Si vada bene




いつもどおりの夜のはずだった。
なんでこんなことになっちまってんだ・・・・。



がカバンに荷物を詰めてる。時々「ヒックヒック」としゃくりあげている。
今更止めるのもカッコ悪くて、俺はに背を向けてソファに横になったままだ。
女に不自由したことはないし、ましてマジで惚れたことなんかねぇ。
でもこいつは、は別だ。だから俺なりにマジに付き合ってきたつもりだったんだけどよ。



帰ってきた途端、巨蟹宮の前で目を吊り上げたに呼び止められた。
「今日、街で誰と会ってたの?」
「あぁ?なんだよ?」
「昼間、女の人と歩いてたでしょ。」
「あぁ、なんでもねぇよ。」
「何でもない人と街中でキスするんだ。」
「挨拶みてぇなもんだよ。」
「嘘。そんな雰囲気じゃなかった。ナンパでもしたの?」
「向こうから声掛けてきたんだよ。茶ァしてそこらブラついて、それで終りだ。」
「・・・・・・」
「なんなんだよ!!何もしてねぇよ!!」
「ヘタに隠したりしないところは認める。」
「何がだよ?」
「浮気したこと。いつもそこだけは感心する。」
「だ〜か〜ら〜、浮気なんかしてねぇっつーの!!」
「デスにとってはそうじゃなくても、私には浮気にしか見えないの!そんなつもりじゃないなら、どうして断らないの!?」
「断ってるじゃねぇか!!現に今日の女だって、あからさまに誘ってきたのをキッパリ蹴って帰ってきたんだぜ!!」
「じゃあ別に好きでも何でもないんだね?」
「当たり前だろ!!」
「だったらそもそも最初っから相手にしなきゃいいじゃない!!」
「んだよ、嫉妬か?」
「違う!!だったら私が同じことしたらどう思う!?」
「別に。どうも思わねぇよ。そんな小せぇ事でいちいちウダウダ言わねぇし。」
「・・・・、そう。デスが私のことどう思ってるか、よく分かった。」

の瞳から涙がこぼれた。俺が言葉を掛ける前に、は走って中へ入って行っちまった。
追いかけるのも何だか癪で、俺はそのまま踵を返して、街へ戻った。



やっぱりが気になって早々に巨蟹宮へ戻ってきた。
が寝室にいる気配がしたが、気まずくてリビングのソファに横になって寝た振りをした。
ふいに寝室のドアが開いて、がカバンをもってリビングに入ってきた。
言葉もなく、ただ黙々とリビングに置いてあった自分の物をカバンに詰めてる。

「私にだってね、優しい言葉を掛けてくれる人の一人や二人いるのよ。」

小さく低いの声が聞こえた。思わず誰だよと問い詰めたくなったが、寝た振りを決め込んだ。
どうせ、腹立ち紛れの嘘だろう。いやでも、他の黄金共にも何気に人気あるからな、こいつ。
俺の女だって公言してあるから、滅多なことをする奴はいないはずだが・・・・。



「デスと一緒にいると、私ちっとも幸せじゃない。もう耐えられない。」

再びの声が聞こえた。その台詞がかなりこたえた。


幸せだったのは、俺だけだったのか・・・・。

確かにの言う通り、街へ出る度色んな女と歩いてた。でも誓って深い関係にはなってねぇ。
どんなにいい女でも、それだけはに操を立てて節制してたんだ。
俺は俺なりに真剣に・・・・。
でも、それでもは幸せじゃないと言った。俺ではのことを幸せにしてやれねぇんだな。



「ねぇ、デス・・・・、聞いてる?」


― 聞いてるさ、でもどうしろってんだよ。返事なんかできねぇよ。


やがてが諦めたように溜息を吐くのが聞こえた。カバンを持って出口に向かって歩き出す。
本当は走って行って、その腕を掴んで引き寄せて、強く抱き締めたかった。
「行かないでくれ」と、そう言いたかった。

でも俺にだってささやかなプライドもある。それに何より、さっきのの言葉が深く胸に刺さってる。
せめてカッコぐらいつけさせてくれよ、俺ぁ生まれてこの方、女に捨てられたことなんざねぇんだからな。
ガラにもなくマジでヘコんでるなんて悟られたくねぇよ。惨めな姿は晒せねぇ。



あいつ、本当に出て行きやがった。
寝室を覗いてみたら、の着替えが全部無くなってた。
着替えだけじゃねぇ、あいつの物がみんな消えちまってる。

― やってられねぇ・・・

俺はサイドボードからバーボンのボトルを出してきて、そのまま思いっきり呷った。
酒のビンを持ったまま外へ出て、下へと続く階段を覗いてみると、頼りない足取りでとぼとぼと下っていくの姿が見えた。
どうせすぐ帰ってくるだろうよ、大したこたねぇ。
楽観的に考えてみるが、どうしても喪失感が拭えない。
むしろは二度と戻って来ないかもしれない、という思いの方が次第に強くなってくる。

― このまま終わるのかよ、なんか随分あっけねぇな。
その後姿に、「あばよ」なんてカッコつけて呟いてみて、我ながら馬鹿馬鹿しいと思った。



部屋へ戻って、なんとなくステレオをつけてみた。
スピーカーからあいつの好きだった歌が流れてくる。
大人しい顔して、アホみたいに派手なロックが好きだった。
思いっきりボリュームを上げて、その曲を口ずさみながら酒を呷る。


お前に幸せになって欲しい。でも俺は、、お前じゃないと幸せじゃねぇんだよ・・・・。




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後書き

元は沢田研二さんの『勝手にしやがれ』です。
B'zの稲葉さんがカバーしてましたね。一発で好きになりました!
でも福山雅治さんがカバーしてるのもすごく格好良くて好きです!
タイトルは、『勝手にしやがれ』をイタリア語に訳したものです。
翻訳サイトで訳したので、おそらく合ってるとは思うのですが、もし違ってたらごめんなさい!
私イタリア語全然分かりませんので(爆)。
主人公は管理人の大好きな蟹さんを起用してみました。
丸々歌詞をなぞった話ですね。オリジナリティの欠片も見当たりません。
所詮こんなもんですわ(諦)。