「アフロは薔薇の花言葉って詳しい?」
「勿論さ。薔薇は僕の半身のようなものだからね。興味があるのかい?」
「うん、アフロの育てる薔薇はどれもとっても綺麗だから。それにすごく優しくて、アフロの人柄そのものみたい。」
君はとても嬉しい事を言ってくれたね。
あの時の笑顔は、薔薇よりも艶やかに見えたよ。
思えばあの時から、私は恋に落ちたんだね。
「おはよう、。」
「おはよう、アフロ。」
「今日はこれを。」
「ありがとう!毎日すごく楽しみなの!」
それから始まった毎日の儀式。
君に毎朝一輪の薔薇をプレゼントする事。
満面の笑みを浮かべて私が差し出した薔薇を受け取る君を見ているだけで、私は満たされる。
丹精込めて育てた薔薇を手折る事も、この笑顔を見るためならば惜しくはない。
「今日は白薔薇ね。」
「さて問題。白薔薇の花言葉は何でしょう?」
「ええと・・・、『純潔』?」
「当たり。でも他の意味だよ。」
「え〜?なんだっけ・・・。薔薇の花言葉って沢山あるからごっちゃになっちゃう。」
「そうだね。色や咲き具合によっても意味合いが違うからね。」
困ったように眉を寄せる君も素敵だ。
君の言う通り、薔薇には沢山の花言葉がある。
もっとも、それを教えたのはこの私だがね。
「ギブアップ。教えて?」
「フフッ、今日の意味は『尊敬』だよ。」
「尊敬!?私尊敬されるような人間じゃないよ?」
君はおかしそうに笑うが、私はいつも君のことを尊敬しているよ。
「そうそう。アフロから貰った薔薇はドライフラワーにしても素敵ね。」
「ドライフラワー?」
「うん。しばらくはこのまま飾っておくんだけど、どうしてもしおれてきちゃうでしょ?だからしばらくしたらドライフラワーにしてるの。これだとずっと飾っておけるから。」
「なるほどね。」
「折角のお花をかさかさにしてごめんね。でも一輪でも捨てたくないから。」
「謝る必要などないさ。そんなに大事に取っておいてくれたんだね。ありがとう。」
君は申し訳なさそうに謝るけど、私は全く怒ってなどいないよ。
むしろ君が私の想いを一輪一輪大事に持っていてくれているのが嬉しいんだ。
もっと私の想いを君の元に置きたい。
だから明日も明後日も、私は君に薔薇をプレゼントするよ。
けれど、いつまで経っても君は私の想いに気付かない。
あまりにも気付いていないから、どうしても贈れない色があるんだ。
「今日は黄色だね。綺麗な色・・・。」
「花言葉を当ててごらん。」
「えと、『友情』。」
「・・・正解。」
「やった!当たった!!」
「今日は特別にもう一輪あげるよ。」
「うわぁ、綺麗なピンク色。これは・・・、『温かい心』?」
「それも正解。さあ、執務に遅れるよ。」
「あ、ホントだ。ありがとう!またね!」
君は嬉しそうに2本の薔薇を手に去って行く。
でもね、本当は2つとも不正解だよ。
君の答え自体は正解だが、私があの2本に託したのは別の意味なんだ。
黄色は『嫉妬』、ピンクは『わが心』。
君が他の男と親しげにする度に、私の心には嫉妬の嵐が吹き荒れる。
そして気付いてもらえないこの心を持て余すのさ。
「最近黄色が多いね。」
「そうかい?黄色い薔薇は嫌いかい?」
「ううん。好きよ。」
君の手元には、もう随分沢山の黄色いドライフラワーが増えたことだろうね。
だって、最近の君はまるで掴み所がない。
花から花へ飛ぶ蝶のように、ふわふわと飛んで行ってしまう。
君にすればただ楽しく遊んでいるだけでも、私からすれば耐え難い事なんだよ。
だからささやかな意思表示のように、私はここしばらく、君に黄色い薔薇ばかりを贈り続けている。
「黄色は友情、ね。」
「・・・そうだね。他には、『君のすべてが可憐』とか、『美』という意味もあるけどね。」
「ありがとう。」
『嫉妬』は黄色い薔薇の有名な花言葉だ。
あれだけ教えたのだから、君が気付かないはずはないだろう。
早く気付いて。
この想いに。
「・・・じゃあ、私そろそろ時間だから行くね。ありがとう。」
「ああ。気をつけて。」
君は一瞬何か言いたげな目をしたけど、そのまま行ってしまった。
その眼差しが曇っていたのは私の見間違いではないだろう。
きっと君は私の気持ちに気付いて、嫌になったんだろうね。
気付いて欲しかったけど、そんな風に顔を曇らせたかったわけじゃないんだ。
ああ、裏目に出てしまった。
こんなはずじゃなかったのにと思うと、我ながら情けなくて悲しくなるよ。
もう君は私の薔薇を受け取ってくれないね、きっと。
「おはよう、アフロ。」
「おはよう、。」
の目が少し赤い。
どうしたんだろうと思いつつも、私はそれには触れずに用件を告げる。
「済まない。今日は・・・」
「私の部屋ね。ドライフラワーが沢山あるの。」
「?ああ、まだ持っていてくれたんだね。」
「少しずつ分けて飾っていたのを、昨夜全部まとめてみたの。」
「それで?」
「色がね。黄色っぽいの。白もピンクもオレンジもあるけど、黄色が目立つの。」
君の言う意味が分からない。
どうしてそんなに悲しそうな顔をするんだ。
悲しいのは私の方なのに。
「我侭を言わせて。私、黄色ばっかりは嫌。」
「・・・・」
いつも私の選んだ花を嬉しそうに何度も礼を言いながら受け取っていた君が、初めて注文をつけた。
目に涙を浮かべながら。
まさか。
「、ちょっと待っていてくれないか。」
君を残して、私は走って薔薇園へ向かった。
そして手にしたものは、鋏と真紅の薔薇。
君に本当に贈りたかった色。
一番見事な状態のものを選び、丁寧に摘んだ。
そして再び走って戻る。
ゆっくり歩いていたら君がいなくなっているかも知れないから。
「今日は、これを。」
恐る恐る差し出したそれを見て、君の瞳から涙が溢れてくる。
「これの花言葉・・・、教えて・・・」
「君を愛している。」
「これ、私が貰ってもいいんだよね・・・?」
「勿論・・・!」
震える手でそれを受け取った君を、私は堪らずに強く抱き締めた。
その途端、君は堰を切ったように嗚咽を漏らす。
「私っ、怖かったの・・・!」
「怖い?何が?」
「黄色い薔薇が、増えていく度にね、嫌われてるんじゃないかって・・・!」
「そんなつもりじゃなかったんだよ。君が他の奴らと楽しそうにする姿に嫉妬してただけだよ。」
「嫉妬?」
「そうさ。恥ずかしいけどね。」
「私、『薄らぐ愛』だと思ってた・・・。だってアフロが私に嫉妬する理由なんてないと思ってたから。好きなのは私だけで、アフロは私の事嫌いなんじゃないかなって・・・」
「薄らぐわけなどないだろう。その逆さ。」
「ごめんね、私試すような事しちゃった・・・。ズルいね。」
「ズルくなんてないさ。謝るのはこっちの方だよ。君を不安にさせていたなんて知らなかった。臆病な私を許してくれるかい?」
「ん・・・」
ようやく渡せた。
本当に贈りたかったものを。
そしてずっと欲しかったものを手に入れた。
これからは毎朝一輪の薔薇と共に心からのキスを君にプレゼントしよう。
今、この瞬間のようにね。