新年。人はそれを新たな門出と呼び、厳かな気持ちで静かに迎える。
しかしこの聖域には、静かな正月など生憎と存在しなかった。
「新年早々面倒な事言いやがってあの我侭お嬢さんは・・・・・・」
「そうぼやかないでよ、デス。やってみたら結構楽しいと思うわよ?」
「そりゃお前は良いよな、まーた俺らの監督役してりゃ良いだけなんだから。」
口をへの字に曲げたデスマスクは、のリビングのテーブルに載せたまっさらの短冊を睨んでいる。
いや、デスマスクだけではない。
黄金聖闘士全員が、正月早々の家に集結していて、全員が全員難しい顔をしているのだ。
それは何故か。
答えは簡単。沙織の命である。
新年早々取引先とのニューイヤーズパーティーなどで忙しく立ち回らねばならない多忙の身では、自ら彼らに教え伝える事は出来ない。
そこで沙織は、またもや己の代役にを選んだのである。
しかし、彼女は命令のつもりでなく、正月という日本の伝統行事を黄金聖闘士達に知って貰いたいという、純粋な善意のつもりなのだ。
沙織は彼らに古き良き日本の文化を知って貰い、なおかつ出来ればそこに楽しみを見出して欲しいと思っている。
そして、何より沙織自身が、彼らとの交流を楽しみにしているのだ。
過酷な闘いではなく、ほんのささやかなものでも、心和む交流を。
その証拠に、沙織は純粋な期待に満ちた目で『皆さんの歌が出来上がりましたら、是非私に送って下さいね』と言い、全員分の短冊と筆と墨に参考資料、そしてご丁寧にも郵送用のパッケージまでに渡したのである。
「いつぞやも『日本の古典芸能』だとか言って、ショウテン?だったか、イマイチ意味不明な事をさせられたが・・・・・」
「今度は一人一首ずつ和歌を詠めとな・・・・・。」
「まぁったく、新年早々無理難題を押し付けてくれやがって。」
ちなみに、今度は何故歌詠みかというと、『正月→かるた→百人一首→和歌』という連想から生まれた案のようだ。
しかし、日本人には馴染みの深いものでも、文化の違う国で生まれ育った黄金聖闘士達には未知のものらしい。
果たして自分に和歌など詠めるのかと途方に暮れているアルデバランとアイオリア、そして文句轟轟なデスマスクを、は必死で宥めた。
「まあまあ、良いじゃないの!沙織ちゃんは何も畏まったものを詠めって言ってるんじゃないし、今心の中で思ってる事をそのまんま、難しく考えずに五・七・五・七・七のリズムで詠めば、それで出来上がりよ!少し位字数が変わってもOKだし!ちょろいちょろい!」
「そうは言うけどな・・・・・。ならお前はすぐに浮かぶのか?」
「え゛っ!?」
カノンに痛いところを突かれたは、暫しうろたえた後、指折りリズムを取りつつ、一首詠んだ。
「・・・・・『お願いよ 新年早々 キレないで 皆で仲良く 詠みましょうよ』・・・・・・・とか?」
「む・・・・・・・」
「それを和歌と呼ぶに相応しいかどうかは別にして、なかなかやるではないか、。即席で一首詠むとは大したものだ。君が我等の監督役に就く事、このシャカが認めてやろう。」
「そ、それはどうも・・・・、有難うございます・・・・・」
出来はさておき、が見本を見せてくれた事にひとまず納得したらしいシャカは、どうにか短冊と向き合ってくれるようになった。
「・・・・・・仕方ない。手本まで見せられてはこれ以上文句のつけようもないな。」
「そ、そうこなくちゃ、カノン!」
「なるほど。そのようにして詠めば良いのか!何かコツが掴めた気がするぞ!」
「本当?頑張ってね、ミロ!」
「参考資料として、百人一首の歌と解釈文も頂いている事だしな。何とかやれそうだ。」
「その意気よ、サガ!」
ようやく乗り出した一同を励ましつつ、はホッと安堵の溜息をついた。
ややあって。
「・・・・・出来た。」
「私も出来た。」
