今年の夏は、ギリシャにとって一際熱かった。
世界中を賑わしたアテネ五輪の熱は、いまだ冷めやらない。
そしてその興奮を未だ引き摺る者達が、今誰も知らない新たな戦いの幕を切って落とそうとしている。
ここ、ギリシャ・聖域において。
サガの選手宣誓が遠くに聞こえる。
聖火代わりに灯された火時計が、より緊張を高める。
そうなるのも無理はない。
女神の聖闘士、それもその最高峰である黄金聖闘士達が行うオリンピックに参加させられるハメになったのだから。
彼らは『アテネ五輪』ならぬ『アテナ五輪だ』などと言って笑っていたが、には正直笑えない。
ギャグレベルもさることながら、体格・身体能力共に余りにも差が有り過ぎて、勝負する前から結果は見えているからだ。
人の競技を見るのは楽しみなのだが、自分の出番が嫌で仕方ない。
金メダリストは副賞として何でも望みを叶えて貰えるそうだが、は早くもすっかり諦めていた。
「ではこれより、聖域アテナ五輪を開催する!」
童虎の一声で、とうとうアテナ五輪は始まってしまった。
このアテナ五輪、即席ではあるがそれなりの準備はしてある。
種目と出場者は事前に公平な手段(クジ)によって取り決めており、道具やユニフォームもある。
必須アイテムの金・銀・銅メダルも、ムウの提供により種目分揃っている。
更にジャッジとして童虎、アンチドーピング委員にサガを起用して、少人数ながらも妙に凝った仕上がりになっている。
第一の種目は100メートル走である。
出場者はカノン・シャカ・シュラの3人。
ユニフォーム代わりの雑兵服を身に纏い、颯爽とトラックのスタートラインについた。
「頑張れーー!」
見るのは楽しいが、トラックに立つ3人に声援を送った。
その笑顔に涼しげな微笑を返す3人。しかし、その胸中は熱く燃えたぎっている。
「金メダルなどに興味はないがな。」
「しかし副賞は魅力的だ。」
「だからこそ、こうして参加もするというもの。」
3人は小さな声で呟いた。
そう、彼らは金メダルの副賞にすっかり魅せられていた。
「君達、この私と同じ競技になった事が運の尽きだな。」
「シャカ、お前も副賞が欲しいのか?お前ともあろう者が物欲に囚われるとはな。仏が泣くぞ。」
「カノンの言う通りだ。そんな事では悟りなど開けんぞ。」
「煩悩塗れの君達に言われる筋合いはない。どうせ君達は・・・」
「「黙れ。」」
己の邪な望みを大声で暴露されそうになったカノンとシュラは、シャカの言葉を遮った。
「お主らいつまでくっ喋っとるんじゃ。始めるぞ!」
走る前にファイトになりかけている3人に、童虎が一喝した。
ようやく走る気になった3人が、再びスタートラインに立つ。
それを見届けた童虎が、100メートル向こうのゴールで待機しているサガに合図した。
「ではいくぞ・・・。始め!!」
童虎の掛け声と同時に3人は走り出した。
というより、掛け声の次の瞬間にはゴールに居た。
「早っ!!!」
が目を見開いて突っ込みを入れる。
「ちょっと待って!いつの間にゴールしたの!?」
「ほっほ。黄金聖闘士じゃからのう。動きは光速じゃて。おおお主ら。」
「あっ、皆お疲れー!3人とも凄く早かったね!早すぎて見えなかったけど・・・」
はサガと共に戻って来た3人にタオルを渡しながら、労いの言葉を掛けた。
シュラとシャカはそれを黙って受け取り、カノンは勝ち誇った様子で受け取った。
「フッ、こんなもの朝飯前だ。」
「くそっ、今日から100メートル走の修行も積まねば・・・!」
「してサガ、順位はどうじゃ?」
「はっ。一位がカノン、二位がシュラ、三位がシャカです。」
「フッ、当然の結果だ。」
改めて順位を発表されたカノンが、益々勝ち誇る。
「欲望の強さがそのまま脚に表れたか。、十分に気をつけたまえよ。」
「何が?」
シャカの忠告の意味が分からないが首を傾げる。
「ほら、次の競技が始まるぞ。行って来い。」
