一日の執務が終わった、ある夕方のこと。
「っあ〜、よく働いた〜!」
盛大な叫びと共に、 は教皇の間から磨羯宮へと向かっていた。
昨日、『飲み会をやるから来い』と宮の主から誘われたのだ。
メンバーはまちまちだが、にはこのテの誘いがよく来る。
皆密かにを狙っており、他の連中をだし抜いて二人で過ごそうとするのだが、たいてい誰かが嗅ぎ付け、
邪魔をしに来る。しかし当のの目には、
「しっかしあの人達もなんだかんだ言いながら仲良いよね〜。」
という風に映っていた。
「こんばんわ〜、お邪魔します〜。」
「ああ、か。早かったな。」
「思ったよりさっさと片付いたからね。」
「今日のディナーは、この俺様が特別に腕をふるった海鮮料理だ!」
は酒があまり強くない。空腹のまま飲ませられないので、しっかりとした食事を用意していた。
「うっわ〜マジで!?おいしそー!!もうお腹ペコペコ!」
磨羯宮にてを待っていたのは、宮の主であるシュラ、デスマスク。
「あれ、今日アフロは?」
「あいつは急用ができたらしくてな。今日は不参加だ。」
「あらら、そうなの?」
「そういうこった。だから今日は俺ら3人だな。」
ひとしきり飲み食いして、皆すっかりご満悦。
「おいしかった〜!ごちそうさまでした。ホント料理上手だね、デス。」
「あたぼーよ!」
「人間一つぐらいは何か取り得があるものだな。」
テーブルの上をざっと片付け、酒やつまみの類を用意する。
ここからが本格的な飲み会の始まりだった。
「なんだ、もう酔ったのか?」
「酔ってないよ〜!!」
「嘘つけ、顔が赤ぇぞ?」
「これは体質なの!!頭はしっかりしてるもーん!!大丈夫だってば!そりゃ熱いし、ちょっとフワフワはしてるけど・・・。」
「それを『酔っている』というのだ。」
即座に突っ込むシュラ。
「なんだ、熱いならそれ脱げよ。」
ニヤニヤしながら、が来ている薄手のカーディガンを指さすデスマスク。
「んん・・・、そうしよっかな・・・。」
そう言って、素直に従う。
下に着ていたのはノースリーブのワンピースなので、白い腕がむき出しになる。
何気に2人の視線がの身体のそこかしこに刺さるが、当の本人は酔っている為か気付いていない。
「そうだ!シュラ前言ってたよね?面白い映画のビデオが手に入ったとか何とか。」
突然話の変わる。
「ああ、あるぞ。」
「見ようよ〜!」
「何の映画だ?」
「コメディだ。本当におもしろいんだ、これが。」
「へぇ、まあたまにはいいな。ちょっと見てみるか。」
「確かその辺にしまっておいたんだがな。」
ビデオが収納されているラックを指さすシュラ。
「どれ?」
「多分それだ。左の黒いやつ。」
シュラが指したそれを取り出し、ビデオデッキに入れる。
シュラ・・デスマスク、と3人仲良く横に並び、じっと画面を見つめた。
しばらくして画面が映し出した映像は、コメディ映画などではなかった。
日本人らしき女性が、きわどい下着姿でカメラ目線で微笑んでいる。
「なっ!!なんだこれは!?」
うろたえるシュラ。
「お前こんなのいつの間に持ってたんだ?」
素で聞くデスマスク。
「ち、違うんだ!!これは断じて俺の物ではない!!何かの間違いだ!!」
慌てて弁明するシュラに、は意外な態度を取った。
「プププ、別にそんな慌てなくても・・・。意外と可愛いね、シュラ。アハハ!!」
「そうだぜ、エロビデオごときでうろたえる年でもねぇだろうがよ。」
に同調し、ニヤリと笑うデスマスク。
「いいじゃないの、男の人なんてみんな見てるでしょ〜?」
「お、分かってるじゃねぇか。そうだ、男なんてみんなこんなもんだ。」
シュラとしては、密かに想いを寄せているに嫌われるのではないかと気が気ではなかったが、
のオープンな態度に驚くと同時にホッとしていた。
・・・・とりあえず、嫌われてはいない、よな?
