「居るか、?」
「あ、お帰り童虎〜。」
ひょいと現れた恋人の顔を見て、は微笑んだ。
「どうだった、五老峰は?」
「うむ、変わりなかった。こちらも変わりなかったか?」
「うん。いつも通りだよ。」
はそれまで読んでいた雑誌を置くと、キッチンに立った。
ソファに腰掛けた童虎の為に、茶の支度をする為だ。
茶しか出さないのは、童虎が既に夕飯を済ませてきた事を知っているからである。
彼の行き先が五老峰だった場合は、いつも大抵そうだからだ。
「お主、飯は済ませたのか?」
「うん、さっき食べちゃった。童虎も済んでるんでしょ?」
「うむ。春麗が『帰るならせめて食事だけでも済ませていけ』と言うのでな。」
ほらやっぱりそうだったと一人でこっそり笑いながら、は童虎の前に湯呑みを置いた。
「で?二人共元気だった?」
「うむ。紫龍も春麗も、相変わらず仲良うやっておったわい。」
「へ〜、ご馳走様ね、ふふっ。」
「ホッホ、全くじゃのう。ところで、お主、あの位の娘が読む書物などが分かるか?」
「え?」
「いやはや、困ったものじゃ。春麗もいつの間にやらすっかり年頃になっとって・・・・、え〜い何じゃったかいのう・・・・・、ふ、ふ・・・・・、ふあっしょん?・・・・・なるものが読みたいと言うのじゃ。」
は、童虎の言う『ふあっしょん?』が何なのか暫し考えた後、首を傾げながら尋ねた。
「それって、ファッション誌の事?あの、服とか靴とかコスメとかの情報が載ってるやつでしょ?」
「こすめ?ううむ・・・・、よう分からんが多分それじゃろう。五老峰は何せ人里離れた山奥故、近隣には書店などついぞ見当たらぬ。そこで儂にそれを買うて来てくれと言うのじゃ。じゃが儂にはとんと見当がつかなくてな。」
出された茶を美味そうに啜って、童虎はに笑顔を向けた。
若いより更に歳若い青年の、いっそ可愛いと表現しても良い位の笑顔を。
「頼みの綱はお主だけじゃ、済まんが今度見繕ってやってくれんか?」
「うん、良いわよ。」
無論断る理由もなく、は二つ返事で承諾した。
「じゃあ、次の休みに二人でアテネにでも買いに行こうよ。デートも兼ねて。」
「ホッホ、デイトなどと言われると些か気恥ずかしいが・・・・、そうじゃのう。礼にお主の好きなクリームでも馳走するとしようか。」
そう言って、童虎はまた無邪気に笑った。
こんな笑顔をする癖に、言動はまるで落ち着き払った壮年男性そのもの。
紫龍や春麗に対しては言わずもがな、童虎は誰に対してもまるで師匠のように、保護者のように、いつも年長者として接する。
二十歳にも満たない青年の溢れんばかりの猛々しさや落ち着きのなさなどは、微塵も感じさせない。
尤も、その若い外見とは裏腹に、彼の精神は二百歳をゆうに越えている為、当然と言えば当然なのだが。
しかしそんな彼も、時折見た目に相応しい情熱を見せる事がある。
「童虎ってば、いつも人の事子供扱いするんだから。」
「そのようなつもりはないのじゃがな。ならば酒にするか?」
「アイスの方が嬉しいけどさ。」
どうせ子供ですよと小さく唇を尖らせたに、童虎は優しく微笑みかけた。
一見すると年下の者を宥める年長者の表情そのものだが、よく見るとそこには深い情のようなものが篭っている。
友愛ではなく、父性愛でもない、特別な感情が。
「・・・・・・子供扱いなどしとらんよ。」
「童虎・・・・・・」
「しとったら、このような事など出来ぬわ・・・・・・」
「あ・・・・・・・」
がそれに気付いた時には、唇に童虎の口付けを感じた後だった。
何度も口付けを交わしながら、床に縺れ込んだ。
柔らかいカーペットのお陰で背中が痛くなる事はないが、点いたままの灯りが気になる。
「童虎、電気・・・・・」
「面倒じゃ。」
普段はおっとりと気が長い癖に、こんな時の童虎は少々強引だ。
如何にも男らしい押しの強さを感じさせる。
と言っても、がつがつと性急に事を進める訳ではない。
決して乱暴ではないが、それでいて有無を言わせない勢いがある、というところだ。
その勢いに身も心も委ねるのは、とても心地が良い。
はうっとりと瞼を伏せて、童虎の愛撫を受け入れた。