これ以上余計な事を吹き込まれて警戒されてはかなわないと、カノンはわざと話を逸らした。
「うん。次って何だっけ?」
「フィギュアスケートだ。」
「うむ、こんなものだな。」
フィギュア用の即席リンクを地べたに拵えたカミュが、満足そうに頷いた。
それとは対照的に不機嫌なのが出場者3人。
アルデバラン・アイオリア・ミロである。
「本当に勘弁してくれ!」
「何でこんな物を着なければならないんだ!?」
「誰だこれを用意した奴は!?」
筋肉質な彼らの肉体を包むのは、聖衣でも雑兵服でもない。
バレエのチュチュを彷彿とさせる、フィギュア用のあのヒラヒラである。
よりにもよって何で自分がコレなのかと、3人は己のクジ運の無さを嘆いていた。
「くっそ〜、こんな所だけ凝りやがって!誰がこんなもん用意したんだ!」
羞恥で真っ赤に顔を染めたミロが、もう一度同じ愚痴を零した。
とその時、その後ろから控えめに手が挙がった。
「は、は〜〜い、私です・・・」
「「「!!??」」」
「フィギュア用の衣装を作ってくれって頼まれて・・・、一応私が縫いました・・・」
笑っちゃ悪いとは思いつつも、実際着たところを見ると笑わずにはいられない。
必死で笑いを堪える様が、どうやら3人には責められて泣きそうになっている様に見えたようだ。
大慌てで笑顔を作る。
「そ、そうか、が縫ってくれたのか!俺の分はデカいから大変だったろう?わざわざ済まんな。」
「うむ、アルデバラン。良く似合っているぞ!も作った甲斐があるというものだ、な?」
「ミロ、お前も良く似合っているぞ。とても素敵だ。」
「やかましい!お前程ではないわ、アイオリア!!」
褒め合っているのかモメているのか分からないが、それでも3人は製作者であるを必死で立てた。
人に大笑いされるよりもが傷付く方が辛い、そんな気の良い3人組である。
一方、はといえば。
「そ、そう・・・。それは良かった・・・、クッ・・・!」
その心遣いは嬉しいけれど、そろそろ笑いが堪えきれなくなっている。
いよいよヤバくなってきたその時、ようやく童虎が現れた。
「待たせたの。こちらも始めるとしようか。一番手は確か・・・、ミロだったな。」
「はっ!、見ててくれよ。お前が作ってくれたこの衣装、決して無駄にはしない!!」
「う、うん。頑張って・・・!」
ミロはの肩を掴むと、真剣な表情で勝利を誓った。
真剣であればある程、笑いを誘う事には気付いていない。
「では始め!」
童虎の掛け声と共に、BGMが流される。
曲目はチャイコフスキーの『白鳥の湖』である。
「見ろ、俺の華麗な演技を!!」
そう叫んだミロは、リンクの上で舞い始めた。
それを見ていたアルデバランとアイオリアの顔色が変わる。
「むっ、あのダンスは・・・」
「何?」
「キグナスダンスだ!ミロめ、いつの間に習得したのだ!?」
2人の言う通り、ミロはキグナスダンスの指導を受けていたのだ。
師匠はおそらくこのリンクを作った奴だろう。
は笑いを堪えるのに必死だったが、2人は真剣に注目している。
「ううむ、ちゃんと振りになっているな。」
「しかもBGMとの関連性も高い。アルデバラン、俺は自信がなくなってきた。」
「そんなもの、俺など元々ないぞ。お、もう終わりそうだ。」
ミロが一際高くジャンプして、凄まじい回転をその身に加えた。
トリプルアクセルどころか竜巻並みの技を決めて、ミロの演技は終了した。
次はアイオリアの番である。
しかし彼は、羞恥に加えて先程の圧倒的なミロの演技にすっかり呑まれていた。
身体能力は決してミロに劣らないが、見た目の華麗さを重視するフィギュアにおいて、彼のリズム感・ダンスセンスは致命的であった。
「アイオリア、顔真っ赤だね・・・」
「うむ、奴には耐え難い屈辱なのだろう。」
「俺にとっても耐え難い屈辱だ。ああ、次が来なければいいのに・・・」
アルデバランの願いも空しく、アイオリアがガチガチの演技を終了して真っ赤な顔で戻って来た。
