WE NEED YOU!




聖衣も纏えず、技もなく、石を砕く事すら出来ない非力な
しかし、この聖域の中で『縁の下の力持ち』という言葉が最も相応しい人物は彼女である。
彼らはこの体験の後、それを身に滲みて痛感する事となった。













荒い息を吐きながらまどろむを前に、黄金聖闘士一同は困惑顔を浮かべていた。
いつも元気なが倒れたのは、今朝の執務が始まって程なくしての事。
突如起こったハプニングに驚きながらも、皆でを自宅まで運んで寝かしつけたところまでは良かったが、問題はこれから先の事だった。


「困ったな・・・・・・、今日に限ってやる事が多いというのに・・・・・・」

まず真っ先に嘆いたのはサガである。
執務においては誰よりも信頼を寄せているが倒れて当てに出来なくなったとあっては、
彼が途方に暮れるのも無理はなかった。


「何て事を言うんだ、サガ!具合の悪いを前にして言う事はそれだけか!?この人でなし!」
「今更怒るなミロ。こいつは元々そういう奴だ。利用出来るか出来ないか、それだけで人を判断している外道だ。
貴様らが何て事を言うんだ!!私はそういうつもりで言ったのではない!」

そのぼやきに対して憤慨・非難したミロとカノンに、サガは負けじと怒鳴り散らした。


の事は私とて心配している!ただ、私は聖域の教皇として執務の心配もせねばならん立場なのだ!!それを人でなしだの外道だの人格破綻者だのと詰るのはやめろ!!」
誰も人格破綻者までは言ってないと思うのですがね。病人の前で騒ぐのはお止めなさい。」
「む・・・・・・」

ムウは静かにその騒ぎを収めると、この騒ぎにも目を覚まさない、いや、覚ます体力と気力のないを心配そうに見つめて言った。


「可哀相に、余程疲れが溜まっていたのでしょう。勿論にはゆっくりと養生して貰うとして・・・・・・、実際問題、執務も相当切羽詰っている訳ですね、サガ?」
「うむ、その通りだ。今日はお前達に執務優先で行動して貰うしかない。」
「とにかく、ここでゴチャゴチャやっていても仕方がない。寝込んでいるにも迷惑だ。早いところ動こう。」

アイオリアの言う通りだった。
雁首を揃えてオロオロと心配ばかりしていても、事態は何も変わらない。
それよりは、各々速やかにやるべき事をやった方が余程有益である。
そういう訳で、分担を決めた彼らは早速動き始めた。













今日は色々やる事があるというサガの言葉は、一切嘘偽りのない真実だった。


「何故今日に限って書かなきゃならん書類がこんなにあるんだ!」

絶望的な声を上げながら、アルデバランは必死に辞書を繰っていた。
ならPCを用いてチャチャッと作成しているところなのだが、生憎とアルデバランはPCに全くと言って良い程馴染んでいない。
従って、不慣れなPCを操作しながら書くよりは辞書を引き引き手で書いた方が早いと踏んだのであるが、これはこれで大変な作業であった。


「くそッ、今更後悔しても遅いが・・・・・、こんな事なら苦手だからと敬遠せずににPCの使い方を習っておくんだった・・・・・!」
「全くじゃのう、儂も書類一枚書くのがこんなに大変だったとは知らなんだわ。」

アルデバランの隣で参考資料のデータを書類に書き写しているのは童虎。
彼もまた、PCの電源さえ入れられないという筋金入りのアナログ人間である。
故に、アルデバランと同じく手書きで作成する方法を選んだのであるが、彼にしては珍しく早くも泣き言を洩らしていた。


「堪らんのう、この細かい文字!頭がおかしゅうなりそうじゃ!」
「分かりますぞ、老師。俺ももうヒステリーを起こす寸前です。」

アルデバランがペンを折れる程強く握り締めたその瞬間。




ガシャーーン!!!!




ええい鬱陶しい!!!機械の分際で人間を馬鹿にする気か!!!」

アルデバランより一足先にヒステリーを起こしたらしいアイオリアの拳が、深々とPCのモニターにめり込んだ。

「何をしている、アイオリア!!」

その音に驚いたサガが飛んで来て、アイオリアを取り押さえた。


「放してくれ、サガ!!もう俺は頭に来た!!」
「落ち着け、これ以上PCを壊すな!!どうしたのだ一体!?」

アイオリアの表情は、普段温厚な彼からは想像もつかない程の怒りと苛立ちに満ちている。
それに少なからず慄いたサガは、興奮しているアイオリアを頭ごなしに叱らず宥める方針を取った。

「何か問題が起きたのか!?落ち着いて言ってみろ!」
「女神への報告書だから、日本語で文章を書こうとしたのだ!それが何度やってもうまくいかん!!」
「どううまくいかんのだ!?それを説明しろ!」
「たとえば、『A(あ)』と入力したら『ち』になるんだ!!俺は『あ』と書きたいんだ!!『ち』ではない!!!一体どういう構造なんだ、俺を馬鹿にしているとしか思えん!!!!

