執務終了時刻をとっくに過ぎているにも関わらず、執務室にはまだ灯りがついていた。
「あーーくっそ、やってらんねえよ・・・・。」
煙草の煙と共に愚痴を吹き出したのは、蟹座の黄金聖闘士デスマスク。
只今残業真っ最中である。
だが、彼は一人ではなかった。
「ぼやいてないで、手を動かしなさいよ手を。」
もう一人の残業人・は、モニターから視線を逸らさずに彼を窘めた。
もっとも、こちらの方は切羽詰っている訳ではない。
溜まった報告書の山に埋もれたデスマスクが、地獄へ道連れとばかりにを足止めしたのである。
仕方なしにその手伝いを引き受けた為の残業であった。
「大体ねえ、マメにちゃんと書いてればこんな事にはならないのよ。分かってんの?」
「へーへー、分かってますよ。感謝しますぜお嬢さん。感謝ついでにコーヒー淹れてきてくれや。本格的に駄目だ。少し休憩しようぜ。」
ぞんざいな感謝だけならまだしも、お茶汲みまで平然と頼むデスマスクに、は閉口してしまった。
「・・・・あんたのその面の皮の厚さ、尊敬するわ。」
「そいつは光栄だ。じゃ頼んだぞ。」
「・・・・ったく、ちゃんと仕事してなさいよ。」
皮肉にも動じるどころか愉しげな笑みを返すデスマスクにすっかり呆れ果て、は執務室を出て行った。
憮然とした口調の割に、実は内心さほど嫌だと思っていない自分に苦笑しながら。
「はい、お待たせー。」
「お、サンキュ。・・・・ん、美味い。」
「そう?良かった。」
差し出したコーヒーを美味しそうに飲むデスマスクに、はついうっかり嬉しそうに微笑んでしまった。
慌ててその笑みを引き締め、誤魔化すようにコーヒーを一口啜る。
しかし、時既に遅し。
その笑顔をバッチリ見ていたデスマスクは、ニヤリと口の端を吊り上げると、の腕をぐいと引っ張った。
「ちょっと、何するのよ!?」
突然引き寄せられ、デスマスクの膝の上に座らされたは、動揺しつつ身体を捩った。
しかし、もがけばもがく程、デスマスクは面白がって拘束する力を強める。
「お前もゆっくり座って休憩しろや。」
「自分の椅子に座るわよ!離してってば!」
「そう遠慮すんなよ。」
「セクハラされたってサガに言い付けるからね!?」
「ほほ〜う、言えるもんなら言って貰おうじゃねえか。」
益々愉しげに笑って、デスマスクはの手からカップを奪ってデスクに置いた。
「セクハラってのはどんな事だろうなぁ?例えば・・・・、こんな事か?」
「あんっ!」
突然耳朶を甘噛みされ、背筋に痺れが走った。
身体の震えも嬌声のような声も、勿論意図して出した訳ではない。
だが、その反応はデスマスクを悦ばせるのに十分すぎるものであった。
「ふ〜ん、お前耳弱いんだな。」
「ちょっと馬鹿な事しないで・・・やっあ・・・!」
今度は耳の穴に舌が差し込まれる感触を感じた。
それは優しくも無遠慮にの耳を這い回る。
デスマスクの見立てに狂いはなく、は否が応にも身体の奥が蕩け始めるのを感じた。
「あふっ・・・、んっ!」
身体を震わせるの顔を自分に向けさせると、デスマスクはその唇を躊躇なく奪った。
温かい舌を絡め取り、甘く甘く吸い上げる。
がすっかりその気になってしまうように。
「は・・・、んぅ・・・・・」
息もつかせぬ程の深いキスのせいで、の力はすっかり抜けてしまっている。
そろそろ頃合いだと踏んだデスマスクは、を抱きすくめていた腕を緩めた。
そして片方を胸の膨らみに、もう片方を太腿へと這わせ、しばし服の上から撫で擦った。
「あ・・・や、駄目・・・・」
「じっとしてろ・・・・」
まだ僅かに抵抗するを窘めると、デスマスクはサマーニットの裾から手を入れた。
そのまま柔肌をなぞり、やがて辿り着いた膨らみを包む下着までもずらしてしまう。
