[濾過]

28.脱窒素(還元)濾過(3水草水槽に必要か)

果たして、「水草水槽」において脱窒素濾過は必要か?
 
ここで、脱窒素濾過における真意を探ってみたいと思います。
脱窒素濾過において何を目的とするのかは、言わずと、蓄積されるだけの硝酸イオンを窒素ガスにまで還元して除去しようとするものであることです。
しかし、この目的とは別にディスカス愛好家の方達が目的としているものは、先にも少しふれましたが、硝化菌の作用によって生成される水素イオンによるペーハーダウンからの脱出です。
先に記述しました化学式をもう一度見てみますと、6個の硝酸イオンを還元するためには6個の水素イオンが必要となります。
(5CHOH(メタノール)+6NO(硝酸イオン)+6H(水素イオン)⇒5CO+3N↑(窒素ガス)+7HO)
これによって、硝化菌が生成する水素イオンの除去まで可能となるのです。
こうなれば、ディスカス愛好家の方達にとってはまさに、水換えの頻度を下げることとなり、願ったりかなったりのことでしょう。
 
しかし、私達、水草水槽愛好家としてはその目的は最終蓄積物となる硝酸イオンの除去により「水換えをしなくてもすむ水槽」や硝酸イオンが蓄積しないことによって、格段に低い「コケの発生率」を期待することになります。
私達は炭酸ガスを強制添加するぐらいですから、硝化菌が生成する水素イオンによって、日々、ペーハーがダウンするなどと言う悩みはありません。夜間のエアレーションとセットにて考えた場合には、おおむね基準ペーハーのプラスマイナス0.5の間で安定しているはずです。
逆にペーハーを低くしたくて困っている方が多いぐらいです。
では、コケがほとんどでなくて水換えをしなくてすむ水槽というのは、脱窒素濾過を設置することで可能でしょうか?
 
まず、水草水槽において、脱窒素濾過、すなわち硝酸イオンの還元はその処理能力に違いはあれ必ずあるものです。
すなわち、それは「水草」です。
その種類や密植度によって、かなりの処理能力の差はありますが、水草は硝酸イオンの中の窒素を、その栄養素として吸収しています。
さらに、食べ残しの餌や生体からの排出物から供給されるリンを栄養素として利用しています。
水草にとっての三大栄養素である窒素、リン、カリ、の内の窒素とリンはすでに存在していることとなります。
水草への液体栄養素は窒素とリンを含まないものがよい、と言われるのはこのためです。
ですから、葉面からの栄養吸収に優れた水草などを密植したようなレイアウトでは、かなりの処理能力を持つ脱窒素濾過をシステムとして組み込んだのと同じ事となるはずです。
 
次に、硝酸イオンの蓄積は生体からの排出物であるアンモニアを酸化していった最終物質として蓄積されます。
これは、何度も記述していますが、ちゃんとバランスのとれた水槽では、その蓄積のスピードについていくために水換えに追われる、と言うことはありません。
要するに、無理な過密飼育をしない限りは、また、大量の餌を与えすぎていなければ、水換えすらも1〜2週間に1/3程度で十分なのです。
水草水槽で、中、大型魚を飼育しておられる方はほとんどいないわけで、(水草がメインなのか魚がメインなのかの違いはあるでしょうが)一般的には60センチクラスの水槽であれば、小魚を多くても20匹程度とヤマトヌマエビを10匹程度飼育されているぐらいだと思います。
このように十分な遊泳スペースを飼育生体に与え、最小限の餌を与えているような環境では、蓄積されるであろう硝酸イオンのその蓄積度合いも緩やかになります。
さらに、水草による栄養素としての吸収分もありますから、このことによって日々水換えに追われると言うことはあり得ません。
ただし、いくら水草が硝酸イオンの窒素部分を栄養素として利用したとしても、その量がどれぐらいのものなのか見当がつきません。
水草にもいろいろな種類もありますし、その生長度合いも違います。
とてつもなく不安定な脱窒素システムであることにはどうやら間違いはないようです・・・・。
では、やはり、脱窒素濾過は必要なのでしょうか?
 
