お前の笑顔があいつに向けられる度に、あいつがお前に優しく微笑みかける度に、どうにかなりそうになる。
俺と同じ顔、同じ姿をした、もう一人の俺。
あいつにだけは絶対に渡したくない。
他の何を奪われようとも、お前だけは決して。
「こんにちは〜!カノンいる?」
の呼び声を聞いて、カノンは双児宮へ出た。
カノンの姿を目に留めたは、明るい笑顔を浮かべて走り寄って来た。
「どうした?」
「はいこれ。サガからのお土産。」
「何だこれは?」
両腕の中にどっさりと渡された書類の束を見て、カノンは眉根を寄せた。
「明日の朝までに片付けろ、だって。」
「・・・・あいつめ、息の根を止めてやる・・・」
「まあまあそう言わないで。私も手伝うからさ。一緒に内職頑張ろうよ、ね?」
笑顔で宥めてくるに折れて、カノンは渋々承諾した。
「・・・取り敢えず上がれ。」
「じゃあ、お邪魔しまーす!」
リビングに上がって暫く後、はキッチンへ向かった。
「カノン、キッチン借りるねー。」
「何をする気だ?」
「ん?お夕飯でも作ろうかなと思って。お腹空いてるでしょ?」
はいそいそと身支度を整えると、冷蔵庫を覗き込んで食材を物色している。
勿論、断る理由などない。
が自分の為に腕を振るってくれるのだから、むしろ大喜びだ。
「済まんな、助かる。」
「いいえー、どういたしまして。サガからも頼まれたしね。」
「・・・・何だと?」
「サガは今日徹夜なんだって。カノン一人じゃ面倒くさがってロクな物食べないだろうし、頼んだ仕事を放っぽって酒でも飲みかねないから、適当に何か作って食わせてやってくれ、だってさ。」
の言葉を聞いた瞬間、カノンの表情が強張った。
― お前はサガに頼まれたから来たのか?
きっとの事だから、サガの頼みを快く引き受けたのだろう。
仲良くそのやりとりをしている二人を想像すると、激しい嫉妬に心が焼け焦げそうになる。
こともあろうに密かに愛するを世話焼きに寄越すとは、余計なお世話を通り越して屈辱さえ感じる。
まるで亭主気取りではないか。
「・・・・サガめ、何様のつもりだ・・・」
「ふふっ、カノンも大変だね。でもサガって弟思いの良い人じゃない。カノンの事気に掛けてるんだよ、きっと。」
は背を向けて鼻歌混じりに料理に取り掛かっている。
無防備にも甲斐甲斐しく立ち振る舞うその姿に、カノンの理性が崩れ去った。
― このままむざむざサガなどに取られて堪るか・・・!
の背後に忍び寄ったカノンは、その背中を抱きすくめた。
「やっ・・・!何してるの!?」
カノンの腕に閉じ込められたは、突然の出来事に激しく狼狽する。
しかしどんなに身を捩ろうが、その固い拘束は解けない。
振り返ってカノンの表情を確認したいが、精一杯首を捻っても視界の隅に僅かに捉えられるだけ。
「カノンてば!ふざけてるの!?」
「ふざけてなどいない。」
「ちょっとやめ・・・んっ!」
不意に唇が塞がれ、の声はそのまま喉の奥へ押し込まれた。
手にしていた野菜が、シンクにゴトンと音を立てて落ちる。
その重い音が合図であったかのように、カノンはを抱きかかえたまま自室へと連れ込んだ。
をベッドに放り上げて、カノンは乱雑にシャツを脱ぎ捨てた。
上半身を露にしたカノンを見て、は彼がこれから何をするつもりなのかを否が応にも思い知らされた。
その表情には冗談の欠片も見当たらない。
カノンは本気で自分を抱こうとしている。
「カノン、何で・・・・」
「お前を俺のものにする。サガなどには渡さん。」