「デス、駄目・・・・・」
「本当か?嫌がってるようには見えねえぜ?」
「あっ!」
デスマスクは既に固くなっている蕾を摘み、ごく緩く捻った。
途端にの身体がびくりと震える。
デスマスクは満足げに喉の奥で笑ってみせ、更にスカートの中にまでも手を伸ばした。
「おー、いい眺めだ。」
デスマスクは、無遠慮にたくし上げたスカートから伸びる白い太腿を見つめている。
その悠長な口調とは裏腹に、既に何も遮るものがない秘所を弄る手の動きは容赦ないものであった。
「はぅッ、あ・・・・、や、あんッ!」
デスマスクの長い指が泉に沈められている。
的確なポイントを突き回されるせいで、既には蕩かされていた。
今更拒むのは難しい。
ただ、やはり場所と状況がどうしても気になる。
いつ誰が入って来るか分からない場所で、しかも急ぎの仕事の最中なのだ。
「駄目、ってば・・・・」
「何がだよ?言っておくが、今更止められねえぜ。」
「誰か来たら・・・・、あぅっ!仕事も・・・・、間に合わなく・・・ひあッ!」
「何だ、そんな事気にしてたのか。」
「あんっ!」
小さな音を立てて指を引き抜くと、デスマスクはようやくの身体を解放した。
だが止めるつもりではないらしい。
当然のようにズボンの前の寛げると、呆然と立ち尽くすに猛り狂った己自身を見せつけた。
「ほら、来いよ。」
デスマスクは、拒む筈などないと信じきっているような、自信に満ちた笑みで誘ってくる。
しかし差し出されたその手を、はまだ掴めずにいた。
僅かに残った理性と羞恥が躊躇わせているのだ。
「だ、から・・・・・・、だっ、駄目だって言ってるでしょ!?」
「何でだよ?」
「何でって・・・・。誰か来るか分かんないし、大体今は残業中で・・・・!」
「じゃあ仕事が終わった後で、ベッドでならいいんだな?」
「なっ!?」
抱かれる事自体は良いんだな、と念押しされているようで、は返答に詰まった。
そんな風に率直に訊かれては、肯定も否定も出来ない。
しかし、戸惑うを、デスマスクは待ってはくれなかった。
「だがなあ、今更治まりがつかねぇんだよ。一回イかねえと仕事する気出ねぇ。」
「そっ・・・、そんなの知ら・・・」
「お前だっていつまでも片付かねぇのは困るだろ?ククッ、早いとこ済ましちまおうぜ。」
「ちょっ・・・・!」
デスマスクは有無を言わさずを引き寄せると、再び自分の膝に座らせた。
そして背中を己の胸板に預けさせると、おもむろにその片脚を抱え上げる。
バランスが崩れそうになるのと秘所が露になる感覚に、は狼狽した。
「いやっ、ちょっと何す・・・・」
「いいからいいから。力抜いてろよ。」
「ああぁっ!」
浮いた腰の隙間から、デスマスクが侵入を果たした。
自重のせいで一気に体奥まで串刺しにされる圧迫感に、は思わず喉を仰け反らせて嬌声を上げた。
それはデスマスクも同じで、己を絶妙に締め付けてくる内壁の心地良さに唸らずにはいられなかった。
「・・・・いい身体してるじゃねえか・・・」
「デスの・・・・馬、鹿ぁ・・・・!まだ、いいって、言ってな・・・・」
「じゃ止めるか?今更お預けなんて辛いんじゃねえ?」
愉しげな口調で図星を突くデスマスクに、はもはやぐうの音も出なかった。
「デスの・・・・馬、鹿ぁ・・・・!!」
「上等だ。・・・・いくぞ。」
悔し紛れのささやかな悪態を嬉しそうに受け取って、デスマスクはの身体を味わい始めた。
「はんっ!あっ、あっ、あんっ!!」
しんと静まり返った執務室に、の切ない嬌声と卑猥な結合音が響き渡る。
ほんの数時間前まで、そしてまた何時間後かには、何人もの人間が執務を行うこの部屋で交わるなど、場違いも甚だしい。
しかしその場違いさが、ひどく淫猥に感じられる。