バトンタッチで三番手のアルデバランが、死刑台に送られる囚人の如くリンクに上がる。
彼に至っては、アイオリアより酷い状態だった。
惨劇と言っても過言ではないだろう。
彼もまた茹蛸のような顔色で、BGMと全く噛み合っていない演技を繰り広げた。
「ブハハハハッ!!!」
「ハハハハハ!!」
「あははは!も、駄目・・・・!!」
笑い転げるギャラリーにもめげずに、アルデバランは己の演技をどうにか全うした。
これをもって全ての演技が終了し、いよいよ童虎による審査結果発表となった。
「では順位を発表する。一位はミロ!総合的に色々な意味で素晴らしかったぞ!」
「ヤッホーー!!やったぞ!俺が金メダルだ!!」
「二位はアルデバラン!視覚的に非常に愉快じゃった!」
「それは喜んでいいものなのだろうか・・・?」
「三位はアイオリア!アルデバランと甲乙つけ難かったが、見た目の僅差で三位じゃ。」
「はっ。」
喜ぶミロ、複雑な表情のアルデバラン・アイオリアに向かって、童虎は惜しみない拍手と笑いを贈った。
「しかし皆よう健闘した!愉快で結構!いや〜、久しぶりに面白いもんを見せて貰ったわ。ワッハッハ!!」
「童虎笑いすぎよ、ププッ・・・!」
「しかし、お主は笑っとる場合ではなかろう?次の競技に出場するのではなかったのか?」
「はッッ!!!」
嫌な事実を思い出したは、それまでの楽しい気分が一気に吹き飛んだ。
とうとう出番がやってきてしまった。
今は第三種目・柔道の真っ最中である。第一試合は『デスマスクVSカミュ』。
そして、この試合の勝者VSが第二試合となっている。
これは、反則野郎だらけの中で只一人の一般女性であるを配慮しての事であった。
「くそっ!なかなかやるなカミュ・・・!」
「次が最後だ、デスマスク!」
試合は僅かにカミュの優勢で進んでいる。
だが、勝負は最後の最後まで分からないものだ。
とどめを刺しにかかったカミュの表情が凍りついた。
「しまった・・・!」
「貰ったぜーーッ!うおおぉーーッ!!」
豪快な雄叫びと共にデスマスクが見事な一本背負いを決めた。
おそらく欲望の強さが奇蹟を起こしたのだろう。
カミュが畳に叩きつけられた瞬間、童虎の判定が下った。
「一本!それまでじゃ!勝者、デスマスク!!」
「ぃよっしゃーーーッ!!」
デスマスクがガッツポーズを決めた。
胴着はヨレヨレ、身体はボロボロで、何故か髪が霜だらけになっている。
その姿は、カミュとの激戦がいかに凄まじかったかを物語っていた。
「続いて第二試合を始めるぞ。デスマスクVS!」
童虎の合図で、はげんなりと畳に上がった。
「クッククク、せいぜい楽しませてくれよ。」
「き、金メダルはあげるから無茶苦茶しないで、ね、ね!?」
「では始め!!」
試合開始の掛け声と共に、デスマスクがにじり寄って来た。
その表情は余裕に満ちており、既に勝利を確信しているようだ。
間合いを詰められる度に、は引けた腰で逃げて行く。
しかし、それも長くは続かなかった。
「オラオラ、逃げてばっかじゃ試合になんねーだろが。」
「ぃやっ!!」
あっという間に胴着の襟を掴まれ、畳に引き倒されてしまった。
必死で逃げようとするが、腕も脚も押さえ込まれてデスマスクの下から這い出る事が出来ない。
「くッ・・・!卑怯よデス!」
「何がだよ。反則なんかしてねえっつーの。オラどうした、逃げねえのか?」
「逃げる、わ、よッ・・・!ふっ、くぅッ!!」
力の限りデスマスクの胸を押し返してみる。が、ビクともしない。
すっかり寝技に持ち込まれてしまっており、このままでは一本取られてしまう。
「んくっ!んんっ、あぅっ!んッ、あッ・・・!」
必死で手足をバタつかせ、逃れようともがいていたその時、の膝に何か固いモノが当たった。
一瞬呆然としたの耳元に、デスマスクの低い声が吹き込まれる。
「堪んねぇ声出すんじゃねえよ、勃っちまっただろうが。」
「なっ!!??」
破廉恥極まりないが、デスマスクは反則などしていない。
