愛に溺れる




女神謁見の日。
その日は教皇サガを筆頭とする黄金聖闘士達が揃って女神に拝謁し、
聖域の近況や世界各地の様子、聖闘士の育成状況などを報告すると共に新たな使命を受けたり、
何か問題があればそれについて話し合ったり対策を立てたり、忠誠と服従を改めて誓ったりする。
その日になると、黄金聖闘士達は眩い金色に光る聖衣に身を包み、引き締まった面持ちで女神を迎える。
迎えられる女神こと城戸沙織もまた、女神の錫杖を片手に凛然と玉座に着き、
15にも満たない少女とはとても思えない程気丈に、理知的に、受け答えをする。
そして、女神でありながら世界有数の財閥の総帥でもある彼女である。
もしかしなくても大変に多忙の身なので、謁見が済むと大抵はそのまますぐに帰ってしまうのだが。


「どうぞどうぞ〜!上がって上がって!」
「お邪魔します。」

偶に『リフレッシュ』という名目で向こう半日〜1日分の予定を空けて、こうしての家に泊まりに来る事がある。


「さあっ!そんな胸元パツパツの苦しいドレスなんか脱いで脱いで!はい、着替え♪」
「ふふ。有り難うございます。お借りします。」
「私も着替えちゃお〜っと!」

の家に来ると、沙織はまず、の部屋着に着替える。
女同士の『リフレッシュ』タイムに、必要以上のアクセサリーや、横にもなれない窮屈なドレスは不要だと、がそうさせるのである。


「しっかし、いつ見ても立派な胸よね〜!羨ましい・・・・!」
「そ、そんなに見ないで下さい・・・・!」

そうして楽な服に着替えた後は、とっておきのお茶を淹れて、とびっきり美味しいお菓子を用意して、
お行儀も作法も一切無視した、女同士のお茶会を始めるのである。
いや、お茶会というよりは、沙織のタイムリミットを迎えるまで明確な終わりを持たない、ダベリ会を。




「へ〜!星矢ったらそんな事言ったの!?相変わらずダメね〜!あははっ!」
「そうなんですよ、ふふっ。」

お茶もお菓子も話題も、尽きる事はない。
それが愛だの恋だのに関するものになると特に。
具体的に何かというと、大体は沙織の想い人・星矢の話になるのだが、それが一区切りついた時、
ふと沙織が話題を変えた。


「・・・そう言えば、前から一度訊いてみたいと思っていたのですが。」
「何?」
「・・・・あの人は、どんな人なのですか?」

沙織は一瞬訊き難そうに、しかし興味津々な瞳をして、にそう尋ねた。


「あの人?」
「ですから、その・・・・・・、さんの・・・・・、彼は。」
「ええ?」

まさか自分の恋愛話を振られると思っていなかったは、思わず面食らってしまった。
この聖域で『恋人』が出来た事はとっくに報告済みだが、しかし、改めてその話題を振られた事は、
これが初めてだった。


「ど、どんな人って?」
「ですからその・・・・・、こ・・・、恋人として・・・・・」

よりも余程大人びていて淑女然としている沙織だが、こと恋愛に関しては、彼女は全く歳相応、
いや、今時の基準で考えると、歳より幼い位だった。
普通の少女のように友達を作る暇もなく、TVドラマを見たり漫画を読んだりする時間もなく、
そもそも『そんなものは低俗だ、けしからん!!!』と執事の辰巳が許す筈もないので、
沙織にはそちら方面の知識が、同じ年頃の一般の少女達と比べて格段に少ないのである。
だからきっと、身近な人間の生々しい恋愛実話を聞くというのは、彼女にとってとてつもなく刺激的な事なのだろう。
恥ずかしくて、スリリングで、だけどどうしようもなく興味を惹かれる。
沙織は、そんなような顔をしていた。


「う〜ん、どんなって・・・・・・」

そんな彼女に果たしてどこまで話せるものなのだろうか。
は自分の最愛の人の顔を思い浮かべながら、答えに困った。


「どんなって、たとえば、具体的には?」
「そうですね、たとえば・・・・・、デートは何処に連れて行ってくれるのかとか、
気持ちは言葉にする方なのかしない方なのかとか、それから・・・」