アイオリアは鼻血を噴きそうな勢いで怒鳴っていたが、サガは暫し冷静に考えて静かに首を振った。


「ご愁傷様だな、アイオリア。そのPCは諦めてお前も手書きで書け。」
「何故だ!?」
「私も何度かお前と同じ状態に陥った事がある。恐らくそのPCは現在かな入力になっているのだろう。」
「かな入力!?何だそれは!?」
「知らん。私はいつもそうなった時、に直して貰っていたからな。済まんが力にはなれん。無駄な抵抗はやめて光速で手書きしろ。それから、壊したモニター代はお前の次の給料から差っ引いておくからな。
「そんな!」

色々と踏んだり蹴ったりな目に遭っているアイオリアには気の毒だが、彼にばかり関わってはいられない。
サガとて執務の責任者として、こなさねばならない仕事が山積みなのだ。
だが、その前についでだからと、サガはもう一人の書類作成者の様子を伺った。



「・・・・・・・・・」

もう一人の書類作成者・シャカは、今のところ静かに作業中であった。
それだけが不幸中の幸いである、ように見えたのだが。


「・・・・・・シャカ。貴様このクソ忙しい時に何を居眠りしている。」

シャカの瞼がぴたりと閉じられているのを見て、サガは思わず拳を固めた。


「・・・・・・静かにしたまえ。今私は神と対話中なのだ。」
威張って言うな!神だか何だか知らんがこのクソ忙しい時に・・・」
「これから表を書くところなのだが、その最も重要なポイントである枠線を如何にして引くか、それを神と相談中なのだ。」
「・・・・・・・・」

要するにシャカは、表の枠組みの作り方が分からないようだ。
彼の不機嫌そうな表情と真っ白のままの画面を見れば、それは一目瞭然である。


四人がかりで取り組んでいるというのにこの有様。
一体いつになったら書類が仕上がってくるのだろうか。
ああ
こんな時、君さえ側に居てくれたら。



「・・・・・もう良い。相談するだけ無駄だ。貴様も手で書け。」

シャカに向かって定規を投げ渡し、サガは人知れず涙を堪えた。







しかし、困っているのは書類作成業務だけではなかった。


「ああ・・・・・、もう飽きた・・・・・・」

可愛い小袋にキャンディやチョコレートを詰めながら、アフロディーテは深々と溜息をついていた。
もう幾つ同じような包みを作ってきただろうか。
それなのに、包んでいないキャンディはまだある。
これらは毎月定例のアテネ市内にある孤児院の子供達への贈り物で、アフロディーテが人数分に小分けしてラッピングする役目を与えられたのであるが、彼は最初自分に課せられたこの任務を楽勝だと思っていた。


「こんなに大変な事だったなんて・・・・・」

そう、たかが子供のプレゼントぐらいと高を括っていたのだ。
ところが、最初は鼻歌の片手間にでも出来ると安く見積もっていたのに、実際にはとてつもなく辛い作業だったのである。


「この単純作業・・・・・、脳内麻薬の分泌を通り越して脳が腐りそうだ、あああ・・・・・」

この作業は難しくはないが、同じ物を量産せねばならない。
延々と繰り返す同じ手作業は、アフロディーテの頭脳に 地味なボディーブローを何発も喰らい続けたような鬱陶しい系統のダメージを与えていた。
鼻歌?とんでもない。最早そんな余裕は皆無だ。
指先はかさつき、中枢神経が麻痺するような感覚に襲われ、泥のような眠気も催している。
かと言って、見た目の美しさが命であるラッピングを雑にしてしまう事は、アフロディーテの美意識に反する行いである。

サボる事も手を抜く事も出来ず、嘆きながらも地道に手を動かすしかないアフロディーテの脳裏に、
ふとの顔が浮かんだ。



定期的にこんな鬱陶しい作業をこなしている
彼女は誰に手伝ってくれと頼む事もなく、いつも気が付けば一人で素早く包みを作り上げ、さっさと孤児院に届けに行ってしまう。
かつ、そのついでに備品の買出しや他の用事までをも済ませて、涼しい顔で帰って来るのだ。