つまり、誰も助けてくれない。
このままじっとしていれば、一本どころか我が身が危ない。
「ぃやああぁっ!!」
「ぐおぉッ!!???!」
の小宇宙がビッグバンを、奇蹟を起こした。
力任せに蹴り上げた膝が、見事デスマスクJrに命中したのだ。
途端にの上から転げ落ちて悶絶するデスマスク。
はそれに気付かず、無我夢中でデスマスクを押さえ込んだ。
「一本!それまで!勝者、!!」
童虎が終了の合図と判定を下した。
デリケートゾーンのダメージに気付いていたのかどうか分からないが、たとえ気付いていたにしても、ハンデ程度に認識しているのだろう。
一方、はその判定が信じられないとでも言うように、何度も瞬きをした。
「嘘・・・、私勝ったの・・・?」
「良くやった!先の試合で瀕死の状態だったとはいえ、黄金聖闘士を倒したのじゃぞ!」
「嘘ーーッ!やったやったーー!!勝ったー!金メダルーー!!」
試合の疲れもとどめを刺されてダウンしているデスマスクもすっかり忘れて、は自分の勝利を無邪気に喜んだのであった。
いよいよ最後の競技・アーチェリーが始まった。
出場者はムウ・サガ・アフロの3人。
矢はサジッタのトレミーからの提供だと伝えられたが、実際はサガが刀狩りを行ったのである。
涙目で『それだけは』と訴えるトレミーから容赦なく強奪する様は、あたかも坊やのミルク代を非情に取り上げるろくでなし亭主のようであったらしい。
憂鬱が晴れるどころか思わぬ勝利を得て上機嫌のは、そんな事情も知らずに満面の笑顔で3人に声援を送った。
「フッ、の期待に応えねばな。金メダルは私が貰うぞ。」
「愚弟に取れて兄の私が取れないとあらば末代までの恥。金メダルは私の物だ。」
「2人とも、そう簡単に金メダルが手に入ると思ったら大間違いですよ。」
出場者3人の間で、静かな火花が散る。
「では始めるぞ!」
童虎の合図で、3人は所定の位置についた。
的に向かってトレミーの矢を構える。
「あれ?ねえ童虎、弓は使わないの?」
「ホッホ。弓など鍛え抜かれた肉体を持つ黄金聖闘士には不要。素手で十分じゃ。」
「でもそれってアーチェリーなの?」
「・・・・さ、始めようかの。」
の素朴で的確な疑問をスルーして、童虎が開始の合図を下した。
途端に3人の手元から矢が放たれ、的に突き刺さる。
それはアーチェリーというよりは、むしろダーツであった。
そして判定はというと。
「一位、アフロディーテ!二位、ムウ!三位、サガ!」
という結果に終わった。
日頃から薔薇を飛ばし慣れているアフロディーテ。
流石というかやはりというか、見事金メダル獲得である。
二位のムウはテレキネシスを禁じられていた事もあり、若干不利だったようだ。
そして三位のサガ、敗因は恐らくプレッシャーだったのだろう。
或いはトレミーの呪いであろうか。
とにかく、これをもってアテナ五輪の全競技は終了した。
全員集結した後、メダルの授賞式が行われた。
それぞれ童虎から首にメダルを掛けて貰い、金メダリストは更に月桂樹の冠を賜る。
「皆の者、よく頑張った!久々に愉快なものを見せて貰って儂は嬉しいぞ。さて、金メダリストには約束通り副賞を与えよう。何なりと望みを申すが良い。はどうじゃ?」
「本当に何でもいいの?」
「勿論じゃ。聖闘士に二言はない。」
「それなら・・・、休暇を下さい。」
何とも欲のない望みに、一同は表情を和らげる。
「そんなもので良いのか。欲がないのう。して、いかほどじゃ?半年か、1年か?」
「いやいやいやいや!そんなにいらないわよ!1週間ぐらいで。・・・ど、どう?」
「ホッホ、益々欲がないのう。しかし執務が絡むとなるとサガに訊かねばならんな。サガ、どうじゃ?」
「許可しましょう。」
「という事じゃ。1週間、ゆっくりと骨休めするが良い。」
「やったー!ありがとう童虎、サガ!」
温かい笑顔で快く休暇を許可してくれた二人に、は満面の笑顔で礼を言った。
