「あなたの関節リウマチ治療は遠回りしていませんか?」
ゆたに整形外科クリニック(西宮北口)
油谷 安孝(ゆたに やすたか)大学病院で、長年患者さんを診させていただきますと、実にさまざまな患者さんがおられ、中にはどうしてこのように治療が「遠回り」になってしまったのか、と悔やまれる患者さんもいます。
もちろん主治医の先生は一生懸命に治療されているのですが、少し着眼点がずれたり、疾患に対する知識が不足すれば、大切な所見を見逃してしまい、的確な治療が出来ないのが「関節リウマチ治療」の難しいところです。
この会場に来られている方には、そのようなことがないように、しっかりお話しを聞いて帰っていただきたいと思います。
今日は3つの点についてお話しします。
先ず、「診断と治療の遠回りとは」、次に「手術のタイミングの重要性」、最後に「関節リウマチ治療の落とし穴」です。
まず、「診断と治療の遠回りとは」です。
私が常に感じるのは、何と世の中には、検査データーばかりに集中して診察する先生の多いことかです。
そのような先生に限って、患者さんの関節すら触れないで、データーだけで治療しており、リウマチ医としては、もってのほかと思います。検査結果はあくまでも補助として考えるべきです。
大切なことは、医師が診察の時患者さんからの所見を数多く確認し、その上で検査結果で再確認するという態度が大切です。後で述べますが、検査結果というものは、医師にある先入観があると、そのように読めることがあり、画像診断の所見の読み方も誤ることが多いのです。むしろ、患者さんの疼痛や腫脹などを先ず頭の中に叩き込み、所見と異なる検査所見は、「間違っているのでは」と疑うほど、しっかり患者さんを診察すべきです。
中にはいきなりMRIをとる先生がいます。脊髄疾患などで、先ずはしっかり神経学的な所見を取ってから、必要最小限の検査を選択すべきです。
大学病院時、医学生を教えるとき、例えば「椎間板ヘルニア」は、ベッドサイドで丁寧に診察をすれば、知識さえ十分にあれば、9割は診断がつくものですと考えておりました。より精密な検査を要する患者さんは、さほど多くありません。
片っ端からMRIをとる医師などは、医療費を無駄使いしているとしか考えられません。そのような医師に限って、神経解剖の質問をするとまともな答えが返ってきません。ただ、闇雲に検査をして、それを元に病気を探しているとしか考えられない医師もいます。
「リウマチ診察の基本」は患者さんの関節に触れること。それも見える関節のみ触れるのではなく、服に隠れた関節も、患者さんの話しを良く聞いて診察しなければなりません。
医学生には、「関節を触診しない医師は、関節リウマチを診察する資格はない」と、常に教えておりますが、これは診断上非常に重要なことです。
以前、他院からの患者さんで、リウマチの治療でいろいろな治療薬を用いたものの、検査データーが全く改善しない為、徐々に薬に量も増え、肝機能も悪化を示してきた為、大学病院に来院された方がいました。話を聞くと関節の痛みは以前よりも軽減しているようですが、検査結果が思わしくなく、いろいろと薬が変わってしまったようでした。
くまなく関節を診察してゆきますと、両膝か累々と腫れております。近医で関節穿刺を受けていたようですが、最近は穿刺をしても、「もろもろ」したものが針に詰まってしまい吸引できない為、やむなく薬を入れるのみとなっていたようです。
関節がこれだけ腫れて、かつ内容に壊死物質がたくさん詰まっていれば、関節に良いわけがありません。最近の論文で、関節軟骨の分解したものが関節内に存在すると、それが原因でさらに関節が破壊してゆく結果が出ています。
近畿大学の宗圓助教授の報告にもあるように、早速この患者さんの膝関節を、当クリニックで十分にきれいにしますと、それまで高値であったCRPが陰性となり、その他の検査も正常化しました。
