「えーー!!満室!?いっこも空いてへんの!?」
「申し訳ございません。何分トップシーズンですので、予約のお客様で一杯でございまして・・・」
「・・・そうでっか。」
「大変申し訳ございませんでした。」
千堂はソファに腰掛けているの方へ歩み寄った。
「なんて?」
「あかん、ここも一杯や。」
「えー!!ほんだらどないすんの!?」
「ワイに聞くな!!」
今日は二人して、とある観光地へとやって来ていた。
当初日帰りの予定であったのが、来たついでにとあちこち観光して回ったせいですっかり遅くなってしまい、帰りの列車を逃したのである。
それなら仕方がないと宿を探したのだが、あいにくと温泉シーズン真っ只中で空いている旅館が一軒もなかった。
「もー、どうすんねん!!」
「お前があれこれ見に行こ言うからやろが!」
「人のせいにしなや!!あんたかてノリノリやったやろ!!」
「何やと!?・・・って、あかん、ケンカしてる場合とちゃう。ホンマどないしよ?」
トボトボと二人で当ても無く歩く。
「しゃーない、野宿でもするか。」
「出来るか!!このクソ寒いのにそんなんしたら明日の朝は凍死しとるわ!!」
「他にどうにもならんやろ!?」
「あー、もうくたくたや、足痛い・・・。」
「ヘタレ。これぐらいでガタガタ言うな。」
「ボクサーのあんたと一緒にせんといて!私は一般人やねん!!」
「おい!!見てみアレ!!」
「え?」
千堂が示す先には、ラブホテルが一軒ぽつんと立っていた。
「ラブホやん。」
「野宿よりマシやろ?」
「まあ、そらそうや。しゃーない、行こ!」
「よっしゃ、ほな行くで!!」
少し希望の見えた二人は、嬉々としてホテルのエントランスをくぐった。
「やった!!空いてる!!」
「よっしゃ、早よ押せ、早よ!!」
別に急ぐ意味はないのだが、一刻も早く暖かい部屋に入りたい二人は、パネルのボタンを連打する。
部屋に入るなり、靴を脱いでへたり込んだ。
「あー、やっと落ち着けた・・・・。」
「何か飲もうや、ワイ喉渇いてしゃーない・・・。」
冷蔵庫から冷えた飲み物を取り出し、二人して一気に半分近く飲み干す。
しばらく座っていたら、大分疲れも取れてきた。
「しっかし、またベタな内装やなー。」
「思っくそ鏡張りやんけ。」
内装に目をやる余裕の出来た二人は、口々に感想を述べる。
至る所に鏡が張られている狭い室内に、大きなダブルベッドが幅をきかしている。
「とりあえずワイ風呂入りたい。湯浸かりたいわ。お前も入りたいやろ?」
「そらそうやけど、風呂場こっから丸見えやねんけど。」
「もうこの際ワイは別に気にせぇへんで。覗きたかったら覗けや。」
「覗くかアホ!!」
千堂は、を残して風呂場へと消えて行った。
程なくして、シャワーの音が聞こえてくる。
は、風呂場が視界に入らないように、TVをつけて画面を見ることに集中した。
「あー、ええ湯やった。お前も入って来いや。」
「あんたなんでタオル一丁やねん!」
「しゃーないやろ、寝巻き持って行き忘れたんや。」
千堂は腰にバスタオルを巻いただけの格好で風呂から出てきた。
逞しい胸板が露になっている。千堂の上半身裸など見慣れているだが、今日はいつになく戸惑い、目線を逸らした。
「ほな私も入ってくるから、あんた、くれぐれも覗きなや。覗いたら金取るで。」
「・・・・お前強烈やのう・・・」
は少し躊躇っているようであったが、クローゼットから寝巻きを取り出して一着を千堂へ投げ渡すと、決心したようにもう一着の寝巻きを持って風呂場へと向かった。
千堂はから渡された寝巻きを着て、TVへと向き直った。
シャワーの音が聞こえてくる。後ろを向いたらの裸が丸見えであろう。
見たい気持ちをぐっと堪えて、TVに集中する。
ついていた番組が退屈で、チャンネルを変えてみたが、似たり寄ったりのものかAVしかなく、千堂は当然の如くAVを選んだ。
「あんた何見てんねん。」
「おお、もう上がったんか。」
「こんな丸見えの風呂で長風呂できるかっちゅーねん。」
「そらそやな。」
は濡れた髪をタオルで拭きながら、千堂が寝転がっているベッドの端に腰掛けた。
「他何かやってへんの?」
「他に何にも面白いもんやってへんねん。AVの方がまだマシやで。」
「まあええわ、見たかったら好きにしぃや。私もう寝るから。」
「もうかいな?」
「ほら、そこどいてや。」
千堂を押しのけ、布団に入る。
「ちょー待て。ワイどこで寝たらええねん。」
「そこら辺でどうぞ。」
「殺生やな!寒いやんけ!ワイも布団に入れろや!!」
ごそごそと布団に潜り込む千堂。
は慌てて千堂の身体を押し出そうとする。
「ちょっと!あんたソファで寝てーや!」
「アホか!寒いんじゃ!!布団もこれしかあれへんし、しゃーないやろ!!」
「・・・何もせんといてや。」
「・・・・せぇへんわい。」
妙な間が気になったが、とりあえずは千堂を追い出すことを諦めた。
「あんた体温高いなー。一発で熱なったやん。」
「そうか?」
「暑苦しいぐらいやわ。」
「えらい言われようやな。」
「私ホンマに寝るから、TV見終わったら電気消してや。」
「ほなもう消すわ。ワイも寝る。」
そう言ってTVのスイッチを切り、枕元のパネルで部屋の照明を落とした。
部屋の中が暗闇に包まれた。
「んぁ〜・・・・」
ふと目を覚まして枕元の時計を見ると、午前6時。
千堂は一瞬ここが何処か分からなかったが、隣で眠るを見て一気に覚醒した。
自分にしがみつくように眠る。自分の腕はの腰に回っている。
布一枚の寝巻きは二人ともすっかり肌蹴てしまっており、の肌の感触がダイレクトに伝わってくる。
目線を下げると、の胸元がかなり際どい部分まで見えている。
「うわ、ヤバいでこれ・・・・」
千堂の頭に急激に血が昇る。
そんな千堂に気付きもせず安らかな寝息を立てる。
「あかん、もう寝られへん、ワイどないしたらええねん・・・・」
すっかり反応した身体を理性で押さえつつ、千堂はが目を覚ますまで、拷問のような時間を過ごした。
しばらくして目を覚ましたが自分達の格好に気付き、千堂に本日一発目のビンタを喰らわせたのは言うまでもない。