「さて、あとはアフロディーテ・ミロ・カノンじゃな。お主らは何が欲しい?」
最初に答えたのはアフロディーテであった。
「私はの時間を一日頂きたい。互いの勝利を祝って何処かで食事でもしたいのだが。」
「ふむ。どうじゃ。アフロディーテに一日付き合ってやってくれるか?」
「勿論!大歓迎よ!」
快くOKしたに、アフロディーテは柔らかな笑顔を向けた。
「ありがとう。早速とびきりのレストランを予約しておくよ。」
「してお主ら2人はどうじゃ?」
次に答えたのはミロであった。
彼も実はと2人きりで過ごす時間を所望していたのだが、それは既に先を越されてしまっている。
だから、ミロは急遽望みを変更した。
「俺は勝利の女神のキスを。」
「というと女神か!?ならんぞミロ!我らが女神はまだ穢れ無き・・・」
「違います!」
沙織の事だと勘違いした童虎が一瞬激昂しかけたが、ミロはそれを即座に制した。
「このコスチュームを作ってくれたこそが俺の勝利の女神!これがあったからこそ、俺はこうして金メダルを獲得する事が出来たのです!」
そう言って、ミロはまだ着用しているフィギュアのコスチュームを誇らしげに指差した。
「えぇ!?」
「ふぅむ・・・。、どうする?」
「ど、どうって・・・・、こ、ここで?」
「勿論!ついでに場所の指定もさせて貰うが、唇に頼む!」
ミロはもはや童虎を介する事もなく、ダイレクトにに要求をぶつけてくる。
は最初渋っていたが、どうしてもと押し切られて結局する事になった。
ミロが大人しく瞳を閉じて待っている。
ご丁寧に中腰にまでなっている。
はその唇に軽く自分の唇を押し当てた。
しかし次の瞬間。
「んんっ!!んぅぅっ!!!」
はミロにガッチリとホールドされ、軽くどころか濃厚に貪られてしまった。
ようやく満足して目を開いたミロは、実に清々しい笑顔をしていた。
「ふぅっ。ご馳走様、。」
「うぅ・・・、ミロの馬鹿ぁ・・・!」
大勢の前で濃厚なキスシーンを強制的に披露させられたは、顔を赤く染めてミロを睨んだ。
「ホッホ。災難じゃったのう。さてと、最後はカノンじゃったな。」
「はっ、では遠慮なく。」
童虎に畏まってみせると、カノンは口の端を吊り上げてに向き直った。
「、今夜一晩付き合え。」
「え・・・えぇぇっ!!??」
「本当に遠慮がないのう。カノン、いくら何でもそれは・・・」
「お言葉ですが老師、聖闘士に二言はないと仰ったのは何処のどなたでしたかな?」
「ううむ・・・」
童虎を言い包めて黙らせた後、カノンは再びに詰め寄った。
「金メダリストは何でも望みが叶うのだろう?嫌とは言わせんぞ。」
「いやでもそれは・・・・!」
「お前もミロもアフロディーテも叶っているのに、俺だけ叶わんのは不公平だろう。」
じりじりと間合いを詰めるカノン。
その時、の後ろからサガが現れた。
「ふざけるなカノン!そんなあけすけに邪な望みなど許さんぞ!」
「ほざけ負け犬が。銅メダルの貴様にとやかく言われる筋合いはない。」
「何だと・・・!」
サガが怒りの頂点に達した。
「・・・そうだ。お前の金メダル、あれはどう考えても怪しい。」
「何?」
「お前のような愚物がシュラやシャカを抜いて一位になる筈がない!さては貴様・・・、ドーピングしたな?」
「言い掛かりも甚だしいわ!!俺がドーピングなどする訳が・・・」
「黙れ!!このサガ、アンチドーピング委員の名にかけて貴様を徹底的に洗ってやる!!来い!!」
怒り狂ったサガは、猛烈な勢いでカノンを引き摺って双児宮に帰って行った。
その後姿を見送って、がぽつりと呟く。
「あーあ、行っちゃった・・・。」
「何はともあれ、貴方の身が無事で何よりでした。それより、この後記念の晩餐会が開かれるそうですよ。行きましょう。」
にっこりと微笑んで、ムウがの腕を取った。
連れられて歩きながら、は今頃双児宮で繰り広げられている審査会及び制裁に、他人事ながら怯えずにはいられないのであった。