製品成形

FRP製品は形状、生産数、特性などによって最も合理的な成型法で作りますが
僕が出来る成型法はただ一つ、ハンドレイアップ法です。
ハンドレイアップと言うと原始的でシロウト向け工法のようですが
あらゆるFRP成型法の基本的要点はすべてハンドレイアップ法に含まれています。
人間がペタペタと積層するのですから、製品の良否は作業者の熟練、技能が大きく影響します。
僕が数年の経験から得た製品成形の知識を紹介します。

積層計画

まずはこれです。計画。
使用する繊維の種類、樹脂の種類、寸法、量、などはあらかじめ把握しておく必要があります。
『この面積なら樹脂はこれぐらいかな』これは経験がモノをいいます。
作業場所、温度、湿度、換気、照明、は贅沢を言えば広くて明るくて適温で換気扇付きがベストです。
趣味の範囲ではなかなか大変ですが、なるべく良い環境を整えましょう。
積層作業時間、硬化時間も把握できれば仕事の合間に工作できます(笑)
積層構成、順序、重ね代、予定樹脂量などの手順もしっかり計画しましょう。

離型処理

離型処理とは文字通り型から離すための処理を言います。
当然この作業を怠るとメス型と製品がくっついて離れません。
何十回作業をやっても脱型は緊張ですね。パコっと外れたら気持ちいいです。
万が一くっついてしまった場合は(わずかな一点でも)、製品かメス型、又は双方を破損する事になります。
量産メス型の場合は製品は壊してもいいけど、メス型が壊れると大変です。
まためんどくさいメス型制作のやり直しで、多大な時間、費用がかかります。
ワンオフの場合はメス型を壊して製品を守ります。それでも製品の補修が必要ですけど。
このように生産性、外観仕上がりに大きく影響するので絶対におろそかにはできないのです。
まさに職人技です。

常温成形のハンドレイアップ用にはワックス系、PVA系、があります。
僕は双方併用しています。

ワックス系離型剤の塗り方

メス型表面のゴミ、水分を良く拭き取ってからスポンジにワックスを付けて擦り込みます。
薄く延ばしながら塗り込み、すぐにウエス等で拭き取ります。
ワックスのふき取りは十分に行い、表面がしっとりとした艷になるまで磨きます。
一発目のメス型には3回〜5回繰り返して、良く馴染ませるといいです。
一度馴染んだら製品脱型5回ぐらいは続けてできます。

PVA系離型剤の塗り方

PVAは青色の液状で塗りつけた後、溶剤が蒸発するとフィルム状の薄い膜ができます。
一回脱型毎に塗る必要があります。
化粧用パフに適量付けて、薄く、一方向に均一に塗ります。
厚く塗っても離型性には関係なく、塗り目が出たり、気泡を巻き込んだり、製品表面が悪くなります。
PVA系は水に溶ける性質があるので、製品とメス型の間に水をそそぎ込みながら離型したりもします。

ワックス系とPVA系の併用

まず、ワックス系を塗った後PVA系を塗ります。

ゲルコート塗布

いよいよゲルコートの塗布です。
ゲルコートは製品の表面になります。
美観など製品価値を高めたり、耐候性、耐薬品性を良くするのです。
ですからゲルコート塗布作業は重要でこれを失敗すると、
後の繊維積層作業までもが無駄に終わります。
『別に後からパテで修正すればいいや』なんて考えは最初だけにしておいて下さい。
塗布はスプレーガン又はハケ塗りで行います。
熟練を要します。

スプレーする場合はエアー圧の調整や換気に注意しましょう。
普通の塗装と同じ要領です。型面から30〜40pを保ち、なるべく面に対して直角にガンを持ちます。
吹きつけパターンは丸吹きよりも平吹きの方がムラ無く均一に吹けます。
ゲルコートの粘度が高くて上手く吹けないときは5%を上限にアセトンで希釈します。
作業終了後、ガンはアセトンで確実に清掃しておかないと次に困ります。

僕はめったにスプレーは使わず、ほとんどハケ塗りしています。
ハケは平ハケを使い、メス型の大きさに見合った幅サイズを数種類持っています。
塗り込みは柔らかく丁寧に、PVAの膜を破らない気持ちで塗り込みます。
ハケ目は出ますがなるべく均一に。

