至福だ。
身体の泡をシャワーで流しながら、サガは幸せを噛み締めていた。
たかが風呂で幸せを感じられるとは、我ながらお手軽な気もするが、そうであるものは仕方ない。
それに今日はが来ている。
しかも嬉しい事に、お邪魔虫は留守ときた。
そうなれば、感じる幸せも100倍200倍になるというもの。
「毎日がこうであれば良いのに・・・・・。フフフン、フ〜ン・・・・」
ご機嫌の余り鼻歌混じりになりながら、教皇の間の隣にでもプレハブを建てて、そこにカノンを追いやってしまおうかなどと画策していると、不意に浴室のドアがノックされた。
「サガ?」
「か、どうした?」
「折角だから、背中流してあげようかなと思って。」
浴室の外から聞こえてきた言葉は、サガにとって嬉しいものだった。
実はもう既に髪も身体も洗ってしまっているが、背中の一つや二つ、何度洗っても減るものではない。それどころかむしろ大歓迎だ。
となれば断る理由などある筈もなく、サガは浴室のドアを開けた。
「痛くない?」
「ああ、丁度良い加減だ。」
は両袖を捲り上げて、浴室の外からサガの背中をタオルで擦っている。
サガはの手が届く位置に腰を下ろし、心地良さそうに瞳を閉じていた。
「シャチョサン背中広いネ〜、お仕事ナニ? な〜んてね♪」
「ははっ、何だそれは?」
「これ?フィリピン人ソープ嬢の真似〜v」
「はははは、可笑しな事を。」
の他愛ない冗談に笑っていると、心が安らぐ。
そして、が愛しくて仕方ない事を、改めて自覚するのだ。
「ふふ、一度言ってみたかったんだよね〜。」
「ははっ、何だそれは。」
「はい、終わりっと!シャワー貸して。」
「うむ。」
「流すよ〜。」
「ああ。」
再び泡塗れになった背中を、シャワーが流していく。
排水溝に吸い込まれていく泡を見ながら、サガはふとある悪戯を思いついた。
いや、悪戯というよりは、愛し合う者同士の戯れとでも言おうか。
とにかく、泡が全部流れた頃を見計らって、サガはの腕を掴んだ。
「さて、今度はの番だ。入って来なさい。」
「えっ、いいよ!ゆっくり入りたいでしょ?私は後で良いから。」
「良いから。」
「あっ、きゃーーッ!!」
サガは有無を言わさずの腕を引いて浴室内に引き込むと、頭からシャワーをかけた。
「酷ーーい!!びしょびしょになっちゃったじゃない!」
「これでもう入るしかなかろう?」
「うう・・・・・、サガの鬼・・・・・」
「鬼で結構。さあ、服を脱いで。」
サガは楽しげな口調でそう言うと、の服を脱がせ始めた。
ザァザァと熱いシャワーが降り注ぐ。
たちまち立ち込めた白い湯気の中で、二人は熱い雨に打たれていた。
「洗ってやろう。」
「いっ、いいよ!恥ずかしい・・・・!」
「恥ずかしい?さっきまでフィリピン人ソープ嬢の真似をしていたのに?」
「あれは口真似だけで・・・・!」
「分かった分かった。大声は出さないでくれ。響く。」
苦笑に顔を顰めてみせて、の後ろに座った。
そして傍らにボディソープを置き、スタンバイする。
「、髪を上げなさい。」
「はぁい・・・・・・、これで良い?」
は髪留めを一旦外すと、渋々といった風に髪を掻き上げて纏め上げた。
こうして一緒に風呂に入る事は何度かあったが、求めようとするとはいつも恥ずかしがる。
落ち着かない、鏡に映る、身体を隠せるものが何もない。
それらがの拒む理由だ。
だから浴室で愛し合う事は未だ叶わずにいたのだが、今夜こそは成就させてみたい。
サガは僅かに口角を吊り上げると、の耳元で囁いた。
「ところで、さっきの物真似はなかなか面白かったぞ。」
「え、そう?」
「ああ。妙な片言が面白かった。」
「ふふっ、良かった〜!滑ったら恥ずかしいもんね!」
「折角面白かったから、もう少し続けてみないか?」
「片言の会話を?」
違う意味に捉えたに苦笑を浮かべて、サガは首を横に振った。
「違う。君がそのソープ嬢で私が客だ。偶にはそんな遊びに興じてみるのも良いだろう?」
「・・・・え・・・・・、えぇ!?」
振り返ってサガの顔を見ようとした瞬間、の唇はサガのそれで塞がれた。
