ここはギリシャの首都・アテネ。
往来を多くの人が行き交っている。
人の波にまぎれて、金髪の痩身の男性と日本人らしき女性が歩いて行く。
その二人は、サガに使いを頼まれたシャカと であった。
「ぅあ〜、お腹空いた・・・・。」
腹の虫が鳴らないように、お腹を押さえて歩く。
「ふむ、そんなに空腹かね。」
「もうダメ。何か食べなきゃ一歩も歩けない。」
「全く・・・。よかろう、ならば昼食としよう。」
シャカの呆れたような口調を気にもとめず、昼食にありつけると大喜びする。
「やったーー!!何食べようかなー?シャカは何がいい?」
「私は何でも良い。」
「うーん、どうしよう・・・。タベルナ(大衆食堂)にしようか、・・・あ!!!」
「何だね、大声で・・・・・・」
シャカは、の指差す方に目をやった。
そこには、世界的なハンバーガーショップ・マクドナルドの看板があった。
「マクドナルドーーー!!うわー!!こっちに来てからずっと食べてなかったんだよねー!ねぇシャカ、あれでいい?」
「構わん。君の好きにするがいい。」
『マクドナルド』なるものが何なのか知らないシャカは、に引っ張られるまま、そこへと向かった。
店の前に着き、中を覗いてみる。店内は昼食時のせいか割合混雑していた。
「座る場所確保しておかないとね。シャカ場所取りして待っててくれる?注文嫌でしょ?」
「何故だね?」
「いやぁ、何となく。そんな感じがするなぁ、と・・・」
「君はこの私を誰だと思っているのだ。注文ぐらい出来る。君が待っていたまえ。」
「そう?じゃあお願いします。」
「うむ。任せたまえ。」
大丈夫かなぁ、と一抹の不安を覚えつつ、はテーブルの方へと歩いていった。
レジの前に立つシャカを、若そうな店員が笑顔で迎える。
「いらっしゃいませー!こちらでお召し上がりでしょうか?」
「うむ。」
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「何があるのかね?」
「こちらがメニューになっております。」
メニューを差し出され、それに目を向けるシャカ。
様々なハンバーガーやドリンクの写真が載せられている。
それだけでも目移りするのに、「○○セット」なるものがいくつも存在し、何が何やら分からなくなる。
シャカはだんだん苛立ってきた。
「君!この品書きは何故このように解り辛いのだ!」
「は、はぁ・・・、申し訳ありません・・・・。」
「これとこれはどう違うのだ、全く同じではないか!!」
ハンバーガーとチーズバーガーを指差して激昂する。
「こちらはチーズ無しのハンバーガーで、こちらがチーズ入りのハンバーガーなのですが・・・・」
その剣幕にビビッた店員が、縮こまりながら説明する。
「それにこの何とかセットとは何なのだ!!どれも似たようなものばかり・・・・!」
「それはハンバーガーにドリンクやサイドメニューがついたお得なものでして・・・・」
「何故こんなに種類がある!?」
「それはメインのハンバーガーが全て違いまして・・・・」
シャカの詰問に、声が小さくなっていく店員。
大体分かってきた(※本人はそう思っている)シャカは、ここらで勘弁してやろうと気を取り直す。
「まあ良い。ならばこのセットとやらを貰おう。」
「はい、有難うございます・・・・。ではこちらからドリンクをお選び下さい。」
ドリンク欄を見れば、またしても同じような品名の羅列である。
苛々しながら、シャカは『アイスティー(L)』の文字を指差す。
「ドリンクをLサイズにされますと、セットの金額が0.5ユーロアップしますが、宜しいでしょうか?」
また訳の分からないことを言われて、再び激昂するシャカ。
「何故だね!?君がここから選べと言ったのではないか!」
「え、あの、セットのドリンクはMサイズでして、サイズアップする場合は料金も少々アップするようになっておりまして・・・・」
またもやシャカの逆鱗に触れた店員が、半泣きになりながら説明する。
「とにかく、これだと言ったらこれだ!!」
アイスティーのLサイズで良いと主張するシャカ。
「・・・有難うございます・・・・、以上でよろしいでしょうか?」
「いや、まだだ。」
の分を注文しなければならない。とはいえ、もうこれ以上煩わしいのは嫌だ。
「同じものをもう一つだ。」
「ドリンクは・・・・」
「同じで良いと言っている!!」
「はいーー!!で、では以上で・・・?セットをご注文の方に限り、サイドメニューもお得になっておりますが・・・・」
涙目になりながらも、営業を忘れない健気な店員。サイドメニューをシャカに勧める。
「ふむ、サイドメニューとは?」
「こちらのナゲットやデザート類でございます。」
「は甘いものが好きだったな。ではこれとこれを貰おう。それからそれもだ。」
「有難うございます。では以上で?」
「うむ。」
「恐れ入ります・・・・、ではお会計を・・・・・。」
精も根も尽き果てた店員に代金を支払い、受け取ったトレーを持っての姿を探すシャカ。
「あ、シャカ!こっちこっち!!」
「待たせたな。」
「ううん、ありがとうね、面倒だったでしょ?」
「うむ。だが大したことはない。」
「さあ食べよ食べよ♪」
「うむ。私に感謝して食べたまえ。」
「はいはい、有難うございます、おシャカ様。」
二人が食べ始めようとしたその時、店員がもう一つトレーを持って現れた。
「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ。」
「何じゃこりゃーーーー!!!?」
が驚くのも無理はない。
後から来たトレーの方には、サイドメニューの山。
二人で食べるには多すぎる。
「ちょ、こんなに注文したの!?」
「うむ。君は甘いものが好きだろう?」
「だからって・・・。しかもドリンクLだ・・・・。こんなに飲めないよーー!!」
「君は空腹なのだろう?」
「そうだけど、それでも限度ってもんが・・・・。あーあ、どうすんのコレ・・・・・」
途方に暮れる。
「さぁ、とにかく食べたまえ。」
「・・・・頂きます。」
「うむ。」
覚悟を決めて食べ始める。シャカも淡々と目の前のものを口に運ぶ。
は決して小食ではないが、やはりこの量は多すぎる。
全体の半分にも満たない量で限界に達したが、シャカはその細い体のどこに入るのかというぐらいよく食べた。
お陰でどうにか全て片付けることが出来、膨らんだお腹を抱えて店を出た。
「・・・もう無理。水も入らない・・・・」
苦しそうにお腹をさする。
「そうかね?口程にもない。あれほど空腹だと騒いでいたのに。」
「限界ってもんがあるでしょ・・・・」
対照的に、シャカは平然とした様子でスタスタと歩く。
「しかし、なかなか悪くはないな、マクドナルドとやらも。」
「え?もしかしてマクドナルド初めてだったの?」
「うむ。」
「・・・だから注文失敗したのね。」
「失敗などしていない。」
「いや、あれは明らかに・・・・。」
自分のオーダーにミスはなかったと本気で思っているシャカ。
「また来ても良いな。」
「・・・・もう当分遠慮する・・・・。」
マクドナルドが意外と気に入ったらしいシャカ。
しかし、今日だけで向こう半年分ぐらい食べた気のするは、シャカの申し出をげんなりと断った。