人の目には、いつも仲の良い三人組としか映っていないのだろう。
でもこの心の内は、決して悟られてはいけない。
この関係を崩したくないから。
今にも泣き出しそうなブルーグレイの空が、頭上に広がっている。
まるで自分達の為にあるような色だと、ミロは思う。
でもそれもあと僅かだ。
もうすぐ決着をつける時が来る。
「ミロ。」
ミロは無二の友人カミュの呼びかけに振り向いた。
「待たせたな。」
「いや、構わん。」
「それで?話とは何だ?」
そ知らぬ振りをしているが、きっとこの男は気付いている。
努めて感情を表さないようにしていることぐらい、長い付き合いでとっくにお見通しだ。
ミロは射抜くような視線をカミュに向けたまま、話を切り出した。
「の事だ。」
カミュの眉が一瞬ぴくりと動く。
だがその口は開かれない。
まるでこちらの出方を伺っているかのようなカミュの態度に、ミロは敢えて乗せられることを選んだ。
「俺はが好きだ。一人の女として愛している。」
「・・・・それで?」
「は俺が貰う。お前には渡さない。」
「フッ、そう言うだろうと思っていた。」
ミロの切迫した表情とは対照的に、カミュは余裕とさえいえる微笑を浮かべた。
「分かっていたのか?」
「ああ。何年お前の友人をしていると思っている。お前がを真剣に愛していることぐらいとうに見抜いていた。」
「それは俺とて同じことだ。だからこうしてお前を呼んだ。お前には悪いが、の事は諦めて欲しい。」
「そうか。」
「話はそれだけだ。」
有無を言わさない口調で自らの気持ちを告げ、ミロはカミュの横を通り過ぎようとした。
だがすれ違いざま、カミュがふいに口を開いた。
「悪いが諦めることは出来ない。察しの通り、私とてを愛している。」
低くはっきりとした口調に、ミロの足が止まる。
「どうあってもか?」
「どうあってもだ。」
お互いの瞳に、一歩も退かぬという意思が光る。
剣呑な空気を帯びたまま、無言で対峙するミロとカミュ。
しかしその空気を最初に打ち破ったのは、ミロでもカミュでもなく。
「「・・・」」
小さな気配と共に振り向いた二人は、その場に立ち竦むの姿を目に留めた。
二人を見つめるの瞳が揺らめいている。
しかし声を掛けようとした瞬間、は踵を返して走り去ってしまった。
「!待ってくれ!!」
ミロは一瞬カミュに視線を投げかけると、を追って行った。
後には二人の後姿を見送ったカミュだけが、僅かに表情を歪めて立ち尽くしていた。
ぽつぽつと雨粒が落ちてきたかと思うと、たちまち土砂降りの大雨に姿を変える。
は後ろを振り返らないよう、必死で階段を駆け下りていた。
ミロ、カミュ、なんで・・・!
聞きたくなかった。
二人の気持ちなど。
悟られまいと必死で抑えている想いが溢れてしまいそうで。
自分がどうしたいのか分からなくなる。
「待ってくれ、!!」
ミロが雨に濡れるのも構わず、後を追って来た。
そしてあっという間に追いつかれ、肩を掴まれてしまう。
「聞いてたんだろ、俺の気持ち!」
「ミロ、離して・・・」
「離さない!」
そのまま強く抱きすくめられ、は大事に築いてきた何かが崩れる音を聞いた。
ああ、だから。
だから知りたくなかったのに・・・。
そのまま音もなく涙を零すを、ミロは自分の宮へと連れて行った。
ミロの私室で、二人して無言で濡れた身体をタオルで拭く。
このまま永遠に続きそうな沈黙に耐え切れず、ミロは口を開いた。
「、俺の気持ちは聞いただろ。俺はが好きだ。愛している。」
自分に向けられる真摯な瞳が突き刺さるようで、は返事もなく俯いた。
ミロはそんなにしびれを切らし、肩を掴んで顔を上げさせる。
「の気持ちはどうなんだ?」
「私は・・・」
もう逃げられない。
強い視線に射抜かれて、は小さく震える声でぽつぽつと呟いた。
「私は、ミロもカミュも好き・・・。」
「そうじゃなくて・・・」
の言う『好き』を「友人として」という意味に取ったミロは、思わず口を挟んだ。
しかし次の瞬間、の苦しげな告白にその続きの言葉を飲み込んだ。
「違うの、二人とも愛してるの・・・!」
悲痛な声で一息に言ったかと思うと、はその場に泣き崩れた。
ミロは咄嗟にその身体を支えて再び強く抱き締める。
「いつから?」
「分からない・・・!気がついたら二人とも好きだったの・・・」
「・・・・」
「卑怯なのは分かってる!でもどうしようもないの!こんな気持ちは初めてで、苦しくて・・」
ミロの腕の中で、は益々嗚咽を漏らす。
「この関係を壊したくなかったから、自分の気持ちをずっと誤魔化してきたのに、どうして愛してるなんて・・・、どうして・・・・」
「誤魔化す必要などない。もうこうなった以上誤魔化せないんだ。はっきりさせてくれ。」
「無理よ、どっちも傷付けたくないの・・・!お願い、私も忘れるから、もう私の事は忘れ・・」
の口から、もっとも聞きたくなかった言葉が漏れてきた。
