若きアイオリアの悩み




分からない、どうしたらいいんだ?



最近、アイオリアには悩みがあった。



「上がってお茶でも飲んでく?」
「あぁ・・・、じゃあ少しだけ。」
「どうぞ上がって上がって!」


天気の良い休日の午後、と町でばったり会って、そのまま一緒に帰って来た。
屈託のない笑顔に釣られて、部屋へ上がりこんでしまう。
別にこれが初めてというわけではないが、いつもこうして誘われる度に緊張してしまう。

部屋へ呼ばれるということは、俺は好かれているのか?
二人っきりで部屋で過ごすということは、そういう気持ちがあるからじゃないのか?
いやでもそんな意味ではないのかもしれない。
俺が深読みしすぎなのか?


「コーヒーでいい?」
「ああ、ありがとう。」

こじんまりとしたリビングで、差し向かいでコーヒーを飲む。
ほのぼのと世間話に花を咲かせるだけなのだが、内心俺はいつも気が気じゃない。


「それでね、こないださぁ・・・・」

そんな風にじっと見ないでくれ。
の事を意識すればするほど、まともに顔が見られない。
相槌を打つ自分が他人のように感じられる。

こんなに緊張してるのは俺だけか?


「・・・・なんだって。リアはどう思う?」
「え?済まん、聞いてなかった・・・。」
「えー!?・・・どうしたの?何か顔赤いよ?」
「そ、そうか?」
「熱でもあるんじゃないの?」

が身を乗り出して、俺の額に手を触れる。
小さな手の感触を感じた瞬間、更に顔が火照る。

「・・熱はないみたい。」
「と、当然だ!俺は至って元気だ!」
「そう?ならいいんだけど。」

心臓がに聞こえるかと思う程高鳴る。
気付かれていないよな?
俺は気を落ち着かせる為に、コーヒーを飲み干す。


「コーヒーのお代わりいる?」
「ああ、貰おうかな。」
「ちょっと待っててね。」

が空になったカップを持って台所へ向かう。
今のうちに落ち着きを取り戻しておこう。
に聞かれないように、大きく深呼吸する。

よし、もう大丈夫だ。


「いやぁ!!」

台所からの悲鳴が聞こえた。
俺はすぐさま駆けつける。

「どうした!?」
「むっ、虫、虫・・・!!」

はしゃがみ込んで窓辺を指差す。
そちらへ目をやると、少し開けた窓から大きな蛾が入り込んでいた。

「なんだ、蛾じゃないか。」
「追っ払って、追っ払ってぇ〜!!」
「分かった分かった。」

追い払おうと手をかざしたら、窓に止まっていた蛾がの方へ飛んで行く。

「いっやああーー!!!」
「!!」

は涙ぐんで俺にしがみついて来る。
女性らしい甘い香りが鼻をくすぐる。
密着した体の感触が、ダイレクトに伝わってくる。

『俺には今の状況の方が蛾などより余程気になる!』

そう言いたいが、は蛾の飛行にパニックになっている。
内心俺の方がかなりパニックに陥っているのだが、ともかく今は蛾を追い払う事に専念するんだ。
壁に止まった蛾を両手で包んで、窓から外に放す。

、もう大丈夫だ。追い払ったから。」
「ホント!?ホントに!?」
「本当だ、だから・・・、その・・・・」
「ありがとーー!!リアが居てくれて助かったーー!!」

はようやく落ち着いたみたいだが、今度は俺が落ち着きを無くしてしまった。
うっすら涙が浮かんだ瞳に、まだしがみ付かれたままの状態に、ひどく狼狽する。

、済まんが・・・、そろそろ離してくれないか?」
「あ!ごめん!!」

がやっと離れた。
俺はほっと胸を撫で下ろし、手を洗った。

「ありがとうね、リア大好き!」
「なっ・・・!!」

さらりととんでもない事を言わないでくれ!
どういう意味なんだそれは!!
事と次第によっては、大事になるんだぞ!!!

うろたえる俺を尻目に、は呑気に湯を沸かしている。
聞いてもいいのか?・・・、いや、ここは聞いておくべきだ!
そして俺の気持ちも伝えるんだ!!
よし!!!


、あの、その・・・・」
「ん、何?」
「お、俺は・・・・」
「あ、コーヒーばっかり飽きた?紅茶にしようか?」
「・・・あ、ああ、頼む・・・・」

・・・駄目だった。
こんな俺を意気地なしと笑いたければ笑え。


それから後、何を話していたか覚えていない。
気がついたら俺はの家を出て、獅子宮に戻っていた。



「はぁー・・・・」

盛大に溜息をついてソファに転がる。
考えるのは、の事ばかり。
どうにかしてこの気持ちを伝えたいが、肝心なところでいつもひるんでしまう。

もし嫌われていたら?
いやいや、それはないだろう。さっき大好きと言われたじゃないか。

じゃああの意味は何なのだ?
友人としてか、それとも俺と同じ意味か?
でも早合点して告白して振られたら・・・・。
そんな事になったら、もう合わせる顔がない。

デスマスクにでも相談してみようか。
あいつは色事に長けているから、いいアドバイスが貰え・・・るわけないか。
きっと小馬鹿にされるか言いふらされるか、どっちにしてもロクな事になりそうにない。

となると、やはり自分で解決するしかない。
に気持ちを伝えるべきか否か?



分からない、どうしたらいいんだ?



アイオリアの悩みは当分解決しそうもない。




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後書き

片思いに悩むアイオリアを書いてみたくてやってみました。
でもえらい青臭くなっちまいました(笑)。
どうも純情青年なイメージがあったのですが、これじゃ中学生レベルじゃないか、自分(爆)。