関節リウマチで、関節に水腫が生じることは、多くの先生が知っているのですが、関節の中に壊死組織がたまった場合、検査結果(CRP,血小板等)に悪影響を与えることを知らなくてはなりません。実は、この患者さんは、投薬によって関節痛が軽減し、病気は軽快していたのですが、検査データーを鵜呑みにしたために混乱が生じたのです。薬を変えたり、量を増やしてしまったり、さらに副作用まで引き起こしてしまったのです。
全身の関節を診察すれば、時に足の裏に感染創がある場合もあり、この時もCRPが悪化しますので、丁寧に診察を行うことがいかに重要かが、お解かりいただけると思います。ある患者さんでは、手の指が明らかに腫れているのに、何度もリウマチの検査を行っても反応が出ず、主治医がはたと困って、紹介されてきた患者さんがいました。
確かに、手指は関節リウマチとそっくりの腫れかたをしています。検査結果は関節リウマチとは異なっていましたが、掌を良く診ますと、ごくわずか皮疹がありました。それではと、足の裏を診ると同様の皮疹がありました。
つまり、この患者さんは「掌蹠膿庖症」という皮膚疾患で、それに随伴する関節炎だったのです。多くの医師は、この疾患は知識としては持っていると思いますが、注意して診察しなければ見落とします。皮膚症状がひどいときは一目でわかりますが、皮疹が改善してくると、かなり注意深く診ないと診断が困難です。関節リウマチ以外で、同様な関節炎が発症してくることを知っていれば、診断は容易です。リウマチを診察する医師が常に念頭に置かなければならない他の疾患として、「皮膚疾患に伴う関節炎」、「肝疾患に伴う関節炎」、「消化器疾患に伴う関節炎」、「尿路疾患に伴う関節炎」があります。 要は、主治医が「関節炎」に対して、どれだけの知識と経験を持っているかです。
特に「肝疾患に伴う関節炎」では、リウマチ因子が陽性になることが多く、間違った薬を用いると更に肝臓への負担が増し、症状の悪化につながります。つまり、このあたりは診察するものの責任で、「関節炎」を診察する場合に、常にかなり多くの疾患を念頭に浮かべ、診察しなければなりません。
次に「手術のタイミングの重要性」についてお話しましょう。
大学病院では常に、関節リウマチの患者さんを内科医と整形外科医2人が、1人の患者さんを診察する方針をとっていました。
どうしてそのような事を行うのでしょう。というのは、診察の内容が、外科系、内科系どちらにも偏らないように、「リウマチ医」としての診察が出来るように、との第1歩だったのです。
今までは、整形外科医は、往々にして手術で解決しようとする傾向がありました。また、内科の先生は、薬で何とかしようとする傾向があります。これでは「関節リウマチ治療」に対して、最善の方法を駆使した、患者さんの立場に立った治療は出来ません。
別々の科で診察していたなら、私が内科的な相談が必要になったとき、内科の先生に紹介状を書いて、患者さん自身が内科に行くことになるのです。患者さんにとって、非常に時間の無駄ですし、体の不自由な患者さんにとって辛いことです。
同室に内科の先生がおられたらどうでしょう。 胸部レントゲンで「肺炎」のような影があっても、目の前の先生に相談すれば、直ちに答えが返ってきます。患者さんにとってはすばらしいことです。
このような内容の外来を、私は長年行ってきました。そのおかげで、私たちのリウマチ外来で学んだ先生たちは、幅広い知識を持った「リウマチ医」となり育ってゆきました。
私自身も、ありがたいことに、内科の先生のリウマチの治療のコツを多く学び、現在私のクリニックでリウマチ患者さんを診察するときに、非常に役立っております。そこに更にリハビリテーションと、ソーシャルワーカーが加われば、理想的なリウマチ外来に近づきます。
先ず大切なことは、胸のレントゲン、腎機能、肝機能等、全身管理を的確に行える整形外科医、関節のレントゲンを的確に読み、手術のタイミングを説明できる内科医の存在です。事実、私と一緒に外来を行って来た内科の先生は、必ず手指のレントゲンを患者さんに説明をしていました。すばらしいことです。
