今日もあの人は帰って来ない。
もう幾夜、こうして一人寝をしているのだろうか。
幼い頃に引き取られてから、ずっとあの人だけを慕ってきた。
妻になり、少女の頃より一層強い愛を持って尽くしてきた。
なのに、あの人は。
は部屋の外へ出て、庭から月を見上げた。
きっと今頃、愛する人はあの女性と床を共にしているのだろう。
美しく聡明な女性だと聞いた。そして二人の間に姫が居ることも。
は、嫉妬に狂いそうになる醜い心を月の光で洗い流そうとするかのように、いつまでもその場に居た。
「紫の上様。光源氏様がお帰りでございます。」
女房の報告を受け、玄関へ迎えに出る。
そこに立っていたのは・・・・・
「、この子を今日から俺達の子として育てることになった。よろしく頼むぞ。」
「よろしくね、。」
「ええぇぇ!?」
玄関でを待ち受けていたのは、シュラとアフロディーテの二人であった。
「アフロディーテ、今日からこのがお前の母だ。」
「継母などに興味はなかったが、こんな素敵な女性なら大歓迎だ。」
「言っておくが、妙な真似はするなよ。」
「ふふっ、何のことだい?」
呆然と立ちすくむをよそに、淡々と会話する二人。
「、私にここを案内してくれないか?早く覚えたいのでね。」
「え、ああ、うん・・・。」
「おいアフロディーテ、を呼び捨てていいのは俺だけだ。口を慎め。」
「それは悪かったね。じゃあママン、行こうか。」
「ま、ママン!?」
の手を握り、ずんずんと室内へ進むアフロディーテ。
それに対抗したシュラが、反対側の手を掴む。
「ええと、ここが母屋よ。」
「なかなかいい住まいだね。気に入ったよ。」
「当たり前だ、俺が建てたんだからな。」
「調度品の趣味もいい。流石はママンだね。」
「そ、そうかな・・・」
「それで?私の部屋はどこかな?」
「どこでも空いている部屋を使え。」
シュラにそう言われたアフロディーテは、自室を探すべくその辺をうろうろし始める。
片っ端から襖を開けては閉め、部屋の中を確認する。
「ふむ、決めたぞ。ここにする。」
アフロディーテが選んだ部屋は、シュラとの寝室であった。
「駄目だ!!そこは俺達夫婦の寝室だぞ!」
「でもここが一番私の趣味に合うのだ。」
「駄目だ、他所にしろ!」
「断る。誰が何と言おうとここにする。」
「、お前からも何とか言ってやれ!!」
シュラに話を振られる。
「ええ!?何とかって・・・、他の場所はどうしても駄目?」
「ああ、ここがいいんだ。ここで親子水入らずで過ごそうじゃないか。」
「水入らずって・・・・」
「ママンは私が嫌いなのか?やはり私など邪魔なのだね?」
寂しそうに俯くアフロディーテ。
「そ、そんなんじゃないってば!」
「ああ邪魔だ!」
「ちょ、シュラ!!」
「何だと!そもそも君が私をここに連れてきたくせに、随分な言い草だな!」
「夫婦の邪魔をするなと言っているのだ!!」
「子供が母親と共に居て何が悪い!?」
「ちょっとケンカしないでよ!!」
「、下がっていろ。」
「ママン、すぐに片付けるから待っていておくれ。後で二人でお茶にしよう。」
の制止もきかず、小宇宙を高める二人。
「やめてってば!!親子でしょ!?」
「こんな奴、もはや親でも子でもない!」
「それはこちらの台詞だ!」
「は渡さん!!死ね!!!」
「消えてもらうぞ、シュラ!!」
「やめなさいってばーーーー!!!!!」
ガバっと飛び起きて、は叫んだ。
「あれ?」
「どうしたんだい?夢でも見たのか?」
「そう、みたい・・・。」
「随分ぐっすり眠っていたよ。きっと疲れが溜まってるんだ。」
アフロディーテは温かいお茶を淹れてに差し出した。
「来るなり眠ってしまうから、私は退屈だったよ。」
「ごめんね、ここのソファ座り心地良くってついうとうとと・・・・」
「ふふ、お褒めにあずかって光栄だよ。」
「起きたか、。ちょうど晩飯が出来たぞ。食事にしよう。」
シュラがエプロンを着けたまま台所から出てくる。
「私ずっと寝てた?」
「ああ、軽く2時間は寝てたな。」
「嘘!?起こしてくれて良かったのに。」
「あんまり気持ち良さそうに寝てるから、起こすのが忍びなくてな。」
「まるで子供のような寝顔だったよ。ところで何の夢を見ていたんだい?」
「え、何だっけ、忘れちゃった・・・。何か二人が出てきたような気がするんだけど・・・・」
「それは光栄なことだな。」
「そんなに俺に惚れているのか?」
「なっ、そ、そんなんじゃないってば!!」
「ははっ、そうムキになるな、メシにするぞ。もうそろそろデスの奴も来るだろ。」
今日もまた、賑やかな夜になりそうである。