恐怖の月樹山荘

(平成14年6月29日〜7月1日 月樹工房の掲示板にて掲載!)



 
 平成14年6月29日 この日 久しぶりに揃って休暇のとれた こけとすずはドライブを兼ねて
 こけの運転で一泊旅行に出かけた その車中の会話からこのお話は始まる

 「ねぇ こけちゃん! きょう泊まる月樹山荘ってどんな所なの?」
 「これがバンフレットよ」
 「どれどれ!見せて見せて! へぇ〜 ハーブの花壇とかあるんだぁ〜 なんか良さそうな所だね

 ・・・んッ?ちょっと こけちゃん!このパンフレット 平成9年4月って書いてあるよ」
 「エッ!ちょっと見せて!ホントだぁ〜 気がつかなかったよ ・・・でも電話で直接予約
 した訳だし大丈夫だよ」

 そうこうしているうちに
二人の車は山道へと入っていった

 「ねぇ こけちゃん!道 間違ってない?」
 「地図の通り走ってるから間違いないと思うんだけど・・・。」
 「でも あの石碑さっきも見なかった?」
 「そう言えば・・・?」

 二人は車を止めて車外へと出た

 「どうしよう?道に迷ったみたいだよぉ〜」
 「あの人に聞いてみようよ!」
 二人の前に現れたのは白いワンピースを身にまとい 犬を連れた清楚な感じの女性だった
 二人の困っている様子に気づいたのか?女性の方から先に二人に話しかけて来た

 「どうされました?」
 「実は 月樹山荘って所に行きたいのですが道に迷ったみたいで・・・。」
 そう尋ねるこけに対してその女性は・・・。
 「月樹山荘ならそこですよ」

 そう言って二人の後ろを指さした

 「ええっ〜 さっきこんな所に建物あったっけ?すずちゃん気づいてた?」
 「ううん?まったく気づかなかった」
 「実は私その月樹山荘の泊り客でじゅんと言います この子は愛犬のももです」

 かくして物語は始まった この時まだ二人ともこれから起こる奇怪な出来事を知る由もなかった

 「オーナー!お客さんですよ〜」
 「ようこそいらっしゃいました 月樹山荘のオーナーでザリガニと申します」
 「妻のタニシです」
 「こけと申します お世話になります!」
 「すずです よろしくお願いします それにしても凄いアンティークの数々ですね」
 「私が趣味で集めた古時計や蓄音機なんですよ 後でゆっくりとご覧になってください
 お部屋は二階の202号ですのでご案内します」

 ザリガニに案内されて部屋に入った二人は・・・。

 「わぁ〜 こけちゃん見て〜 すごいキレイな眺め!パンフレットに載ってたハーブの花壇が
 見えるよ さっきじゅんさんと出会った所の石碑もここから見えるね」
 「ホントだね 写真撮っておかなくちゃ! ・・・しまった?車の中にカメラを忘れてきちゃった! 
 ちょっと取ってくるね」

 一階へと降りて来たこけは そこでソフトクリームを頬張る一組の男女がいるのに気づく・・・。

 「このソフトクリーム 美味しいのぉ〜」
 「ホントじゃね このアンティークな雰囲気の中で食べるから余計に美味しいのかもしれんね」
 こけは軽く会釈をして車へと向かった しかし こけがカメラを持って戻ってきた時には
 既に二人の姿はそこになかった

 部屋に戻るとすずが・・・。

 「じゅんさん以外にも泊り客の人がいるみたいだよ ほらそこで花壇のハーブを
 眺めている人が・・・。 あれ?いない?ついさっきまで目のパッチリした 女優の
 松下由樹に似た美人の女の人がいたんだけど・・・?」
 「私も今 下で広島なまりの夫婦らしき人を見たよ」
 そうこうしているうちに夕食の時間となり 一階の食堂へと降りて行くこけとすず!
 するとそこには既に じゅんが座っていた
 「さぁ 揃ったことだし戴きましょう!」
 「あのぉ〜 すみません じゅんさん!ほかのみなさんは?」
 疑問に思ったこけがじゅんに そう尋ねると・・・。
 「泊り客は私たち3人だけですよ」
 「えっ!そんなぁ〜 私さっきここでソフトクリームを食べてた御夫婦らしき二人を見ましたよ」
 「私もそこのハーブの花壇のところに女の人がいたのを見ました」
 「きっとお二人とも長距離のドライブでお疲れになってて夢でもご覧になったんじゃないですか?」
 二人は釈然としなかったが とりあえず考えるのは後回しにして とにかく目の前のご馳走を
 楽しむことにした

 楽しい夕食のひと時が終わり オーナーのザリガニから夕刊を受け取り部屋に戻った
 こけとすず・・・。

 「ねぇ こけちゃん! なんかここへ来てから気味の悪いことばかり起こるよね」
 「そー言えば車で道に迷った時から変よね」
 「あれっ?これ何だろう?」
 すずがベットの隙間から一枚のポラロイド写真を見つけた
 「あっ!この人よ 私が昼間見た松下由樹似の人は・・・。」
 「どれどれ!あっ!右に写ってる二人は私が昼間見たソフトクリームの夫婦よ
 一緒に写っているのはオーナーのザリガニさん夫婦よね」
 「でも こけちゃん!この写真 裏に“平成9年6月28日”とあるよ」
 「・・・ということは 5年前の昨日ってこと?」
 「わぁ〜〜!!」
 「どうしたのすずちゃん!」
 「この記事見て!」
 それは二人がさっきザリガニから受け取った夕刊だった そこにはこう書かれてあった
 「6月29日未明 月樹山荘で火災があり 泊まり客で大阪から来ていた女性一人と広島から
 来ていた夫婦 それにオーナー夫婦のあわせて5人が焼死」とあった

 「ねぇ こけちゃん!この記事の死亡者の写真は何処から見てもこのポラロイド写真に写ってる
 5人よね」
 「ホントだ!しかもこの新聞の日付は平成9年の6月29日」
 「・・・ということは 私たちが見た人たちはみんな・・・。
 ねぇ こけちゃん!とにかく ここを出ようよ」
 大慌てで玄関まで来た二人は ももの散歩から帰って来たじゅんと鉢合わせになった
 「じゅんさん 早く私の車に乗って!」
 「どうしたの?ふたりとも顔色を変えて・・・。」
 「訳は後で話すから 早く・・・。」
 こけとすずは半ば強引に じゅんとももを後部座席に押し込むとフルスピードで山荘を後にした 
 そして 事の一部始終をじゅんに説明し終った時 いきなりこけが急ブレーキを踏んだ
 「どうしたの こけちゃん」
 そう尋ねるすずに こけは・・・。
 「私たち もう帰れないかもしれない・・・。」
 そう言いながら こけの指差す方向を見ると そこにはあの石碑が建っていた・・・また元の
 場所に戻っていたのだった 良くみるとその石碑には「月樹山荘火災焼死者慰霊碑」とあった 
 そして次ぎの瞬間 後部座席に座っていたじゅんが愛犬ももに向かって静かにこうつぶやいた
 「よかったね もも! お友だちが二人も出来て・・・。」

                                           〜完〜

 




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