「ああ、・・・・・・・、君はなんてガッツのある人だったんだ・・・・・・、知らなかったよ・・・・・・」








今日の執務室は殊更騒がしい。
アフロディーテが嘆いている隣では、また違う騒動が起きていた。


「ない!!」
「何だと!?まだ見つからないのか、ミロ!?」
「何処にもないんだ!!大体本当にそんな資料が存在するのか!?」
「あるとサガが言っていたのだ!!何処かにある筈だ!!本当に良く探したのか!?」

資料のファイルを一冊探すのに、ミロとカノンが二人がかりで大騒動していたのである。

「当たり前だ!!俺を疑うのか!?」
「そうは言ってないだろう!!良いからもう一度探して来い!!」
「自分ばかり楽をしようったってそうはいかんぞカノン!今度は俺がこの執務室の中を探しているから、次は貴様が資料室へ行け!!」

こちらもまた例に洩れず、仕事の進み具合は芳しくない。
原因は偏に書類管理の悪さにあるのだが、管理というのは日々の地道な作業があってこそ成し得る事である。
この通り、いざという時になって騒いでも時既に遅し、TOO LATEだ。


「大体資料室の書棚はゴチャゴチャしすぎなんだ!!あの中から物を探せという方が無理だ!!」
「ちょっと待て、資料室はが時々片付けていたんじゃなかったか!?」
「ああ、確かに綺麗に整っている所はあった!だから俺も真っ先にそこを探した!だがその中にはなかったんだ!!」

資料室の中には、ぎっしりと書籍や書類の詰まった棚が幾つもある。
しかも中身が盲滅法に、闇雲に無秩序に詰められた状態で。
それを見かねたが日頃から時間のある時に少しずつ整頓してはいたのだが、何せ量が多い。
従って、全てスッキリと片付けるには未だ至っていなかったのだ。
その上更に、誰か彼かが次々と新たに物を詰め込みに来るのだから、これではいつまで経っても片付く筈がないのである。


「残る大部分はゴチャゴチャの無茶苦茶だ!俺には一人であの中を掻き回す気力などない!!だから次はお前が行け、カノン!」
「なっ、キレるとは卑怯だぞミロ!
「やかましい!無理なものは無理だ!!やる気が出んものは出ん!!
「・・・・・・・・クソッ、分かった、行けば良いんだろう行けば。」

開き直るミロの強引な態度に不本意ながらやり込められたカノンは、諦めて苦い顔をしたまま頷いた。


「だがミロ、お前も来い。俺も探すからお前ももう一度探せ。二人で探した方が幾らかはかどるだろう?」
「・・・・・・・・・良いだろう。但しサボったら承知せんぞ。」
「分かっている!・・・・・・クソッ、てっきりが全て綺麗に整頓してくれたものとばかり・・・・」
「読みが甘かったな、カノン。しかし、一部でも片付けてくれただけには感謝せねばならんだろう。」
「・・・・・それも分かっている。」
俺なら絶対しないぞ、あの書棚の片付けなど。見ただけで気が遠くなりそうだ。抜本的改革が必要な大いなるカオス、知られざる魔窟、沈黙の無法地帯、それが俺の見て来た資料室の実態だ。覚悟しておけよ、カノン。」
そう言われると行きたくなくなってきた・・・・・

仮にも聖闘士最高峰である黄金聖闘士二人は、その栄光と実力が嘘かのような引け腰で渋々資料室へと足を向けた。












そうこうしている間にも、時間は確実に流れていく。
時は全てを解決してくれるものだ。
果てが無いかのように見えていた作業も、時が流れてくれるお陰で無事終わる。
という訳でデスマスクとシュラは今、アフロディーテがようやく作り終えたプレゼントを持って、アテネ市内の孤児院へとやって来ていた。



ところが。



「おじちゃん達だぁれ?」
お姉ちゃんはぁ?」

折角プレゼントを持って来てやったというのに、当の子供達の反応が非常に悪かったのである。
とはいえ、相手は幼い子供達だ。
いつもの優しいお姉さんではなく見知らぬ男がやって来たら、怯えて警戒するのも無理はない。
その辺デスマスクよりも大人なシュラは、子供達の反応にめげず、彼にしては精一杯柔らかく微笑んで言った。


「悪いな、は具合が悪くて来られないのだ。だから今日は代わりに俺達がプレゼントを届けに来た。さあ、一人一袋ずつ持っていけ。」

シュラは、彼にしては精一杯の優しい態度で子供達にプレゼントを配った。
しかし、それでも子供達の様子は変わらない。
プレゼントを受け取りはしたが、あからさまに警戒した顔でデスマスクとシュラを凝視しているのだ。