口付けを受けながら、は動揺しつつも半ば抵抗は無駄だと諦めた。
何故なら、サガの瞳は実に楽しそうに、悪戯っぽく輝いていたからである。
「ソープ嬢とは良く言ったものだな。正にそのままだ。」
「何言ってんのよ・・・・・・」
目を細めるサガに、は赤くなった顔を顰めた。
身体は既に何処もかしこも泡だらけで、サガの言う事も尤もなのだが、果たしてそれがソープ嬢という名の所以なのかどうか分からず、は一瞬我に返って首を傾げた。
「でも、それってそういう意味なのかしら・・・・・?」
「さあな。どっちにしろ取るに足らん事だ。ほら、こっちに集中して。」
「あっ、ちょっと・・・・・!」
サガは話を強引に終わらせると、を昂らせるようにして泡塗れの身体に触れ始めた。
胸の膨らみを掌で包み、柔らかく揉んでやれば、泡が流れて丸い突起が顔を出す。
それを指で弾き苛んでいると、は困惑したように俯いた。
「はっ、やぁっ、サガ・・・・・」
「ん?」
「胸、擽ったいよ・・・・・・」
「まだ洗ってる途中だろう?我慢しなさい。」
「ぁ、ん・・・・・、嘘つき・・・・・、全然そんな感じじゃないのに・・・・・」
鼻にかかるような甘い声で、が胸を庇う。
サガは肩を竦めると、今度は白い腹を撫でた。
腹と脇腹を撫でると、今度は太腿。
脹脛から足の先まで丹念に擦って、次は丸い尻。
ボディソープを足して撫で回すせいで、泡はどんどん豊かになっていく。
「あん・・・・・・、も、いいよ、サガ・・・・・・」
「駄目だ。忘れたか?私は客だぞ。客の言う事は聞かねばな。」
「やだ・・・・・・」
「やれやれ、仕方のない娼婦だな。」
サガは恥ずかしがるの股に手を差し込むと、頑なに閉じられたままの秘部に指を滑り込ませた。
「はんっ・・・・!」
「・・・・・濡れているな。」
「ばっ、馬鹿!言わないでよ!!」
「こんなになっているのに?」
そう言って、サガはの秘裂を擦っていた指を見せ付けた。
指はてらてらと透明の液体で滑っている。
それがボディソープの滑りでない事は明らかだった。
それを見たは、かっと頬を赤らめる。
「やだ・・・・・、恥ずかしいってば・・・・・!」
「ふっ、そんなに恥ずかしがるな。ほら。」
「ふぁっ!」
恥ずかしがって身を固くするを適当に宥めて、サガはまた秘部を弄り始めた。
「あ・・・・・、はぁんッ・・・・・!」
サガの指が泉に入り込む。
サガの膝の上に座らされて、大きく両脚を開いた格好で内部をかき回され、は激しく羞恥した。
「いや・・・・、あっ・・・・・!サ・・・ガ・・・・・!」
「暴れるな。暴れると滑るぞ。」
「んぅッ・・・・・・」
サガの言葉通り、泡だらけの身体はつるつると滑る。
余り激しく身動きすると、サガの膝から滑り落ちそうだ。
渋々ながらもそのままの姿勢でサガの愛撫を受け入れているに、サガは益々情欲が高まるのを感じた。
「やんっ!あふっ、うくッ・・・・・」
サガは花芽に蜜を塗し、指で擦り始めた。
性感帯の一つだけあって、は甘い声でよがっている。
コリコリとした感触を愉しむように、サガは執拗に其処を弄った。
「やっ、あぅッ!いやっ・・・・、ああぁ・・・・・!」
がすすり泣きのような声を上げている。
それに触発されて花芽を擦るスピードと強さを上げると、またの声が甘さを増す。
「やぁッん!あんっ、んぅッ・・・・!」
切なげに眉を顰めた表情が、泡が流れ落ちて所々露になっている薔薇色の肌が、劣情を煽り追い立てていく。
ベッドの上とはまた一味違う艶かしさに、サガは眩暈がする程の刺激を覚えた。
「。」
「ん・・・・・、何?」
「なかなか刺激的な姿だぞ。見てみるが良い。」
「え・・・・・?あっ・・・・・・・!」
サガに言われて思わず顔を上げたは、そこで鏡に映る自分の姿を見た。
はしたなく両脚を開いて、秘部をサガに弄られている自分を。
「いやっ・・・・・!」
「ふっ、そんなに露骨に目を逸らさなくても良いだろう?折角綺麗な姿をしているのに。」
「なっ、何言って・・・・」
「プロの娼婦顔負けだな。実に官能的だ。」
