[濾過]

20.酸化還元反応濾過

生物濾過が酸化菌による酸化作用によって、アンモニアを硝酸イオンにまで酸化させる過程であるのに対して、この酸化過程を酸化剤(薬品)を用いて行おうというものが酸化還元による化学反応濾過だと思います。
しかし、こういった行為がアクアリウムにおける濾過と呼べるのかどうかと言うこともあり、私が最も認めたくない方法なのです。
個人的な意見を言わせて頂ければ、私の中では「言語道断、絶対にしてはいけないことだ」、と言うのが素直な見解です。
とあるアクアメーカーより発売されているクリア○ッシュたるものや、水槽に投入後ペーハーが低下するようなものは、この部類に入るものだと思います。
まずは酸化剤について少し解説していきたいと思います。
 
酸化反応と還元反応については以前に少しふれたと思いますが、酸化剤の働きも還元される物質とセットになったものです。
他の物質を酸化する働きのある物質を酸化剤、他の物質を還元する働きのある物質が還元剤です。
酸化剤と還元剤が反応すると、酸化剤は還元され、還元剤は酸化されることになります。
また、言い方を変えれば、水素原子を失う反応を酸化と言い、酸素原子を失う反応を還元とも言います。
さらに、電子を失う反応を酸化、電子を受け取る反応を還元とも言えます。
したがって、酸化還元反応が起こるときには、電子や水素、酸素を受け取る物質があれば、必ず電子や水素、酸素を失う物質があると言うことになります。
よって、酸化剤とは相手を酸化する物質、すなわち自身は電子を得る、水素を得る、酸素を失う物質のことを言い、還元される物質を言います。
逆に還元剤とは、相手を還元する物質、すなわち自身は電子を失う、水素を失う、酸素を得る物質のことを言い、酸化される物質を指します。
 
このように酸化剤を用いて酸化によるアンモニアや亜硝酸の濾過を行おうと言うわけですが、これに使用される物質はアクアリウムにおいて非常に危険な物質であり、容量を間違えるだけで即、生体の命に関わる事態にも成ります。
また、細かい微塵なゴミや浮遊物も凝集して取り省く効果も併せ持ったものもあり、物理濾過の役目をも持たせた物が多いようです。
 
酸化剤として良く用いられる物質にはニクロム酸カリウム過マンガン酸カリウムがあります。
ニクロム酸カリウム(KCr)は赤橙色の結晶で水に溶けやすく水溶液の色も赤橙色に成ります。(クロム酸カリウムは黄色になります。)
ニクロム酸イオンは酸性の水溶液中で非常に強い酸化力を示します。
ニクロム酸や過マンガン酸の分子式からも分かるように、これらは大量の酸素分子を持っています。
生物濾過による酸化バクテリアの働きの代わりに、このような酸化剤が持つ酸素分子の力を借りて有害物質を酸化させようと言うのが目的となります。
 
ニクロム酸は水に入りますと以下のような反応を示します。 
Cr2−(ニクロム酸イオン)+14H(水素イオン)+6e(電子イオン)→2Cr3+(クロムイオン)+7HO(水)
大量の水素イオンを得る代わりに大量の酸素イオンを放出し、自身はクロムイオンとなります。
 
一方、過マンガン酸カリウム(KMnO)は黒紫色の結晶で水に溶けやすく、水溶液は赤紫色になります。
中性からアルカリ性の水溶液に入りますと以下のような反応を示します。
MnO(マンガン酸イオン)+2HO+3e→MnO(酸化マンガン)+4OH(水酸イオン)(酸化マンガンは褐色沈殿します。)
酸化マンガンは水に溶けて過マンガン酸を生じ、水溶液は酸性になります。(Mn+HO→2HMnO
ですから中性からアルカリ性の水溶液に投入したとしても、その水溶液は酸性になってしまいます。
  