そうではありません。
脱窒素濾過を採用して、硝化菌が生成する硝酸イオンを全て還元できたとすれば、水槽内に硝酸イオンが無くなってしまうわけで、水草は三大栄養素の中の窒素分を吸収できなくなります。
そりぁー、別途添加すればいいかも知れませんが、その添加量などのコントロールはかなり難しいものになるはずです。
また、窒素とリンを含まない液体栄養素は存在しますが、窒素分だけ、またはリン酸だけの栄養素となると、私は見たことがありません。
 
水草水槽において、硝酸イオンの蓄積はコケの発生を促したり、いろいろと問題のある物質であるのは間違いないのですが、無くては困る物質でもあるのです。
 
しかしながら、現在でも不安定なシステムである脱窒素濾過が確立したシステムとなり、その処理能力にある程度の幅があったにせよ、目安となるようなものが出来てくれば、水草の種類やレイアウトと組み合わせて最小限度の硝酸イオン濃度をキープできるようになれば、夢のナチュラル水槽が完成できるでしょうか?

<伝導率>

みなさんは、伝導率というものをご存じでしょうか?
溶液中にプラスの電極とマイナスの電極を差し込んでその溶液中に存在するイオンの総量を知るために、電気の流れ安さをその物差しにして調べるものです。
溶液中に様々なイオンが存在し、その総量が多ければそれだけ電気が流れやすくなると言うことです。
ちなみに純水であるHOの伝導率は無イオンですから「0」に成ります。
アクアリウムではマイクロジーメンス(μs)と言う単位をよく使用するようですが、秘境の山奥からわき出しているような本当に綺麗な水と言われるような水で50〜70μs、一般的な水道水で150〜300μsなどと言われています。
 
余談ですが、私個人の意見としては伝導率を測定したからといって何が分かるのか?と思っています。
確かに、たくさんのイオンを含んだ水はそれだけ不純物が多いと言うことになり、=汚い水、と言うことになるのでしょうが、その数値を測定したからといって、「水換えをしなくちゃ・・・」と思う程度であって、どのようなイオンがどれだけ存在しているのかは解き明かしてくれるわけではありません。
確かに、定期的に測定して、水換えのペースを知る手がかりや、元水となる水道水の質を知ることは出来ますが、行き着くところイオン交換樹脂やR/O(逆浸透膜)の登場を待つばかりです。
 
アピストの繁殖やワイルドディスカスの飼育が本来の目的であるならば理解もできますが、一般的な水草水槽の愛好者には決して必需品ではないと思います。かなり高価な測定器でもありますし・・・・。
私の個人的な結論としては伝導率はその数値がいくらを示したから、どうこうと言うものではなく、一定期間の測定データーを見て全体の水質の変化のみを知るものであり、その原因を突き詰められるものではない、と言うことになります。

<ナチュラル水槽> 

話を元に戻して、ある程度実績のある、そして安定した効果のある脱窒素システムを組み込めたとして、夢のナチュラル水槽は可能なのでしょうか。
ちょっとおもしろいお話をしますと、実験的にではあるにせよ、脱窒素システムを採用され、効果を出している水槽において、伝導率計で一定期間測定してみると、アンモニアや亜硝酸、そして硝酸イオン、マグネシウムイオンやカルシウムイオンなどの通常存在する水槽水のイオンがほとんどないような水槽でも、時間の経過と共にその伝導率が上昇していく、と言う事態がしばしば起こるらしいです。
どのようなイオンが増えていっているのか、伝導率からは何も分かりませんが、その測定値を見る限りでは、某らのイオンが増えていって、水は汚くなっていくのだそうです。
 
