すずのクリスマス・イブ

(平成15年12月18日 なでしこの掲示板という掲示板にて掲載!)

この作品は 柊玉三郎・讃岐純子の合作です




 すずは もうかれこれ40分ほどこの寒空の公園に一人で立っていた
 周りで自分と同じように待ち合わせをしていたカップルは
 次々と寄り添うようにジングルベルで賑わう街中へと消えて行く・・・。

 「まったく もぉ〜 何やってんだろう?」
 普段から携帯電話という物を持たないすずは彼と連絡をとることもできずに
 ただ待つしかなかった それでもクリスマス・イブの夜に
 こうして寒空の下で彼を待っている・・・という けな気な自分にちょっと幸せを感じていた
 ふと気が付くと 風に舞って何やら冷たいものが頬にあたっている・・・。
 「・・・んっ? ひょっとして・・・。」
 そう思って上を見上げると 天から白いものがヒラヒラと舞い降りてくる
 「雪だぁ〜」
 今年は暖冬で暖かい日が続いていたが この日は夕方からグッと冷え込んで
 クリスマスに合わせたかのように初雪のイブとなった
 雪は見てる間にどんどんとその数を増やすヒラヒラと降ってくる雪を真上に見上げると
 万華鏡の中を覗くみたいに宇宙のかなたから白い雪が次々と降ってきて ちょっと
 ヒンヤリと顔にかかる
 「なんて素敵なんだろう!」
 すずがそんな思いで天を見上げていた時 突然背後から ひと際背の高い男が
 ニッコリ笑って大きな手で すずの顔にかかった雪を払ってくれた

 「ごめ〜ん 待たせて・・・。」
 直ぐそこまで走ってきたに違いない 至って平静を装っていたが彼の呼吸の乱れは
 容易に感じとれた
 「もぉ〜 おそいよぉ〜 何分待ったと思ってんだっ」
 そう言いながら すずは右手のげん骨を彼の大きな胸板に押し付けると 
 両頬を膨らませながら上目遣いで彼を見上げた しかし 彼の優しい
 笑顔と目が合ったとたん その表情は直ぐに微笑みに変わっていく・・・・。
 微笑ながもすずは・・・。
 「見ろ! 手だってこんなに冷たくなったんだぞ」
 そう言って 冷たく凍えた自分の両手を走って来たため火照って真っ赤になった
 彼の頬に押し当てた
 「ヒェ〜 冷た〜 悪かったよ! その代わりきょうはとびっきり美味しい料理を
 ご馳走するから・・・。」
 そういうと彼は 自分の首に巻いていたマフラーを外し すずの首にそれを優しく巻きつけた
 「さぁ 行こうか」
 そういうと彼は大きな手をすずの肩へまわし そっと自分の傍らへ引き寄せると
 ゆっくりと歩きはじめた いつもならここであれこれとしゃべりかけて来るはずの
 すずが黙って何もしゃべろうとしないので 彼は・・・。
 「どうしたんだよ なんか元気ないじゃないか? 俺が遅れて来たことをまだ怒ってんのか?」
 「そうじゃないの・・・。 ちょっと仕事で嫌なことがあったの・・・。」
 「へぇ〜 おまえでも落ち込むことがあるだ!」
 すずは彼が優しく慰めてくれることを期待していたのに
 期待に反した彼の言葉に少し“ムッ”とした
 「おいおい 怒ったのか?」
 「別に・・・。」
 そう言うと すずは歩みを止めて肩に掛かった彼の腕を振り払うと背中を向けた
 「おい 何ふくれてんだよ!」
 すずは彼の次の言葉を待った しかしそう言ったきり彼の次の言葉は返って
 来なかったので「どうしたんだろう?」と思って振り返った
 すると彼は天を仰いで静かに落ちてくる雪を眺めながら立っていた
 「子供の頃さぁ 嫌なことがあるとこうしてよく天を仰いで降ってくる
 雪を眺めたんだ そうするとなんとなく気持ちが癒されたんだよなぁ〜」
 言われて すずも彼と並んで静かに落ちてくる雪を見上げた!
 見上げた瞬間 すずが・・・。
 「ハハッ ハッ〜クション!!」
 「おまえ ロマンチックな気分ぶち壊しだなぁ〜」
 「フンだっ どーせ私はムードのない女ですよ〜だっ」
 そう言うとすずは また怒って背を向けた すると彼は着ていたコートのボタンを外し
 小柄なすずをそのコートの裏側に包みこむと自分の体の中へと引き寄せた
 予想外の展開に一瞬言葉が出ないすずだったが言いようの無い暖かさに包まれて
 凍っていた自分の心が静かに解けていくのを感じた・・・。
 やがて無言のままニッコリと微笑んで目を合わせた二人はまた ゆっくりと
 歩きはじめるとネオンの街へと消えていった

 雪は止まることなく降り続いた
 真っ暗な宇宙の彼方から
 ヒラヒラと音もたてずに舞い降りて来る雪
 やがてそれは ゆっくりと地上に着地すると
 寄り添うように静かに積み重なっていく・・・
 そして イブの街は真っ白に覆い尽くされた・・・。

                                               〜完〜

 




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