という声がちらほら上がるようになり、早速お披露目タイムとなった。
まず一番手は、サガである。
「日本の和歌と言えば、やはり奥ゆかしい恋の歌というイメージがある。そこで私も一首、恋の歌を詠んでみた。」
自分でも珍しいチョイスだと思っているのか、サガは些か恥ずかしそうにはにかんで短冊を手に取った。
『闇夜にて 冴えて浮かびし 月が如く 我が心にて 君光り給う 詠み人 サガ』
と、サガが詠み終えた途端、何処からともなく感心の拍手が沸き起こった。
「ほほう、なかなか様になっているじゃないか、サガ。大したものだ!」
「でしょう、アイオリアもやっぱりそう思う!?すっごーいサガ!!私のより全然和歌っぽいわよ!」
「そ、そうだろうか・・・・・。余り褒めないでくれ・・・・・。」
「やだ何よ、そんなに謙遜する事ないじゃないのよ!」
「いつも血生臭いお前でも、偶にはそんな歯の浮くような事を思いつく時があるのだな。」
「何だと、カノン!?」
「まっ、まあまあまあ!!!正月早々喧嘩はなし!!ね!?じゃ、次行ってみましょう!」
サガとカノンが引き離された後、続いて登場したのは二番手のシュラである。
「・・・・ゴホン。俺もサガと同じイメージを持っていたので、一応は恋の歌にした。しかし、出来はかなり悲惨だ。おまけに自分で詠んでおいて何だが、かなり恥ずかしい。笑ったら洩れなくエクスカリバーを喰らうと思っていてくれ。」
「何よその嫌な前置きは;笑わないから早く詠んでよ。」
に急かされたシュラは、もう一度咳払いをすると、短冊を手に取って厳しい顔で詠み出した。
『吐く息の 白く曇りし 朝ぼらけ この右腕に 残る温もり 詠み人 シュラ』
シュラの歌を聞いて皆が沈黙したのは、悪気あっての事ではない。
サガに続いてシュラまでもが、ど素人の癖に何となく纏まった感じの歌を詠んだからである。
つまり、平たく言えば驚きと感心。そんなところであろうか。
「ど、どうしよう。私日本人なのに、ギリシャ人とスペイン人に和歌で負けてる・・・・・・」
「何の勝負なんだそれは;」
「え、えへへ・・・・・。でも何かシュラの歌って大人っぽいね〜!」
「そ、そうか?」
「うん、けど厭らしくない感じ。やっるぅ、シュラ〜〜!」
「ちゃ、茶化さないでくれ、・・・・!」
「やっるぅ、シュラ〜〜!」
「貴様は殺す、デスマスク。の口真似はやめろ。」
「抑えて抑えて、シュラ!!エクスカリバーはやめて!!」
ふざけるデスマスクと怒るシュラを必死で止めてから、は三番手を促した。
「つ、次!誰か出来た人はいる?」
「では、俺が行こう。俺も恋に関する歌を詠んだんだ。」
「OK、頑張って、ミロ!」
三番手の名乗りを挙げたミロは、堂々とした声で短冊を詠み始めた。
『ナンセンス 全くもってナンセンス 男の恋は 押しと身体よ 詠み人 ミロ』
誇らしげに自作の歌を詠んだミロは、その勢いで解説を始めた。
「つまりこれはだな、恋というもののあり方についての歌だ。参考資料によると、短歌のやり取りは即ち恋のやり取りのようなものだったとあるが、ナンセンス極まりない!意味の分からん呪文のような歌をチンタラチンタラ交し合っている暇があるなら、ドーンとストレートに!真向から身体で・・・」
「うん、それは聞いてすぐ分かったから・・・・・。」
苦笑いをすると、自信たっぷりに解説を続けているミロを見て、ムウが言った。
「・・・・・・そろそろこういうのが来るんじゃないかと思っていたところですよ。」
「それはどういう意味だ、ムウ?」
「いえ、後に続く者が非常にやり易くなって感謝していますよ、という事です。さあ、お次どなたかいってみませんか?」
「では私が。」
そこはかとなく黒い微笑を浮かべているムウに促されて四番手に出て来たのは、カミュであった。
『這えば立て 立てば歩めの 親心 育ちゆく子に 一抹の寂しさ 詠み人 カミュ』
