その手足に
ぬくもりを
感じるのだろうか?

 傍らに片膝を上げて座り込んでいる少年に問いかける。
「感じるわけねぇだろ。なんだかんだ言ったって鋼なんだぜ?」
 少年は、きっぱりと答え、そして、右腕を掲げ上げた。

カチャ…

 鋼の重なる音が室内に響く。
 少年は、その掲げた右手を見つめながら、
「物を掴む感覚は、それなりにあるけど……その温かさや冷たさとか、あんま感じない」
 そして、掲げた腕を降ろして、ギュッ…と掌を握り締め、瞳をきつく閉じた。

ガチッ…

 再び、鋼の音が室内に響く。
 動くたびに鋼の擦れ合う音が、空気に振動する。
 それはまるで、見えない傷口から容赦なく流れる血を連想させた。
「でも、あいつは全部分かんねぇんだ……。暑さや寒さや風が通る心地さも何もかも……、」
 名を呼んでみたが、少年まで届かない。
 それが自分達の距離を表しているようで、たまらなくなる。
「全部、オレが奪ってしまった……」
 その見えない距離を詰めようと少年へと手を伸ばしかけるが、途中で止めた。その距離は、少年が自身で乗り越えなければならない壁だからだ。そして、それを乗り越える力をこの少年は持っている。だから、手など差し伸べない。
 差し伸べない代わりに、
「ああ、そうだな。自分をよく分かっているじゃないか」
 言葉で追い詰める。

ギロリ、

 閉じた瞳が開かれ、睨んでくる。
 強く光る金色の瞳。
 その瞳が、全てを語っている。
 何者にも侵す事の出来ないくらいの、揺るがない意思と決意と覚悟――
 だからこそ、危ない橋を渡ってまで構ってやりたくなる。
 いや、「構う」ではなく「一緒に」が正しいのか……。
「あんただけだよ、そんな事言うの」
「同情して喜ぶのなら、いくらでもしてあげるが?」
「けっ、想像しただけで気持ち悪……っ、」
 そう、少年に同情はしない。同調もしない。
 そんな安っぽい感情で少年の抱える問題が解決するなら、いくらでもしよう。
 だが、少年の取った道は、少年が一生抱えなければいけない業だ。それに手を差し伸べる事は出来ないけれど――、
 それでも、少しでも軽く出来るのならば、
 と、いうのは、やはり同情であり、傲慢であるだろうか――?

――カチ、

 鋼の擦れる音。
 その腕を引き寄せ、掌に口唇を――

「――っ! 大佐っ……!」
 掴んだ右手が、素早い動きで離れていった。
「おや? 感じたのかね? さっきは感じないと……」
「感じる、感じないの問題じゃねぇっ! 何、クソ恥ずかしい事してんだっ!!」
「恥ずかしい? 君の口からそんな言葉が出るとは……痛っ、何をする!?」
「うるせぇっ! さっさと出ていきやがれ! このエロ大佐!」
 ぐいぐい、とベッドから追い出そうと足蹴にされる。
「――やれやれ。うるさいのは、どっちだね?」
「――え?」
 一瞬の隙を突いて、少年を懐に引き寄せる。年齢の割に小柄な身体が、すっぽりと腕の中に収まった。
「ちょっ……んっ……、」
 軽く口付けを交わす。
 あたたかな息が、頬をかすめた。
「――少しは落ち着いたかね?」
「……大佐……あんたなぁ……、」
 少年は呆れたように溜め息を零した。
「――なぁ、大佐、」
「何だね?」
「さっき、何も感じないって言っただろ? それ、ウソな」
「え?」
 鋼の腕が、背中に触れてくる。
 ひやりとした感触は、すぐに温かく上昇する。
「……本当は、違うかも知れないけど、そう感じたいだけなのかも知れないけど……ちょっとは感じるんだぜ、」
「鋼の……?」
「あんたのぬくもり……、」


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SEP.11.2005. update


一言>>>
果たして機械鎧に触覚を感知出来るのか、という疑問がふっと浮上したので、書いてみました。
なんか微妙ですね、イロイロと…。
固有名詞を書かなかったのは、こっぱずかしかったから(笑)。



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