「え・・・・・?」
カノンは呆然とするに覆い被さった。
「やっ・・・!ま、待って!待ってカノ・・・んぅっ!」
まだ足掻くを深いキスで黙らせて、カノンはの服に手を掛けた。
何かに追い立てられるように性急にブラウスのボタンを外す。
女物のブラウスの小さなボタンが、男の荒々しい仕草に負けて一つ二つ弾け飛ぶ。
そんな物には目もくれず、カノンは更にの着衣を乱していった。
あっという間にの肌がカノンの眼前に晒される。
カノンはの首筋に顔を埋めながら、下腹部へと手を伸ばした。
「やっ・・・!駄目っ・・・!!」
花弁にカノンの指先を感じて、の頬に朱が差す。
カノンはショーツの脇から器用に指を滑り込ませて、まだ隠れたままの小さな核を撫で上げた。
「あっ!」
途端にびくりとの身体が震える。
カノンは巧みな指使いで秘所を刺激しながら、強張った身体を解すように首筋や鎖骨に舌を這わせた。
その度にの唇から甘い吐息が漏れる。
「んっ!」
肩から上を這い回っていたカノンの舌は、徐々にその範囲を下方に移していく。
とうとう胸の先端を捕らえられ、の吐息が嬌声に変わり始めた。
「はんっ!あぁっっ・・・・」
胸の頂を転がす舌の感触が、断続的に続く秘所への愛撫から来る快感に益々火を注ぐ。
与えられる刺激に痺れ、次第に蕩けていく。
その瞳がすっかり熱を帯びて潤んでいる事を見取ったカノンは、一息にのショーツを引き下ろした。
「あぁん・・・・!」
次々と溢れ出す蜜を吸い取られ、が身を捩って喘ぐ。
自分が作り出す快感に酔いしれ乱れるの姿に、カノンは激しい興奮を覚えた。
今を抱いているのは、サガではなくこの俺だ。
は俺のものだ。
まるで自己暗示のように心の中で繰り返しながら、カノンは益々を攻め立てた。
すっかり大きさを増した核を指で苛みながら、溢れる蜜を塞き止めるように泉に舌を差し込んで内壁を舌先で舐め上げる。
「ふあぁっ!あぅっ、はっ、カ、ノ・・・・ッ!」
カノンの頭を力の抜けた腕で押さえ込み、はうわ言のようにカノンの名を呼んだ。
カノンは己の名を呼ばれる度に、それに応えるように激しい愛撫を加える。
「ぃやああっ!も、駄目ぇ・・・!はっ、ああぁーーっ!!」
核を強く吸い上げられ、は全身を震わせて絶頂に達した。
カノンはぐったりとしたの姿を満足げに見遣って、唇に付いていた蜜を舐め取った。
自らも一糸纏わぬ姿になった後、カノンは横向けに倒れているをうつ伏せて、背後から一思いに張り詰めた分身を突き立てた。
「あああぁ!!」
カノンを飲み込んだが、その衝撃に耐えきれずあられもない声を上げる。
温かく柔らかく締め付けてくる内部の心地良さに、カノンは深い溜息を零した。
遠慮なく根元まで挿入すると、次の動作に備えての腰をしっかりと両手で固定する。
「いくぞ・・・」
「はっ、あぅっ・・・、んっああっ!!」
奥まで届く力強い律動に、の嬌声がボリュームを増す。
貫かれる度に体中に鈍い痺れが走り、切ない悲鳴がそのリズムに合わせて漏れる。
「あっあっあんっ!ハァッ・・・!はっ、あっ!」
「良いか、?」
「んっ、あんっ!いっ・・・・、ああぁっ!!」
ズン、と音が響きそうな程奥深くを貫かれ、が背を仰け反らせて喘いだ。
今でも十分扇情的だが、まだまだこんなもので満足したくはない。
もっと乱して、もっと感じさせて、そして自分を刻み付けてやりたい。
他の誰にも取られないように。
「もっとだ、もっと俺を感じろ・・・!」
「え・・・?きゃっ!」