酸性の水溶液に入りますと以下のような反応になります。
MnO(マンガン酸イオン)+8H+5e→Mn2+(マンガンイオン)+4H
マンガン酸イオンが赤紫色なのに対してマンガンイオンになればほとんど無色になります。

これらはクロムとマンガンの最高酸化物であり、水に溶けやすい性質を持ち、その水溶液は酸性を示します。
よって、このような酸化剤投入後、ペーハーが酸性に傾いてしまうと言う現象を引き起こします。
 
酸化バクテリアによるアンモニアや亜硝酸の酸化過程は前項で記述しましたが、その酸化バクテリアの代わりに、酸化剤の持つ酸素分子が酸化作用を引き起こします。
マンガン酸イオンを例にとって化学式を用いますと、
NH(アンモニウムイオン)+MnO→Mn+NO(亜硝酸イオン)+2H
と言うような反応でアンモニウムイオンを亜硝酸に酸化させると思われます。(アンモニアは水溶液中で、電離(水素結合)し、アンモニウムイオンと水酸イオンになります。NH+HO→NH+OH
 
また、亜硝酸イオンは
2NO(亜硝酸イオン)+MnO→Mn+2NO(硝酸イオン)+O
と言うような反応式によって硝酸イオンとなるようです。
 
一連のアンモニアが硝酸イオンにまで酸化される過程を記述しますと
NH(アンモニア)+MnO→Mn+NO(硝酸イオン)+HO+H
となるようです。
(専門的な反応式などは、私も考えられませんので、いずれも簡単な反応式で考えてみました。ご了承下さい。)
 
このようなことから市販されている酸化剤を用いたと見られる溶液タイプの「ぴかぴかの水になる」とか「濾過が出来る」などと書かれているようなものがあれば、おそらく(あくまで私の想像の範囲ですが)過マンガン酸カリウムなどを用いたものである可能性が高いのではないか、と思います。
水草水槽では弱酸性の軟水というのが基本となっています。
これらの強烈な酸化剤は、いずれも酸性溶液中で、その酸化力を大いに発揮します。
万が一、投入量を消費するだけのアンモニアや、亜硝酸などがない水槽に投入したとすれば、確実に、しかも急激にペーハーを落としてしまうことは言うまでもなく、しかも、水槽水の中には様々な物質が存在していますから、 どのような物質とどのように反応するのか、酸化させるのかは、全く予想できないことになってしまいます。
ひょっとしたら生体に対して毒性の強い物質を生成しかねるかも知れません。
要するにその酸化剤の使用方法が難しく、かなりの知識や経験のあるベテランの方でない限り、使いこなすことは非常に難しいのです。
 
また、酸化剤にはその酸化力に違いはあれ、多くの種類があります。(過酸化水素や希硝酸、塩素、二酸化硫黄、次亜鉛素酸など)
何一つ成分表示のない添加剤を用いて濾過をしようとすることは、あまりにも無謀と言わざるを得ません。
さらに、なにがしらの凝集剤などが含まれていれば、まさに水槽内での実験に他なりません。
凝集剤はさほどゴミなどの不純物のない水槽水に投入すると、凝集するものが無く水槽内を漂うこととなります。
このような物質が生体のエラなどに付着すればまさに窒息死を促すこととなります。
微塵なゴミなどは水換えを何度か繰り返すうちに必ず無くなってきます。
夏場以外は水槽にふたをしているでしょうから、さほどほこりも入らないでしょう。
このような添加剤を使用しなくても、必ず水はピカピカになります。
これは多くのベテランアクアリストに聞けば必ずそう仰るはずです。
多くの方が結果を焦っているように思えます。ゆっくり行こうではありませんか!それが最も安全なのですから・・・。
 
以上のような理由から、わたしはこのような酸化剤を用いたものを濾過とは呼びたくないのです。
水槽内はビーカーではありません。私達は大切な生体とバクテリア、そして水草を飼育しているのですから・・・。