窓からさんさんと太陽の光が降り注ぐ。
昼食後の にとって、この陽気は致命的なものであった。
僅かな抵抗も空しく、ふわふわと羽が舞い落ちるように、は、夢の世界へと旅立った。
気だるい午後の時間。
は、一人閉め切った部屋の中に居た。
本来なら務めの最中であるはずなのに、こんな誰も来ない場所で佇んでいる。
仕事に戻らなくては。でも・・・・・・
「待たせたな、。」
ふいに障子が開いて、男が中に入ってきた。
「カノン!」
「済まんな。抜け出すのに手間取ってしまってな。」
カノンは障子を閉めると、の腰を抱き寄せて額に口付ける。
「誰かに見つからなかったか?」
「うん、多分。」
「俺達のことが露見してしまったからな。前にも増して用心せねば。」
「え!!バレてるの!?」
「何を今更。我らの逢瀬を目撃した輩が既に数人いるだろう。幸いまだ兄貴やお前の親父には見られていないがな。」
大したことではないという風な口ぶりのカノン。
部屋の隅に置いてあった敷布を、部屋の真ん中に敷く。
「じゃ、じゃあここじゃマズいんじゃないの!?いつ見られるか分かんないじゃない!」
「そういうのもスリリングだろ?」
焦るに、カノンはニヤリと笑って手招きをする。
それに応じて、はカノンの側へと歩み寄った。
「スリリングじゃ済まないでしょ!しかもまだ昼間なのに・・・」
「何だ、後悔しているのか?俺との事。」
「そんなんじゃ・・・・」
「そうだな、俺とこんな事になったせいで、お前は兄貴の正式な妃になりそびれたんだからな。お前の未来を奪った俺が憎いか?」
寂しげな顔で問うカノンに、は心が痛んだ。
「憎いなんて。そんな事ないってば。別に女御になれなかったからってどうってことないわよ!」
「本当か?」
「勿論!務めもやりがいはあるし、妃になることだけが人生じゃないわよ。」
「そうか、それを聞いて安心した。」
ほっとしたように笑いかけるカノンの手を、は安心させるように握った。
カノンは、自分の手を握るを引き寄せて、耳元に囁きかける。
「俺は、お前の女の幸せを奪ってでも、お前が欲しい。誰に何と言われようとな。」
「カノン・・・・」
激しく自分を求めるカノンに身を委ねる。
帝とカノン、二人の男の愛を受け入れる自分を卑怯だと思う。
そうと分かっていても、今のにはこの自堕落な愛を貪ることしか出来ない。
二人の身体が、敷布の上に折り重なろうとしたその時。
スパーン!!!
「カノン!!!!お前達は・・・!!」
障子が凄まじい勢いで全開する音と共に中に入ってきたのは、アルデバランとサガであった。
「げ、サガ。」
「アルデバランまで・・・!!」
バツの悪そうなカノンと、うろたえる。
サガとアルデバランは、ズンズンと二人の前まで歩み寄る。
は乱れた襟元を、慌てて直した。
「!!お前という娘は・・・!まだこの男と逢瀬を重ねていたのか!」
「ア、アルデバラン、あの、私・・・」
「黙りなさい!帝、申し訳ございません、全て父であるこのアルデバランの不徳の致すところ。何とお詫び申せばよいのか・・・」
「アルデバラン、貴殿が謝る必要はない。」
サガは土下座して謝るアルデバランに頭を上げるように促し、に歩み寄る。
「。私の事が嫌いか?私はこんなにもお前を愛しているのに。」
「そんな・・・・・!」
「いや、皆まで言わずとも良い。どうせ私の思いが通じることはないのだろうからな。」
悲しげな顔で言い放ち、今度はカノンに向き直るサガ。
髪が黒くなり、に向けた顔とはまるで別人のようになっている。
「黒くなりやがった・・・・」
「カノン、貴様という男は・・・!貴様が全ての原因なのは分かっている!!」
「ふっ、貴様が不甲斐ないのが悪いのだ。惚れた女の一人も物に出来ぬとはな。」
「ほざけ!!貴様がいると全てが狂う!!今度という今度は許さんぞ!!!」
「ほう、ならばどうする気だ?」
「二度と戻って来れないようにしてくれる!くらえ、アナザー・ディメンション!!!」
「くそっ、返り討ちにしてやる!ゴールデントライアングル!!!」
サガに応戦するカノン。しかし激怒したサガの技が僅かに早く決まり、異次元へと飛ばされた。
「もはや二度とあの男に会うことはあるまい。清々するわ。」
カノンの消えた方を見て、ニヤリと笑い、再びの方を向く。
「。お前もただではおかんぞ。この俺を愚弄した罪は重い。」
「な、何する気・・・?」
「フフフ、どうしてくれようか。」
怪しげな笑を浮かべて、の顎を持ち上げるサガ(黒)。
恐怖したは、アルデバランに助けを求める。
「アルデバラン!た、助けて!!」
「自分の始末は自分でつけるんだ、。骨は拾ってやる。」
「そ、そんなーーー!!」
「安心しろ、殺しはしない。そうだな、もう二度と誰の目にも触れぬよう、スニオン岬にでも閉じ込めてやろうか。」
「えーー!!??」
「スニオン岬が嫌なら、デスクイーン島かシベリアか。せめてもの情けだ。お前に選ばせてやろう。」
「どれも嫌ーー!!!」
「ならば死ぬか?」
の肩を掴むサガ。
「そ、それはもっと嫌ーーーー!!!!!」
「、!!」
「はっ、イヤーー!殺さないで!!」
は、肩を掴むサガの手を払いのける。
「どうしたんだ?」
「・・・、あれ?」
「全く、執務中に居眠りしてうなされるとは。」
苦笑するサガ。
「どうした?寝不足か?随分と気持ち良さそうに眠っていたが。」
「ぅぅ、済みませんでした・・・・」
「では眠気覚ましにちょっと出掛けてもらおうか。」
「え!?デスクイーン島とかじゃないよね・・?」
先程の夢を思い出し、怯える。
「そんな所へ行かせるわけないだろう。ロドリオ村までこれを届けてきてくれないか。」
「あ、はい、了解・・・。良かった、てっきり左遷かと・・・・」
「どんな夢を見たんだ・・・。では頼んだぞ。」
「はーい、行ってきます。」
サガに預けられた荷物を持って、ロドリオ村へと急ぐ。
道を歩きながら、もう二度と執務中に居眠りはするまいと、固く心に誓った。