外科医としても闇雲に手術をすることは、避けなければなりません。身体にメスを入れることは、医師が許されているというよりも、医師の良心と知識に委ねられていることです。方針決定には細心の注意を払い、手術を行うなら最善の方法で、最小の侵襲でかつ最大限の効果が得られる方法をとらなければなりません。
私の大学病院時代には、膝の人工関節手術は30分程度で終了しました。別に、「時間の短さ」を競い合っているのではなく、同等の手術が出来るなら、早いほうが感染の危険が少なく、出血や組織壊死の程度も軽い為です。早くて荒い手術はもちろんだめですが、早くて美しい手術が出来るように、外科医は常に修練を積むべきです。
患者さんにとって、外科治療を選択し多くの良い点が得られるなら、外科手術を選択すべきです。人工関節は、非常に優れた手術です。特に、膝関節、股関節は安定した結果が得られるようになって来ました。
以前なら、リウマチ患者さんは足が痛くなると外に出られず、歩けなくなると「寝たきり」になってしまいました。食べることも、話すこともしっかり出来るのに、本人にとって非常に辛いことです。
人工関節の出現により、関節が破壊されても、手術する事により再び自分の足で旅行に行き、買い物に行けるのです。これはすばらしいことです。このすばらしい技術を、同じ実施するなら、良いタイミングで行いたいものです。
関節が曲がってしまった後手術を行うと、周辺の靭帯や筋肉が拘縮し、手術の後うまく動かなかったり、神経麻痺が生じたりします。これでは効果半減です。
また、関節の破壊がひどい場合は、人工関節を支える骨がなくなり、骨銀行からの骨を使ったり、いろいろ手の込んだ手術をしなければいけません。このような手術の結果は、おおむね思わしいものでなく、再手術が必要となることが多いようです。
「シンプルな手術」が最も多くの効果を生みます。医師は手術の最良の結果が得られるタイミングを、患者さんに伝えなければいけません。
リウマチ患者さんの頚椎にも常に注意を払わなければなりません。リウマチの患者さんは、第1、第2頚椎間の不安定性が生じます。この変化は生命にかかわることで、私は1年に1度は、必ず頚椎の側面で、屈曲、伸展のレントゲンを撮ります。この部分は呼吸中枢があり、「突然死」の原因になり、注意を払うべきです。単純の側面レントゲンではだめで、必ず「機能撮影」をとらなければなりません。
最後に、「関節リウマチ治療の落とし穴」についてお話します。
先ず人工関節の手術を受けられた方に聞いていただきたいことですが、先ほどお話しましたように、人工関節はすばらしい手技で、人工関節は大切に使っていただければ、非常に長持ちするものです。もちろん人工物ですので、磨り減ってきますが、最も大切なことは、感染に非常に弱いということです。
人の身体には、常に細菌やウイルスが入り込んできますが、その場合にも体の免疫力が排除し、事なきを得ます。しかし、人工関節が入っていますと細菌に対し隠れ蓑になり、薬も到達せず細菌が増殖します。初期なら、関節洗浄で症状が沈静化することもありますが、進行すると人工関節を抜かなければ治らなくなってしまいます。せっかく経過が良好な人工関節を抜いてしまうなんて、大変なことです。
感染の原因として、手術のときにすでに細菌が入ってしまうことも稀にありますが、最近ではそのようなことがないように、クリーンルームで手術を行います。術者も宇宙服のような術衣を着て、空気もフィルターを通し、細菌感染を防ぎます。
手術後早期の時点では、皆さんも感染に対し注意を払いますが、手術後5年10年と時間がたつにつれ、危機感が薄れてゆきます。人工関節が入っていることすら、時に忘れます。
私の男性の患者さんで、人工関節手術後10年経過し、非常に経過が良かったのですが、あるとき前立腺の手術を「経尿道法」で行った数日後、右膝が腫れ膿が出て来ました。しばらくして、反対側にも膿が出、直ちに関節の洗浄を行いましたが炎症が止まらず、検査結果も悪化し、人工関節を抜去し持続洗浄を行いました。幸い炎症が落ち着き、再置換術を行い、現在疼痛なく歩行されております。