低い呟きの後、カノンはの身体を繋がったまま反転させた。
そして仰向けになったの腰を高く持ち上げ、自らの体重でもって強く激しく律動を始める。
「んあうぅっ!!いっ、あっ、はぁっ!あぁっ!」
シーツを握り締めて強すぎる衝撃に耐える。
されるがままに揺さぶられ喘ぐその姿が、内部に咥え込まれている己自身に伝わる快感と相乗する。
限界が近い事を悟ったカノンは、猛然と腰を突き出して自分とを絶頂へ導いた。
「やあぁっ!あっんッ、っあああーーーっ!!」
「くっ・・・・!」
「あん・・・ぁ・・・・」
思いの丈を全て注ぎ込んだ後も、カノンは名残惜しげにいつまでもの身体を放そうとしなかった。
「カノン、何で急にこんな・・・・」
ようやく熱が引いて明瞭な意識を取り戻したは、言い難そうに切り出した。
その瞳は不安に揺れている。
「言っただろう。お前が欲しかったからだ。」
「・・・・それってどういう意味?」
「分からんか?俺はお前がずっと好きだった。それ以外の理由などない。」
「え・・・・?」
何気ない口調であったが、その台詞はに大きな衝撃を与えた。
余りにも事も無げに言ってのけるものだから一瞬冗談かと思ったのだが、自分を抱くカノンの腕は優しく温かい。
「本気・・・なの・・・?」
「ああ。」
「・・・・あのねカノン、私・・・・」
カノンは、何かを言いかけたを軽いキスで制した。
そして枕に散らばった柔らかな髪を無造作に手で梳きながら、淡々とした口調で呟く。
「お前は俺の気持ちなど知らなかっただろうな。お前はサガの事を・・・」
「え!?」
「!?」
図星をついたつもりだったが、何故かの反応は違った。
目を丸くして驚くに釣られ、カノンは不覚ながら驚きの表情を素直に表してしまった。
「ちょ、ちょっと待って!?私がサガの事好きだって思ってたの!?」
「違うのか!?」
「違うよーー!!いや違う事は無いんだけど、そういう意味では違うわよ!?」
「何だと!?しかしお前はいつもサガと親しげに振舞っているだろう?現に今日ここに来たのだってサガに頼まれて・・・・」
「確かに頼まれはしたけど、だからってそんな・・・・」
カノンとは、お互い唖然とした顔を突き合わせた。
しばしの沈黙の後、最初に表情を変えたのはであった。
「プッ・・・、あはははは!」
「クッ・・・、はっははは!」
に釣られて、カノンも堪えきれなくなった笑いを盛大に零した。
二人とも情事の後とは思えない程の爆笑ぶりである。
そのまま散々笑った後、涙の滲んだがようやく笑いを収めた。
「ハハハ、は〜、おかしい・・・!涙出ちゃった・・・」
「お前は笑い過ぎだ。泣くまで笑う奴があるか。」
「だってカノンが変な事言うから〜!・・・・あのね。」
「・・・何だ?」
小さな声でぽつりと呟いたを見て、カノンはそれまでの笑顔を消した。
「ここに来たのは私の意思よ。仕事を手伝うのも、ご飯作りに来たのも、私がそうしたかったから。」
「・・・・」
「私がカノンと一緒に居たかったから・・・・。カノンこそ、私の気持ちなんか知らなかったでしょ?」
恥ずかしそうにカノンの胸に顔を埋めて、自らの気持ちを打ち明ける。
知らなかった。
本当に知らなかった。
先走っていた自分に対する恥ずかしさよりも、願いが叶った事への嬉しさが遥かに勝る。
言葉などではこの気持ちを表現しきれない。
カノンは何も言わずに、ただ強くの身体を抱きしめた。
抱きしめ返してくるこの温もりが幻ではない事を確かめるように、強く強く。