「。ちょっとここへ座りたまえ。」
「何?」
午後の休憩の時間、いきなりシャカに呼び止められた。
「最近、何やら皆に物語を語って聞かせているそうではないか。」
「ああ、あれのこと?語って聞かせるってほどでもないんだけど。」
「何でも日本の古典らしいではないか。あのような風流を解さない連中には馬の耳に念仏だ。
さぁ、このバルゴのシャカならば相手に不足はあるまい。とくと語りたまえ。」
要するにの話を聞きたいだけなのだが、どうも素直な表現が苦手らしい。
は、シャカの回りくどい態度に苦笑しながら了解した。
「何の話だ?私も混ぜてくれないか。」
休憩室に入ってきたサガが、シャカとに声を掛けた。
「どうぞどうぞ。あ、話の前にお茶入れるね。」
と言って席を立つ。
「・・・・・・。」
「何だシャカ?」
「・・・・・・いや別に。」
折角のとの語らいに邪魔が入り、 少々むくれ気味のシャカ。
サガもシャカのその気持ちは良く分かる。自分も同じであるからだ。
「と二人きりになんぞさせるか」
二人の間に、見えない火花が飛び散る。
「はいはい、お待たせ。じゃあ話始めていい?」
「うむ、早くしたまえ。」
「ああ、頼む。」
が話し出したのは、源氏物語の主人公・光源氏のことについてであった。
「・・・・でね、左大臣の娘である『葵』を正妻に迎えるんだけど、年上で気位の高い彼女となかなか打ち解けられないのよ。」
「ほう、いわゆる『仮面夫婦』というものだな。」
「なぜそんな言葉を知っている、シャカ?」
の話に相槌を打つ二人。
「でね、彼には『六条御息所』って名前の第二の妻というべき存在の女性がいるの。これまた年上で、前の皇太子のお后だった人なの。
一人娘を抱えて早くに未亡人になっちゃったのよね。その人と正妻の確執があるのよ。嫉妬に狂った六条御息所が生霊になって
葵の上に取り憑くのよね。やっとだんだん打ち解けてきて、子供も生まれたのに、葵の上は生霊に苦しめられて亡くなるの。」
「それは気の毒な。まだまだこれからという時であろうに。」
「ふむ。女の嫉妬は恐ろしいものなのだな。」
「そうよね〜。光源氏も女の怨念の凄まじさに愕然とするのよ。」
「何と勝手な。全て身から出た錆ではないか!」
「煩悩に塗れた男であることは間違いないな。」
「うん。生々しいぐらい煩悩が描かれているもん。」
「元来、男女の仲というのは・・・・・・」
話はいつの間にか、『男と女の煩悩について』へと逸れていった。
その夜。
は(またしても)夢を見た。
奥の部屋で誰かが寝ている。
祈祷師が悪霊祓いの祈祷を行っている。
「源氏様!葵の上様がお呼びです!」
正妻付きの女房がを呼んでいる。
奥の部屋へと入り、床に伏しているその人を見る。
「ふむ。よく来たな。。」
「シャカ!!」
「こやつがお前を出せと煩いのでな。」
「誰のこと?」
シャカの指差す方に目をやれば、そこにはなぜか白い三角布を頭につけたサガがいた。
今にも掴みかからんとするサガの身体を、祈祷師の格好をした老師(じぃさんバージョン)が押さえ込んでいる。
「!!私はもう用済みだと言うのか!?」
「サガ!?」
「、きっぱり言うがいい。もはやサガなどに用はないと。」
「え?え?どういうこと??」
「用無しなのは貴様の方だ、シャカ!!貴様など所詮形だけの妻であろうが!!」
サガのその台詞に、シャカが立ち上がり、目を見開く。
「ふっ、負け犬の遠吠えは見苦しいぞ、サガ。は私を選んだのだ。」
「そのようなはずはない!お前より私の方が遥かにを愛している!!」
「年上のバツイチが何をたわけたことを。にはお前などふさわしくないのだ。」
まさしく正妻と愛人の修羅場。
なす術もない。
「お主らいい加減にせんか!が困っておろうが!」
「老師はお下がり下さい!このサガ、だけは譲れませぬ!!私の方がを愛している!お前などには絶対渡さんぞシャカ!!」
「それはこちらの台詞だサガ!第一我らの間には子まである!お前の入り込む隙などない!!」
「そんなもの何の役にも立たぬわ!私の愛が必ず勝つ!!」
「くどい!を愛しているのはこのシャカなのだ、サガよ!!」
「止めいと言うておろうが!!」
老師の力を持ってしても止められないシャカとサガ。
とうとう老師の身体を跳ね飛ばし、サガがに詰め寄ってくる。
シャカもまたの前に立ちはだかる。
「よ、お前はどちらを選ぶのだ!?」
「はっきりさせたまえ、!」
「「さあ!」」
「さあ!・・・って・・・、そんなこと言われたって・・・・」
凄まじい二人の剣幕に、泣きそうになる。
「よかろう、ならば選ばずに済むように、この場でシャカを葬り去ってくれるわ!!」
「地獄へ落ちるが良い!サガよ!!」
の目の前で必殺技を繰り出す二人。
否応なしに巻き込まれる。
「いやっ、ちょっと!!危ない、やめて、やめてーーーーーーー!!!!」
「ーーーー!!っは・・・・、ハァ〜〜〜〜、またこんな夢・・・・・。」
爽やかな朝であるにも関わらず、の寝覚めは最悪であった。
「なんで最近こんな変な夢見るんだろ?疲れてんのかな?」