その瞬間、ミロはその言葉を己の唇で塞いだ。
愛しい唇が、もうこれ以上哀しい事を言わないように。
「やっあ・・・!」
「怯えなくていい。俺を受け入れて・・・」
「あっ、ミ、ロ・・・!」
萎縮するの身体を解すように、ミロはその首筋に唇を押し当てる。
柔らかな肌に甘い束縛の証を残し、すすり泣くような吐息を残らず己の唇で絡め取る。
「んぅ・・・、んっ!」
息もつかせない程深い口付けを交わしながら、胸元のボタンを外して肌を露にする。
淡い色彩のブラも外し、それに包まれていた膨らみを堪能するように柔らかく揉みしだく。
夢にまで見た感触に酔いしれ、ミロはその頂に舌を這わせた。
「あんっ!」
の身体が震える。
もっと自分を感じてほしくて、ミロはの肌を更に弄っていく。
頂を執拗に刺激した後、ゆるゆると下に滑り降り、脇腹や腰にもキスの雨を降らせる。
雨水に濡れたスカートを引きおろし、肌に張り付いているストッキングとショーツも一思いに取り払うと、が恥ずかしそうに顔を背けた。
「綺麗だ・・・」
「やっ、見ないで・・・・」
何度となく夢に見た姿が今目の前に晒されている。
これが見ずにいられるだろうか。
それに、自分の視線に羞恥する様が余計に愛しさを増す。
ミロは小刻みに震えるの腰をしっかりと固定し、そのまま下腹部に顔を埋めた。
「やぁっ!駄目ェ・・・!!」
がミロの頭を両手で押しやろうとする。
だが力の抜けた腕で押したところでミロの身体が動く筈もなく、されるがままに乱される。
「はぁッ!あぁん!!」
既に潤いを帯びている花弁は、ミロの愛撫を受けることによって益々その艶を増す。
敏感な芽を舌先でつつかれ、中心からとめどなく蜜が溢れ出す。
「あハァっ!!んあっ、うぅっ・・・ん、あっ!」
もっと乱れて欲しい。
もっと感じて欲しい。
が甘い声を上げてよがる度に、ミロの劣情が燃え盛っていく。
「あっ!も・・、駄目、ェ・・・!んんっっ!!」
の背がビクンと跳ね上がった直後、花の中心から大量の蜜が零れ落ちた。
ぐったりと横たわるの身体を解放して、ミロは自らも一糸纏わぬ姿になった。
柔らかな曲線を描くの身体とは対照的な、硬い筋肉で覆われた逞しい裸体。
は思わずその見事な肉体に見とれていた。
とてミロと同じ気持ちである。
この腕に抱かれることを何度望んだであろうか。
でも。
自分の想いは、ミロのようにまっすぐ一方向を向いているものではない。
全く同じ強さの想いが、二つのベクトルに向いているのだ。
これから起こる事に対して、期待と同じぐらいの重さの罪悪感が胸を押し潰す。
そしてミロが預けてくる身体の重さに、涙が溢れる。
「うぅっ・・・!」
怒張した自分の分身を飲み込んだが、嬌声とも泣声ともつかない声を上げる。
今と一つになっているという事実に、眩暈がする程幸せを噛み締める。
もう離さない。
「あっぁぁ!んっ、くぅっ・・!」
哀しげな表情で涙を浮かべるお前が、とても綺麗で。
『忘れる』事など出来ない。
俺達二人を傷付けたくないと泣いたお前の優しさに報いることは出来ない。
そんな願いは早く捨てて。
「・・・、もっと俺を見て・・・」
「あぁっん・・・、ミ・・・ロ・・・」
そう、俺だけを見て。
強く手を握って、指を絡めて、どこへも逃げないようにその身体の奥に楔を打ち込む。
深く、深く。
「愛してると言ってくれ・・・!」
「やぁっん!!」
絞り出すような呻きと共に、更に奥深くを突き上げる。
その強すぎる快感に耐え切れず、の瞳からまた一粒涙が零れ落ちる。
早く言ってくれ。
愛している、と。
その言葉で、お前の心を縛りたい。
優しいお前の迷いを消してやる。
「さあ、早く・・・」
「あっ、愛、して、る・・・!」
「俺も、愛してる・・・!」
「んあぁっっ!!」
細く小さな愛の言葉に、理性が完全に弾け飛ぶ。
逃げようとする腰を掴んで引き寄せ、思いの丈をその体奥にぶつける。
まだ離せない。
もっと深く溶け合いたい。
「あぁっ!駄、目・・・!ふあぁっ!!」
「もう離さない・・・!」
「あっ!あんっ!ミ、ロ・・・!も、やっ、ああぁーーー!!!」
「くッ!」
、もう決して。
お前を離さない。
激しい熱が引いた後も、はミロに背を向けたまま一言も発しなかった。
ミロは黙りこくったままのの身体を抱き寄せて、その肩に柔らかく触れるだけのキスを贈った。
「、こっちを向いてくれよ。」
「ごめんね、ミロ。」
「何故謝る?」
「私、卑怯ね。」
ミロに背を向けたまま、は独り言のような呟きを漏らす。
「許して、ミロ・・・」
「・・・・」
きっと今、お前はあいつの事を考えているのだろう。
お前は自分を責めるけど、仮にお前が俺達を愛していなくても結果は同じだったんだ。
俺達がお前を求めたから。
たとえどんなに傷ついても、何を失っても。
だから『忘れる』なんて言わないで。
その心は、どうかそのままで。