もう一人は、人工関節の手術の目的で入院時検査を行い、偶然初期胃がんが見つかった方で、胃がんの手術後行った人工関節の手術も順調で無事退院されました。数年後、胃の再検査で胃カメラを行った直後、膝が腫れてきました。膿が出てきたため、直ちに切開し洗浄しました。この方はこの処置だけで炎症が沈静化し、現在元気に生活されておられます。
人工関節の感染は、直接皮膚に傷がつくのが、原因とは限りません。何かの処置をすれば、必ず細菌は体に入ります。歯科治療でも同様です。ただ、報告では、歯科治療に基づく感染は少ないようです。特に消化器系、胆道系、尿路系の検査を行う場合注意が必要です。アメリカでは、心臓の人工弁を置換した人には、十分注意を払うようです。人工関節を受けた人にも同様の注意が必要と思われます。検査を行う医師にも注意が必要です。
患者さんも、何か検査を行う場合には、担当医に「人工関節の手術」を行った旨を伝えましょう。
「落とし穴」の2つ目は関節の急速な破壊を示す病態です。
「急性破壊性股関節症」という病気があります。この病気は骨の強度が非常に低下し、さらに免疫的な影響で、股関節がみるみる破壊されてゆく病気です。リウマチにもこれと良く似た病態があり、急速に関節が破壊された患者さんがいます。
関節に痛みがあるのに鎮痛剤のみで経過を観察し、あまりにも疼痛がひどいのでレントゲンを撮ると、そのときにはすでに関節が破壊していたということになります。
関節リウマチの関節は骨粗鬆症を合併しており、さらに免疫の影響で急速に関節が破壊することがあり、注意を要します。
もう1点は、やはり骨粗鬆症の為ですが、特に転倒や打撲をしなくても「骨折」を生じることがあります。
ある患者さんは、歩行中疼痛がひどくなり、てっきり人工関節が緩んできたものと思い、レントゲンを撮ってみると、両恥骨、両坐骨の4箇所の骨折が見つかったことがあります。特に転倒はしておらず、骨が弱い為の骨折と考えられます。リウマチ患者さんは、日ごろから骨を丈夫にする治療も必要です。今回は、関節リウマチ治療に関し重要なことをお話しました。
すべて私の経験からお話したわけで、まだまだ患者さんに知っていただきたいことがあるのですが、時間が来てしまいましたので、この辺でお開きにします。 (元大阪市立大学 整形外科助教授)
大学病院で長年リウマチ患者さんを診察していますと、診断と治療に、非常に遠回りされて来院される方も多く見られます。
関節の痛みがひどい、リウマチの症状があるのに何度検査を行ってもリウマチ反応が出ないため診断がつかず、治療の開始も出来ない方。
一方、関節リウマチと診断されて治療を開始しても、検査結果が一向に改善せず、そのためどうしても薬の量が多くなり副作用も出現し、治療が困難になる患者さん。
更に、どのリウマチ薬を用いても検査結果が改善せず、とうとう用いる薬がなくなってしまう患者さんもいます。
関節痛が生じる疾患は関節リウマチのみでなく、それぞれの治療も異なります。これらを単純にリウマチと診断し、誤った治療を漫然と行うことは、むしろ症状の悪化を招きます。
大切なことは、担当医師が関節痛を生じる疾患に関して、どれほど知識を持っているかです。
骨粗鬆症は骨がもろくなる病気ですが、日頃からの骨に対する治療が大切です。骨粗鬆症で症状が最もはっきりするのは、背中の骨が潰れて痛みが出ることです。非常にもろい人は、くしゃみだけで、骨がくずれることも有ります。非常に痛みを伴い、自分でトイレにも行けません。
ひとり暮らしの方では日常生活が非常に困難となります。 痛みがとれるまで約1ヶ月、骨がつくまで約3ヶ月必要ですので、局所安静が必要となります。 やはり、日頃から骨を丈夫にする治療法を行った方が賢明です。
骨を丈夫にする治療法は種々あり、遠慮なく相談してください。