源氏『夢』物語 其の六




「よく来たな。さあ入れ。」
「お邪魔しまーす♪」
「おーっす、!今日も執務ご苦労!!」
「お疲れ様〜!」


執務が終り、 は宝瓶宮に寄り道していた。
カミュが手料理を振舞ってくれるからとミロに誘われたのだ。
テーブルには既に素朴な感じのする料理が所狭しと並べられており、後は食べるだけになっていた。


「うわー、おいしそー!!」
「大したものじゃないが量はある。遠慮しないで食べてくれ。」
それは私の台詞だ。お前が言うな、ミロ。」
「ありがとー!いただきまーす♪」

3人でにぎやかに食卓を囲み、食事を始める。

「おいしー!ボルシチって初めて食べたー!!」
「そうか?口に合ったようで良かった。」
だからそれは私の台詞だ、ミロよ。」
「カミュって料理上手だね!さっすが弟子を二人も育てただけあるね。」

に褒められて満更でもない様子のカミュ。

「それほどでもない。必要最低限しか出来ないさ。」
「またまたご謙遜〜。今度私にも作り方教えてよー。」
「こんな物でいいのならいつでも。」
「ミロは?いつもご飯どうしてるの?」

話を振られたミロは、食べる手を止めての方を向く。

「俺?俺はカミュやデスにたかってることが多いかな。」
「自炊しないの?」
、ガツンと言ってやってくれ。私がいくら教えてやると言っても、面倒臭がって覚えようとしないのだ、この男は。」
「あらら。出来ないよりは出来た方がいいよー、ミロ。」
「うぅむ・・・、ならが教えてくれよ。」
「いいよー。私も大したもん作れないけど。」

と二人っきりになりたいミロは、の返事を聞いてテーブルの下でガッツポーズを作る。

「いいんだ。君だとミロが甘えてしまうからな。私が厳しく躾ける。

と絶対零度の凍気を撒き散らし、ミロを睨みつけるカミュ。
子供扱いされて腹を立てたミロが、人差し指の爪を伸ばして睨み返す。

「何だと〜!保護者面はよせ!」
「そのようなものだ。お前などこのカミュにしてみれば子供同然!」

今にも千日戦争を始めそうな勢いの二人。
カミュの凍気が、リビングを急速な勢いで冷やしていく。
あまりの寒さに、はもはや声も出ない。

「よくも言ったな、この弟子馬鹿が!!知ってるか?こいつこの間、氷・・・」
黙れ!!オーロラエクスキューション!!!

に聞かれたくない事を言われそうになったカミュが必殺技を繰り出した。
ミロは紙一重でそれを避け事無きを得る。しかし無事でない者が約1名。

「あれ?!?おーい!!しっかりしろ!!寝るな、寝たら死ぬぞ!!
!起きるんだ、!!」
「カミュ!お前が必殺技なんかぶっ放すから、が巻き込まれたじゃないか!!どうすんだコレ!!」
ーー!!!」





寒い・・・・。
ここはどこ?


足音が聞こえる。
誰かに抱き上げられ、どこかに連れて行かれる。
温かい。どうやら屋内のようだ。
パチパチと火の粉が爆ぜる音が聞こえる。


「ん、うぅ・・・・・」

は薄らと目を開けた。

「気がついたか?もう大丈夫だ。」
「私・・・」
「驚いたぞ。シベリアの氷原にそんな格好で倒れていたからな。どこから来たのだ?」

は自分の服に目をやった。
普段着ている洋服ではなく、何故か平安時代の直衣姿であった。

「えぇと、日本、かな・・・」
「ほう、それはまた遠い所から。何もないがゆっくりしていけ。」
「ありがとう。あの、あなたは・・・?」
「私か?私はシベリアの入道だ。ここらではカミュという名で通っている。君の名は?」
「私はです。」
「そうか。、私の子を紹介しよう、ミロ、ミロ!こっちへ来なさい!」
「何だよ、今いい所なのに・・・。」

ぶつぶつ文句を言いながら出てきたのは、金髪の好青年であった。

「ミロ、客人のだ。挨拶しなさい。」
「珍しいな、客なんて。俺はミロ。よろしくな!」
です。よろしく、ミロ。」
「おかしな格好してるな。どこから来たんだ?」
「日本よ。」
「へー!俺一度行ってみたいんだよな、日本!!」

ミロの顔が輝く。

「こんなクソ田舎で毎日退屈でさ。帰る時俺も連れて行ってくれよ!」
「ミロ、を困らせるんじゃない!」
「いいじゃないかー!なあ、連れて行ってくれよー!!」
「私は別に構わないけど・・・。」
「ほらもいいって!なあいいだろ、カミュ?」
「ううむ・・・。確かに願ってもない縁談だが・・・。」

