しばらく天気の悪い日が続き、久しぶりに太陽が顔を出したある日のこと。
シュラはいささか緊張した面持ちで、の家へ向かって歩いていた。
「美味いと評判らしいから買ってみた・・・いやいやいや、たまたま目についたからな・・・」
片手に馬鹿デカい紙袋、もう一方に綺麗な色合いの小さな箱を持って、ブツブツ言いながら歩いて行く。
その箱は、最近街で人気のプリンの専門店のものである。
大変な繁盛ぶりで、行列の出来ていない日はないというぐらいであり、今日も例外ではなかった。
「わざわざ並んでまで買ったと思われるだろうか、いや実際そうなんだが・・・、う〜ん・・・」
どうやら、プリン購入の言い訳を考えているらしい。
若い女性の行列に、大の男が一人で混ざったなんて格好悪いことこの上ない。
何かいい口実はないものか・・・。
そうこうしているうちに、とうとうの家の玄関前に到着した。
ぴんぽ〜ん♪
「・・・相変わらず間抜けな音だな、まぁ住人のイメージに合ってると言えば合ってるか。」
苦笑しながら一人呟いて、「住人」の返事を待つ。
ぴんぽ〜ん♪
「・・・・、留守か??」
一応確認の為、ドアノブを回して見ると、鍵は開いている。
戸締りには几帳面なにしてはおかしいと不審に思い、気配を消してそっと室内に入る。
玄関、リビング、キッチンと見てみたが、の姿はどこにも見当たらない。
よもやのっぴきならない事になっているのでは、と思ったその時。
バサァッッッ!!!!
布がはためく盛大な音が、寝室から聞こえてきた。
「!!!!」
シュラは一瞬心臓が止まるかと思ったが、気を取り直して寝室へ向かう。
半開きのドアを開け中を覗いて見ると、床一面に広がった布がモゾモゾと怪しげに動いていた。
「?」
「はぁい、誰!?」
「俺だ、シュラだ」
「いらっしゃい、どしたの!?」
「お前がどうしたんだ・・・・」
「シーツ替えてんの!!!プハァッ!!!」
ようやく顔を出したに、シュラは疑問をぶつけてみる。
「チャイム鳴らしたんだけど・・・」
「そうなの?気づかなかった〜。干してた布団取り込んだり、シーツに潜ってたりしたから。」
「なんでシーツに潜ってたんだ?」
「まずは布団とシーツの四隅をそれぞれしっかり合わせておかないと!」
「そ、そうか・・・・」
脱力するシュラをよそに、は再び布団と対峙する。
両端を持って精一杯腕を広げ、『うおりゃあぁぁぁぁ!!!!!』と何とも勇ましい掛け声と共に、バッサバッサとはためかせる。
しかし大きな布団を勢い良く振るには少々腕力が足りないらしく、足元が危なっかしくよろけている。
「で!!どしたの!?何か用事!?!」
「あ、あぁ、買出しのついでにプリン買ってきたから・・・・」
あれだけ考えた口実は予想外のシチュエーションに見事に飲み込まれ、遥か彼方へ消えてしまった。
「マジ!?ラッキー♪フンッ、よっしゃ終〜了〜!」
やっと布団をシーツに収め終わったらしく、は床へへたり込んでシーツのファスナーを閉めている。
「それにしても、大騒動だな。」
「そ〜なのよ〜、シーツ替えるのって結構大変よね〜、ハ〜ア、グッタリ・・・・」
「毎回こうなのか?」
「まぁね。ちょ、ちょっと待ってね、お茶、入れたいけど、ハァ、息上がっちゃって・・・」
「い、いや、気にするな。それよりもう一枚布団があるみたいだけど、これはいいのか?」
「う、それもだ・・・。うわ〜ん、もうイヤだ〜・・・。」
グッタリと床に倒れこむがあまりに不憫に思え、シュラはまだシーツの掛けられていない布団を手にする。
「これのシーツはどこだ?」
「え?」
「限界みたいだからな。俺がする。」
「え、でも悪いよ。自分で出来ないわけじゃないし・・・。」
「いいからシーツ寄越せ。見てる方が疲れる。」
「んじゃ、お言葉に甘えていい?」
「あぁ。」
「じゃ、これつけてね。その間にお茶の用意でもいたします〜♪」
「あぁ、頼む。」
忌々しいシーツ替えから解き放たれたは、嬉々としてキッチンへ向かう。
その後ろ姿に、シュラは優しい微笑を向ける。
手渡されたシーツを手際よく布団に付けながら、先程のの必死だった姿を思い出す。
全く、危なっかしいんだからな、あいつは。
苦笑しながら、シーツを付け終わった布団をベッドへ運んで整える。
「お待たせ〜♪あ、ベッドメイクまでしてくれたの!?ありがと〜!」
「ついでだからな。」
「紅茶で良かった?」
「あぁ。」
「リビングに置いてあるから、あっちへどうぞ〜。プリン食べようよ〜!」
「そうだな。」
先を歩くの後に続きながら、「今度は本来の目的でこの部屋へ入りたいもんだ」と不埒な事を考える。
とりあえず、『プリンを食べたらさようなら』にはしたくない。夕食でも誘ってみるか・・・。