そういえば、あの時からおかしかったんだ。
「、次の日曜日久しぶりに出掛けないか?」
「次の日曜・・・・、ごめんちょっと用があるの。」
「そっか、俺も付き合おうか?」
「ごめんね、ちょっと一人で行きたいとこなの。」
「ちぇっ、俺は置いてきぼりかよ。」
「本当ごめん!お土産買って来るから許して?」
「別に土産なんかいいからさ、早く帰って来いよ。が居ないと俺寂しいからさ。」
「うん、なるべく早く帰って来る。」
いつもどこに行くにも一緒だったのに、あの日は一人で出掛けた。
寂しいのは本当だったけど、俺はそれ以上特に何も考えてなかった。
何であの時、おかしいと思わなかったんだろう。
「、帰ってるか?」
もう夜も更けた頃、俺はの家に行った。
でもは風呂に入っていたらしく、リビングに居なかった。
仕方がないから俺はが風呂から上がるまで待とうと、ソファに腰掛けた。
ふと目に留まったのは、茶色い革の手帳。
俺がに贈った初めてのプレゼント。
勘だったのか只の好奇心だったのか、俺はそれを開いて中を見てしまった。
見なければ良かった。
こんなもの、プレゼントしなければ良かった。
気がついたら俺は、自分の宮に戻って来ていた。
まさか、まさか。
俺は必死で自分に言い聞かせた。
でもへの不信感は、後から後から湧いてくる。
手帳には、の字じゃない走り書きのサインと電話番号が書かれていた。
サインは明らかに男の名前で、俺の知らない奴だった。
そんな関係じゃない、きっと友達だ。
『友達ならどうして俺に黙ってるんだ?』
今日だって別にこいつと会ってたと決まった訳じゃない。
『きっとそうだ。こいつと二人で会ってたんだ!』
どんなに信じようとしても、猜疑心が邪魔をする。
どうしてなんだ、?
どうして・・・・
「なあ、明後日は休みだったよな?」
「うん、そうだよ。」
「なら一日中俺と居れるよな?」
「うん。そのつもりだったけど?」
「そ、そうか!そうだよな!」
「何?どうしたの?何か変よ、ミロ?」
「いや、何でもない!ちょっと聞いてみたかっただけなんだ!」
「変なミロ〜。」
ほら、いつも通りじゃないか。
やっぱり俺の取り越し苦労だったんだな。
俺の様子をおかしそうに笑い飛ばすの笑顔に、俺はホッと安堵した。
なのに。
「久しぶりに明日は二人で飲みに行こうぜ。」
「あ、ごめん。明日無理になっちゃった・・・・・」
聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、は明日の予定をキャンセルした。
その途端、それまでの上機嫌が一気に吹き飛び、再び猜疑心が芽生える。
「何でだよ。執務は休みだろ?」
「うん、でもちょっと急用が出来て出掛けなきゃいけないの。ごめんね。」
そう言って、は俺から目を逸らす。
やっぱりそうなんだな。
明日もあの男と・・・・
「ごめん、怒ってる・・・よね?」
はバツが悪そうに俯いて謝る。
謝らないでくれ。
俺は謝って欲しいわけじゃないんだ!
「・・・急用って何だよ?」
「何でそんな事聞くの?」
「気になるから。教えてくれよ。」
「・・・・急に友達と会うことになったの。」
「友達って誰だよ?」
「ミロの知らない人よ。」
「紹介してくれよ。俺も一緒に行く。」
「どうして?何疑ってるの!?」
の顔が段々険しくなってくる。
でもきっと俺の顔は以上に険しくなっている。
疑いもするさ。
お前が明日会うのは友達なんかじゃないんだろ?
「明日誰と会うんだよ?言えよ。」
「いい加減にして!そんなに私信用ない!?」
「あるわけないだろう!だって俺は・・・!」
「何?何なの?」
手帳を見たなんて言えない。
そんなみっともない事をしたなんて知れたら、は完全に俺から離れてしまう。
「・・・悪いけど、私これで帰るね。明日早いから。」
冷ややかな言葉を投げつけて、は帰って行った。
「くそっ!!」
一人になった部屋で浴びるように酒を呷り、俺はそこら辺のものに手当たり次第当り散らした。
明日会う奴は誰なんだよ?
お前は俺とそいつ、どっちを選ぶんだよ?
本当は思ってることを全部言いたかった。
でも言えなかった。
言えばはその男の名を口にしたかもしれないから。
決定的にを失うかも知れないから。
嫌だ。
それだけは絶対嫌だ。
悪い想像ばかりが頭をよぎる。
と知らない男が、仲良く腕を組んで街を歩く姿が。
そいつの前で、どんな顔で笑うんだ?
そいつとどんな風にキスして、抱き合うんだ?
想像するのも嫌になるぐらい、最悪な絵しか浮かばない。
を責めることが出来たら、『さよなら』と言ってしまえたら、どんなに楽だろう?
いや、いっその記憶を全て消してしまいたい。
真っ白になったを、俺の色に染めてしまいたい。
誰にも取られないように。
そうしたら、俺も全てを許せる。
「出来ねぇ、どっちも出来るわけねぇよ・・・!!」
を責めることも許す事も出来ず、長い夜が流れていく。