[水質]

9.CO2添加によるペーハー変化

<CO2を添加すればどうしてペーハーが低下するのか>

それでは次に進みます。
水の電離するイオン積指数は先に述べたように14です。ここへ炭酸ガスがとけ込んでくると、炭酸ガスの電離イオン積指数が水の電離するイオン積指数よりも小さい(6.35)ので、水の電離平衡関係の上に炭酸ガスの電離平衡関係が生まれ、それによって大きく左右されることとなります。
要するに水の電離度は低く炭酸ガスの電離度が高いからと言うことになります。
水に溶け込んだ炭酸ガスはわずかな部分が炭酸(HCO)に変わり、電離して水素イオンと炭酸水素イオンを生じます。
炭酸は溶け込む水のペーハーが4以下では分子として存在しますが、それ以上では電離が進みペーハー6.35では溶解した炭酸ガスの半分が電離し、ペーハー8では98%が電離してしまいます。
 
このように水の電離度よりも小さい炭酸ガスの電離度が存在する水溶液では、そのペーハーは炭酸の電離平衡で決まってしまいます。
要するに炭酸ガスが電離して生じる炭酸水素イオンと水素イオンが最も関係してくると言うことになります。
水のフィールドから炭酸のフィールドに場所が変わったと考えればよいかと思います。
余談ですが、ペーハー降下剤の多くはリン酸水溶液のようなもので、これは炭酸よりも電離度が小さく炭酸フィールドにあったものを、リン酸を投入することによって、リン酸フィールドへ持ってきて、ペーハーを支配しようと言うものです。
要するにリン酸の電離平衡関係で支配すると言うことになります。
 
このようになればこの水溶液に存在する水素イオンは水からのものなのか炭酸が電離して生じたものなのかリン酸からなのかは分からなくなります。 (厳密に言えばリン酸がない場合には水はほとんど電離しませんのでほとんどが炭酸ガスが電離したものと考えられます。)
さらに水槽内では硝化バクテリアの作用によっても水素イオンが生じますので、ペーハーの変化を水素イオンだけで判断すれば、その内容は全く明らかに出来ません。
したがって、「炭酸水素イオンが存在する環境では、水槽のペーハーは炭酸の電離平衡によって決まる」という観点から、炭酸水素イオンの変化も合わせて説明しなくてはなりません。水素イオン濃度だけでの説明では誤解を招くおそれがあるからです。

以上のような関係から水槽内に炭酸ガスを添加すると電離平衡関係が炭酸のものに変わってしまいますので、その濃度に関係なく水のペーハーは低下します。
要するにCO+HO→HCO(炭酸) →HCO(炭酸水素イオン)+H(水素イオン)と言う反応が起こり、水素イオンが生成されるからです。
例えば25度、ペーハー7の純水に炭酸ガスを添加しますと水のペーハーはその電離平衡関係の違いから5.6ぐらいになってしまうそうです。
ペーハーが8ならば6.7ぐらいになると言うことです。
逆にペーハーが4ならば炭酸はほとんど電離しませんから、炭酸水素イオン濃度も変化せずペーハーは変わらないと言うことになります。
 
このことを念頭に置いて水槽内でのペーハーの変化を考えますと、元々水道水にはある程度の炭酸水素イオンが含まれています。
そこへ炭酸ガスを添加すると元の水のペーハーによって炭酸が電離して炭酸水素イオンと水素イオンになります。
当然生物濾過の硝化バクテリアの作用によって水素イオンが生じます。ここからは炭酸の電離平衡とは違った反応になります。
生体から排出されるアンモニアは出来上がった生物濾過の硝化バクテリアの働きですべて硝酸に転換されます。
厳密に言えば硝化バクテリアのうちニトロソモナス属が行うアンモニアを亜硝酸に酸化するときに生成されます。
硝化菌は1モルのアンモニアを吸収すると1モルの水素イオンを排出します。
排出された水素イオンは元々水槽内の水にあった、炭酸水素イオンをどんどんと中和していき炭酸ガスに戻していきます。
その炭酸ガスは水草の光合成によって消費され酸素(厳密には空気)を生み出します。
硝化作用によって生じた水素イオンは炭酸水素イオンを吸収するのです。(炭酸の電離によって出来た水素イオンは炭酸の電離平衡によっているため炭酸水素イオンを吸収しません。)

よって、炭酸水素イオンが存在する間はこの濃度が少なくなる分、わずかずつペーハーが低下すると言うことになります。
炭酸水素イオン濃度はアルカリ度を示す指標ですから、これが少しずつ減っていく分低下すると言うことです。
そして、炭酸水素イオンが死活してしまった状態以降ペーハーは急激に低下することとなります。
これが炭酸水素イオン濃度=KHが高いとペーハーはなかなか下がらず、低いとすぐにペーハーを下げる原因です。
同時に水のペーハーが下がればペーハー7の炭酸の電離平衡で成り立っていた関係が移動して、電離していたものが結合し炭酸ガスとなりその濃度を上げることとなります。また、元々の水道水に含まれていた炭酸水素イオンや炭酸が電離して生じた炭酸水素イオンは、硝化バクテリアの生成する水素イオンに吸収されて炭酸ガスになりますので、ここでも水槽内の炭酸ガス濃度を上げることになります。

<まとめ> 

以上のようにいろいろと書いてしまいましたが、私達アクアリストがこのような化学の専門知識を必要とするわけではなく、ただ単に水槽内においては「硝化バクテリアの働きによって水素イオンが生じてペーハーを低下させる。」ただ、炭酸水素イオンがある内は中和されるので穏やかに低下する。と言うように覚えておけばいいことであります。
また、「COを添加すればある程度ペーハーが低下する。」これはとけ込んだ炭酸ガスが、いくらか電離して水素イオンを生じるからである。
ただし、元のペーハーが高ければなかなか低下せず、低ければすぐに低下する。と暗記しておけばいいことだと思います。
我が家の水槽がCOを添加することによってペーハーが低下しやすいのか、そうでないのかは、炭酸水素イオン濃度=KHを測定することで分かります。
 
以上のように、ペーハーが低下するには様々な要因によって水素イオン濃度が変化するためです。