ある青春の1ページの物語である。

夏の終わりの思ひ出(前編)

夏も終わり
昼間の照りつける太陽が焼き尽くした路面を夕立が冷やしていく、俺は今友人に借りた IMPREZAのがっちりした太いハンドルを握っている、しばらくすると雨は上がり 、俺はエヤコンのスイッチを切りウインドウを下げてみる、路面から立ち込める匂いが 、22年前のあの出来事を思い出させる。

そう あの時も夏の終わりにしては暑い日だった、夕方激しく降り出した雨はこやみに なり、ハコスカのウインドウを下げてみる、なんともいえない路面の匂いが立ち込める 。

隣の座席にいる派手な格好をした女は、俺の後ろを走っている、オレンジ色のカリーナ に乗った女好きの男が、奈良公園のバス停で雨宿りしていた、三人の女に声をかけて拾 ってきた女の一人だ、もう一人の女は俺の前を走っているケンメリ2600に乗っている、 この車に乗る男は大阪で父親と車の修理工場をやっている、このスカイライン2600は凄 いパワーを出す、車高を低くしながらも少しヒップアップされた、リヤウイングとオバ ーフェンダーがかなり精悍な感じだ、この車はとにかく早い、真直ぐでは200k/hを超え る化け物だ。俺のハコスカもその男に足回りを改造してもらい、結構気に入っている。

3台の車は阪奈道路を制限速度で走っていた、隣の女は、紫色に青いラメをちりばめた ようなサンダル、下着が透けて見えるような黒いロングスカート、上半身は体に張り付 くような、そのときの俺にはランニングシャツとしか、表現出来ないような形のキラキ ラ光る服を着ていた、おれ車に置いてある、ピコレット(キンモクセイノ)香りも負け るぐらい、かなり強烈な香水の匂いがする、年齢は22、23歳位。

俺が女に聞いた、「あそこで何しとったん」女「あの娘らと大阪のディスコへ踊りに行 こ思うとってんけど、まだ時間も早いし奈良公園でぶらぶらしとたっら雨降ってきて、 バス停で雨宿りしとってんやんか、おにいさんはどっからきたん」「どこでもええやろ 」「なんか音楽かけてよ」俺はローンで買ったばかりの、自慢のカーステレオにテープ を差し込んだ。キャロルの曲が流れる、ボリュームを少し上げる、女が「ビージーズは ないの」「何やそれ、そんなもんあるか、おまえキャロル知らんか、最高やで」「へえ ーそう、けどやっぱりサタディナイトフィーバがええわ」。

また雨が激しく振ってきた、ウインドウを閉める、蒸し暑い「おにいさんエヤコンかけ てよ」俺は壊れたエヤコンのスイッチを入れた、生暖かい風が送風口から出てきた「な にこれ全然涼しくないやん」俺は後ろの座席に置いてあった、うちわを女に渡し「暑苦 しいそのスカートをめくってこれで股ぐらでもあおいどけ」女は少し怒った顔をし黙り 込んでしまった、その顔がチョッと可愛かった。

少し離れて走っていた後ろのカリーナが、いきなり近づいてきてパッシングをする、「 何やあいつもうホテルへ入ろうとおもとんのか」と思った瞬間、右後方で周りの酸素を すべて吸い尽くし、吐き出すような、あの吸気音が聞こえてきた「トレノや」モスグリ ーンのボディー、ボンネットに太い白のラインが入っている、最近この辺でよく見かけ る、先週もケンメリ26を下りのコナーでぶち抜いていった。トレノは俺の車を追い越 し、前を走るケンメリ26の横に並んだ、その後ろにはセリカ1600GT、またその後ろ には、たぶんサバンナ。ケンメリの横に並んだトレノはソレックスを唸らせる、ケンメ リ26はウエーバーを轟かせた、ケンメリ26はバックファイヤーを吐き出し、激しく しくホイールスピンしながら飛び出して行く、同時にトレノも飛び出した、俺もその後 に続いた...

つづく