[濾過]

16.濾過の基本(2)

3.生物濾過

生物濾過とは、第一段階でゴミなどを除去された水槽水をバクテリアの力を借りて浄化しようとする濾過のことです。
以前にも記述しましたが、アクアリウムにおいて水草やお魚を飼育するのと同様に、この生物濾過におけるバクテリアの飼育もセットになっている、と言うことは書きましたよね。
ではどのようなバクテリアがどのような作用をして、水槽水を変化させていくのでしょうか?
 
まず、濾材がある濾過槽において、バクテリアは自然と発生します。
よく見かけるような「バクテリアの元」や「生きたバクテリア」なんて言うものをわざわざ購入してきて、投入し飼育するわけではありません。
お魚が存在する限り自然と発生し繁殖していくものなのです。
このバクテリア=細菌は原生生物で、その中でも生物濾過を行う細菌は最も下等な原核単細胞生物だそうです。
これらの細菌は水槽内の栄養素を取り込むことによってエネルギーを獲得し生命を維持し、増殖のための細胞物質を作り出しています。
エネルギーは水素化合物を酸化することによって得られるようですが、この過程で光エネルギーを利用する物を光合成方式、化学反応で生成する物を化学合成法式と呼びます。 濾過細菌は後者の方になります。
 
生物濾過に使われる細菌=バクテリアには、アンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌があり、ともに化学合成無機酸化独立栄養好気性細菌に属し、ちなみに脱窒素菌は化学合成有機酸化従属栄養通性嫌気性細菌に属すそうです。
このアンモニア酸化菌が呼吸により、アンモニアを酸化し亜硝酸イオンを生成します。
お魚の排出物として生成されるアンモニアは非常に水に溶けやすく、ペーハーが7以下の酸性側ではほとんどがアンモニウムイオン(NH)の形で水槽内に存在します。しかし、水温が上がれば上がるほどその電離度は低下するそうです。
このアンモニア酸化菌の代表格がニトロソモナス属のバクテリアで、その他にも数種類があることが分かっています。
 
亜硝酸酸化菌は亜硝酸イオンを酸化することによって呼吸し硝酸イオンを生成します。
代表となるバクテリアはニトロバクター属であり、その他にもあるようです。
 
アンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌は共生に近い形で繁殖し、結果としてアンモニアを硝酸イオンに変えることから「硝化菌」と呼ばれ、この一連の化学反応による濾過を「硝化作用」と呼びます。
よって、両者のバクテリアはアンモニアと亜硝酸を呼吸基質としているためこれらが存在しないところでは生育できません。
水槽セット時にパイロットフィッシュと称して安価で丈夫な小魚などを投入するのはこのためで、これらのお魚の排出する老廃物やアンモニアが無くては、肝心の生物濾過を担ってくれるバクテリアの繁殖が行われないためです。
また、このように初めて水槽をセットするときに限り、生物濾過を担うバクテリアの発生を早める目的で、市販されているいろいろなバクテリア関係の商品はある程度有効であるといえますが、それ以後は全く必要がないことはおわかり頂けると思います。
 
どちらのバクテリアも繁殖速度が遅く、一般的なバクテリアが数時間で倍増する繁殖スピードなのに対して、アンモニア酸化菌は最短で24時間以上、亜硝酸酸化菌の場合は最短で48時間以上と言われているようです。
よって、硝化菌全体では平均倍加時間が2〜3日かかることとなり、このことが、水槽セットアップ時の一番の難関であったり、濾材のメンテナンスなどにおいて、細心の注意が必要なこととなり、濾材の取り替えにおいても、一気に全部を取り替えないようにしなくては成らない理由です。
また、濾材を水道水などで洗浄してしまうと、水道水に含まれる残留塩素によって、これらのバクテリアが死滅してしまう様な事態も起こるわけで、増殖スピードの遅さは頭にたたき込んでおかなくては成らないでしょう。
 