「チッ、可愛くねぇガキ共だぜ。礼の一つも言えんのか。躾がまるでなってねぇな。」

それにむかっ腹を立てたのはデスマスクである。

「おら、礼を言わないなら返せクソガキャ。」
「あっ!」

デスマスクが目の前にいた子供の手からプレゼントをひったくった瞬間、その子供は見る見る内に顔を歪めて泣き始めた。


「うわああーーーん!!おじちゃん怖いいいーーー!!」
「おじちゃんだと!?誰がおじちゃんだコラぁ!?」
「やめろデスマスク!落ち着け!相手は子供だぞ!」

取り敢えずデスマスクを宥めたシュラは、次に『おじちゃん嫌だ〜!お姉ちゃんが良い〜!』泣いている子供を宥めにかかった。

「えぐっ、えぐっ、お姉ちゃんが良いよ〜〜・・・・・!」
「だからな坊主、は今具合が悪くてな・・・・・」
「うええん・・・・・、お姉ちゃぁ〜ん・・・・・・」
「頼むから泣き止んでくれ、な?」
「ぶわああああん!!!!」

しかし、下手に優しく宥めれば宥める程、子供はヒステリックに泣き叫んだ。
そしてとうとう、シュラの堪忍袋の緒もプチンと音を立てて切れたのである。


やっかましい!!!男がビービービービーいつまでも泣くな!!良いか、は具合が悪くて今日は来れん!!来れんものは来れんのだ!!何度も言わせるな!!これ以上ガタガタ言ったら承知せんぞ!!」
ビエエエエエエーーーーーッッ!!!

その途端、たちまち起こる大号泣の嵐。
鼓膜が破れそうなその騒音で我に返ってももう遅い。最早なす術なしである。


「あ〜あ、皆泣いちまった。」
「うっ、しまった・・・・・!」
「落ち着けよシュラ、相手はガキだぜ。お前が怒鳴るとマジ怖ぇんだからよ、加減しろよ。」
「やっ、やかましい!元はといえばお前が泣かせたのがそもそもの原因だろう!」
「俺のせいにすんなよ!!俺は当たり前の躾をしてやっただけだろうが!!」
「それにしたってやり方と口調がきつすぎるのだ、お前は!!」
「ケッ、テメェに言われたかないぜ!!テメェこそおっかねぇツラで怒鳴りやがって!これじゃ逆効果だろうが!!」

怯えて泣き喚く子供達をよそに、互いの非を責め合うデスマスクとシュラ。
楽しい筈のプレゼントタイムは、この通り悲惨な展開で幕を下ろした。















長い一日が、今ようやく終わろうとしている。
夜に差し掛かる前にほんの束の間訪れる黄昏時、その優しくて何処か切ない時間に良く似合うほんのりと甘い香りが、静かな部屋を満たしていく。


「う・・・・・・ん・・・・・・・・」

柔らかいミルクの香りに鼻腔を擽られ、は薄らと瞳を開けた。


。目が覚めましたか?」
「ムウ・・・・・・・。私・・・・・・・」
「今朝、執務室で倒れたのですよ。覚えていますか?」
「ごめん・・・・・・、迷惑かけて・・・・・・。」

申し訳なさそうに謝ったに、ムウは優しく微笑んだ。


「迷惑をかけていたのはむしろこちらの方です。こんなになるまで貴女に無理をさせてしまいました。どうか許して下さい。」
「やだ、そんな事ないってば・・・・・・。たまたまちょっと体調を崩しただけよ・・・・・。」
「とにかく、過労には栄養と休息が大事です。さあ、これを食べてもう一眠りしなさい。」
「わぁ・・・・・、美味しそう・・・・・・」

ムウが差し出したトレーの上には、細かく切った野菜が沢山入ったミルク粥が湯気を立てて載せられている。
添えられていたスプーンを取り上げ、一口掬って口に入れてから、はほっと溜息をついた。


「美味しい・・・・・・・・」
「良かった。ゆっくりお食べなさい。滋養のつく栄養剤も作っておきましたので、それも食後に。」
「うん。色々ありがと・・・・・。」

仕事の手を止めて、多分ずっと側についていてくれたであろうムウの優しさ、
そして、今日はいつになく執務が忙しい日だったのにも関わらず寝かせてくれた皆の優しさに感謝しながら、は一口、また一口と粥を口に運んだ。