その時、玄関のチャイムが鳴った。


「あっ、ご、ごめんね!ちょっと待っててね!」
「はい。」

は沙織との会話を中断すると、応対に出た。



「やあ。」

噂をすれば影、訪ねてきたのは今正に話題に上っていたの恋人であった。


「アフロ!」
「お楽しみのところ失礼ながら、差し入れをお届けに参りました。」

黄金聖衣を纏った姿のままで現れたアフロディーテは、に恭しく一礼して見せた。
見ればなるほど、片腕にひと抱えの薔薇の花束、もう片腕に小洒落たデザインの小さな紙袋を提げていた。


「今朝咲いたばかりの薔薇と、女神のお好きなブランドのチョコレートだ。」
「うわぁ、ありがとう!」

は満面の笑みで差し出されたそれらを受け取った。


「良かったら、アフロもお茶飲んでいかない?美味しいダージリンがあるんだけど。」
「いや、折角だが遠慮するよ。」

の誘いを、アフロディーテは少しも迷わずに断った。
その時、不意に後ろから沙織の声がした。


「・・・・私がいるから、ですか?」

沙織は何だか申し訳なさそうな顔をしていた。
どうやらアフロディーテがの誘いを断ったのを聞いていて、しかもそれを自分のせいだと思っているようだった。


「私の事なら、気を遣う必要はないのですよ?今はプライベートなのですから。
ですから貴方も気を楽にして・・」
「だからこそ、です。」

それは違うと言いかけたを制して、アフロディーテが口を開いた。


「女性同士の楽しい一時に水を差すような真似は出来ません。
折角のプライベートタイムです。明日のご出立の時刻まで、存分にお楽しみ下さい。」

アフロディーテは沙織を諭すようにそう言うと、ふわりと微笑んで踵を返し、颯爽と歩き去って行った。
その様子が、沙織には意外に見えたのだろうか。
少々呆気にとられたような顔でアフロディーテの後ろ姿を見送りながら、沙織は呟いた。


「・・・・・・何だか、拍子抜けですね。」
「え?」
「彼はいつも、あんな感じなのですか?」
「あんな感じって?」

が訊き返すと、沙織は少し恥じらうように躊躇ってから答えた。


「何だか、思ったより素っ気ない感じがして。その・・・・、これは私の勝手な印象なのですけど、
彼はもっと、その・・・・、人目を気にせず堂々と恋愛を楽しむ人かと思っていたので・・・・・」
「あ〜・・・・・」
「流石に、その・・・・、私の目の前でスキンシップまではしないにしても、
お茶の一杯ぐらいは絶対に付き合うと思っていたのですが、意外でしたわ。
何だか、ある意味では星矢よりもぶっきらぼうな感じ。星矢ならきっと、喜んで誘いに乗るでしょうに。」
「ププッ、言えてる!それで凄い勢いでお菓子をガツガツ食べ尽くしちゃうのよね!」
「ふふふっ、ですね。」

ひとしきり笑ってから、はふと呟いた。


「でも・・・・・、そうね。意外に、『意外な人』かも。ああ見えて。」
「そのようですわね。ああ見えて、意外と淡白な人なのですね。」

沙織はそう結論付けた。
先程のやり取りと、の言った『意外な人』というポイントを総括して考えてみれば、そういう結論に至るのも当然だった。
だが、それでも。


「違うのですか?」

そう。
違う。
全くもって違う。
彼は断じて淡白などではない。
沙織は大きな勘違いしているようだが、さっきのやり取りには、彼の意外性は現れていない。
彼の意外性はもっと別の所にあるのだが。


「・・・え?あ、ううん!そうそう!意外とね、あんな感じの人みたいよ、エヘヘッ!」

はそれを口にする事が出来なかった。
ついうっかり『意外な人』だなんて口を滑らせてしまったが、アフロディーテがどういう風に
意外な人かをばらしてしまったら、沙織の彼に対するイメージがまた大きく変わるかも知れない。
そう思うと、とてもではないが言えなかった。





