また、予想しない事態によってこのようなことが起こったと考えられるときは、新たに生物濾過を行ってくれるバクテリアの発生を待たなくては成りませんから、しばらく餌を与えずアンモニア濃度をチェックして、水換えによってその水質の浄化を行うか、急場しのぎに活性炭などの吸着濾過を(詳しくは後述します)追加するなどの処置を行わなくてはなりません。
活性炭などの吸着効果のある濾材を一時的に水槽内の水流が当たる場所につり下げたりして使用しても良いでしょう。
このような場合には先述したバクテリア関係の商品の投入も効果的になります。
しかし、一概にバクテリアと言ってもその種類は数え切れないほどあります。
我が家の水槽には我が家の水槽に一番適したバクテリアが繁殖します。それが自然な事です。
「生バクテリア」や「生きたバクテリア」と称して販売されている商品をよく目にしますが、どのような種類のバクテリアか良く分からないのが現状で、(中には色が付いている水だけじゃないのか?と言われている物もあるようで)出来る限りその様な物を複数使用することは好ましくないことであることは言うまでもありません。
 
アンモニア酸化菌(ニトロソモナス属)がアンモニアを亜硝酸イオンに酸化していく過程を化学反応式にしますと、

NH(アンモニア)+(3/2)O(酸素)⇒NO2(亜硝酸イオン)+HO+H(水素イオン)

となります。
この反応の中で水素イオンが生成されるために水槽水の水素イオン濃度が高まり、ペーハーが低下することとなるのです。
このようなペーハーの低下は総じて硝化作用によるペーハーの低下と呼ばれています。
 
亜硝酸酸化菌が亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化させる過程を化学反応式にしますと

1式 NO(亜硝酸イオン)+HO(水)⇒NO(硝酸イオン)+2H(水素イオン)+2e(電子イオン)

2式 2H(水素)+2e(電子イオン)+(1/2)O(酸素)⇒HO 

となります。
これらの式をまとめて結果だけを示した化学反応式は

NO(亜硝酸イオン)+(1/2)O(酸素)⇒NO(硝酸イオン)です。

ですから、亜硝酸酸化菌による反応では水素イオンが生成されて取り残されることはなく、硝化作用におけるペーハーの低下はアンモニア酸化菌による硝化作用によってのみ生成されます。
 
以上のようなことから生物濾過での硝化作用における、アンモニアが硝酸イオンにまで酸化される総合的な反応式は

NH(アンモニア)+2O(酸素)⇒NO(硝酸イオン)+HO(水)+H(水素イオン)

となるのです。

<脱窒素(還元)濾過>

アンモニア酸化菌や亜硝酸酸化菌が呼吸によりアンモニアや亜硝酸を酸化して硝酸イオンにしていく過程がいわゆる酸化濾過であるに対して、脱窒素菌によって硝酸イオンを窒素ガスに変えてしまおうというのが脱窒素(還元)濾過です。
これについては項を改めて詳しく記述しますが、ここでは簡単に説明します。
 
酸素と化合して酸化物になる反応を酸化と呼び、酸化物が酸素を失う反応を還元と言います。
言い変えれば、水素を失う反応を酸化、水素と化合する反応が還元となります。
酸化されると還元するは1つの反応の表現が違うだけで、物質が電子を失うときにその物質は酸化されたと言い、電子を受け取るときには還元されたと言います。
 
この濾過システムは今まで水槽内に蓄積されるだけであった硝酸イオンを脱窒素菌の働きによって全く無害な窒素ガスにまで変化させ、水槽内より排出しようとする濾過システムのことです。
水草水槽ではあまり話題になりませんが、ディスカス水槽のようにディスカスの排出する大量のアンモニアによってもたらされる硝酸イオンの蓄積はディスカス愛好者にとっては頻繁な水換えを強要される最大の問題であり、その様な方々の間では数年来この濾過システムは注目を浴びているようです。
もし、水草水槽において、この脱窒素濾過が簡単に行えるようですと、ひょっとすると夢の水換え無しの自然水槽が実現するかも知れません。


以上のように濾過には物理的なゴミを濾し取る役目の物理濾過とバクテリアの力を借りて水を浄化する生物濾過があり、生物濾過には酸化による硝化作用の生物濾過と脱窒素菌による還元濾過があること、さらに吸着効果のある物質を用いて行う化学的濾過があると言うことが分かって頂けたと思います。
現時点で脱窒素菌による還元濾過は必ず必要なものではありませんが、酸化による硝化作用を行う生物濾過までは、なくては成らないものであり、まさに水槽(アクアリウム)の心臓部であります。
この心臓部をどのように維持管理すれば安定した水質が得られるのか?
また、どのような濾材が最適なのか、どのようにセットすればいいのか、またはどのような濾過システムが最良であるのかを、これから考えていきたいと思います。
それがすなわち、水草水槽全体を長きにわたり安定した水質で維持していける手段であると思うからです。