カミュの歌を聞いたミロは、気まずそうな顔でぼそりと呟いた。
「・・・・・・まだ根に持ってたのか。」
「え、どういう事、ミロ?」
「カミュの奴、シベリアで師弟水入らずの新年を過ごしたかったらしいが、今年は色々忙しいからと氷河に断られてしまってな。ついでにアイザックにも。」
「あらら・・・・・・」
「・・・・・・良いのだ。弟子はいずれ師の元を離れてゆく定め。愚かなのはいつまでも弟子を未熟な幼子扱いしている師の方だ。」
「そんな、カミュ・・・・・」
「今年も新年仕様のスペシャルボルシチの材料を準備していたのだが・・・・・、フッ、よもや断られるとも知らずに・・・・・・。こんな私を笑いたければ笑うが良い・・・・・・」
「カミュったら、そんな卑屈な・・・・・;」
新年早々鬱々と塞ぎ込むカミュを励ますつもりなのか、アルデバランが豪快に笑ってその肩を叩いた。
「何だカミュ、そんな馳走があるなら、ケチらずに是非俺に振舞ってくれ!!」
「アルデバラン・・・・・・・」
「あのヒヨッコ共が泣いて悔しがる様が目に浮かぶぞ、ははは!」
「・・・・・・フッ、済まないな、気を遣わせて。」
「何を言う!?気など遣っていないぞ!是非お裾分け願いたいところだ!・・・・・とはいえ、俺も実は最近悩みがあってな。その事を歌に詠んでみた。」
「ほう?」
「へぇ〜、どんな事?」
カミュとに促され、アルデバランは自分の書いた短冊を読み始めた。
『大いなる 自然の恵みに 感謝しつつ 目方ばかりが 気になる昨今 詠み人 アルデバラン』
歌を詠み終わったアルデバランは、実は最近太り気味でな、少々困っているのだと、言う割には大して困っていなさそうにあっけらかんと笑った。
「ふふふっ、そうなの?でも別に変わらないと思うんだけど。」
「なに、元々の図体がデカいから目立たんだけだ。かくなる上は鍛錬のメニューを倍に増やすしかないか、はははは!」
「おいおいアルデバラン、お前の鍛錬メニューは今でも十分ハードじゃないか。」
「なんのなんの、お前には負けるさ、アイオリア。それはそうと、お前は出来たのか?」
アルデバランにそう訊かれたアイオリアは、やや恥ずかしそうに頷いた。
「ああ、一応な。」
「そうなの?だったら詠んでよ詠んでよ♪」
「そうだぞ。いずれ発表せねばならないのなら、早い内にしておいた方が良い。」
「そうだな・・・・・」
とアルデバランに促され、照れ隠しに髪をくしゃくしゃと掻き乱したアイオリアは、やがてやや緊張した声で詠み始めた。
『黄金の 獅子と呼ばれし 我なれど 泣く子と女子に 勝てはせぬ 詠み人 アイオリア』
穏やかで優しい気質のアイオリアらしい歌である。
一同が『さもあろう』とばかりに頷く中、アイオリアは苦笑を浮かべてこの歌のエピソードを語った。
「先日のクリスマスの折には本当に参った。ロドリオ村の女性達が、まさか俺にクリスマスプレゼントをくれるなんて思ってもみなかったから・・・・・」
「ふふっ、そういえばアイオリア、女の人達に囲まれて照れまくってたわよね?」
「はは、面目ない。おまけに、その中の若い母親が連れていた赤ん坊を照れ隠しに抱いてみたら泣き喚かれて、尚の事うろたえてしまった。全く、逆効果もいいところだった、ははは。」
アイオリアの語るほんわかと温かいエピソードに、誰もが微笑んで聞き入っている。
そんな中、それを鼻で笑い飛ばした人物が一人いた。
そう、この方である。
「アイオリア、それが君の今の心情かね?フッ、語るにも値しない、つまらぬものよ。しかも表現も稚拙すぎる。それが和歌とは・・・・・・フッ、笑止。」
「悪かったな!!ならば貴様はどうなのだ、シャカ!?」
「良かろう。とくと聞きたまえ、私の歌を。」