カミュの考えは、やミロとは少々違っているらしい。

「そうだな、ミロもいい年だ。そろそろ頃合かもしれんな。、私からも頼む。ミロを貰ってやってくれないか?
えーー!!??何でそうなるの!?」
「このミロには、都会の若者に決してひけをとらない教育を施してきたつもりだ。きっと君の相手として立派にやっていけるだろう。」
「いやそういう問題なの?」
、俺をナメてもらっちゃ困るぜ?俺の腕を見せてやる!!」

言うが早いか、ミロはキッチンへ駆け込んだ。
しばらくして、奇声や爆発音など有り得ない音が聞こえてきた。
不安になる

「カミュ、なんか大変なことになってるんじゃないの?」
、手出しは無用。これも修行だ。」

音が止んで、ミロが鍋を手に戻ってきた。
誇らしげにテーブルの真ん中に鍋を置く。
蓋を開けてみると、シチューのような物体がなみなみと入っている。
ミロは甲斐甲斐しくそれを皿によそって、に差し出した。

「さあ食ってくれ!俺の自慢の料理だ!!」

言われるまま、は料理を口にした。


!@!?&%#★△*?!

慌ててコップの水を一気飲みする

「げほっげほっ!」
「大丈夫か、!?ミロ、お前はまだボルシチもまともに作れんのか!一体何度教えたと思っている!!」
「うるせー!!ちょっと失敗しただけだ!だいたい俺は料理より編み物の方が得意なんだ!!」
「編み物?」
「おう!ちょっと待っててくれ!」

そう言ってどこかへ行くミロ。
すぐに何かを手に戻って来た。

「見てくれ!まだ編みかけだがなかなかのものだろう?」
「・・・これは、ナニ?」
レッグウォーマーだ!カミュにプレゼントしようと思ってな。」
「・・・ミロ・・・!」

感極まって滝涙を流すカミュ。
しかしミロがレッグウォーマーだと言う物体は、の目には腹巻にしか見えない。

「・・・・・;」
!ミロはこの通り心根の優しい奴なのだ!確かに料理は下手かもしれん。そそっかしい所もある!しかしそれを補って余りある優しさを持っているのだ!!」
「カミュ・・!そこまで俺の事を・・・!!」
、決して損はさせん!今ならトイレットペーパー1年分も付ける!!どうか貰ってやってくれ!!」
、俺頑張るから!!連れて行ってくれ!!」

ミロがを力いっぱい抱きしめる。

「ぐっ、ミロ、苦し・・・、アバラ折れる・・・!!」
「頼む、!!」
「し、死ぬ・・・!」
!!」
!!!」





!!」
「く・・・、苦しい・・・!」
「おお!気付いたか、!!」

はミロの腕の中にいた。
部屋には山ほどストーブが焚かれている。おまけにを抱いたミロは何枚も毛布を被っている。

「カミュ!が気付いたぞ!!」
「そうか!!良かった、一時はどうなることかと・・・。」

息苦しさに耐え切れず、はミロの腕から這い出した。

「私どうしたの?」
「我々の巻き添えを喰って凍えてしまったのだ。済まん、。大丈夫か?」
「うん、もう平気。」
「ごめんな、。ついカッとなって・・・・」
「もういいよ。大丈夫だから。」

きっと必死で自分を蘇生させようとしたのだろう。二人とも汗びっしょりになっている。
部屋の室温も暑いぐらいで、さっきまで凍死しかかっていたのに、もう汗が噴き出ている。
特に足元が熱い。裸足になりたいぐらいだ。


「ん?足??」

は自分の足を見てみた。
ふくらはぎにレッグウォーマーが装着されている。

「カミュ、これ・・・」
「ああ、それは私のだ。足元を温めなければ身体も温まらんからな。」
「・・・・そう、ありがと・・・・。これまさかミロが編んだんじゃないよね?」
「何言ってんだ?俺が編み物なんか出来るわけないだろ。」
「そ、そうだよね。ははは。」

とりあえず、今度からこの二人がケンカを始めたら全力で逃げよう。
は、暑くてのぼせ始めた頭でぼんやりとそう思った。




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後書き

今回は源氏テイストが薄めでした、というかほとんどありません(汗)。
一応明石のお話です。光源氏=ヒロイン、明石の入道=カミュ、明石の君=ミロとなっております。
しかし舞台からして違います(笑)。もはや源氏物語でも何でもないですね(死)。