「やっ!んあっ!あぅっ・・・!」
「もっと鳴いてみろよ、ほら・・・」
「やあぁぁ!!」
両膝を抱え上げられ、の頬に濃い朱が差した。
大胆にも大きく開脚されたその中心からは、恥ずかしげもなく湿った音が聞こえる。
見ようと思えば結合した部分を見る事が出来るその体位は、の羞恥心を十二分に煽った。
「こんな・・・・、やだっ・・・・!」
「クククッ。良い、の間違いだろう?」
自信たっぷりに言い放って、デスマスクはの腰をすとん、と落としてやった。
途端にの身体が大きく跳ね上がる。
「あんんッ!!」
「ほ〜ら、『良い』って言ってんじゃねえか。身体は正直ってやつか?」
「馬・・・鹿ぁ・・・!エロおやじッ・・・・!」
「んだとコラ?『エロ』はともかく『オヤジ』は許さねえぞ?」
「ひああッ!」
デスマスクは再びを抱え上げると、一際奥に届くように腰を強く打ちつけた。
勿論、本気で怒ってなどいない。
悪態への制裁にかこつけただけだ。
悪戯が成功した悪童のような笑顔が、それを物語っている。
「ふぁッ、あっ、ひぅッ!・・・・んくっ!」
「ったく、憎まれ口ばっか叩きやがって。素直に吐けよ。お前俺に惚れてんだろ?」
「ばッ、何言って・・・!やぁっ!」
「往生際の悪い奴だ。今更隠すこたねぇだろが。俺ぁとっくに気付いてんだからな。」
「なっっ!!??」
そう、確かにデスマスクの事は嫌いではない。
むしろ最近は、気になり始めてさえいた。
だからこそ、こんな強引な展開にも甘んじているというものであろう。
だからと言って『はいそうです』とは何となく言えず、は歯を食い縛ってデスマスクの攻めに耐えた。
「くぅッ・・・・・!うっ・・・・!」
「ったく、ホント強情だなお前。まあいいや、じゃあ特別サービスだ。これで返事もし易くなるだろうよ。」
「え・・・・?な、何する気・・・・!?」
突然止んだ律動とデスマスクの不審な発言に、は僅かに顔を引き攣らせた。
すると突然、耳元に低い囁きが吹き込まれた。
「俺はお前に惚れてんだぜ?」
「っっ!!」
吐息の熱さと普段からは想像もつかない真摯な口調に、頭よりも早く身体が反応した。
下腹部がぎゅっと収縮し、デスマスクを締め付けるのがはっきりと分かる。
「うッ!・・・・クッククク、良い返事だ。」
デスマスクの一瞬辛そうに顰めた顔は、すぐに嬉しそうな表情へと変わる。
「ちっが・・・!これは不可抗力で・・・・!」
「まあ今はこれで良しとしておいてやるよ。言葉は後で聞かせて貰うぜ。お前があんまり締め付けるから、もう我慢出来なくなっちまった。」
「や・・・ちょっと・・・、ぃやっ!!」
繋がった身体のまま、突如デスマスクは立ち上がった。
そしてデスクの上にの上半身を預けると、腰を掴んで後ろから激しく突き始めた。
「やっ!だ、め・・・・!あんッ、あっ、あぁん!」
「くっそ・・・・、もう保たね・・・ッ!」
「ああぁーーーーッ!!」
ほぼ同時に達した後も、二人はしばしそのままで互いの温もりを感じ合っていた。
「最低。馬鹿。エッチ。どうすんのよ、結局仕事出来なかったじゃない。」
「まあ何とかなるだろ。」
「何ともならないわよ、馬鹿。スケベ。変態。」
「んじゃ持って帰ってやるよ。それで良いだろ。」
「後は勝手にやんなさいよね。私もう知らないから。」
「おっと待て待て待て。お前も一緒に来るんだよ。美味いメシ食わせてやるから。」
「・・・・・」
「それから、さっきお預け喰らった返事も訊かせて貰わなきゃなんねぇしな・・・・」
「っっ!!」
書類と共に巨蟹宮にお持ち帰りされる事になったは、結局本音を白状させられるのだが。
その方法は、今はデスマスクのみぞ知るところであった。