割型などの分割線にはわずかな隙間ができてしまいます。その隙間にゲルコートを塗り込み、
ツライチにしておくと製品にはバリが出ますが、ペーパーで擦って仕上げると綺麗になります。
ツライチでない場合は積層用樹脂が隙間に入り込み、バリを削ったときにゲルコート層の下の積層樹脂が出てきて
分割ラインがよく目立ってしまいます。
ゲルコート樹脂と硬化剤の調合はゲル100に対し硬化材1を添加します。
これで20〜30分でゲル化し、その後60〜120分で積層可能になります。 気温、湿度などに大きく影響しますので、添加量を加減する必要がありますが、
これは経験しないとわからないかも。
10°以下の時は硬化促進剤を0.2〜0.6%添加します。

マット類の裁断

ゲルコートの硬化待ちの間にマットを裁断しましょう。
小さな成型品でしたらマットを手でちぎりながら積層できますが、ある程度の大きさになると
型紙を用意して裁断した方が積層作業がスムーズです。
成型品が複雑な形になると一枚物のマットでは積層できなくなりますので
数枚に分けて型紙を作りますが、重ね代や厚みも計算に入れましょう。
裁断にはラシャ鋏やカッターナイフを使いますが、モノがガラスだけに
すぐに切れなくなります。
100円ショップの鋏を使い捨てしてもいいけど、僕は高級鋏を使います。2000円ぐらい。
鋏は時々研いでいつも良く切れるように手入れしておきます。

積層作業

ゲルコートが硬化したらいよいよ積層作業です。
樹脂と硬化材の調合はゲルコートと同じで熟練を要しますが、硬化材の入れ忘れ以外は
ちゃんと固まると思います。
ただ、ゲル化時間の調整となるとやはり熟練が必要です。
いつまで経っても固まらない不安に陥ったり、まだ積層途中なのにゲル化が始まり、
カップの樹脂は異常発熱ですごい煙と刺激臭があたりを包み込むなど、最初は失敗ばかりでした。

ゲルコート面の上にマットを置いてハケやローラーで樹脂を含浸させます。
空気を追い出すようにハケの先で突いたり、ローラーで押し出したり。
ピン角部分はマットが馴染まないので空気が残ってしまいますから、
先に樹脂パテやロービングを詰め込んでからマットを積層します。
ボンネットぐらいの面積ですと1人で1プライ積層に3〜40分ほどかかりますので、
樹脂と硬化材の調合は一気にせずに小分けして行います。
とにかく空気を完全に抜くことが大切です。特に角やきついR部は空気が残りやすいので気を付ける。
上向き積層は特に注意が必要です。

離型

積層が終わって、十分に硬化したらいよいよ離型です。
やたらと『いよいよ』が多いですけど、これは本当にドキドキの瞬間です。
開けてびっくり玉手箱。
ちゃんと離型処理ができていれば離型できるはずです。
分割型まず型をバラします。
製品とメス型の間にパテべらなどをつっこみます。すこしできた隙間に次から次と数枚のへらを入れていきます。
こうして一週すればカポっと抜けます。
やたらとマイナスドライバーをつっこみたい衝動に駆られますが、これはダメです。
製品もメス型もキズだらけになってしまいます。
PVAを使った場合は表面にPVA膜が付着してますので水洗いします。

仕上げ

全体を見て、ゲルコート面にピンホール、欠け等無いか、
歪み、気泡、異物混入は無いか点検して、良ければ仕上げます。 ケガキ線を入れたり、バリや不要な部分を切り落としたり、穴開けをします。
僕はエアーソーで切断しています。サンダーに比べて粉塵、騒音が少ないのです。
エアソーで切断したらベルトサンダーで綺麗に仕上げます。穴開けしたところの繊維のケバケバは
丸棒ヤスリでゴリゴリして仕上げます。

製品製作の基本的な流れです。モノはとある車両のフロントフェンダーです。
マスターは純正フェンダーを叩きだしてパテ成形、ウレタン塗装されたもの。
メス型は本体部は4分割タイプのFRP製。前部ステーは単体のFRP製です。
製品は本体がガラスマット2プライ(部分的に3プライ)ステーは2プライです。
本体とステーは仕上げ後、リベットで組みます。
画像は右左がごっちゃになってます。

メス型の表面を綺麗に拭きます。
ヒビ、欠け、ピンホール、艷、ワックスかす、などチェック。
分割メス型は組み上げます。

延ばしフランジなので端っこをマスキングします。
離型処理をしてます。PVAは塗ったかどうか肉眼でも判らないほどに 薄く塗ります。

これはステーのメス型です。
抜き勾配を無視してますので抜けません。
コの字形なので製品をちょっと曲げながら抜きます。
メス型を作るときは鉄板のステーを曲げて抜きました。

白ゲルを塗りました。

ゲルの硬化待ちの間にガラスマット裁断。

離型した製品。
表面の青いやつがPVA膜です。
水で簡単に落とせます。

完成したフロントフェンダー。



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