「あ・・・・・、ところでさ。」
「はい?」
「今日の執務って・・・・・、どうなってるの?大丈夫?」
「フ、そんなに心配そうな顔をしないで下さい。治るものも治らなくなりますよ。」

苦笑したムウは、を安心させるように頷いて言った。


「大丈夫、今日はほぼ全員が執務に狩り出されていますからね。あれだけの頭数が揃っているのですから、執務の事は心配要りませんよ。」
「だったら良いんだけど・・・・・。私が休んだせいで迷惑かけてたらどうしようって気になっちゃって・・・・・。」
「フフ、本当に生真面目な人ですね、貴女は。先程カミュが買出しのついでに執務室の様子を見てくると言って出て行きましたから、何でしたら後で訊いてみれば・・・」

と話していたところに、噂をすれば影。
紙袋を抱えたカミュが、ムウとの居る寝室に顔を出した。


「ああ、起きていたのか、。」
「あ、カミュ。お帰り〜。」
「気分はどうだ?」
「うん、お陰様でもう平気。」
「それは良かった。適当に食料を調達して来たから、暫くはこれで買出しに行かなくても食い繋げるだろう。2〜3日は家でゆっくりしていると良い。」
「有難う・・・・・・。何か悪いね、買出しまで行って貰っちゃって・・・・・」
「これしきの事、礼には及ばん。」

取り急ぎ買った物を冷蔵庫に仕舞いに行くのか、カミュは腰を落ち着ける素振りも見せず、紙袋を抱えたまま寝室を出て行こうとした。


「あ、待ってカミュ。」
「何だ?」
「ね、執務室の様子見てきたんでしょ?どうだった、仕事大丈夫そうだった?」
「あ〜・・・・・・・」

心配そうなから何となく目を逸らすカミュの態度から何かを察したムウは、機転を利かせてテレパシーでカミュの頭脳に直接語りかけた。
もしもこの嫌な予感が当たっていれば、はまだ本調子でない身体を引き摺ってでも執務室に行こうとするだろうから。



『で、どうだったのです?』
『いや、一応はどうにかこうにかやっていたぞ。』
『おや、そうですか。それはそれは。』
皆殺気立って、かつ泣きが入りつつだがな。
『・・・・・・やはり。
『サガは『だから定規を使え定規を!』と叫んで定規を振り回しながら目を血走らせてシャカを急かしていたし、アルデバランと老師とアイオリアは刺々しい小宇宙を撒き散らしていたし、アフロディーテは何だか知らんが机に突っ伏してグッタリしていた。』
何ですかそれは・・・・・・・。で、他は?』
『デスマスクとシュラはやたらに機嫌が悪そうだったし、ミロとカノンに至っては姿すら見かけなかった。まさかとは思うが逃げたのだろうか?』
『・・・・・・・・』
『とにかく酷い有様だった。あの様子では恐らく今夜は徹夜だろう。ああそれから、何故かPCのモニターが一台大破していた。
『・・・・・・・・なるほど、良く分かりました。』


一体どういう経緯でそういう状況に陥り、そして今夜中に無事執務が全て片付くのかどうか、
その辺りは一切合財謎に包まれてはいるが。



が居ないと、聖域の執務は回らないという事が良く分かりました。というより、無しでは全くもってお話にならないというか。
『私もそう思う。さっきは余りの酷い空気につい尻込みしてマッハで退散して来てしまったが、やはり私達も後で手伝いに行った方が良いだろうか?』
『・・・・・・流石にその状況では、知らん顔はし難いですしね。』



互いの頭脳にしか響かない溜息をついて、二人はまだ心配そうな顔をしているを見た。





「・・・・・・・・いや、大丈夫だ。この際だからは何も気にするな。」
「そ、そう?」
「ええ。執務が心配なら、まずは身体の回復を最優先に考えて下さい。急がば回れと言うでしょう?」
「?」



ああ
もう君なしではやっていけない。
が元気でいてくれなければ、我々とこの聖域(の執務)は駄目になってしまう。





執務室で、資料室で、の隣で。
居場所や言葉は違えど、黄金聖闘士達は皆一様にの一日も早い回復を心から願ったのであった。

・・・・・・・・かなり必死に。




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後書き

『働き者のヒロインが過労でダウン』というリクエストを頂きました。
私は常に作品を書く時、執務に関してはヒロインが主戦力という設定を念頭に置いておりますので、
今回頂いたリクエストはすんなりとイメージが固まって書き易く、有り難い限りでした。
リクエスト下さった志摩葵様、有難うございました!
少しでもお気に召して頂ければ幸いです。