翌日の昼、『リフレッシュ』を終えた沙織は、別れを惜しみつつ聖域を去って行った。
それをまた黄金聖闘士達とが総出で見送ったのだが。


。お茶が飲みたい。昨日言っていただろう?美味しいダージリン。」
「はいはい。」
「それから、お茶受けはビスケットが良いな。」
「はいはいはい。」

沙織を見送った後、アフロディーテは当然のようにの後についての家に帰宅(?)し、
早々にあれこれと要求した。
そこまでは良い。
だが、問題は。


「・・・・・ねえ、何でついて回るの?」

その要求を呑んでキッチンでお茶の支度をしているに、アフロディーテが纏わり付くという事であった。


「何でって、何故?」
「いや・・・・、向こうで座って待ってたら?」
「嫌だ。」

アフロディーテはの提案を一ミリも検討せずに拒否したばかりか、
片腕の中にを閉じ込め、もう片方の手での髪を弄び始めた。
お茶を淹れられない程ではないのだが、迷惑という程でもないのだが、
それでも、どちらかと言えば邪魔だと言える状態である。
は小さく溜息を吐いた。


「すぐに用意出来るから、あっち行ってゆっくりしていて。ね?」

はそう言って、リビングの方を指差した。
その言い方が少々冷たく聞こえたのだろうか。
アフロディーテは傷付いたような顔をして、を解放した。


「・・・・・つれない」
「つれないって・・・・」
「私はただ、君との時間を待ち望んでいただけだったのに。君もそうだと思っていたのに。
君はそうじゃなかったんだ。そうだったんだ。」

言動はまるで拗ねた幼子なのに、その表情にはシリアスかつドラマティックな悲壮感が漂っている。
長い睫毛が碧い瞳を物憂げに翳らせ、今にも背後で薔薇が散りそうな雰囲気である。


「・・・・んも〜・・・・・・!」

アフロディーテは、だから始末に負えないのだ。
つまらない、子供のような駄々をこねても、それすらも美化されてしまうから。
そして、まるで自分の方が悪い事をしているかのような罪悪感を覚えてしまうから。


「分かったわよ!ここにいて!」

根負けしたがヤケクソ気味にそう叫ぶと、アフロディーテはコロリと表情を一変させた。


「了解しました、お姫様。」
「ビスケット、そこの戸棚に入ってるから出しといて。」
「重ねて了解しました、お姫様。」

アフロディーテは極上の微笑みを見せると、と寄り添うようにしていそいそとお茶の支度を手伝い始めた。
バックで散りかけていた薔薇も、いつの間にやら完全復活してゴージャスに咲き誇っている。


「全く、調子が良いんだから・・・・・。お姫様はアナタの方でしょビジュアル的に。」

照れ隠し半分にがブツブツと小言を呟いても、どこ吹く風。
アフロディーテは全く意に介さず、の横にピッタリと張り付きながら、上機嫌で鼻歌混じりにビスケットを皿に並べている。
昨日とはまるで別人のようだと、はまた小さく溜息を吐いた。


アフロディーテはと二人きりになると、こうして別人のように変貌する。
人目のある所では敏感にその場の空気を読んで、適切な距離を取ったり、うまくリードしたり、
その時々に相応しい行動を取るが、二人きりになると、一変してアフロディーテの方がにべったりと甘えるのだ。
その甘えぶりはまるで幼児、いや、いっそ仔犬か仔猫と言ってしまっても良いかも知れない。
そんな事を、幾らおのろけOKのガールズトークの場とはいえ、沙織に話す事は出来なかった。
普通の人間でも、こういった極めてプライベートな一面は、あまり人には知られたくないものだ。
聖闘士、それも最高峰の黄金聖闘士が、こういう事を女神に知られるとなると、それはやはりとてつもなくマズいだろう。
黄金聖闘士・魚座のアフロディーテの名誉を傷付けるような真似は、には出来なかった。


