないでしよう。

<例外−カルシウム分を含んだ底床>

販売されている多くの大磯砂(フィリッピン砂)には幾分、貝殻のかけらや粉の成分である炭酸カルシウムが含まれています。
前処理として硝酸や塩酸でその炭酸カルシウムを溶かして処理したものであれば何の問題もないのですが、そうでないものには注意が必要です。
粗悪品や異常に安価な物はこの炭酸カルシウムが多分に含まれている可能性が高く問題を引き起こす大きな原因となります。
この炭酸カルシウムは酸に溶けます。
当然水槽水の中には硝化作用によって最終的に蓄積される硝酸が存在します。
また、言い方を変えれば、水素イオンと結合すると言うことになりますから、硝化作用によって生成された水素イオンなどと反応することとなります。
大磯に含まれる炭酸カルシウムは硝酸があると一挙にとけ出すのではなく、その濃度に合わせて徐々に溶けだしていきます。
水草水槽を維持する上で水換えは定期的に行いますから、水槽水が濃い硝酸溶液になることはありません。
良くあってもたかだか10mg(NO)/lぐらいでしょうか・・・。
生体の数が少なく定期的な水換えを怠っていない場合ですとほとんどの場合が5mg(NO)/lまでだと思います。
(ADAパックチェッカーNO試薬使用)
と言うことは、大磯に含まれる炭酸カルシウムもほんのわずかずつ溶けだしていくこととなり、それが微量であった場合では通常の水換えを繰り返しているうちに、その炭酸カルシウムもなくなっていき、水草水槽に適した大磯砂となるのですが、多分に含まれている物ですといつまでたっても総(全)硬度ばかりが上昇してしまうことになります。(硬度とは水中に含まれるカルシウムイオンとマグネシウムイオンの総量です
この炭酸カルシウムが水素イオンと反応する過程を化学式で書きますと

CaCO(炭酸カルシウム)+H(水素イオン)⇔Ca2+(カルシウムイオン)+HCO(炭酸水素イオン)

となります。
この化学式はペーハーが低くなれば=水素イオンが増加すればするほど右へ進んで行くこととなります。
この式を見れば良く分かりますが、炭酸カルシウムが水素イオンと結合することによって炭酸水素イオンが生成されます。
炭酸水素イオン濃度はアルカリ度を示すものですから、この濃度が上昇すればペーハーも上昇することとなります。
しかしながら先にも説明しましたように硝化作用により水素イオンが生成されますから次々に吸収され炭酸ガスとなっていきます。
よって、いくら生物濾過の出来上がった硝化作用を持ってしても、大磯砂に含まれる炭酸カルシウムが無くならない限りペーハーはさほど低下しないこととなってしまうのです。
そして水換えをさぼっていたら硬度ばかりが果てしなく上昇することとなります。
このような原因で良く「水草が溶ける」と言う現象が起こるようです。
 
さて、このような状態の水槽に水草育成のためにCOの量が足りない、と言う理由やペーハーを低下させたい、と言う目的でCOを強制添加したらどうなるでしょうか?
なんだかとても複雑になるような「嫌な予感」がしますよね・・・。
大磯に含まれる炭酸カルシウム(CaCO)は炭酸ガスを添加することによって以下のような反応をします。

CaCO+HO+CO→Ca(HCO(炭酸水素カルシウム)

炭酸ガスを添加することで炭酸水素カルシウムと言う物が生成されます。
強制添加しなくても炭酸ガスは幾分、水槽水にも含まれているので、強制添加すれば、と言う表現は適切でないかも知れませんが、含まれている量から推測いたしますと微量な反応のように思われますのでその様に記述します。
この炭酸水素カルシウムは水に溶けて弱アルカリ性を示しますので、ペーハーを低下させたり水草育成のためを思ってしたことが、全く逆の効果(結果)を引き起こしてしまうこととなります。
このようなことを経験されて挫折してしまわれる方もいらっしゃるかも知れません。
特にこのような炭酸カルシウム分を多量に含んだ大磯砂を用いて、初めて水草水槽をセットした方の場合などは、生物濾過の硝化作用もまだ出来上がっていないわけですから、炭酸ガスを強制添加することによって元水よりもペーハーが上昇してしまうようなことも起こらないとは限りません。
しかも硬度は上昇するばかりで、水草はすぐにだめになるわ、生体は死んでいくわで、踏んだり蹴ったりとなってしまうのでしょう。
しかも使用する水道水のペーハーが弱アルカリ性の地域の方にとってはどうすることもできなくなってしまいます。
このようなことが、「水草水槽を始めるに当たっては、その一番始めが最も困難である」と言われるゆえんかも知れません。
 
このような場合にはその問題の原因は炭酸カルシウムを含む大磯砂によるものなのですから、その問題を解決してやれば対処できます。
硝酸や塩酸で前処理をしたものに取り替えれば手っ取り早くすみます。
また、土系やセラミック系の床に変更するのも同じ事です。
しかし、せっかく購入したその大磯砂を利用するのならば、じっくりと時間をかけて炭酸カルシウム分が抜けきるのを待つしかありません。
これは、頻繁な水換えによってその溶けだしたカルシウム分を取り省いて行くしかないのです。
(またはご自分で硝酸や塩酸、酢酸を使用して酸処理を行う方法もあります)
また、ペーハーの低い水によって水換えを行うことも有効です。
水道水のペーハーが高い方は水換えをするにしても、ピートを使ってペーハーを弱酸性にするなどの前処理をして水換えをしなくては成らないと言うことになります。(ピート処理の方法などは割愛いたします。)
またその他にもイオン交換樹脂などの処理をして純水を作り水換えをする方法や濾過槽に活性炭やゼオライトと呼ばれる吸着効果のある濾材を用いて対処する方法などもあるようですが、ここで詳しく記述することは割愛いたします。
 
よって、このような場合にはCOの強制添加も控えた方が良いかも知れません。
また、強制添加することによって様々な足し算と引き算が絡み合って結果的に少しでもペーハーを低下させることが出来る場合もあるかも知れません。
しかし、それは実際にその水槽のいろいろな水質データーを見ながら判断して行かなくては成らないことですので、ここで明言することはさけたいと思います。
 
尚付け加えておきますと、水槽内に珊瑚礁や貝殻、はたまた、床に珊瑚砂や貝殻を細かく砕いたような床を用いることは・・・・・・
もうおわかりですよね・・・・・。