憤慨したアイオリアに詰め寄られても、シャカは涼しげな笑みを崩さず、滑らかに通る声で自作の歌を詠み始めた。
『初春の 陽昇り初めし 元日の・・・・・・・』
「・・・・・むぅ、人を馬鹿にするだけあって、出だしはなかなかじゃないか・・・・・」
一瞬感心しかけたアイオリアであったが、次の瞬間。
『夕餉は豪華 蟹鍋希望 詠み人 シャカ』
「ふざけるな!!!!」
目を見開いて怒鳴り、シャカの胸倉を掴んで揺さぶった。
「貴様と俺の歌にどれ程の差がある!?むしろ貴様の方が下らないだろう!?初春の陽など何も関係ない、只単に夕飯のリクエストではないか!!」
「君は『枕詞』というものを知らないのかね?これだから教養のない者は。」
「何だとーーー!?」
「まっ、まあまあ、アイオリア!落ち着いて!!」
「しかも誰に向かってリクエストしているんだあれは!?」
「叶えてくれる者なら誰でも。むしろ、皆で私の希望を叶えるが良い。」
「新年早々何様だ、貴様!?!?」
「ちょっとアイオリア!!抑えてってばー!!もー、誰か次行って、次!!」
の救いを求めるような声をいち早く聞き届けた男が一人、自ら進んで名乗り出た。
「では、私が。」
「あっ、アフロー!!アフロならきっと素敵な恋の歌なんか詠んで、この場を和ませてくれるわよね!?ね!?」
半ば縋るような目でアフロディーテを仰いだのだが、アフロディーテは首を横に振ってしまった。
「フフ、。恋の歌ばかりが和歌ではないのだよ。参考資料の百人一首の中に『秋の田の〜』という歌があったが、解釈を読んだところあれは苦情の歌だ。」
「苦情?そうだっけ?」
「そうなのだよ。『秋の実りの田の、粗末な仮の庵に泊まっている。その庵を葺いた苫が荒いので、私の袖は露に濡れてしまった』という解釈だ。これを文句と言わずして何と言おうか。今の私の心境に、これ程ぴたりとくる歌はない。という事で、一首。」
「え゛?な、何か嫌な予感が・・・・・・」
警戒するににっこりと微笑んだアフロディーテは、明らかにカミュ一人を見据えて冷たい声で詠み始めた。
『我が宮の 自慢の薔薇が 枯れてゆく おのれカミュめ 寒波を出すな 詠み人 アフロディーテ』
あからさまに非難されたカミュは、困ったように顔を顰めて弁明を始めた。
「そんな事を言われてもだな、私は別にわざとしている訳では・・・・・。あれは私の小宇宙の個性であって、精神状態にも左右されるようであるし・・・・」
「その個性、冬は出すのを慎んでくれ。只でさえ寒くて嫌な時期だというのに。」
「いや、慎めと言われても・・・・・」
「それに、精神状態とは些か大袈裟だ。要するに弟子達に会えなかっただけではないか。たったそれだけの事で、私の大事な薔薇にまで害を及ぼすのは止めて貰いたい。」
「そう言われても、わざとではないのだから・・・・・」
「なんだ、苦情でも良いんならもっと早くそう言ってくれよ。楽勝で一首詠めたぜ!」
カミュとアフロディーテを尻目に、今度はデスマスクが詠み始めた。
『双児宮 毎度毎度の 大喧嘩 よく飽きねぇな お前らも 詠み人 デスマスク』
「ちったぁ近所の迷惑も考えろよ。もういい年なんだからよ。」
「俺も実は常々そう思っていた。もう少し何とかならんのか?この間など、何かの破片が飛んで来て、金牛宮のガラスが割れたのだぞ。」
「いや済まん、しかしあれはカノンがだな・・・・・・・!」
「人のせいにするな!!いつだってサガ、お前が先にけしかけて来るんだろうが!!」
「お前が私を怒らせるからだろうが!!」
「喧嘩両成敗だよ、バカヤロウ。」
「デスマスクも偶には良い事を言う。全くもってその通りだ。」
両隣、デスマスクとアルデバランに真顔でそう言われた双児宮の住人達は、言い逃れも逆切れも出来ず、むっつりと黙り込んでしまった。
だが、そんな二人に代わるかのように、一見無関係そうなムウが横から割って入ったのである。
