[水質]

8.ペーハー変化の謎。

<なぜペーハーが低下するのか>

ペーハーとは水素イオン濃度のことで、ペーハーが変化するのは水素イオン濃度が変化すると言うことになります。
しかし、これでは「水素イオン濃度が変化するのは水素イオン濃度が変化するから」と言う答えになってしまいます。(なんじゃそらっ!)
では、どのようなメカニズムによって水素イオン濃度が変化するのかを見ていきたいと思います。
 
その前に、水素イオン濃度=ペーハー(pH)と言うものは、例えばその指数が酸性を示すからと言っても、その実体が炭酸なのか硝酸なのか、燐酸なのかその他の混合酸なのかが分からない曖昧指標である、と言うことを前提とします。
故にペーハーというものは水質における溶存成分については何も明らかにしないものだと言うことです。
 
まず純水の場合。
 
少し考えにくいですが、何の成分も含まない純水(HO)での水槽では、そのペーハーを決定する要因は水の水素イオンしかありません。
生体から排出されるアンモニアは出来上がった生物濾過の硝化バクテリアの働きですべて硝酸に転換されます。
例えば、硝化菌は1個(1モル)のアンモニアを吸収すると1個(1モル)の水素イオンを排出します。
当然水素イオン濃度が高まりますのでペーハーが低くなる、と言うことになります。
これだととても簡単でわかりやすいですよね。
要するに生物濾過における硝化バクテリアの働きによって水素イオンが供給されるために水素イオン濃度が高まりペーハーが低下する。
硝化作用によってペーハーが低下した、と言うことです。
 
次に水道水の場合ではどうでしょうか。
 
水道水の場合は純水ではなくいろいろな成分が含まれています。
こうなってくると少し説明がややこしくなるようです。しかしながらあくまでペーハーは水素イオン濃度のことですから水素イオン濃度が変化してペーハーが変わることに他なりません。
 
次にはいる前に少し予習をしましょう。用語説明です。

(窒素)+3H(水素)⇔2NH(アンモニア) 

上記の反応式はアンモニアの生成と分解を表しています。
密閉した容器に窒素と水素を1:3の割合で混合して、500度、600atmと言う条件で保つと40%のアンモニアが生成されます。
上記の式で左から右への反応が起こることになります。また、純粋なアンモニアを同じ条件下でおくと右から左への反応が起こり、やはり40%のアンモニアの分解が起こります。
この反応はどちらの方向へも進行できる反応です。よってこの様な反応を可逆反応と言い両方の反応の速度がほぼ等しくなったことを化学平衡の状態=平衡状態と言います。上記に上げたアンモニアの生成と分解は一定条件下でこの平衡が成り立っていることとなります。これは一定条件で成り立っているもので条件が変わればこの平衡は移動すると言うことになります。
(平衡の移動とは濃度や、温度、圧力などの条件が変化すると平衡が変わって、新しい平衡関係が出来ると言うことです。)
条件を少しずつ変えていけば少しずつアンモニアが生成したり分解したりする度合いが変化していきます。
このように気体になるか液体になるかの状態が停止したような状態のことを、正確には気液平衡といいます。
余談ですが温度が一定の水に砂糖を溶かしたとします。もうこれ以上溶けないと言う状態を溶解平衡と言います。
 
次に、水酸化ナトリウムを水に溶かすとほとんど全部がイオンの形に電離します。
(電離とは水溶液内で炭酸ガスが水素イオンと炭酸水素イオンのようなイオンの形に別れる(解離)事を言います。)
また、アンモニアは水溶液中でもほとんどが分子のままで、電離するものはごくわずかです。
このような水溶液では未電離の分子と電離して生じたイオンとが化学平衡の状態にあると言い、このような化学平衡のことを電離平衡と言います。また、水に溶けて電離平衡の状態になっているときに、溶けている物質に対して電離しているものの割合を電離度と言います。(電離度は1リットルの溶液中の濃度=モルで表すと0≦1に成ります。また%で表すこともあります。)
この電離度の違いで、同じ量の物質を水に溶かしてもその酸性やアルカリ性の強さが変わります。
要するに発生する水素イオンの数が異なると言うことです。
 
次にこの電離平衡には一定の法則(方程式)によって、電離平衡定数たるものが存在します。
言い替えればその濃度に関係なく一定温度ではその電離度は変わらない、と言うことです。
濃い濃度だからと言ってたくさん電離したりしないと言うことです。

水の場合

水は本当にごくわずかですがHとOHに電離しています。この電離平衡はどのような水溶液中においても常になり立ちます。
水の電離平衡に平衡定数の関係を当てはめると水のイオン積(イオン濃度の積)という温度によって決まる定数が出てきます。
これはどのような水溶液内でも変わりません。
水のイオン積は温度が高くなるほど数値が上がり、蒸発して気体となっていくことが分かりますが、おおむね25度を中心とする常温付近では1.0X10−14(mol/l)と言う数字で一定していると考えます。このマイナス14乗の「14」という数字がペーハーを表す水素イオンと水酸イオンの数の合計と言うことになります。よって、水に酸を溶かすと平衡関係が移動して水素イオンが増えペーハーが下がると言うことになります。
 
(以上のようなことは何となく読んだだけで結構です。覚える必要は全くありません。)