羞恥の余り困惑したは、声を詰まらせてそっぽを向いた。
そんな姿がサガをより刺激する事になるとも知らずに。
「サガの馬鹿ぁ・・・・・!」
「そんなに恥ずかしがらなくても良いだろう?ちょっとした遊びじゃないか。」
「でも恥ずかしい・・・・・!」
「他の誰でもない、私だぞ?私の前でなら、少し位羽目を外して淫らに振舞っても構わないじゃないか。」
サガのその言葉に、は一瞬少しだけ納得した。
確かにサガとは愛し合う関係なのだから、少し位淫らな遊びも有りなのかもしれない。
困惑しつつも大人しくなったを見て微笑を浮かべ、サガは再び秘部を弄る手を動かし始めた。
「あっ、あんっ・・・・・・!」
「・・・・・そろそろ欲しいか?」
「っ・・・・・・!!」
耳朶を甘く噛まれながら吹き込まれる囁きに、背筋がぞくりと疼く。
刺激された身体はとうに火がついて、サガを欲しがっている。
は小さく頷いてみせた。
「では娼婦らしく強請ってみろ。」
「な・・・・・・」
呆気に取られて見たサガの顔は、言葉の割に優しげな微笑を浮かべている。
はサガの笑顔が好きだった。
こうして微笑みかけられると、どんな時でも安心出来る。
その笑顔と身体を支配する熱に、とうとうの羞恥心が負けた。
「ほら、客の要望だぞ?」
「・・・・・・入れて・・・・」
「客にものを言う時は丁寧に言わんとな。」
「入れて・・・・・・下さい・・・・・・」
言い切った直後、はまた羞恥心に苛まれそうになったが、それは未然で終わった。
サガの熱い分身が、身体の中に入ってくる感触を覚えた為に。
「あっ・・・・、はあぁぁん・・・・・!」
の腰をしっかりと抱えて、サガは自身を根元まで挿入した。
そして、ゆっくりとの腰を動かし始めた。
「あっう・・・・、うう、ん・・・・」
「良いか?」
「あん、いっ・・・・・!」
は首を傾けたまま、薔薇色に染まった首筋を晒して喘いでいる。
甘い声が湯気の立ち上る浴室内に木霊して、いつもより艶めいて聞こえる。
目の前にある匂い立つようなの首筋に誘われて、サガはそこに舌を這わせた。
「あんッ・・・・・、んっ・・・・・・・!」
子宮を突き上げられながら甘く首筋を吸われると、身体の力が抜けていきそうになる。
自分で自分の身体が支えられず、やむなくサガに預けるしかない。
先程まで感じていた羞恥も忘れて、は体内を貫くサガに翻弄されていた。
「っはぁッ、あっ・・・・・!」
「・・・・・・!」
サガの方も、最早ごっこどころではなかった。
己を飲み込んで喘ぐの嬌態に完全に当てられたサガは、の腰を強く掴んで揺さぶり始めた。
「んあぁっ!あんっ、あっ!はっ、あぁッん!」
「・・・・・、もっと聞かせてくれ、お前の声を・・・・!」
「きゃぅぅっ!!」
少し強めに奥を抉ったその途端、が切なげな声を上げて跳ね上がる。
「はぁッん!サガ・・・・!あんっ、駄目ッ、も、私・・・・!」
「イきそうか・・・・?」
「ん・・・・・、あっ、やぁッ、んあぁっ!」
「私も・・・・・もう・・・・・・!」
「いッ・・・・・・ああぁっ・・・・・!」
「ぅっ・・・・・!」
が一際高い声を上げた直後、サガは楔を引き抜いた。
そのすぐ後に迸った欲望の証が、湯の渦に巻き込まれて排水溝に流れていった。
情事後の気だるい身体を、温かい湯船に浸して。
言葉少なに交わすのは、愛の言葉。
の、筈なのだが。
「うぅ・・・・・、恥ずかしい・・・・・・!」
「ははは、まだ気に病んでいるのか?もう今更そんなに恥ずかしがらなくても・・・」
「だってやっぱり恥ずかしいものは仕方ないでしょ!」
「分かった分かった、悪かったから落ち着くんだ・・・・;」
実際のところは、我に返って羞恥したり激昂したりするを宥めるのに四苦八苦なサガであった。
そして、誰よりも苦々しい顔をしている者がここに一人。
「何やってたんだ、あのアホ共・・・・!」
浴室の外に投げ出されている濡れたの服と、浴室から聞こえてくる会話に顔を顰めて、外から帰って来たばかりのカノンは、舌打ちと共に再び外へ出て行った。