「おやおや、デスマスク。貴方も他人の事はとやかく言えませんよ。」
「何だと、ムウ?俺がいつ誰にどんな迷惑を掛けたって言うんだよ?」
『デスマスク 聖衣の修復 その代金 そろそろ纏めて 払って下さい 詠み人 ムウ』
さらさらと詠まれたムウの歌を聞いて、デスマスクの顔色が変わった。
「やっべ、覚えてやがったか・・・・・!」
「フフフ、当然です。踏み倒そうったってそうはいきませんよ。黄泉比良坂までも追いかけて、全額取り立てて差し上げますからね。」
嗚呼、どうして。
いつもいつもこうなるのだろう。
そこかしこでギスギスとしたオーラが高まり始めているのをやるせなく見守り、は深々と溜息をついた。
「いっつもこうなんだから・・・・・・・。何でかなぁ・・・・・??」
すると、それまで一同の様子をニコニコと見守っていた童虎が、労わるように声を掛けた。
「ホッホ。も儂も、気苦労が絶えんのう。」
「本当よね・・・・・。」
「そこで儂も一首。」
殺伐とした雰囲気の中、童虎はのほほんと歌を詠んだ。
『我隠れし 後の事が 気がかりで おちおち死んでも いられぬわ 詠み人 童虎』
童虎の歌に一番感銘を受けたのか、は真剣そのものな表情で頷いた。
「本当よね、新年早々これじゃ・・・・・。童虎、お願いだから元気で長生きしてね?」
「儂としては、もうそろそろお迎えが来てもええ頃かのうと思っておったが、ホッホ、お主の頼みとあらば、あともう暫し踏ん張らねばの。」
二人が目線を向けた先には、今年も早々からある意味全開な黄金聖闘士達。
アフロディーテはカミュに対して轟轟と文句を言い続け、
カミュはそんなアフロディーテに適当に謝りつつも、弟子に会えなかった事が相当ショックだったのか意気消沈していて、それをミロに慰められており、
アイオリアはまだシャカに掴みかかっているし、
デスマスクはシュラに助けを求めたが知らん顔をされ、ムウにじりじりと追い詰められているし、
サガとカノンは、どちらが金牛宮のガラスを弁償するかでもめていて。
つまりは昨年と何も変わらない、そんな彼らの姿があった。
「ふう・・・・・・、しょうがないわね、全く・・・・。ねえ皆、出来たならこれもう沙織ちゃんの所に送っちゃうけど、良いよね!?」
それぞれの短冊を放っぽり出して騒いでいる一同に、は声を張り上げて尋ねた。
これ位大きな声を出さないと皆に聞こえないのだ。
「ああ、構わん!頼んだぞ、!」
「はーい!」
金牛宮への賠償金問題で忙しそうなサガの返事を受け取り、は大儀そうに短冊を一つ一つ拾い集め出した。
だが、短冊が一枚足りないではないか。
「あれ・・・・?カノンのがない。ねえカノン!カノンってば!!」
「何だ!?今忙しいのだ!もう少しでサガを言い負かせられるところだというのに!!」
「カノンの短冊は!?歌はもう詠めたの!?もめるのは一首詠んでからにしてくれる!?沙織ちゃんに送らなきゃいけないんだから!!」
「それなら出来ている、ほら!!」
これまたサガ同様忙しそうなカノンがひらっと放り出した短冊を受け取って、はそれをまじまじと読んでみた。
『古の 遥か昔は 不落の砦 今では只の 馬鹿の巣窟 詠み人 カノン』
「これって・・・・・・、十二宮の事?」
「そのようじゃの、ホッホ。うまい事詠みおるわ、カノンの奴め。」
「確かに・・・・・・」
「ここ最近の十二宮は馬鹿の巣窟じゃのう、ホッホ。女神がご覧になれば、さぞやお笑いになる事だろうて。」
「・・・・・・もう良いもん。私知らないもん。梱包しちゃうからね。」
「おうおう、してしまえしてしまえ。」
他人事のようにからからと笑う童虎の隣で、は新年早々ぐったりと荷物を作り始めたのであった。
今年も、皆と自分の命さえ無事ならもうそれで良いやと、少々投げやりな気分で。