「あ・・・・んっ・・・・・・」
童虎の唇が次第に下へと下りていき、喉や胸元をなぞっている。
少しかさついたその感触をもっと感じたいと強請るように、は童虎の頭を掻き抱いた。
「はっ、ん・・・・・・・・!」
それに応えるように、童虎の愛撫が一層激しくなる。
胸元に触れていた唇が乳房の先端を捉え、を甘く痺れさせた。
それと同時に、筋ばった無骨な指が、の花弁を割り開く。
「ん、ぅっ・・・・・・・・、あぁっ!」
滲み出し始めた蜜の滑りを借りて、中に入り込んで来る指が猛々しい。
胸の膨らみに吹きかけられる吐息が熱い。
そして、口付ける瞬間にこちらを見つめる瞳が雄々しい。
そう、身体を重ねている時の童虎は、普段とは全く違う。
見た目にそぐわない程の泰然とした風格を漂わせている訳でもなく、穏やかで思慮深い師父の顔をしている訳でもない。
その外見に相応しい、青年らしい激しさと情熱でもって恋人の身と心を揺さぶる、『男』になっているのだ。
黄金聖闘士達も、紫龍も、春麗も、誰も童虎のこんな表情を知らない。
童虎のこんな一面を見られるのは自分だけ、恋人である自分だけの特権なのだ。
それがいつも情事を更に盛り上げるエッセンスとなり、を恍惚とさせていた。
「んっ、あんっ・・・・・、童・・・・虎・・・・・・」
の声が、甘く切なげに震える。
次第に力の抜けていく身体が、童虎を求めて花が綻ぶようにゆるゆると開いていく。
それを感じ取ったのか、童虎もまた熱く昂り、の太腿に密着しているその象徴が益々硬度を増した。
「は・・・・ぁ・・・・・、も・・・・・、童虎・・・・・・!」
が堪らなくなって乞うように名を呼ぶと、童虎は心得ているとばかりに内部を掻き回していた指を引き抜き、の両膝を立てて大きく左右に開いた。
それに従ってあられもなく開かれる紅い花弁から、熱い蜜が一筋トロリと零れ落ちる。
「んっ、やぁぁっ!」
童虎は秘裂の下方から舌を這わせて、それを素早く舐め取った。
敏感なその部分を何度もリズミカルに熱く滑る舌で擦り上げられては、羞恥する冷静な思考も拒む力も湧いて来ない。
ただ童虎に翻弄され、喘がされるままになっていると、やがて皮膚の上を這う熱い滑りの代わりに、身体を貫く強い衝撃を感じた。
「ああぁっっ!!」
甘い痺れが瞬時に、子宮から背筋までを駆け抜ける。
は反射的に目を固く瞑り、童虎の腕に強くしがみ付いた。
二・三度の律動で身体の最奥まで到達した童虎の楔から伝わる情熱が、を甘く強く苛んだ。
絶頂の波に押し流されて果てるまで・・・・・・・・。
心地良いだるさにふらつく身体を起こして、シャワーを浴びたのは30分前。
今は洗いたてのパジャマに身を包み、バトンタッチでシャワーを浴びに行った童虎が戻って来るのを、リビングで待っている。
童虎はいつも『先に寝ていて構わない』と言うが、そうしてしまうのは何となく勿体無くて。
「何じゃ、まだ起きておったのか?」
「うん。まだ眠くないし。」
両目をパッチリと開いて起きているを見て、風呂から上がってきた童虎は呆れたように言った。
そう言われても、雑誌の続きを読みながら騙し騙し起きている内に、いつの間にか眠気のピークは本当に去ってしまったのだから仕方がない。
「もう夜も遅い。本を読むのはまた明日にして、今夜は眠れ。」
しかし、童虎は有無を言わさずから雑誌を取り上げると、ソファの上に投げ出した。
彼の顔は、もう既に保護者のそれになっている。
「でも、眠気が飛んじゃったもの。」
「だから待っておらずとも良いと言うたであろうが。・・・・・まあ良い。それなら抱いて布団に運んで、子守歌でも歌って寝かし付けてやろうか?」
「もう、また人の事子供扱いして・・・・・。」
だからついつい、ぼやいてしまう。
「ん?何か言うたか?」
保護者の顔と恋人の顔。
意識せずして切り替わる彼のこの二つの顔に、時々戸惑う事はあるが。
「ううん、べ〜つに〜。」
彼のこの二面性、実のところは密かに楽しんでいたりする。
「さっ、寝よう!」
は大人しく童虎に従い、リビングの電灯をパチリと消した。