「 おはよう！！」
「…無駄に朝から元気だな」

俺の頭に の声がキンキン響く。
二日酔いまでいかないが、それでも 明け方まで飲んでいた。

昨日の夕方、カノンとミロが、ダンボールでビールやワインを携えて帰宮した。
護衛で日本に行っていた時に、グラード財団宛に ワンサカ送られてきたという。
中元とやらで 全くもって 日本人の慣習は理解しがたいが、半年に一度 酒をもらえるのなら 有難い事だ。
未成年の我らが主は、ある程度は一般社員にも配ったようだが それでも 手に余ったようで。
先にギリシアに戻るならと、土産代わりに持てるだけ 持たせたらしい。

入れ替わりでサガが 日本に行っているから、羽を伸ばしまくったその弟が場所を提供し、双児宮で酒盛となった。

「折角いい天気なのに 出かけないの？」

朝、７時。
どこかの蟹のように 日が高くなるまで寝るということはしないが
休日の朝くらい 少しのんびりと ベッドにいてもいいのではないか。

「いい天気の休日に睡眠を貪るのは 贅沢だと思うが」
「えー！出かけようよぅ」

ゆさゆさ。
は、ずかずかと魔羯宮の寝室に入りこんで、その主を揺さぶる。

しかし 揺さぶられた方は、薄手の上掛け布団を 頭の上まで引っ張りあげる。


しっかり自分は 外出用に 水色のノースリーブに
パリッとアイロンの掛かった麻のジャケットを羽織っている。
ミニスカートなら 起き上がる気にもなるが、つまらん 白のパンツスタイルだ。


「行こうよ」
「…そーだな…もう少し寝たらな…」
「今日出かける約束した！」
「…こんなに早い時間だったか？」

そもそも、何の約束だったかと 思いを巡らす。

確か 今日、封切の映画があった。
初日に観たいとか 雑誌を見て騒いでいたような。

「やけに 早起きだと思ったら そういうことか」
「ん？」
「映画館の前で 並ぶ気か？」

人気の映画だ 長蛇の列は覚悟の上か。

「ダイジョーブ！整理券は既にゲットしてるのよ」
「それはそれは…」

自慢気に その券を見せられる。
この紙切れのせいで 俺の安眠は妨害されたのか。
忌々しいと 眠い目で それを見やる。

「お前…！夕方じゃないかよ！！
何処まで遠方の映画館まで行くつもりなんだ」

開演時間は 17:30 と刻印されている。

「そうだけど〜。写真集が出るからさ。売り切れたらヤだもん」

ああ、この映画の俳優のか…。
同時発売で話題性に乗じて売ろうという魂胆か。


「本屋の開店待ちかよ」
「初版本は装丁が違うんだよ〜！」

ドコがいいんだよ、あんな顔の。
そんなに力説する前に 俺の写真のひとつでも飾ってみやがれ。

「整理券とる余裕あるなら そっちも通販で頼めよ」
「送り先、どーしろっていうのよ…」

ぷぅ、と頬を膨らませられても 体はベッドから動かす気にもならん。
ごろんと うつ伏せになり、枕に顔を埋める。

「いこ？」

のし。背中に重力がかかる。

ゆさゆさゆさ。体重かけて、揺さぶられたところで 寝台から出るのは 億劫極まりない。

「阿呆らし…。本屋は、お前一人で行って来い。後から待ち合わせりゃいいだろが」
「ヒドイ！」
「酷いのは どっちだよ…」

何が楽しくて 俺が野郎の写真集の列に並ばにゃならんのだ。


「じゃあ 今日、 私の行きたいところに一緒に来てくれたら、
今度のお休みは シュラの行きたいところに 一緒に行くから、約束するから、ね？」

「ほぅ〜」

「あっ。でも、ヘンなところは駄目よ！」
「例えばドコだよ、ヘンな所って」

む〜。さっきより 更に頬を膨らませたを横目に、サイドテーブルに置いてある時計に目を走らせる。

「今度の休みじゃなくて、今日でもいいだろ？」
「遠くじゃないんだ？」

テレポーテーション使えば、距離は関係ないか〜。
でも乗り物酔いみたいになるんだよねえ〜。
などとは一人で納得している。

今日 初めて上半身を のそりと起こす。

「どっちかというと 遠くにというより 近くに、と言う感じだな」
「なにそれ」

先ほどから 俺に圧し掛かっていたので、膝立ちしていたと 目線が合った。

「先にイクなよ？」

自分でも、ニヤリという表現が似合うだろうという笑みを敷いて、両手を広げる。

麻のジャケットが皺になるなと思ったが、そのまま 彼女を腕に抱きかかえた。
窓から 朝の清清しい光が差し込んでくる。
そんな時間だが、ベッドに引きずり込む。

誰よりも、の近くに いきたいから。

「俺のいきたいとこに いかせて貰う。一緒にイこうぜ？」

約束したよな。
ピンクのルージュが口答えする前に、それを塞いだ。