「ああ、そうだ。お茶はぬるめにしてくれ。」

不意にアフロディーテが、ふと歌うのを止めてに話し掛けてきた。


「ぬるめって、どれ位?」
「君が口の中を火傷しない程度ならどれ位でも。」
「えぇ?何それ?」

には意味が分からなかったのだが、アフロディーテはまた鼻歌の続きを歌いながら、
ビスケットの皿を持って先にリビングへ行ってしまった。
結局先にリビングへ行くんじゃないのと思いはしたが、取るに足りない事だと、はそのツッコミを飲み込んだのだった。





程なくして、お茶の支度が整った。


「はい、どうぞ。もう面倒くさいからアイスティーにしちゃったわよ。」
「ありがとう。」

アフロディーテはにっこりと微笑みながら礼を言った。
が、しかし、すぐ目の前のテーブルに置かれたグラスを手に取ろうとはしなかった。
それどころか、ソファに仰向けで寝そべったまま、起き上がろうともしなかった。


「何で起きないの?お茶飲まないの?」
「飲むさ。」
「じゃあ起きてよ。」
「嫌だ。」

は呆れて、聞こえよがしに大きな溜息を吐いた。
しかしアフロディーテは、涼しげな顔で悠々と寝そべったまま微動だにしない。
その様子が、何だかから口を開くのを待っているようで、は仕方なしにそうした。


「・・・・・何、じゃあどうしたら良いの?ストロー差して、口元まで運べば良いの?」
「嫌だ。」
「じゃあどうしろっていうの?」
「口移しで飲ませてくれ。」
「・・・・・・・・・・・・」

は絶句したまま、何秒間かアフロディーテと見つめ合った。
それから、盛大に狼狽した。


「なっ、なに真顔で変な事言って・・・・・!?」
「別に変な事は言っていない。君の唇から飲みたいと言っただけだが?」
「だからそれが変な事・・、っていうか余計変な表現しないでよ!」
「は・や・く。喉が渇いてるんだ。」
「そんなの知らないわよ!喉が渇いてるんならさっさと起きて自分で飲ん・・」

はそこで言葉を切った。
切らずにはいられなかったのだ。


「・・・・・・・・」

無言で待っているアフロディーテの眼差しが、やけに官能的で。


「〜〜〜〜っ・・・・・!!」

この人はきっと分かっていてやっているんだと、思わずにはいられない。
こんな風に見つめられたら、とても平常心など保てなくなるから。
子供じみた甘えにも下らない我儘にも、逆らい難い魅力があって、ついほだされて何でも許してしまいたくなるから。


「・・・・・もうっ・・・・!」

はグラスを手に取ると、アイスティーを豪快に口に含んだ。
そして、こういう魂胆だったから『口の中を火傷しない程度のぬるさ』なんて注文をつけたんだと
頭の片隅で考えながら、相変わらず仰向けに寝そべったままのアフロディーテに近付いた。


「早く・・・・」

アフロディーテの唇が、誘うように薄らと開かれている。
目が笑っているのはきっと、真っ赤にのぼせ上ったこの顔が可笑しいからなのだろう。
悔しい。
男の癖にこの色気は反則だ、女の立つ瀬がない。
そんな事を考えつつ、顔から火を噴かせる程の羞恥心をバネにして、はアフロディーテに覆い被さり口付けた。


「っ・・・・・・・・・」

口に含んでいたアイスティーが、あっという間に吸い取られてゆく。
すっかり無くなってしまったその刹那、お返しと言わんばかりに、アフロディーテの舌がの唇を割った。


「んっ・・・・・・!?」

それに驚いた時にはもう遅かった。
アフロディーテに覆い被さったその姿勢のまま抱きすくめられ、舌を絡め取られて、身動き一つ取れなくなっていた。


「んぅっ・・・・・・!」

アフロディーテの髪からは、芳しい薔薇の花の香りがする。
彼に抱かれると、いつもそうだ。
どれだけもがこうが、薔薇の香りの甘い束縛に、身体だけでなく心までがんじがらめに囚われてしまう。