「まぁまぁ折角だし、見ようよ。私もAV見るのなんて久しぶりだし〜♪」
何気に爆弾発言をかます。
それにはさすがに驚いた。
「見たことあんのか?」
「うん。あるよ〜。女の子ばっかりで鑑賞会するの!皆でレンタル屋に借りに行ったりしてね。」
楽しそうに話す。
「・・・美味そうな状況だなオイ。」
「あぁ、全くだ。」
「じゃあ別にこれ見てても問題ねぇな?」
「ないよ〜。」
素面なら流石に遠慮した状況だろうが、今は酒が入っている状態である。
なんら警戒を持つことなく、は同意した。
画面では、先程の女優がとうとう全裸になっている。
やはり日本のものらしく、音声が日本語である。
男優・女優のクサい芝居に爆笑する。
「アハハハ!!意味不明〜!!」
「どうやらにとっては、ある意味コメディらしいな。」
「確かに意味が分からんな。ノリノリで服脱いどいて、なんで今更拒んでんだ?」
口々に茶々を入れつつ、3人はそれなりに真剣に画面に見入っていた。
画面はますますヒートアップしている。
「この女優なんかチチがねぇなぁ。俺のタイプじゃねぇな。」
「デスはもっと『バーッッン!!』て感じの人が好きそうね?」
「んなこたねぇよ!あんまりイカついのもごめんだ。お前程度が丁度いい。」
ニヤリと口の端を吊り上げて笑う。
「『お前程度』ってナニよ、失礼ね!シュラはどんなタイプが好き?」
「そうだな、俺もお前みたいな感じだな。」
蟹に先を越されてはたまらない。シュラもここぞとばかりにアピールする。
「またまた〜!そんなこと言っちゃって〜!!」
面と向かってそう言われ、照れ隠しにシュラの肩をばしっと叩く。
「この女優より絶対お前のがイイ女だぜ?」
さりげなくの肩を引き寄せるデスマスク。
「ちょっ、何すんの!?」
デスマスクの腕をほどこうともがくを、シュラが少々強引に引き寄せる。
うろたえるの頭上で、男二人は熾烈な睨み合いを繰り広げていた。
女優が大きな声を上げ始めた。
それに反応して、3人の目線が再びTVの画面へと移る。
先程までの笑える雰囲気はもはや消えている。
が、少し目線をそらし始めた。
ノースリーブのワンピースから覗く白い肌。
恥ずかしそうに少し俯いた横顔。
その姿に男の本能を刺激されたデスマスクは、再びを引き寄せた。
ビクッと強張るの耳に、低い囁きを吹き込む。
「やっぱお前の方が断然イイ女だ・・・」
耳に熱い吐息がかかり、思わず声を上げそうになる。
耳朶に軽く触れているデスマスクの唇に、身体の中心を溶かされる。
次の瞬間、今度はシュラの腕に身体を攫われた。
欲望に火を点けられたのは、シュラとて同じであった。
「デスマスクなど放っておけ・・・」
そう言っての髪を背中に流し、むき出しになった首筋に口付ける。
「やっ・・・・」
今度は押さえきれず、唇から声が漏れる。
身体の奥に火が点く。
それを黙って見ているデスマスクではない。
再びに近づき、唇の近くにわざとじらすようにキスする。
力が入らず、二人にされるがままになる。
拒んでしまえばそれで終りになるのだが、今のはそうすることが出来なかった。
この妙に自堕落な雰囲気を楽しんでいる自分がいる。
きっとお酒のせいだ。そういうことにしておこう。
が理性を手放そうとしたその時。
「お〜い!邪魔するぞ!!」
馬鹿デカい声を張り上げて入ってきたのはミロだった。
即座に我に返り、高速で両側の男二人を振りほどく。
デスマスクとシュラは、乱入者の出現によって折角のチャンスをふいにされ、無念と怒りでがっくりと項垂れた。
「俺、こないだここにビデオ忘れて行っ・・・て、何だよ見てんのかよ!」
『お前のかよ!!』と3人同時に突っ込む。
3人ともビデオの事をすっかり忘れており、気がつけばもうクライマックスにさしかかっていた。
「なんだ〜、これミロのだったの?ごめんね〜、シュラのだと思って勝手に見ちゃった。」
「いいよいいよ。ってかと見るんだったら何で俺も誘ってくれないんだよ!?」
デスマスクとシュラに文句を言うミロ。
「映画と間違って再生したらコレだったのよ。偶然だってば。」
はビデオを止め、デッキから取り出してミロに渡した。
「・・・・・ミロ。ちょっと表出ろ。」
「なぜお前の私物が俺の宮にあったのか、説明してもらおうか。」
ミロの腕を掴み、外へ連れ出す二人。
程なくして表から怒鳴り声や悲鳴、破壊音が聞こえてきた。
「ははは、こりゃ派手ね・・・。さっ、片付けして帰ろう〜っと!」
ざっくりと辺りを片付け、早々に磨羯宮を出た。
・・・・やっぱりアレはマズかったかな・・・。
先程の事を思い出し、赤面する。
いつの間にやら、すっかり酔いは醒めていた。
もしさっきの事を突っ込まれても『酔ってたから覚えてない』で通そうと心に決めながら、は家路を急いだ。
「だから悪かったって言ってるだろ〜!?置き忘れたぐらいでエクスカリバーすんな!!」
「問答無用だ!!成敗してやるからそこへ直れ!!」
「今すぐあの世に送ってやるぜ〜!!」
一方、が帰ったことも知らず、デスマスクとシュラはミロに八つ当たり攻撃を仕掛け続けていた。
事情が全く飲み込めないままフクロにされたミロは、もう二度とシュラの家には忘れ物をしないようにしようと固く心に誓ったらしい。