スプーンの使い方になれて、次は箸に取り組みたいと考えても、そこに大きな壁があってなかなか箸に移行できないことはよく経験するものです。箸にはスプーンと違う何かがあるのでしょうか。図をご覧ください。
下の箸は、中指と人差し指と親指の付け根の2点を支点にして、親指の腹で押さえつけて、動かないように固定しています。固定されているので、固定箸というようです。これに対して上の箸は、人差し指と親指で押さえて自由に動くように操作します。これを作用箸というようです。作用箸の代わりにスプーンをおいたらよくわかるのですが(左の図)、掌を上にして親指、人差し指、中指の3本の指でスプーンを持ちます。これを手指回内にぎりといいます。(鉛筆持ち、あるいは簡単に下持ちということも多いようです)
この手指回内握りに慣れて動きが自由にできないと、箸に移行するのは難しくなります。
子どもがよくするのに、スプーンの柄を掌全体で握って持つ持ち方がありますが、これは、箸の持ち方とは全く違うものです。これを手掌回内にぎりといいます。(上持ちということもあるようです)右図のような手掌回内にぎりと箸の持ち方とは全く違うものです。
スプーンの下持ちは指先の操作だけでスプーンを動かし、すくう、口に運ぶなどの細かな動きを作ります。
このような動きに慣れてからでないと、同じような操作の作用箸の動きを作り出すことは難しくなります。つまり、子どもが上図のような手掌回内握りをしている段階から、一足飛びに、箸に移行するのは困難ということになるかと思われます。
箸への移行は、スプーンの下持ちができ、そしてスプーン操作がうまくできるようになることが前提になると思われます。
箸はものをつまむ作用で食べていきますから、2本の箸の先端がそろっている必要があります。子どもによってはそんなことお構いなしに箸を持つこともあるので、なかなかつまめないということにもなりがちです。
改まった席で「いただきます」をしたあと、両方の手で箸を押しいただくようにして持つ人がありますが、これは両方の手で、箸の先端をそろえているのです。その際、固定箸の先端が作用箸よりもほんの少しだけ出るようにした方が、固定箸で食べ物をすくい上げることになり挟みやすくなるという指摘もあります。
よくあるのが、作用箸が動いていっても、固定箸の先端とあわないので、ものをつまめないことです。
この対策として、上の写真のようにペットボトルの弾力を利用して、箸の動きをある方向にだけ、つまり閉じていけば自動的に箸の先端どうしがあうものを作りましたが、これはペットボトルで作ったバネが柔らかすぎてうまくいきませんでした。
それではと、つなぎ目をピンセットに置き換えてみましたが、これも有効ではありませんでした。ピンセットの動きと箸の動きとは全く違うという指摘もあります。
百均で写真のような箸(商品名 おはしがもてた)を見つけました。これは幅広のゴムが、両方の箸の動きを制限し、箸を閉じていけば、先端どうしがそろうようになる構造のものです。しかしゴムの弾力の余裕があるので、うまく操作しないと、ねじれが起こり、先端がそろいにくくなるものです。
これは箸の動きの自然にかなっていて、なかなかのものなので、現在使っている子どもがあります。何よりも、ゴムで緩やかに固定してあるだけなので、いつでも箸を外して洗え、すぐに組み立てられるところがGood です。これを見つけたとき、ペットボトルやピンセットで作ったことが無駄なような気がしました。
スプーンの場合は砂遊びのスコップなどで、遊びながら練習の機会がたくさんありますが、箸の場合は、そんなおもちゃや、遊びは少ないようです。ちなみに百均の箸は、消しゴムがついていて、それをつまむ遊びのおもちゃとして販売されていました。
しかし、学問に王道なし、日常の食事(それも1日に3回あります)でスプーンの下持ちに慣れ、それから箸に移行するのが一番よいようです。
もう一つ、箸の最初は割り箸を使うと食べ物が逃げにくく使いやすいようです。
参考文献
山根 寛、加藤寿宏編 「食べることの障害とアプローチ」(2002) 三輪書店
(ISBN4-89590-166-1 C3047)