「やっ・・・・・・!」
「嫌・・・・・・・?」
「っ・・・・・・・!」

最初はそんなつもりじゃなくても、傷付いたような、甘えるようなその視線に、瞬く間にほだされてしまう。


「・・・・って・・・いうか・・・・・」
「何?」
「だって・・・・・・・、まだ・・・、真っ昼間なのに・・・・」
「そうだね。真っ昼間だね。だから?」
「だ、だから・・・・・!?だから・・・・、その・・・・・、外、明るい、から・・・・」
「そうだね。今日も良い天気だね。だから?」
「えぇ!?・・・っと・・・・・・、だか・・・ら・・・・・」
「だから、私に抱かれるのは嫌・・・・・?」

唇が触れ合うか合わないかの距離で囁かれて、不覚にも腰が砕ける。


「そ・・、そんな事言ってな・・」
「じゃあ、抱いて欲しい?」
「なっ・・・・・!?」
「どっち?」
「・・・・・・・・し・・・・」
「し?」
「・・・・・・・・・寝室で・・・・、なら・・・・・・」

僅かばかりの抵抗は、いつもするだけ無駄に終わり、結局は求められるままに捧げてしまう。
というより。


「ああ、寝室で思いっきり抱いて欲しいって事?」
「えっ、な、何でそうなる・・」
「違う?」
「〜〜〜っ・・・・!!」

自分から求めてしまう。


「・・・・フフ。了解しました。ではベッドまで運んで差し上げましょう、お姫様。」
「・・・・・だからお姫様はそっちでしょ・・・・」

悔しくて、クスクスと満足げに笑うアフロディーテをせめて睨んではみるものの、
見事誘導に引っ掛かってしまった後では全く説得力はない。
いつもいつもこの手に引っ掛かる自分が恥ずかしくて、はアフロディーテの腕の中で頬を膨らませた。













カーテンを閉めきってはみても、日当たりの良いこの家の中は、完全な闇にはならない。
仄暗くなるのが精々といったところだ。
その薄闇の中で、アフロディーテの白磁の肌が露になってゆく。
薄い絹のヴェールのような淡い影を纏ったその身体は、むしろ明るい光の下でよりももっと美しく、輝かしく、そして精悍に見えた。


「あ・・・・」

見惚れる暇もなく、もアフロディーテの手により、何もかもを取り払われた。
そして、早々にベッドの上に組み敷かれた。


「んっ・・・・・・・!」

全てを曝け出され、暴かれ、奥まで覗き込まれる。
そうされる事への羞恥にすら感じてしまうかのように、腰の奥が疼く。
やがて微かな息吹が秘裂を擽ったかと思うと、熱い舌が其処をなぞり上げた。


「あぁんっ・・・・・・!あんっ・・・・・!」

少し性急な愛撫が、を追い立てる。
ぞんざいという訳ではないが、何となく忙しげに、焦っているように。
時間ならば今日の残り半日たっぷりあるのだが、アフロディーテは一体何を慌てているのだろうか。


「あっ、やぁっ・・・・・!だ、め・・・・、そん、な・・・・・・、あぁんっ!」

花弁を大きく割り開かれ、奥まで舐められて、はビクビクと身を震わせた。
出来ればもう少しお手柔らかに願いたいのだが、それを許さない激しさが、今日のアフロディーテにはあった。


「あっ、あんっ・・・・・!んんっ・・・・・・!」
「・・・・・ッフフ・・・・・。今日のは、いつにもましていやらしいね・・・・」
「そ、れは・・・あぁっ!」

それはそっちでしょと言いたかったが、アフロディーテの指が2本、おもむろにの身体の中に入ってきた。


「・・・・・綺麗だ・・・・・・」
「っ・・・・・・・!」

更には恍惚とした眼差しで見つめられて、は完全に言葉を失った。
子宮がキュンと疼くのが、自分でもはっきりと分かった。


「あっ、んぁっ・・・・、んんっ・・・・・・・・!」

アフロディーテのスラリと長い指が、の身体の奥深くを優しく、それでいて執拗に掻き回す。
もう片方の手もいつの間にか乳房を揉みしだき、固くしこった先端を摘んでは弾いている。
身体中を弄られ、は瞬く間に追い上げられていった。
あられもない格好をして、どこもかしこも全て彼の眼前に曝け出している状態なのに、
それを恥ずかしく思う理性ももう無かった。