考えてみれば、生体を飼育しているわけですから、当然餌を与えます。これが結構水質を悪くすることは周知のことと思います。
水草水槽ではない場合を考えると、生体から排出されるアンモニアは酸化還元され窒素ガスとなり水槽内より排出されていくでしょうが、食べ残しの餌や排出物に含まれるリン酸分は蓄積されることとなります。
多少は有機物である以上硝化菌の基質となるものもあるでしょうし、少しでも水草があれば栄養素として吸収するでしょう。
また、生体の呼吸によって排出される炭酸ガスも蓄積されることとなるでしょう。
エアレーションをしなければ生体が窒息してしまうような場合もあるようですから、炭酸ガスの消費は望めません。
これを補うために多少の水草を導入したとしてもリン分だけの栄養素では水草もやがて朽ち果ててしまい、次々と葉を落としていき、また某らのイオンの蓄積を生むこととなり、水質を変化させてしまいます。(ちょっと極端な解釈かも知れませんが・・・)
 
これを水草水槽に当てはめたとしても、必要最小限のイオン総量をキープしながら水換え無しに美しい水景と生体を維持管理していくことが可能でしょうか・・・。まず不可能であると思います。
 
当然、水草はその生長に合わせて栄養素を吸収し、生育していきます。
生体にしてもしかりで、生長するにしたがって、排出する炭酸ガスやアンモニア、リン酸などの量も変化するはずです。
脱窒素濾過システムを組み込むことによって、水草の種類やそのレイアウト、そしてその生育度合いに合わせて、さらに、生体に関する要因、底床部を含むバクテリアに関する要因、等々、様々な要因をその時々に合わせてコントロールすることなど脱窒素システムを導入することだけで出来るはずがありません。ひょっとしたらうまくバランスの取れていた環境を崩してしまうかも知れないですね・・・・。
 
水換えには水質を改善するだけでなく、水草にとって新芽の展開や発育を促す良い刺激とも成ります。
水草の種類によってはこまめに水換えする事によって、新陳代謝が活発になり健全な草体になるものもあります。
新しい水を好む、とでも言うのでしょうか。
 
自然の湖や沼では真の意味でナチュラルですが、そのフィールドの大きさから生体の数を考えてもあまりある大きさです。
かたや、水槽では高々100リットル前後の水量に対して、生育する生体の数と水草の量はまさに自然にはない通勤ラッシュのような状態であると言えます。
要するに自然ではなんの変化も与えない生体からの排出物などが水槽環境においては数日間という時間の中において劇的な変化さえも起こしてしまうこととなります。
これがまさに、初心者にとって管理しやすい水槽とは、出来る限り水量の多い大型の水槽が適していると言われるゆえんであって、その水量の多さによって水質を安定させ得る、とされる考え方であると思います。
 
よって、アクアリウムにおけるナチュラル水槽というのは定期的な水換えを行うことによって、限られた空間に存在する生態系を維持しようとするものであると思います。これは水草水槽においても同じ事で、脱窒素濾過を取り入れたから出来るものではないことは確かです。
アクアリウムにおけるナチュラルという意味を「何もしないですむ水槽」と言う考え方は、人間のエゴに他ならないものであって、水換えという人間の手助けがあってこそ、はじめて近づけることの出来る「ナチュラル水槽」であるはずです。
 
ディスカスを始め大型魚を飼育されている方々にとっては、それなりに手助けをしてくれる脱窒素濾過も、水草水槽においては特別な状態を維持する目的以外には必修事項ではないようです。
特別な環境での飼育を維持するために脱窒素濾過を取り入れようとする試みであるならば挑戦する価値は大いにあるでしょう。
また、脱窒素濾過を成功させたディスカス愛好家の方々でも、これで少し水換えの頻度が少なくなるかな?と言う程度でしか位置づけておられないようです。
 
純水=無イオン水ならずも、含まれるイオン総量の極端に低い水質では、確かにコケの発生は抑えられるでしょうが、正常な水草の生育に問題が生じる場合もあり、見るものを圧倒するような水景の完成は、難しいものであるように思います。
 
水草が問題なく生育し、日々、その姿を変えていくような「生きた」水景には必ずコケが発生します。
コケが大量に発生して、水草をだめにしてしまうような富栄養な水質では困りますが、全くコケのでない水質の方がひょっとしたら問題なのかも知れません。