「あっ、い、やぁ・・・・、んんっ・・・・・・・・!」

程なくして呆気なく絶頂に押し上げられたは、息も絶え絶えにぐったりと伏せた。





「大丈夫かい、?」
「うぅ・・・・・ん・・・・・・・・」

労るような穏やかな声が頭の上から降ってくると同時に、優しく髪を撫でられる感触を覚えて、
はゆるゆるとアフロディーテの方を向いた。


「大、丈・・・・夫・・・・・・。けど・・・・・」
「けど?」
「今日・・・・・、激しくない・・・・・・?」

が訊くと、アフロディーテはフッと目を細めて笑った。


「そりゃそうさ。だって、昨日からずっと君を待ち侘びていたんだから。」
「え、そ、それ『ずっと』って言う程・・・・・?」

は思わず苦笑してしまった。
たった一日の事なのに、あたかも長い間会えなかったかのような言い回しをするアフロディーテが大袈裟だと思ったのだ。
セックスだって、毎日しなければ気が済まないというタイプでもない。
だからきっと、冗談半分で大袈裟に言っただけだと思っていた。
だがアフロディーテは、の髪を撫で続けながら、真摯な声で答えた。


「時間の長さは関係ない。気持ちの問題だ。
たった一日だろうが、ほんの一時間だろうが、逢いたいものは逢いたい。そうだろう?」
「う・・・、うん・・・・・・・」
「昨日は特にそうだった。いつもなら、逢いたくなったらすぐに逢いに行けるけど、
今日は女神がいらっしゃるから絶対に行けないと思うと、尚の事逢いたくなってね。
一人でずっと、君の事ばかり考えていた。」

やっぱりそれは子供じみた甘えに聞こえたのだが、しかしはそれを笑えなかった。
甘えだろうが何だろうが、そんな風に想って貰える事が嬉しかった。


「・・・・・・やっぱり昨日、一緒にお茶すれば良かったのに・・・・・。」
「それは出来ない。私は、君と女神の楽しみの邪魔をするつもりはないからね。それに・・・・」
「それに?」
「女神は君とお茶を飲んで喋るだけで満足なさるが、私はそれだけでは満足出来ないから。」

アフロディーテはそう言って、艶然と微笑んだ。
何の事を言っているのかは、勿論すぐに理解出来た。


「アフロ・・・・・・・」

は引き寄せられるようにして、硬く反り返ったアフロディーテに触れた。
撫でるとビクンと震える様が、愛しいと思った。
アフロディーテはまるで女性のような、いや、性別など超越するような美貌の持ち主だが、
彼はやはりれっきとした男性で、そして自分は、女として彼に求められているのだ。
そう思うと、何とも言えない幸福感が、の中に湧き起ってきた。



「んっ・・・・・・・・・」

はアフロディーテに口付け、そのままゆっくりと口を開き、彼を迎え入れていった。
先端から根元に向かって、少しずつ、ゆっくりと、限界まで。


「っ・・・・・・・!」

舌を絡めると、アフロディーテは柳眉を顰めて肩を震わせた。
彼をもっと悦ばせたい一心で、は唇を窄ませ、口内に閉じ込めた彼の分身を刺激し始めた。


「んぅっ・・・・・・・!うぐっ・・・・・・」

口内で更に大きく硬く膨れ上がったそれを、は時折むせながらも唇で扱いては吸い付き、舐め上げ、先端の割れ目を舌先で擽った。


「あぁ・・・・・・・、・・・・・・・」

アフロディーテは低く恍惚とした呻き声を洩らしながら、の髪をずっと撫でている。
その繊細な見かけよりもずっとガッシリとした手の感触が、を堪らなく昂らせた。
ずっとこうしていて欲しい。ずっとそうやって触れていて欲しい。
アフロディーテを一心不乱に愛撫しながら、は夢見心地でそう思っていた。
が、間もなくして、アフロディーテの腰がビクビクと震え出した。


「・・・っ・・・・!もう・・・・・・・・・駄目だ、・・・・・・」
「うぅっ・・・・・・・」
「もう・・・・・・、我慢出来ない・・・・・・」
「あっ・・・・・・!」

アフロディーテはの束縛から素早く逃れ出ると、いつもより少し強引にを組み敷き、
一息の下にを貫いた。


「ああぁっ!!」
・・・・・・、あぁ・・・・・、・・・・・・・・!」
「あ、あぁっ・・・・・・!あっ、あん・・・っ・・・・!」

アフロディーテは猛然と腰を振っての最奥を突いては、首筋に舌を這わせ、胸の頂をジンジンと痺れる位に吸い上げた。
そんな激しい彼の情熱を、もまた、無我夢中で受け止め続けた。


、愛してる・・・・・・・」
「私・・・も・・・・・!」

臆面もなくベタベタと甘える様は、確かに人に知れると格好の悪い事かも知れないが、
それは見方を変えれば、溢れんばかりの愛があるという事になる。
そして、それだけの愛を注がれている自分は、間違いなく幸せ者だ。
はそう思いながら、アフロディーテを強く抱き締め返した。


















心のままに抱き合って、甘い余韻にまどろんで、ふと気付けば外が薄暗くなっていた。
はアフロディーテの腕の中から身を起こし、その滑らかな白い頬に軽く口付けて言った。


「・・・・シャワー浴びて、ご飯の支度してくるね。夕食、食べて行くでしょ?」
「嫌だ。」

だが、まさかこのシチュエーションで『嫌だ』が発動されるとは想定しておらず、は思わず沈黙した。
するとアフロディーテは、分からないなら説明してあげようと言わんばかりの顔で口を開いた。


「夕食は無論食べるが、断る。」
「な、何を?」
「君はどうせまた『ゆっくりしていて』などと言って、私をここに置き去りにするつもりだろう?
それを断ると言っているのだ。
君は何かと言うとすぐ私に『ゆっくり』させようとするが、私は別に『ゆっくりして』いたくなどない。」
「・・・・・・・・」

ご明察と言えばご明察なのだが、別に『置き去り』と表現しなければならないような事ではないし、
そもそもそれはそんなに唇を尖らせて言われる程の事だろうか。


「大体、セックスの後に一人でベッドに残される事ほど虚しい事はない。
ここで私一人で、何をしていろと?
私は一人で『ゆっくり』するより、君と一緒にいたいんだ。それ位、君だって分かっているだろう?」
「はあ・・・・・まあ・・・・・・・・。すいません・・・・・・・」

終いには何だか説教を食らっているような雰囲気になってきて、は思わず謝ってしまった。
するとアフロディーテは、おもむろに自分も身を起こし、ベッドから抜け出した。


「一緒にシャワーを浴びて、一緒に料理をするんだ。それから、一緒に食べて、一緒に眠る。
それが正解だ。だろう?」
「きゃあっ!」

言うや否や、アフロディーテはを軽々と抱き上げた。


「も〜っ!いきなり持ち上げないでよ!ビックリするでしょ〜!?」
「フフ、それは失礼。でも大丈夫、絶対に落とさないから。」
「い、いいわよ!自分で歩けるから・・・・!」
「どうぞご遠慮なさらずに。このアフロディーテが、バスルームまで運んで差し上げますよ、お姫様。」
「だからお姫様はそっちだし、本当にいいから!自分で歩くから!」
「・・・・・・つれない・・・・・・・」
「うわっ、また始まった!も〜っ・・・・・!」

これだけ愛されているのだから、確かに、間違いなく幸せなのだけれども。
だけれども。


溢れんばかりのこの愛に、いつか溺れてしまうかも!?


バスルームまで問答無用に運ばれて行きながら、ふとそんな不安を覚えるであった。




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後書き

「二人きりの時はヒロインにベッタリ甘えまくっているアフロディーテ」というリクエストを頂きました。
えー、ベッタリ甘えさせてみましたところ、何ともウザい男になりました、すみません(笑)。
まあ、このウザさもヒロインにしてみたら愛しく思えるという事で。アバタもえくぼみたいな感じで。
そんな感じで読んで頂けたらと思います。(土下座)
リクエスト下さっためい様、有難うございました!